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それはそれとしまして。【月水金20時更新!】  作者: ゆぴろ ✎*


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#21|みんなの二番目

希望を聞く。

条件を書き出す。

合わない候補を消していく。


悠真に任せれば、

昼ごはんのお店くらいすぐ決まります。


たぶん、それでいいはずです。

「じゃあ、希望ある人」


悠真が言うと、三人の手が、ほぼ同時に止まった。パソコンの画面から顔を上げて、それぞれ考える顔になる。


金曜の十二時前、昼飯の行き先を決める五分間だった。


「北川は」

「こってり系じゃなければ、何でも」

「三船は」

「量、少なめがいいです。午後、会議あるんで」

「向井は」

「歩くの、ちょっと。今日、靴が」


悠真は、手元のメモ帳に、三人の条件を書き出していった。


こってり不可。


量、少なめ希望。


徒歩、短め希望。


「俺は、行列は困る。一時から電話がある」


四つ目の条件を、自分の分として書き足す。


「ラーメン屋は」と北川。

「こってりだ」と悠真。「消える」

「カレーは」

「量が多い店しかない。消える」

「じゃあ、あの定食屋」

「人気店だ。金曜は並ぶ」


悠真はメモ帳を見ながら、残った候補を数えた。


「あと二つしかない」


一つは、駅の反対側のうどん屋。もう一つは、ビルの一階の、軽食中心のカフェだった。


「うどんは、歩いて七分だ。向井の靴には厳しいかもしれない」

「……厳しいです」

「消える」


残ったのは、カフェだけだった。


「決まりだな」

「決まりましたね」と三船。


誰も、反対しなかった。条件には、きれいに合っていた。


四人で歩いて二分、カフェに着いた。空いていた。すぐに案内された。並ばなかった。


メニューを開くと、三船が小さく「あ」と言った。


「ここ、セットがパンかサラダかしか選べないんですね」

「量は少なめだろ」

「少なめなんですけど」


北川は、スープのメニューを見て、首をかしげた。


「あっさり系、ポタージュしかない」

「こってりじゃないだろ」

「こってりじゃないですけど」


向井は、椅子に座って、足元を伸ばした。


「近いのは、助かります」

「助かるんだろ」

「助かるんですけど……」


悠真は、四人分の注文を一通り聞いて、店員に伝えた。注文を終えると、テーブルが、少し静かになった。


「……誰か、ここ来たかった?」


悠真が聞くと、三人とも、少し考えてから答えた。


「来たくなかったわけじゃないです」と北川。

「別に、嫌いじゃないです」と三船。

「条件には、合ってます」と向井。


誰も、「来たかった」とは言わなかった。


料理が来て、四人は黙々と食べた。悪くなかった。ただ、特別でもなかった。


食べ終わる頃、三船がふと言った。


「来月、歓送迎会ありますよね。あれも、こうやって決めるんですか」

「決める」

「白石さん、条件聞いて、消していくんですよね」

「それ以外に決め方があるか」

「ある気がします」


悠真は、少し考えたが、何も思いつかなかった。


会計を済ませて店を出ると、北川が伸びをしながら言った。


「また来ましょう、ここ」

「また、ですか」と三船。

「条件には、合ってるので」

「合ってますね」


向井が、靴の先を見ながら頷いた。


「近いですし」

「近いですね」


悠真は、三人の後ろを少し遅れて歩きながら、さっきのメモ帳を見た。


こってり不可。


量、少なめ希望。


徒歩、短め希望。


行列不可。


四つとも、きちんと満たされていた。


ビルに戻るエレベーターの中で、北川がふと聞いた。


「次、どこにします?」

「……考えとく」


悠真は、そう答えるだけにした。


◇


その夜、悠真がいつもの席に座ると、満がグラスを出しながら聞いた。


「今日、何してたの」

「昼、全員の希望聞いて店決めた」

「お、えらいじゃん」


満は、嬉しそうに言った。悠真は、グラスを受け取った。


「条件は、全部満たした。こってりじゃない、量少なめ、近い、並ばない。全部」

「すごいな。誰も文句言わなかったんでしょ」

「言ってない」


満は、グラスを拭きながら頷いた。


「じゃあ、いい昼飯だったじゃん」

「……悪くはなかった」


満は、その間を少しだけ拾った。


「悪くはなかった、なんだ」

「普通に食べて、普通に戻った」

「みんな喜んでた?」


悠真は、少し考えた。


「喜んだかどうかは、分からない」

「分からないのに、条件満たしたって言えるんだ」

「条件と、喜ぶかどうかは別だ」


満は、グラスを置いて、カウンターに肘をついた。


「北川って子、何て言ってたの」

「……条件には合ってる、と」

「それだけ?」

「それだけだ」


満は、しばらく悠真の顔を見ていた。


「悠真、それ、嬉しそうに言う話じゃないよな」

「嬉しいとは言ってない」

「言ってないけど、『えらいじゃん』って俺が言ったとき、ちょっと止まったよな、お前」


悠真は、答えなかった。


「……三船が、歓送迎会も同じやり方で決めるのか、聞いてきた」

「で?」

「他にどうやって決めるんだ、って俺が聞いたら、『ある気がします』って」

「それだけ?」

「それだけだ」


満は、少し笑った。


「それ、言われて、お前、何て返したの」

「……何も返せなかった」


満は、それ以上、突っ込まなかった。悠真のグラスへ、水を足した。


「次も、条件聞いて決めるの」

「……分からない」


満は、特に意味深な顔もせずに、「へえ」とだけ言った。


「で、悠真は何飲む。いつもの?」

「……いつもの」


悠真は、少し考えてから、それだけ答えた。満は、何も聞き返さずに、いつもの酒を用意し始めた。

今回、個人的に気になったのは、


「条件には、合ってます」


という言葉です。


間違ってはいない。

でも「ここに来たかった」とも、少し違う。


それはそれとしまして、

皆さんは複数人でお店を決めるとき、どうやって決めていますか?

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