#24|実用的で助かる
「ありがたいけど、感動はしないんだけど」
みのりにそう言われた悠真。
本人は笑っていました。
そのときは。
「友達の誕生日プレゼント、何がいいと思います?」
凛がそう聞いたのは、閉店前のカウンターで、グラスを拭きながらだった。
「何か決まってるのか」と悠真。
「大学の同期です。仲はいいんですけど、好みが全然分からなくて」
「無難なのは、ハンドクリームとか」とみのり。
「ありきたりじゃないですか」
「ありきたりは、間違えないよ」
満が、ふと笑った。
「悠真に聞いたら、一発で決まるよ。たぶん、使えるやつを選んでくる」
「使えるやつ?」
「実用品とか」
みのりが、グラスを持ったまま頷いた。
「悠真にもらったやつ、ちゃんと使えるやつの印象あるんだよね。ありがたいけど、感動はしないんだけど」
満が声を出して笑い、凛も口元を押さえた。
悠真は、グラスを傾けて、一口飲んだ。
「感動で腹は膨れないからな」
「ほら、そう言う」
「実用が一番だろ」
「でも、ちゃんと使ってるよ、悠真にもらったやつ」
みのりは笑いながらそう言って、それ以上は何も付け足さなかった。凛が「じゃあ、実用的なやつを探してみます」と言って、話はそこで終わった。
悠真も、笑っていた。
◇
数日後の昼、悠真の職場で、小さな集まりがあった。
同じ部署の女性の誕生日で、昼休みに簡単なお祝いをすることになっていた。部署の何人かが、少しずつ贈り物を用意していた。
悠真が選んだのは、デスク用の小さなライトだった。折りたたみ式で、角度が変えられる。値段も、無難な範囲に収めた。店では、五分もかからなかった。
贈り物が渡される順番は、くじ引きで決まった。悠真の順番は、四番目だった。
三番目の同僚が、色紙を渡した。部署の全員が書いた寄せ書きと、旅行のときの集合写真を引き伸ばして額に入れたものだった。
受け取った女性が、一枚ずつ、書かれた言葉を目で追っていく。途中で、小さく鼻をすすった。
「……みんな、ありがとうございます。これ、家に飾ります」
周りから、拍手が起きた。
四番目の悠真が、小さな箱を差し出した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
女性は、箱を開けて、ライトを取り出した。光を点けて、確かめるように角度を変えた。
「実用的で、助かります。ちょうど、夜の作業用に欲しかったので」
「それなら、よかった」
悠真は、そう答えた。笑顔で、普通に答えた。
女性は、ライトを大事そうに箱へ戻して、色紙のほうへ視線を戻した。そのあとの話題は、色紙に書かれた誰かの一言で、盛り上がっていった。
悠真は、自分の席に戻った。
パソコンの画面に、さっきまで書きかけだったメールが残っていた。続きを打とうとして、指が止まった。
「実用的で、助かります」
さっき聞いたはずの言葉が、頭の中で、少し違う声になっていた。みのりの声だった。
感動は、しないんだけど。
悠真は、画面に目を戻した。メールを三行書いて、送信した。それから、しばらく、画面を見ていた。
隣の席の同僚が、色紙の話をしていた。誰が何を書いたか、あとで見せてもらおう、と笑っていた。悠真は、聞こえているふりをして、次のメールを開いた。
◇
退勤の帰り道、悠真は、駅に向かう途中の文具店の前で、足を止めた。
ショーウィンドウに、カードが並んでいる。誕生日、お礼、お祝い。一枚ずつ、手書きの絵が描いてあった。
五秒ほど、それを見ていた。
それから、何も買わずに歩き出した。
◇
その夜のバーには、満しかいなかった。
「お疲れ。今日は早いな」
「ああ」
悠真が席に座ると、満は、いつものグラスを出した。
「今日、何かあった?」
「別に。職場で、誰かの誕生日だっただけだ」
「へえ。何あげたの」
「ライト」
「へえ、実用品か」
満は、笑いながら、レジの横の棚から、小さな箱を一つ取り出した。
「見て、これ。前にお前がくれたやつ。壊れずに、まだ使ってる」
満が持っていたのは、小さな栓抜きだった。ずっと前の誕生日に、悠真が贈ったものだった。
「毎日使ってる。本当に、実用的で助かる」
満は、嬉しそうにそう言った。
悠真は、グラスに手を伸ばした。
「……そうか」
返事が、少し遅れた。
満は、特に気づいた様子もなく、栓抜きを棚へ戻した。
悠真は、グラスの中の氷を、しばらく見ていた。
氷が、からん、と音を立てて崩れた。
ずっと前にもらった栓抜きを、
満は今でも毎日使っていました。
そして嬉しそうに、
「本当に、実用的で助かる」
と言いました。
悠真にとっては、
たぶん少し意外な「助かる」だったんじゃないかなと思います。
それはそれとしまして、
今でも使い続けている、誰かにもらったものってありますか?




