↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それはそれとしまして。【月水金20時更新!】  作者: ゆぴろ ✎*


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/26

#07|元カレのSNS、まだ見てる

元カレのSNSを見続ける友達。


それを「意味が分からない」と言っていた凛ですが、

どうやらカレーには勝てなかったようです。


今回は、そんなお話です。

カウンターの内側で、凛のスマホがまた震えた。


凛は画面を見て、小さく息を吐き、伏せた。三十秒もしないうちに、また震えた。


「さっきから鳴りっぱなしじゃん」と満が言った。

「大学の友達です。彩っていう子」

「何かあったの?」とみのり。

「元彼のストーリーを、実況してきてます」


悠真が、グラスを置いた。


「実況」

「半年前に別れた元彼のストーリーを、毎日見てるんです。で、今日は更新されるたびに私に報告してきてます」

「戻りたいの?」とみのり。

「戻りたくないって言ってます。連絡も取ってないです」

「じゃあ、なんで見てんの」と満。

「それを私も聞きたいです」


凛は布巾を持ち直した。


「別れたら、終わりじゃないですか。関係ない人のストーリーを見て、何になるんですか」


スマホが震えた。凛は画面を見て、読み上げた。


「『今、カレー作ってる』」


三人が、少し黙った。


「……元彼が?」とみのり。

「元彼がです」

「カレーくらい作るだろ」と悠真。


また震えた。


「『玉ねぎ、飴色になってる』」

「おお」と満。

「『付き合ってたとき、玉ねぎ炒めたことなかったのに』」


みのりが、グラスに伸ばしかけた手を止めた。


「……それは、ちょっと悔しいかも」

「悔しいんですか」

「なんか、分かる。自分といたときはやらなかったのに、って」

「玉ねぎの話か?」と悠真。

「玉ねぎの話だけど、玉ねぎの話じゃないの」


凛は、悠真とみのりを交互に見た。


「私には、玉ねぎの話にしか聞こえないです」


震えた。


「『スパイス、自分で調合してる』」

「本格的じゃん」と満。

「『クミンって何』」

「知らないのかよ」

「『私といたときより、人間になってる』」




「……で、彩はそれを見て、どうなってるんだ」


悠真が言った。


「どうって」

「見るのは別にいい。見て何も思わないなら、ただのカレーの写真だ。問題は、見たあとどうなってるかだろ」


凛は画面をスクロールした。


「『なんか腹立つ』『でもちょっと安心した』『いや腹立つ』って、三件来てます」

「忙しいね」とみのり。

「安心って何に」と満。

「ちゃんと生きてることに、らしいです」

「生存確認だな」と悠真。

「カレーで生存確認しないでください」


満が、氷をグラスに落としながら首をかしげた。


「てかさ、別れたら次の日から急にどうでもよくなるもんなの?」


凛は、答えようとして、少し止まった。


「……ならないみたいです。彩、言ってました。別れた日に全部終わると思ってたって。終わったのに、なんでまだ見てるんだろうって」

「へえ。そういうもんか」


満はそれ以上は言わず、グラスを悠真の前に置いた。凛は、伏せたスマホを見下ろした。別れたら終わり、とさっき自分で言ったばかりだった。


「ねえ、そのストーリーって」


みのりが言った。


「見たら、見たって向こうに分かるんだっけ」

「分かります。足跡がつくので」

「え、こわ」


満が、本気で引いた顔をした。


「じゃあ元彼、彩ちゃんが毎日見てるの、知ってんの?」

「知ってますね」

「こわ」

「二回言いました」


悠真が、グラスを揺らしながら言った。


「なら向こうは、見られてる前提で上げてる可能性があるな」


凛は、悠真を見た。


「……どういう意味ですか」

「毎日同じ人間が見てると分かってて、今日、飴色の玉ねぎとクミンを上げてる」


少しの間があった。


「……え、それって」とみのり。

「やめてください」と凛は言った。「ややこしくなるので」

「ややこしくしたのは元彼だろ」

「元彼は、カレー作ってるだけです」

「たぶんな」


凛は布巾をたたんで、広げて、またたたんだ。


「でも凛ちゃん」とみのりが言った。「凛ちゃんなら、見る? 別れた人のストーリー」

「見ないです」

「即答」と満。

「ミュートします。見えなきゃ、腹も立たないし、安心もしないです」

「合理的だ」と悠真。

「当然です」


凛のスマホが震えた。凛は画面を見た。今度は読み上げなかった。


親指が、画面の上で少し動いた。


「……凛ちゃん?」


みのりが、凛の手元を覗き込んだ。


「それ、誰のアカウント?」


凛の親指が、止まった。


「……彩の元彼です。さっき、彩がアカウント名を送ってきたので」

「見てるじゃん」と満。

「カレーが気になって」

「見ないって、今言ったよな」と悠真。

「私の元彼じゃないので、ルールの外です」

「どんなルールだ」


画面には、湯気の立つ鍋が映っていた。飴色の玉ねぎの上に、赤茶色のルーがかかっている。本当に、おいしそうだった。


「……おいしそうだね」とみのり。

「おいしそうなんですよ」

「クミンの力だな」と満。


凛は、ストーリーを閉じようとして、画面の下のほうに指を伸ばした。


指先が、ハートのマークに触れた。ハートが、赤くなった。


誰も、何も言わなかった。


「……今の、何」と満。

「……いいねです」

「押したのか」と悠真。

「押してないです。閉じようとしたら」

「押したんだな」

「本人に、通知が行きます」


凛は、自分の声が思ったより平らなことに気づいた。


「え、こわ」

「三回目です」


みのりは、何か言いかけて、やめた。悠真は、グラスを置いた。


「見たあと、どうなるかが問題だって言っただろ」

「今、どうなってるんですか、私」

「知らない人の元彼に、カレーのいいねを送った」

「言い方」


スマホが震えた。


彩ではなかった。


凛は、画面を見た。


「……『ありがとう! クミン、自分で炒ったやつです』」


凛は、スマホを持ったまま動かなかった。


「……いい人じゃん」と満。

「いい人なのが、いちばん困るんです」


凛は、知らない人のアカウントの、知らない人のカレーの写真を、もう一度だけ見た。


それから、ミュートしようとして、指を止めた。


「……ミュートできないです。フォローしてないので」

「フォローしてないのに見てたの?」と満。

「公開アカウントなので」


凛はアプリの検索画面を開いて、履歴に残っていた彼のアカウント名を、横にある小さな×で消した。


「何したの」とみのり。

「検索履歴から消しました」

「凛が消すんだ」


スマホが、また震えた。今度は彩だった。


『ねえ、ストーリー更新された! 今度はナン焼いてる』


凛は、画面を伏せた。


「……ナン、見たかったな」


小さな声だった。誰も拾わなかった。悠真は何も言わずに、グラスを傾けた。

今回、個人的に好きなのは、

あれだけ「見ない」と言っていた凛が、最後にはナンを見たがっているところです。


カレーは強いですね。笑


それはそれとしまして、

皆さんは別れた相手のSNS、見ない派ですか? つい見てしまう派ですか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。