てんやわんやな八つ当たり
マドックと親子関係で過ごす事になった為、ある程度の打ち合わせをする事になった。
マドックは3年前にサラムーン海運に入ったそうなので余り前歴を知る人がおらず、自分としては理想的な相手だ。
「40にもなっていきなり15の子供が急に出来るなんてたまったもんじゃないな。」
椅子にもたれかかり、煙管で煙草を吸うマドック。やる気が全くなさそうだ。
「他にも子供がいるんじゃないんですか?なんか港ごとに女性がいそうですし。」
実際、モテているだろうしこれだけの美形だ。4〜5人いてもおかしくないだろう。この美形め、爆発しろ。
「意外と港の女性は身持ちが堅いんだよ。娼館で遊ぶ事はあっても、避妊はちゃんとしてるしな。」
なんとこの世界、生活魔法に避妊魔法がある。これにより娼館で子供が生まれる事はほとんど無いのだ。ただし娼館以外の個人はそれに該当しないので注意が必要だ。
「それじゃとある国で寡婦の人妻との間に生まれた子供と言う事で。父さんは子供が出来ているなんて知らずに母親が勝手に産み育てて病に罹り病死。自分は亡き母から貰った形見を頼りに流浪の民になったと言う事で。」
なかなか良い感じではないだろうか。駄目男と旦那を無くした人妻との間に出来てしまった子供。母との旅の途中母を流行り病で無くし、1人流浪の民として父の形見を持ち父を探す。うん、完璧だな。
「なんかかなり貶されている気がするが仕方がないか。それで行くとして、お前さん一体何者だ?あいつが顕現するなんて普通じゃない。あいつの現在の使徒だと言うなら正直不快で仕方がない。出来るだけ関わらないで欲しい。」
自分とラシャンさんとの間柄を気にしているのか?夫婦にした事は確かに悪かったかもしれないがそれにしてもすごい剣幕である。
「彼女の使徒ではありませんよ。何今更嫉妬でもしているんですか?あの人が今更他に使徒を持つはずないでしょう。この女たらしめ。」
未練たらたらな元勇者に言ってやる。大体称号に元など付くのがおかしいのだ。任期満了なら勇者のままだし、問題があって辞めたのなら称号自体消されているはずである。2人共仲がいいはずなのに仲が悪い雰囲気など出すのが自分にとって1番腹が立つ。
((その考え方は私にとって不快なのですが?))
どうせ自分の元勇者に会う為顕現したんでしょ。違うと言うなら創世神様の名前に誓って貰いましょうか?
何も聞こえ無くなったので元勇者の方に意識を向ける。こちらはこちらで言葉が出ないのか驚いた表情で固まったままである。
「いいかげん固まったままなのはなんとかしましょうか父さん?先ほど言った通り自分はあの人の使徒ではないので。」
そう言ってこの部屋を出る。実は[一般知識]でマドックのした英雄譚を知ってしまった。
だからこそカッとなってしまったのは自分なのかもしれない。
ある時魔獣の大氾濫が起こった。数千もの魔獣が魔素の異常により突如として現れたらしい。いくつかの街がその氾濫のため滅びたそうだ。
此処までは良くある話なのだが その氾濫が起こった国はその氾濫に対して何もせず自国の民に対して戦えというだけであった。
民間の人だけによる反攻。人々は多くの犠牲を出しそれでも家族の為に戦い続けた。その中で1人の勇者が現れる。[紅の勇者]と呼ばれ識天使の加護を受けた勇者は人々をまとめ、魔獣を撃退する事を成し遂げた。
その勇者と英雄達にその国の王は刺客を差し向ける。魔獣達を倒した勇者達はその傷ついた体を癒すためにある村で養生していたが、刺客達の襲撃により勇者を除いて全員が死んでしまう。全てが焼き尽くされた村で勇者は復讐を誓い、勇者としての名を捨てその国の王族と貴族を殲滅しその国を出奔する。
そんな話だったはずである。一般知識なので詳細までは分からなかったが壮絶な生き方の勇者とその勇者に悲しいまでの生き様をさせてしまったことを悔やむ天使には同情を禁じ得ない。
そんな2人が仲たがいしたまま終わるのは自分には許せない。元勇者という称号は死んでいった民や英雄達への冒涜としか自分には映らないからだ。
自分の中での勇者の終わり方にはハッピーエンドしかあり得ないのだから…
船長室を出た後は冒険者のパーティに挨拶を済ませ海の魔獣についての戦い方を教わる。向こうの人達も自分が辺境伯推薦である事を知っているせいか親切に教えてくれた。
後は船員の人達にも挨拶をしながら回っている間に時間が過ぎ海の水平線上に陽が沈む時間になってきた頃、1人で夕日を眺めているとマドックがいつのまにか隣に来ていた。
「使徒の件については悪かったよ。べつに識天使が悪いわけじゃないからな。あいつが他の誰かを使徒にしたのかと勘違いをした俺が悪い。でもお前さんが最初から機嫌が悪かったのは別の話だろ?俺何かお前さんに悪い事したっけ?」
この人のいい勇者はこちらの事を心配してここまで追って来たのだろう。こちらとしてはただ2人の在り方に羨望しているだけなのに。
「貴方がした事は勇者として相応しかったと思います。例えその後貴方が後悔するような事をしてしまったとしても。これは単に私の八つ当たりですよ。
この世界が気に入らないだけなんですよ。貴方や貴方を信じて死んでいった方々を馬鹿にするような称号を付けるこの世界に。貴方はもっと賞賛されてもいいはずなのに。」
「そうか…。」
彼はそれだけ言うと自分と一緒に海を見つめた。日の沈む海は紅の色に染まっていた。
今回の話は少しわかりにくいかもしれません。主人公はただマドックに会った時に称号を見て、その由来を一般知識で知った時に理不尽な称号を付けた世界に怒り、その称号を受け入れているマドックに八つ当たりしているだけなのです。文章力が無くて申し訳ない。




