てんやわんやな幽霊船1
海賊船と思われる船がバリスタの射程に入るが向こうからの攻撃が来ない。マドックも攻撃するべきか迷っているようだ。
あまり後手に回りたくないので[遠視][魔眼][精霊視]を同時起動する。[完全制御]がコントロールしてくれているとはいえ、流石に負担が大きい。素早く終わらせるべく集中して見てみると、精霊のオーラは全く見えず、負の魔力だけが禍々しく見える。遠視にて骸骨や死体が動いているのが分かる。
アンデットだ!
「敵船はアンデットによる幽霊船と思われる。船自体がアンデットみたいだ。」
大声で注意を促す。マドックもこちらの声が聞こえたのか火矢の準備を進めている。
「油を布に染み込ませて火矢を放て!魔法が使える者は火か聖属性の魔法を頼む!」
自分は生活魔法しか使えない事になっているので油を染み込ませた布を矢に巻き付け、生活魔法で着火しゾンビ目掛けて撃ち放つ。火矢が当たったゾンビは松明のように燃えている…が船自体には燃え移らない。
「船には火がつかないみたいだ。アンデットを優先して火矢を打て!」
マドックが気付いたのか新たな命令を出している。ゾンビは燃えやすいがスケルトンには火が付きにくい。幽霊船は速度を落とさずそのまま突っ込んでくる。このままいけば激突してしまう。マドックが船の舵を何時の間にかとっており、帆を動かしている人員に何かを伝えている。
「今だ!帆に風を打たせろ!」
マドックの合図と共に風魔法によって帆の張りが全開になる。一時的にスピードが上がったうちの船が幽霊船を避けきり相手の舷側に横付けする。
「ここからは接近戦だ!気合い入れていくぞ!」
上位冒険者のリーダーさんが掛け声と共に船員と共に突っ込んで行く。リデル達は相手の船から来るアンデット達を迎撃している。
「さて自分はどうしましょうかね?」
乱戦になった為、長弓は使いずらい。然りとて鉈だけでアンデットの群れに飛び込みたくはない。…主に腐った肉汁など浴びたくはない!
ちまちまと奥の方のアンデットを弓で攻撃しているとマドックから怒声が飛んでくる。
「ベル!てめぇも前線に出てきやがれ!多少でも剣が振るえるなら上等だ。とっとと来やがれ!」
うちの父さんは子供をこき使い過ぎです。渋々鉈を抜くとマドックの側まで行き前線に加わる。
「酷いよ父さん。僕は弓が得意なだけなのに!父さんみたいに強く無いんだよ。」
事実を言っているだけなのに怒りの視線が飛んでくる。なぜだ?
「馬鹿言ってねえで敵を倒せ!予想以上に数が多過ぎる。船員全員が戦えるわけじゃ無いからな、このままじゃ航海に支障が出かねん。」
シミターを走らせながらマドックが叫ぶ。勇者の力があるくせに自分と同じく隠したいのか?まぁ死者が出るのは自分も本意では無いのでここからは多少上げていこう。
「それじゃ潰していくか。」
小声で呟くと右にいたスケルトンの頭にハイキック。頭を粉砕と共に、腰骨を鉈で砕く。前から来ていたゾンビにはそのまま後ろ回し蹴りを胴体に打ち込み真っ二つにする。とどめに頭を踏み潰すのを忘れない。流石に吐き気がするので[精神耐性]を発動する。やはり元人だと精神的にクルものがある。
多少スペースが出来たのでそこに走り込み鉈で一閃。3体程のアンデットが崩れ落ちる。体の大きなゾンビがいたのでそばにあった樽を蹴り飛ばす。樽がゾンビに当たりバラバラに砕けるがその破片の後から助走をつけた飛び蹴りをぶち当てる。ゾンビは周りの2〜3体を巻き込んで海に落ちる。
「大分減らしたしこれでいいでしょう父さん?」
体を思う存分動かし十分調整が出来たのでマドックに報告する。…何故かマドックの顔が引きつっているが知ったことでは無い。やれと言ったのはあちらなのだから!
後方に下がろうとした時、前からどよめきが聞こえる。何があったのか確かめる為どよめきが起こった方向を見てみると、リーダーさんとスケルトンの1体が互いに槍の応酬をしている。かなりの技術の応酬の為誰も手を出さない。
「かなりの手練れみたいですがボスですかね?」
近くに来ていたセラさんに話を聞いてみる。
「私もさっき来たばかりだけどそう見たいね。私の弓でも援護は難しいわ。」
悔しげな顔を戦闘に向けたまま彼女が言う。マジですか…
セラさんですら無理なら自分も自信が無い。ギルツさんも来ていたので目を向けるが頭を横に振られてしまう。
「ベル。どうなっている?」
マドックが小声で聞いてくる。向こうは粗方方がついたらしい。こちらも小声で返答する。
「かなりの強さのスケルトンです。皆2人の技術についていけない為、手が出せません。
……父さんなら行けます?」
「本気の武器ならいけるが、使うと流石にバレちまう。これだと多分当てても効かないな。」
話している間も応酬は続く。[鑑定]をしてもまるで通らない。レベル差があり過ぎるのだろう。槍撃の音だけが流れ時間が過ぎて行く。
「ハッハー!やるな!」
リーダーが間合いを取りスケルトンも一旦引く。リーダーは魔獣の時と同じ構えを見せ、相手は穂先を下に向ける。カウンター狙いか?
次の瞬間、リーダーの技である[嵐光]がスケルトンの胸をめがけて放たれるがスケルトンの槍が回転しリーダーの槍を弾いて流す。その流れのままスケルトンの槍がリーダーの頭へ振り下ろされる!
リーダーは踏み込んで槍の柄の部分を左肩で受け止める。「グシャリ」と鈍い音が響くがリーダーは笑ったまま右手で相手の頭蓋骨を掴む。
「楽しかったよ。またな。」
そう呟いて相手の頭を甲板に叩きつける!
スケルトンの体から灯火が溢れ出て天に還る。自分はただその光景が何故かとても美しく感じた。
何時の間にかPVが4000を超えていました。この作品に付き合って頂き誠にありがとうございます。




