↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それはそれとしまして。【月水金20時更新!】  作者: ゆぴろ ✎*


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/26

#24|実用的で助かる

「ありがたいけど、感動はしないんだけど」


みのりにそう言われた悠真。


本人は笑っていました。


そのときは。

「友達の誕生日プレゼント、何がいいと思います?」


凛がそう聞いたのは、閉店前のカウンターで、グラスを拭きながらだった。


「何か決まってるのか」と悠真。

「大学の同期です。仲はいいんですけど、好みが全然分からなくて」

「無難なのは、ハンドクリームとか」とみのり。

「ありきたりじゃないですか」

「ありきたりは、間違えないよ」


満が、ふと笑った。


「悠真に聞いたら、一発で決まるよ。たぶん、使えるやつを選んでくる」

「使えるやつ?」

「実用品とか」


みのりが、グラスを持ったまま頷いた。


「悠真にもらったやつ、ちゃんと使えるやつの印象あるんだよね。ありがたいけど、感動はしないんだけど」


満が声を出して笑い、凛も口元を押さえた。


悠真は、グラスを傾けて、一口飲んだ。


「感動で腹は膨れないからな」

「ほら、そう言う」

「実用が一番だろ」

「でも、ちゃんと使ってるよ、悠真にもらったやつ」


みのりは笑いながらそう言って、それ以上は何も付け足さなかった。凛が「じゃあ、実用的なやつを探してみます」と言って、話はそこで終わった。


悠真も、笑っていた。


◇


数日後の昼、悠真の職場で、小さな集まりがあった。


同じ部署の女性の誕生日で、昼休みに簡単なお祝いをすることになっていた。部署の何人かが、少しずつ贈り物を用意していた。


悠真が選んだのは、デスク用の小さなライトだった。折りたたみ式で、角度が変えられる。値段も、無難な範囲に収めた。店では、五分もかからなかった。


贈り物が渡される順番は、くじ引きで決まった。悠真の順番は、四番目だった。


三番目の同僚が、色紙を渡した。部署の全員が書いた寄せ書きと、旅行のときの集合写真を引き伸ばして額に入れたものだった。


受け取った女性が、一枚ずつ、書かれた言葉を目で追っていく。途中で、小さく鼻をすすった。


「……みんな、ありがとうございます。これ、家に飾ります」


周りから、拍手が起きた。


四番目の悠真が、小さな箱を差し出した。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


女性は、箱を開けて、ライトを取り出した。光を点けて、確かめるように角度を変えた。


「実用的で、助かります。ちょうど、夜の作業用に欲しかったので」

「それなら、よかった」


悠真は、そう答えた。笑顔で、普通に答えた。


女性は、ライトを大事そうに箱へ戻して、色紙のほうへ視線を戻した。そのあとの話題は、色紙に書かれた誰かの一言で、盛り上がっていった。


悠真は、自分の席に戻った。


パソコンの画面に、さっきまで書きかけだったメールが残っていた。続きを打とうとして、指が止まった。


「実用的で、助かります」


さっき聞いたはずの言葉が、頭の中で、少し違う声になっていた。みのりの声だった。


感動は、しないんだけど。


悠真は、画面に目を戻した。メールを三行書いて、送信した。それから、しばらく、画面を見ていた。


隣の席の同僚が、色紙の話をしていた。誰が何を書いたか、あとで見せてもらおう、と笑っていた。悠真は、聞こえているふりをして、次のメールを開いた。


◇


退勤の帰り道、悠真は、駅に向かう途中の文具店の前で、足を止めた。


ショーウィンドウに、カードが並んでいる。誕生日、お礼、お祝い。一枚ずつ、手書きの絵が描いてあった。


五秒ほど、それを見ていた。


それから、何も買わずに歩き出した。


◇


その夜のバーには、満しかいなかった。


「お疲れ。今日は早いな」

「ああ」


悠真が席に座ると、満は、いつものグラスを出した。


「今日、何かあった?」

「別に。職場で、誰かの誕生日だっただけだ」

「へえ。何あげたの」

「ライト」

「へえ、実用品か」


満は、笑いながら、レジの横の棚から、小さな箱を一つ取り出した。


「見て、これ。前にお前がくれたやつ。壊れずに、まだ使ってる」


満が持っていたのは、小さな栓抜きだった。ずっと前の誕生日に、悠真が贈ったものだった。


「毎日使ってる。本当に、実用的で助かる」


満は、嬉しそうにそう言った。


悠真は、グラスに手を伸ばした。


「……そうか」


返事が、少し遅れた。


満は、特に気づいた様子もなく、栓抜きを棚へ戻した。


悠真は、グラスの中の氷を、しばらく見ていた。


氷が、からん、と音を立てて崩れた。

ずっと前にもらった栓抜きを、

満は今でも毎日使っていました。


そして嬉しそうに、


「本当に、実用的で助かる」


と言いました。


悠真にとっては、

たぶん少し意外な「助かる」だったんじゃないかなと思います。


それはそれとしまして、

今でも使い続けている、誰かにもらったものってありますか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。