#03|自分のこと、誰がいちばん分かってる?
性格診断は、自分で答えるもの…ですよね。
たぶん。
今回は、なぜか他人の性格まで勝手に診断し始めた四人のお話です。
悠真が店に入ると、凛がカウンターの内側で、スマホに向かって眉間にしわを寄せていた。客はまだいない。満は氷を割っていて、みのりはもう奥から二番目の席でおしぼりを広げている。
「これ、全然当たってないんですけど」
挨拶より先に、凛がそう言った。
「何が」
「性格診断です。大学の友達から回ってきて」
悠真はいつもの席に腰を下ろした。満がもうグラスを用意している。凛は画面をこちらへ向けて、平坦な声で読み上げた。
「『あなたは“ひだまりのムードメーカー”タイプ! いるだけでその場がぱっと明るくなる、みんなの太陽です』」
誰も何も言わなかった。
満は氷を割る手を止め、みのりはおしぼりを持ったまま止まり、悠真は座りかけた姿勢のまま止まった。
「無言やめてください」
悠真は、この手の診断を信用していない。二十問やそこらの二択で人間が分類できるなら、世の中の揉め事の半分はとっくに片づいている。ただ今回に関しては、珍しく診断のほうに同情した。
「凛が太陽かあ」と満。
「かあ、じゃないです」
「設問を見せろ」と悠真は言った。
「見てどうするんですか」
「どこで間違えたか確認する」
「間違えた前提やめてください」
それでも凛は画面をスクロールして、一問目を読んだ。
「『初対面の人とも、すぐに打ち解けられる』。はい、にしました」
「え」と満。
「え、って何ですか」
「凛さ、最初の一か月、俺に『はい』と『いえ』と『お疲れさまです』しか言わなかったじゃん」
「言いましたよ、他にも」
「『それ、どこに置けばいいですか』」
「ほら」
「それ業務」
みのりが、おしぼりをたたみながら笑った。
「私も初めて会ったとき、あんまり目、合わなかったなあ」
「合わせてました」
「合ってなかった」と悠真。
「悠真さんは初対面で、私に『で、学生?』しか言ってないですよね」
「事実確認だ」
「それが初対面の第一声なのがおかしいんですよ」
満がグラスを置いた。悠真はそれを受け取りながら、画面を横から覗く。
「そもそも二択なのが問題なんだ。『場合による』がない」
「それ!」
満が、思ったより大きな声を出した。
「俺、こういうの全部『場合による』なんだよな」
「店長は全部そうですよね」
「全部ではない」
「今、場合によるって言いましたよね」
みのりが、少しだけ首をかしげて凛を見た。
「でも、凛ちゃんが『はい』って答えたってことは、そうなりたい気持ちもあるのかもしれないよ」
凛の手が止まった。
「……やめてください、そういう刺し方」
「刺してないよ」
「刺さってる」と満。
凛は無言でスマホを伏せた。耳の先が少し赤い。悠真はそれを指摘しないでおいた。指摘すると、この後の自分への反撃が倍になる。
「じゃあ、みんなでやろうよ」とみのりが言った。
「やらない」
「悠真さんの分、私たちが答えます」
「本人の診断にならないだろ」
「本人が答えるよりは当たると思います」
凛はもう画面を最初に戻していた。こういうときだけ手が早い。
「一問目。『人から誤解されやすい』」
「いいえ」
「はい」
「はい」
「はい」
三人の声が、ほとんど重なった。
「多数決で性格を決めるな」
「三対一です」
「数の問題じゃない」
「悠真さん、数の問題、好きじゃないですか」
悠真はグラスを傾けて、反論を飲み込んだ。好きなのは数ではなく根拠だ、と言いかけたが、言ったところで「ほら誤解されてる」と返されるのは目に見えている。
「二問目。『困っている人を見ると、放っておけない』」
「いいえ」
「はい」とみのり。
「はい」と満。
「はいですね。この前、私のご祝儀のとき、交通費から二次会まで全部数えてましたし」
「あれは計算の話だ」
「計算してくれたって話です」
同じ出来事のはずなのに、凛の口から出ると別の話になっている。
「あとさ」と満が言った。「悠真、昔、迷子の子に『保護者の連絡先は』って聞いて泣かせたじゃん」
「覚えてない」
「私、覚えてる」とみのり。「そのあと、一時間くらい一緒にお母さん探してたよね」
「覚えてない」
「二回言った」と凛。
「覚えてないものは覚えてない」
本当に覚えていなかった。覚えていないのに、話の中の自分がやりそうなことだけは妙によく分かるのが、腹立たしかった。
「三問目。『物事を始める前に、説明書をしっかり読む』」
「はい」
「それは本当」と満。
珍しく一致した。悠真が少しだけ肩の力を抜いたところで、みのりが言った。
「小さいころ、人生ゲーム買ってきたとき、悠真が最初にルールブック全部読み上げたんだよね」
「三十分」と満。
「十五分だ」
「で、読み終わったら悠真がいちばん負けた」
「運のゲームだからだ」
「そっちは覚えてるんですね」と凛。
悠真は黙った。
凛は残りの設問を、ほとんど三人の答えだけで埋めていった。悠真が「いいえ」と言うたびに、「はい」が三つ重なる。最後の問いを押すと、画面がくるくると回って、結果が出た。
「『あなたは“世話焼きの参謀”タイプ! 口では厳しいことを言いながら、気づけば誰よりも人のために動いています』」
「当たってる」
「当たってる」
「当たってますね」
「当たってない」
凛がスマホを掲げた。
「本人だけ納得してないの、診断的にはいちばん当たってる証拠じゃないですか」
「そういう理屈がいちばん嫌いだ」
満が笑いながら、自分のグラスに炭酸水を注いだ。
「次、俺な。俺は自分で答える」
「店長は自分で答えるとずれるんで、私たちも答えます」
「なんでだよ」
凛は構わず読み上げた。
「『計画を立ててから行動するほうだ』」
「はい」
「いいえ」
「いいえ」
「いいえ」
「立てるよ。立てるけど、守らない」
「それを立てないって言うんです」
満は納得のいかない顔で炭酸水を飲んだ。
「『一人の時間が必要だ』」
「はい」
「へえ」とみのり。
「いや、必要だろ。一人の時間」
「じゃあ次。『人と一緒にいるほうが元気が出る』」
「はい」
凛が顔を上げた。
「さっきと矛盾してません?」
「だって場合によるだろ」
「お前がいちばん二択に向いてない」と悠真は言った。
凛はスクロールしながら、「あ、これ面白い」と言った。
「『無人島に一つだけ持っていくなら? A・ナイフ B・本 C・大切な人 D・何もいらない』」
「悠真」
満が即答した。
「選択肢にないです」
「Cだろ。大切な人」
「大切な人を無人島に連れていくな」と悠真。
「私もCかな」とみのり。「悠真いたら、なんとかしてくれそうだし」
「便利だと思ってるだけだろ」
「私はAです」と凛。
「A」と悠真。
満が手を叩いた。
「うわ、分かれた」
「悠真さんとかぶるの嫌なんですけど」
「こっちの台詞だ」
「でもさ、ナイフ組は二人で一本だろ?」と満が身を乗り出した。「こっちは悠真一人で、ナイフも持ってくるから実質二つ」
「俺を装備品にするな」
「あ、じゃあ悠真と凛ちゃん両方連れていけば、ナイフも二本ついてくるね」とみのり。
「私をナイフのおまけにしないでください」
「それ今関係あるか」と悠真。
「悠真さんがそれ言うんですか」
四人とも、最初に何の話をしていたのか分からなくなっていた。凛が咳払いをして、画面に戻る。
満の結果は、「“自由な風”タイプ」だった。
「うわ、めっちゃ当たってる」
「当たってない」
「当たってない」
「当たってないですね」
「なんでだよ、風だろ俺」
悠真は少し考えた。風というには、この男は同じ場所に居すぎる。
「店長は風っていうより、扇風機です」と凛が言った。「首振ってて、誰かが止めないと止まらない」
「扇風機……」
「あと、夏はありがたいけど、冬はしまわれてる」
「しまわないでよ」
満は抗議したが、本気で嫌がっている顔ではなかった。みのりが笑いながら言う。
「みっくん、昔から自分の分だけ適当に答えるよね。人の分は、けっこう当ててるのに」
「え、そう?」
「悠真の、ほとんどみっくんが先に言ってたよ」
満は「そうだっけ」と首をひねって、それから「じゃあ次、みのりな」とあっさり話を回した。
「え、私はいいよ」
「悠真さんがやらされたのに、みのりさんだけ逃げるのは無しです」
「そうだ」と悠真。
こういうときだけ、凛と意見が合う。
「『自分の感情を、言葉にするのが得意だ』」
「はい、かな」
「他人のはな」と悠真。
「自分のも得意だよ」
「『怒りが顔に出にくい』」
「はい。私、怒っても顔に出ないタイプだから」
「出る」
「出る」
「出ます」
みのりが目を丸くした。
「出ないよ」
「お前は怒ると敬語になる」と悠真は言った。
「『そうですか』って言う」と満。
「言います。先週、悠真さんに言ってました」と凛。
みのりは三人を順番に見た。
「……そうですか」
誰も何も言わなかった。
一秒。二秒。
満がカウンターに突っ伏して、肩を震わせ始めた。凛は口元を押さえて横を向いた。悠真はグラスを持ったまま、天井の照明を見た。
「今のは違うから!」
「違わないです」
「今のは、そういう意味の『そうですか』じゃないから!」
「じゃあどういう意味の『そうですか』だ」
「悠真、うるさい」
満がまだ笑っている。凛がみのりの結果を出すと、「“やさしい灯り”タイプ」と表示された。
「当たってる」と満。
「当たってますね。怒ると敬語になる灯りですけど」
「その注釈いらないよ」
全員の結果が出そろったところで、凛がスクロールを止めた。
「あ、最後に一問だけおまけがあります」
「まだあるのか」
「『あなたは、自分のことをよく理解していると思いますか?』」
「はい」
四人の声が、きれいに揃った。
それから、四人とも互いの顔を見た。
「いや、悠真はいいえだろ」と満。
「お前がいいえだ」
「凛ちゃんも、いいえだと思うな」
「みのりさんは確実にいいえです」
「そうですか」
今度は、みのりもすぐ気づいた。
「今のは、わざと!」
「わざとでも出るんだな」と悠真。
「出てない!」
満がまた笑い出した。凛もとうとう声を出して笑った。自分のことを「人を見る側」だと思っていそうなこの大学生が、今日いちばん好き勝手に言われていたことを、本人は忘れているらしい。
「凛はさ」と満が笑いを引きずりながら言った。「しっかり者だよな」
「口が悪い」と悠真。
「照れ屋さん」とみのり。
「最後の要らないです」
「前髪褒めたとき、耳赤かったよ」
「赤くなってません」
「なってた」と満。
「なってたな」と悠真。
「悠真さんは見てなかったですよね」
「見てた」
凛は無言でスマホを操作し、しばらくして、悠真のポケットが震えた。見ると、四人のトークにさっきの診断のリンクが貼られている。
「本人の分、本人でやってください。三人とも」
「やらない」
悠真はスマホをポケットに戻した。
そのあと話は、なぜか満の店の扇風機が本当にまだ出しっぱなしかどうかに移り、確認しに行った満が「……出てた」と言いながら戻ってきて、また笑いが起きた。
凛とみのりがその扇風機の首振りを止めるかどうかで揉めているあいだに、悠真はカウンターの陰でスマホを取り出した。誰もこちらを見ていないのを確かめて、リンクを開く。
一問目。人から誤解されやすい。
少し迷ってから、悠真は「いいえ」を押した。
二十問ほど答えたところで、画面がくるくると回った。表示された文字を見て、悠真は黙ってアプリを閉じた。
「悠真、今やってたでしょ」
隣から、みのりの声がした。
「やってない」
「世話焼きの参謀、見えたよ」
満と凛が、同時にこちらを向いた。
悠真はグラスの残りを飲み干した。
「……設問が悪い」
今回、個人的にいちばん好きなのは、
みのりの「……そうですか」です。
本人が一番「出てない!」と思っているところまで含めて、かなり好きです。笑
それはそれとしまして、
皆さんも「自分では違うと思ってるのに、周りからはそう見られてること」ってありますか?




