てんやわんやな大騒動
「お前は俺を嫌いなんだな?そうだろ?」
今日会ったことをつつがなく話しただけなのにマドックは鬼でも殺しそうな勢いで此方を見ている。フォルディルが怖がって背中に回っちゃったじゃないか。少しは大人の態度を取って欲しい。自分がマドックの立場なら怒るけどな。
「そうは言っても公爵家に関してはギルツとクリステラが諸悪の原因だしこの子に関しても会った以上は面倒を見たいしね。カーターに何言われるかは分からないけど、そこは父さんに任せるよ。」
酷い投げ方もあったものである。マドックは頭を抱えながら現実に耐えていたが彼なら何とかしてくれるだろう。
「最初からそうだったがお前何だか俺には何でも話すよな?他の人間には情報を出すのに吟味するのにどうしてなんだ?」
マドックも自分が包み隠さずマドックに話するので不信感を持っていたようだ。あんまり大した理由じゃ無いから言いたく無いんだけどな…
「そりゃ父親には全て知ってもらわないとね。後で責任取ってもらう訳だし…」
「嫌な理由だな、おい…」
本当に嫌そうなマドックの顔を見て、識天使ラシャンの元勇者でなければこれ程信頼出来る人は出来なかっただろうなとつくづく思う。そういう事である。
「じゃあその幻獣はお前に任せるが又狙われるようなら俺に言うんだぞ?分かったな?」
何度も念を押さられながらマドックの部屋を後にして自分に用意された部屋に向かう。フォルディルを宿屋に入れる事は宿屋の主人に許可を貰っているので問題にはならない。問題なのは、
「ようやくお話が終わりましたか。さぁベルさん。その子をもっと見せてください!」
この宿屋で待機していたフィナさんだ。目を輝かせながらこんな深夜に自分の部屋の前で待たないでください。他の人に誤解されます。
宿屋に戻ってすぐにフィナさんが自分達への連絡係としてにここに来たことを知らされる。要は自分が厄介事を起こさないための監視であろう。それはいいのだがフィナさんがフォルディルを見た瞬間、こちらに走り寄りフォルディルをもっと見ようと私自身まで拘束したのは酷い話だ。
女性に抱きしめられながら耳元でブツブツ言う吐息を浴びせられるのは正直拷問に近かった。フォルディルは飛んで逃げるわフィナさんはそれを追うわで一時はどうなるかと思った。マドックに連絡した後なら見せてあげると言ったのは間違いだったかも知れないな。
「本当に可愛いですねぇ。幻獣なんて滅多に見れないから本当に嬉しいです。」
どうにかしてフォルディルを触ろうとしているのだがフォルディルも生命の危機を感じるのか中々彼女に近づかない。そういやこの人翡翠狼に真っ先にモフモフしに行った女騎士だったな。
「…あぁ。もう可愛いしふかふかだしプニプニだし最高。この国に来れて本当に良かったわ。」
残念ながら捕まってしまったフォルディル。頬擦りされながらこちらに助けを求めているが残念ながら救助は無理だ。諦めろ。
ある程度撫でたら満足したのか、フォルディルをこちらに返してくれる。ピクピクと痙攣するフォルディルを優しく抱き抱えているとフィナさんが思い出したかのように自分の方を見て話してくれる。
「忘れてました。リデル隊長からの伝言です。マルガス公国との通商条約に向けての会談は順調だそうです。クリステラ公爵令嬢の件については正式に感謝されコルカ王国にいくつかの品を献上されるのことです。」
バルト大公も太っ腹だな。カーターも仕事が上手くいっているようだ。ユーグリット侯爵への影響も大きそうだな。まぁ自分は不利益さえ被らなければどうでも良いが。
フィナさんとの話し合いも終えようやく就寝だ。フォルディルも疲れているのか枕元に来て寝ていた。クリーンを掛けてやり明かりを消しておやすみなさい…
「ベル!緊急の事案が発生した!用意が出来たら下の食堂に来てくれ。」
朝日が昇るかどうかの早朝からマドックがドアを叩く音がする。全く朝からハード過ぎる。フォルディルなんか飛び起きて周りをキョロキョロ見ているし。
服を着替えて髪を結び下の階へと向かう。降りてすぐ目につくのは副船長とサルサさんが他の船員達に指示を飛ばしており船員達は武装して宿屋の周りを警戒している。
フィナさんは風魔法でリデルと会話してるのか?何か切羽詰まった様子だ。宿屋の他の人間も周りの様子に当てられてあたふたしている。
「親父何があった?」
あまりの周りの様子に自分も異常事態に遭遇した事を実感する。これは本気で掛からないと何が起こるか分からないな。
「街の外で竜種が発見されたそうだ。この首都に向かっているらしい。軍も出動しているがどうなるか分からん。」
マドックはそれだけ言うと周りの船員達に今後の方針を伝えている。
竜の大陸に来たら次の日には竜に会えると来たもんだ。神様この世界何かおかしくありませんかね?首元で微かに震えるフォルディルを撫でながら不条理なこの状況に自分は現実逃避をしたくなるのだった。
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