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魔法使いと少女  作者: 徒然花
本編
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8/14

焦燥

その日、オレは東の領主直々に注文のあった、痛風の薬を納品に行くところだった。

領主の館にも専属の薬師がいるにはいるのだが、オレの薬の方が効くと言って、わざわざいつも注文してくるのだ。


めんどくさいが、報酬がいいので受けている。


基本的に村の薬屋への納品以外は、オレが自分でやっている。

どんな薬を発注してきたのか、依頼主のプライバシーに関わるということもあるからな。いわゆる守秘義務ってやつか。痛風ならまだいいが、たまに『催淫剤を調合してくれ』だの『惚れ薬を作ってくれ』だのっつー、人には言えねーよな、な依頼もあるから。


更にめんどくさいことに、領主の館に納品に行くと、必ず摑まって、やれ茶を飲んでいけだの夕飯を食って行けだのと引き留められる。

だから今日もガーネットにはオレの留守の間、十分注意するように言い聞かせていたのだが。

終い目にゃ、


「お約束の時間に遅れますよ?」


と、ため息交じりにじと目で言われてしまった。

ったく、こいつにはオレの心配なんてこれっぽっちも伝わってないんだから。

できれば傍から離したくないんだが、かといってあまり人目に触れさせるのもしたくない。

何とも矛盾したオレの気持ち。


少しでも気が楽になるように、丁寧に結界を張ってから外出した。




領主の館に着き、さっさと納品を済ませ、早く彼女の元に帰ろうと支度をしているところに、


「おう、アレッサンドロ! 久しぶりだな!」


と、ひょっこりこの館付きの薬師が顔を出してきた。


「ルイか。久しぶりだな」


館付きの薬師はルイと言って、こいつもしばらくばあちゃんところで修行していた、いわゆる兄弟弟子だ。血の濃さから言って、オレの方が能力は上だったが、ルイの方がオレより一つ年上と、年が近いのもあって、ライバルと言うよりも切磋琢磨するいい相手といったところだ。

最近はこの館にもあまり顔を出していなかったので(領主の痛風の発作が起きていなかったらしい)、ルイとは久しぶりの対面だった。


「来たついでに、ちょっとここを教えてほしいんだけど?」


そう言って、分厚い薬草学の本を開いて指し示す。


「オレ、早く帰りたいんだけど?」

「かわいい弟子を一人でお留守番させてるからか。早く帰りたいのはわかるが、ちょっとだけだよ」

「……まあ、ちょっとだけなら」


ニヤリと笑うルイが、ガーネットのことを言ってきた。まあ、かわいい弟子には違いない。

でもそこをもろに指摘されると恥ずかしいというかなんというか。

仕方なくルイの疑問点を解消すべく、連れ立ってルイの部屋に行った。




オレって、結局根が真面目なんだろなー。

ちょっとと言いつつも、薬草学談義がつい熱を帯びてしまい、気が付くとすっかり日が暮れてしまっていた。夕飯も食べずに、新しい薬について語り合ってしまっていた。


「今何時だよ……」

「さあ?」

「さあ? じゃねーんだよ。もういいだろ。オレ、帰るから」

「あーあ。つまんねーの。まあ、溺愛の弟子っ子ちゃんによろしくな!」

「うっせー」


後ろ手に手をひとつ振ってから、移動の魔法陣を展開させた。




家に帰ると、明かりがついていなかった。

部屋で寝ているとしてもほのかに明るいはずなんだけど。


「ガーネット? 帰ったぞ」


そう言いながら入り口扉を開けるけれど、いつもならすぐさま『アル様お帰りなさーい!!』と飛び出してくるのに、それもない。不審に思いながらもリビング、ダイニング、バスルームも確認するが、無人。


「ガーネット? 寝てるのか? ……開けるぞ?」


そう言って、元はオレの寝室だった部屋の扉をノックし、開ける。

ここはいまや、ガーネットの私室として使われている。

最初は子供をソファで寝かせることへの罪悪感からオレのベッドを譲ったのだが、ガーネットが成長するに従って、まあなんというか、いろいろ支障もきたしてくるわけで……ごにょごにょ……。ま、オレの精神安定のためにも自室として譲ったのだ。深くは聞いてくれるな。


しかしやはり、そこも暗いまま。ベッドにも膨らみはない。

オレの家は1LDK。

ここに居ないとなると、もはやこの家の中には居ないということだ。


どういうことだ?


彼女の部屋の扉をそっと閉じ、ダイニングのテーブルに戻ってみると、先程は気付かなかったが書置きを発見した。


『アレッサンドロ師匠様 今まで本当にお世話になりました まだまだ一人前とは言えませんが もうすぐ成人になる私が これ以上師匠のお荷物になるわけにはいかないので そろそろお暇致します 師匠も婚活頑張ってください 師匠ならこの国一番の別嬪さんでも落とせますよ! 結婚式には呼んでくださいね って、新郎側には女友達呼ばないのがお約束か じゃあ、仕方ないので 陰からこっそり覗かせてもらいます では、お元気で ガーネットより』


って、はあああ??!!

これって、家出? 出奔?


なんでいきなりこうなったんだよ? 今朝はいつも通り送り出してくれたじゃねーか?

どういうことだよ――?


今日もありがとうございました(^^)

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