↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それはそれとしまして。【月水金20時更新!】  作者: ゆぴろ ✎*


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/26

#20|みっくん、悠真に言っといて

「みっくん、悠真に言っといて」


悠真は、すぐ隣にいます。


今回は、モバイルバッテリー一個から始まった兄妹げんかのお話です。

みのりと悠真は、いつもより一つ分、席が離れていた。


「みっくん」


みのりが言った。


「うん?」

「そこのお通し、悠真に取ってって言って」


満は、みのりを見て、それから隣の悠真を見た。悠真は、こちらを見ずにグラスを傾けていた。手を伸ばせば届く距離に、小皿があった。


「……隣にいるけど」

「知ってる」


満は、少し迷ってから、悠真に向き直った。


「悠真、それ、みのりに取ってあげて」

「聞こえてる」


悠真は、みのりのほうを見ずに、小皿を満のほうへ押しやった。満がそれを受け取って、みのりの前に置いた。凛が、二人を交互に見た。


「……何かあったんですか」

「別に」とみのり。

「特に」と悠真。


満と凛は、顔を見合わせた。


十分ほどして、今度は悠真が口を開いた。


「小野寺」

「はい」

「みのりに聞いてくれ。俺のモバイルバッテリー、知らないかって」


凛が、みのりを見た。みのりは、グラスを見たまま答えた。


「凛ちゃん、それ、返したって伝えて」

「……返したそうです」


悠真は、みのりのほうを見ずに、凛へ言った。


「聞いてないって伝えてくれ」

「聞いてないそうです」


凛がみのりへ伝える。


「言ってないから」


みのりが、凛に向かって言った。凛が、それをそのまま悠真へ渡す。


「言ってないから、って言ってます」

「言ってないのに、返したことになるのか」


悠真が、凛越しに問い返す。凛が、それをみのりへ伝えた。


「言ってないのに、返したことになるのかって」

「コートのポケットに入れといたの。それで、返したことになるでしょって、悠真に」


凛は、みのりとの間で視線が忙しくなっているのを自覚しながら、それを悠真に伝えた。


満が、思わず口を挟んだ。


「あ、じゃあ、もう返ってきてたんだ」

「返ってきてた」とみのり。

「じゃあ、何の話なの、これ」


悠真が、満のほうを見て言った。


「気づかなかった。コートのポケット、毎日確認するわけじゃない」

「確認しないなら、入れとくだけじゃ伝わらないですよね」と凛。

「そう」と悠真。「だから、新しいの買った」

「え、買ったんですか」


満が、声を上げた。


「買う前に、一言聞けばいいのに」

「聞くほどのことでもないと思ってた。とっくに戻ってきてるはずだと思ってたから、見当たらないのは、自分がどこかへやったんだと思って探してた」


みのりが、凛に向かって言った。


「それ、私のせいみたいに言うのやめてって、悠真に言っといて」

「……みのりさん、悠真さんのせいだとは言ってないと思います」

「言ってるようなもんだよ」


満が、悠真に確認した。


「悠真、そんなつもりだった?」

「そんなつもりはない。ただ、一言あれば、無駄に新しいの買わずに済んだって話だ」

「一言って、報告?」とみのりが凛に。

「報告じゃない、と本人は言ってます」

「じゃあ何」

「返すよ、って一言だけでいい、と」


満と凛は、しばらく二人のやり取りを黙って見ていた。二人とも、互いには一度も顔を向けていなかった。


「……これ、いつまで続くんですか」と凛が小さく聞いた。

「分からない」と満。「ただ、モバイルバッテリー一個の話だよな、これ」

「一個の話です」

「なのに、二人とも、一回も直接喋らないんですよね」

「私たちを通して喋ってるだけです」と凛。


満が、カウンターに肘をついた。


「悠真、みのり、ちょっと聞いていい?」


二人とも、満のほうを見た。


「今、めちゃくちゃ怒ってる?」


すぐには、どちらも答えなかった。


「……もう、そんなに怒ってない」とみのりが、満に向かって言った。

「俺も、別に、そこまでは」と悠真も、満に向かって言った。

「じゃあ、なんで喋らないの」

「……なんとなく、今さら普通に喋るのも、負けた気がして」


みのりが、素直にそう言った。悠真は、それを否定しなかった。


凛が、深く息を吐いた。


「くだらないですね、二人とも」

「くだらなくない」


みのりと悠真の声が、同時に重なった。どちらも、凛のほうを見ていた。互いには、まだ目を合わせていなかった。


満が、グラスにお酒を注ごうとして、瓶を傾けすぎた。琥珀色の液体が、カウンターの上に少しこぼれた。


「あっ」


満が慌てて布巾を探した手が、隣の空のグラスに当たった。グラスが、みのりのほうへ倒れかける。


「危ない」


悠真が、反射的に手を伸ばして、グラスを押さえた。みのりの手も、同時に伸びていた。二人の手が、グラスの上で軽くぶつかった。


一瞬、静かになった。


「……ありがと」


みのりが、悠真のほうを見て、小さく言った。


「……別に」


悠真が、みのりのほうを見て、目を逸らしながら答えた。


凛が、目を丸くした。


「……今、喋りましたよね、二人とも」

「喋ってない」とみのり。

「喋ってた」と満。

「グラス、押さえただけ」と悠真。

「お礼、言ってました」


みのりは、何も言わなかった。悠真も、何も言わなかった。ただ、二人とも、さっきよりは少しだけ、隣の椅子のほうへ体が向いていた。


満は、こぼれたお酒を拭きながら、新しいグラスを出した。


「悠真、氷、少なめでいい?」

「……ああ」


悠真が、答えた。それから、少し間があって、みのりのほうを見た。


「……バッテリー、次から、渡すときは一言言え」

「……分かった。コートに入れとくのは、なし?」

「なしとは言ってない。言ってから入れろ」

「分かった」


みのりは、頷いた。それだけだった。謝罪の言葉も、仲直りの宣言もなかった。


凛が、満に小声で聞いた。


「……仲直りしたんですか、今の」

「さあ」

「さあって」

「多分、二人も、よく分かってないと思う」


カウンターの向こうで、みのりが「悠真、次何飲むの」と直接聞き、悠真が「同じの」と直接答えていた。いつも通りの声だった。

謝るでもなく、

「仲直りしよう」と言うでもなく。


気づいたら、


「次何飲むの」

「同じの」


と普通に話していました。


兄妹って、こういう戻り方もあるんだろうなと思います。


それはそれとしまして、

皆さんは喧嘩したあと、ちゃんと話して仲直りする派ですか?

なんとなく元に戻る派ですか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。