てんやわんやな聖域回4
ダークエルフのユーリッヒを捕まえはしたものの、更に情報を得る為に尋問を開始した。
起き上がりの様子や、上のものに対する信頼の強さなどかなり情報を得る上で崩すのが大変そうな相手だが、何とかしないといけないな。
「ユーリッヒ。嘘はいけないな? 君はドラゴンとの契約、という言葉に反応しすぎた。卵が無くなった以上、君達にはドラゴンの契約を直接調べるしか方法が無くなったからこの場所に送られて来たのだろう? 下っ端は大変だな」
「馬鹿な事を言うな! あのお方には我々には想像もつかない、深い考えがあるのだ! 竜の卵など元々奪えれば良い程度の物だ。あのお方の判断に間違いはなかったのだ! 」
私の挑発的な言い方に激昂し、私を殺さんばかりに睨みつけるユーリッヒ。
「だとしたら、君をここに寄越したあのお方とやらは余程人材不足としか言いようが無いな」
先程のユーリッヒの言葉に不自然な点があったので、更に情報を引きずり出す為にも怒らせた方が楽だろう。
「何を言う! ほとんどの信者はあの人の為に働いているのだ。あのような我欲に塗れた者達さえいなければ…」
そこまで言って、自分の迂闊さに気付いたのか口を噤む。
やれやれ、ガードが固いなと思いながら別の話にする事にする。
「それにしても、ユーリッヒ達のようなダークエルフがこの大陸にまだいるとは思わなかったな。ダークエルフのほとんどはヴォートレス大陸にいると聞いていたから驚きだよ」
「我々ダーウエルフとて、一枚岩ではないのだ。新しい場所を求めて何が悪い? 」
ユーリッヒは話しの方向が急に変わった事にに戸惑いながらも、私の言葉を怪しみながら言葉を返してくる。
因みにダークエルフの情報は【一般知識】さんから得たものだ…何気に一番使用している気がする。
「海を渡ってまで新天地を探すのか。謂れもない伝説に虐げられるお前達も大変だな…」
ダークエルフは神を裏切った為に、肌の色が褐色になったと言う伝説がある。
実際には的外れなものなのだが、意外と信じる者が多く毛嫌いされる事があるらしい。
人間の褐色肌は、日に焼けた程度と分かっているのに中々難儀なものである。
「そうとも! 貴様らのような奴等が広めた伝説の所為で、我々は住む場所を失ったのだ! 苦しむ我々がこの地でやっと得た安らぎさえ貴様らに奪われようとしているのに、復讐をして何が悪い!」
どうやら魔獣教団に入信した理由はその辺かな? 私は溜め息をつきながら憐れなダークエルフに真実を伝える。
「それなら何故君は『洗脳』を受けている? 洗脳しなければ入信したとしか思わない宗教など、ただの奴隷商人じゃないか」
私の言葉に愕然とするユーリッヒ。
【看破】や【解析】をした時に状態異常になっていたからおかしいとは思っていたが、どうやら洗脳されていたようだ。
大体、普通エルフ程の気位の高い種族が人間の言う事を素直に信じる訳は無いし、宗教などとんでもない話だ。
自然主義を捨てたエルフなんておかしいと言っているようなものだしな。
地球でも言葉による洗脳を受け、まるで人が変わったと言われる人達を何人か見てきた私には、ユーリッヒが何かしらの洗脳を受けているのではないかと気付くのにさほど時間は掛からなかった。
「君達は何時から自分で魔獣教団なんて宗教を選んだんだ? 誇り高いエルフ族が神に身を捧げるのか? 自然を捨ててまで縋らなければならない程、君達は弱い種族なのか? 」
私の言葉に、頭を抱え呻き始めるユーリッヒ…その表情は信じる者をうたがわなけばならない苦悩に苛まれていた。
「もう一度、この大陸に来た時の事を思い出してみろ。お前達は自分達の意思でこの大陸に来たんだろ? そんなお前達が、魔獣教団なんて宗教にどうして入信しなければならないんだ? 」
「う、うるさい…私達は……自ら望んで…望んだ? 私達が? …私達は、ただ日々の安寧をのぞんでいたのでは?……ぐわぁぁぁ ⁈ 」
洗脳と自我とのせめぎ合いに、ユーリッヒは悲鳴をあげる! 助けてはやりたいのだが、これは彼等自身で克服するべきだろう。
魔法で解除するのは容易いが、彼等の誇りに傷をつけた後どうなるかは私にも予想がつかない。
「がぁぁぁぁぁあ……」
呻き声を上げ、その場に倒れ臥すユーリッヒを見ながら本当にこれで良かったのかと考えてしまう。
魔法で解除すればすぐに納まる事ではあるが、それをしてしまうと魔獣教団の奴らとなんら変わりが無い。
言葉で助言や、応援はするが本当に大切なのは自分で気付かせる事だと思うからだ。
「ほ、本当に大丈夫なんですか? 」
私のそばでずっと黙って見ていたハニカムさんが恐る恐る私に聞いてくる。
別にハニカムさんを脅すために尋問をしたわけでは無いのだが…もう少しこのままでいてもらおう。
倒れたユーリッヒの手がピクリと動き、そのまま立ち上がろうと震える体を無理矢理動かしている。
私は腰につけていた水筒を手に持ち、ユーリッヒの元へと向かう。
「かなり大変だったようだな。酒が入っている。気付けになるかは分からないが飲んでおけ」
私が渡した水筒を取ると、無理矢理口の中に流し込み、むせるユーリッヒ。
それほど度数の高い品ではないのだがエルフには強かったのかも知れない。
「けほっ、貴様…なんて物を飲ませるんだ。こんなにキツイ酒は飲んだことは無いぞ」
芋焼酎を少し変化させた物を一口飲んでむせているユーリッヒは私を睨んで怒り出す…理不尽な。
「それで自分の今の状態は分かるか? 取り敢えずこれで駄目なら魔法で解除するしか無いんだが…」
私の言葉にニヤリと笑い、水筒から酒をもう一口飲むユーリッヒ。
「やり方は乱暴だったが、確かに操られていた事は間違い無いようだ。今考えると確かに納得出来ない事がいくつもあるからな。私の誇りを尊重してくれた事には感謝する。我が名にかけて今回の礼はさせてもらうから何でも聞くがいいだろう」
そう言って水筒の酒を飲むユーリッヒ…かなり芋焼酎が気に入ったようだ。
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