弟子
溺愛モードに突入……でしょうか(笑)
少女がうちの前で行き倒れていた時、そしてそのまま弟子入りした時から5年が経った。
彼女はガーネットという名で、西の地方の小さな村に住んでいたという。6人兄弟の上から3番目で、兄姉はもう家の手伝いをしていると言っていた。ガーネットは、仕事(農業らしい)の忙しい両親に代わって弟妹の面倒を見ていたのだが、手に職をつけたいと思い立って、ばあちゃんに弟子入りしようと家を出てきたということだった。もちろん両親の同意の上で。
オレの周りをちょこまかとしていたガーネットだが、『師匠!』と呼ばれるのだけはどうにも慣れず、
「師匠はやめろ」
「え~? じゃあアル様?」
「はあ? なんで様付なんだ」
「だって呼び捨てにはできませんし? アレッサンドロ様って長くて言いにくいじゃないですか?」
「……」
小首を傾げ、あっけらかんと言い放った彼女。まあ、師匠から逃れられるならよしとするか?
「まあ、いいだろう」
渋々認めたオレだった。
実家でも家事手伝いをしていたという彼女は、なかなか料理も上手く、家事も10歳とは思えないくらいにてきぱきとしていた。
「お前、家事慣れてるな」
「はい! 毎日してましたからね!」
「それに手際もいい」
「実家はごちゃごちゃしていた上に荷物が多かったですから。でもアル様のおうちは必要最低限しか置いてないから、とっても片づけも掃除もしやすいです!」
屈託ない笑顔でそう言うガーネット。
オレも一人暮らしが長いし、ばあちゃんにこき使われ……こほん、修行の一環で炊事洗濯もしていたから、身の回りのことに不自由していなかったが、ガーネットが来てからは、すっかり彼女に任せきりになっていった。
家事がひと段落する昼飯後。それから夕飯後。その時間がガーネットの勉強の時間。
薬草から病気のことまで、流れを追って教えていく。
字も、読み書きできないようなので、少しずつだが教えていった。
ガーネットは、もともと怜悧な性質らしく、教えたことは砂が水を含むようにあっという間に吸収していった。吸収するだけでなく、きちんとアレンジなんかも考えている。なかなか筋がいい。
診察に行く時もガーネットを伴い、研修させた。
というように、勉強・修行に関しては文句ない優秀な弟子なのだが。
いかんせん、致命的に方向音痴なのだ。
初めて村の薬屋に、オレの作った薬を卸しに行かせた時。朝食後に家を出たにもかかわらず、いつまで経っても帰ってこないので心配になり、ガーネットの気配を辿って転移すると、『どこだよここ?』みたいな場所で迷子になっていた。もちろん、村とは全然関係ない方向だ。
「ガーネット!!」
彼女を見つけてそのそばへ寄る。すると涙にぬれた顔でこちらを見上げてくる。
「アル様ぁ~~~!! うわーん! 村がありませーん!!」
って、村が移動するかよ!
「村がねーんじゃなくて、お前が違うとこに来たんだろうが!」
オレが冷静に突っ込んでやると、
「え? そうなんですか?」
ピタリと涙を止めて、きょとんとした表情になるガーネット。ああ、またそんなところがかわいいと思ってしまうじゃねーか。
「そうだ! 帰るぞ! ったく、心配かけやがって」
蹲ったままのガーネットを抱き上げる。びくっと驚いたようだったが、やはり安心したのだろう、
「うえ~ん! ありがとうございまーす!!」
そう言って、オレにギュッと抱き着いてきた。くそっ、やっぱりかわいい。
森の入り口らしきところで蹲ってえぐえぐ泣いているガーネットを見つけた時は、正直、体中から力が抜けて、その場にへたり込みそうになった。
でも、それを悟られるのが恥ずかしくて、かなりぶっきらぼうに接してしまったけど。
涙の跡も乾かないガーネットを抱き上げて、転移魔法で帰宅した。
村に使いに出す度にこれじゃあ、心臓がいくつあっても足りないと判断したオレは、うちから村の入り口まで、そこかしこに標識を立てた。迷う隙もないほどに。
そんなオレの行動を知った村人からは、
「溺愛だね~」
「健気だね~」
「ロリコンだね~」
と、散々からかわれたが。ほっとけ。
そう言う村人たちも、もともと人懐っこいガーネットをかなり気に入っていて、ことあるごとに差し入れをくれたりしている。
オレのところに来たころは、まだかわいらしいという形容がぴったりだったのが、5年経った今ではすっかり『美少女』と言って過言ではない。
そう。ガーネットは美少女なのだ。
だから、村人の中でも彼女に懸想している男もいる。
まあ、オレが睨みをきかせているから、そうそう手出しはできないだろうが。
しかし、今日も、
「アル様~! 今日のお代です。それから、八百屋のマリリンからお野菜と、魚屋のサシェから新鮮なお魚、ああ、パン屋のコリントからパンをいただいてきました~!」
村に薬を卸しに行った帰りに、いろいろ持たされたのだろう、ガーネットが嬉しそうにオレのところに今日の成果を運んできた。
この差し入れ、全部オレ目当てにくれたもんだと思っているガーネットだが、実は全部ガーネット目当てなのだ。
コリント(オトコ)はまだわかる。が。マリリンもサシェも、お前ら女だろうがっ!
まったく。油断も隙もありゃしない。
それに気付かないガーネットもガーネットだ。
うれしげに、
「アル様? 今夜はお魚にしますね~」
「パンは明日の朝に食べましょうね~」
なんて呑気に鼻歌まで歌ってる始末。
別にガーネットが悪いわけじゃないのに、不機嫌になってしまった。
今日もありがとうございました!
やっぱりアル様、ロリ……?(笑)




