第8話(ジェイリアム視点)
俺はその疑問を、エルディット・マーク2にぶつけた。
完璧なる機械の頭脳で、完璧なる答えを導き出してほしかった。
エルディット・マーク2は、いつも通りの微笑を浮かべ、言った。
「陛下。不正を犯す者は、皆、こう思っているのです。『自分だけは大丈夫』と」
「馬鹿な! 俺と最も親しかったパウレンスの一族をも、規律を守るため、俺は皆殺しにしたのだぞ! あの、生まれたばかりの赤ん坊もだ! 俺は、罪に対しては公平に罰を与える! 『誰それだけは大丈夫』だなんて、そんなこと、あるはずがあるまい!?」
「陛下、そういうことではありません。世の中には、身分の高低にかかわらず、恐ろしく想像力に欠ける人間という者が、少なからず存在します。彼らは自分の行動が、どんなリスクを生み、どんな結末を招くのかを、想像できないのです。ですからたやすく、愚かな真似をするのです」
「…………」
「残念なことですが、彼らのような愚者には、いかなる見せしめも効果がありません。彼らはいつだって『自分だけは特別』『自分だけは、何をしても許される』『まあ、どうせ大したことにはならないだろう』と思っているのですから」
「なら、どうすればいい。そんな連中がいる限り、『完璧なる平和』は達成できないじゃないか」
エルディット・マーク2は、ギギギと頷いた。
「その通りです、陛下。『そんな連中がいる限り』、この国に『完璧なる平和』と公正さは訪れません。しかし、逆に考えると、『そんな連中がいなくなれば』、この国はもっと良くなるということです」
「そうか。確かに、そうだな」
「私はすでに、将来不正を犯す可能性がある人々のリストアップを済ませております。陛下、彼らを即刻、処刑いたしましょう」
「な、なにっ?」
エルディット・マーク2の発言に、俺は動揺した。
処刑? 追放ではなくて、処刑するというのか? それも、現時点では『不正を犯す可能性がある』というだけで、まだ何の罪を犯してはいない者たちを。
俺はエルディット・マーク2の無感情な目を見て、言う。
「エ……エルディット・マーク2。それは流石に、行き過ぎた判断だろう。その者たちが将来、本当に罪を犯すか、わからないではないか……」
「いえ。私の予測に間違いはありません。リストアップされた人間の内、40パーセントは一年以内に罪を犯し、残りの60パーセントも、三年以内に罪を犯すことでしょう」
「…………」
「陛下、実は私は、以前処刑されたパウレンス子爵が罪を犯すことも、あらかじめ予測していました。そしてパウレンス子爵は、私の予測通りに、罪を犯しました」
「なんだと? 待て、エルディット・マーク2。パウレンスが罪を犯す可能性があることを知っていたのなら、何故それを俺に言わなかった」
俺は、かすかな怒気を込めて言った。
エルディット・マーク2は、少しも怯まず、機械的に答えた。
「パウレンス子爵は、陛下の信任が厚いお方。そのパウレンス子爵のことを『将来必ず罪を犯す人間です』などと言えば、陛下は私の機械頭脳に疑問と不信を持ち、私を遠ざけられたでしょう。『しょせんは機械。機械の戯言など信頼できぬ』と」
俺は、黙った。
エルディット・マーク2の言う通りだったからだ。パウレンスが実際に罪を犯した後でなければ、俺はエルディット・マーク2の言うことを、決して信じなかったに違いない。
そして、しばらく黙ったまま、考える。
エルディット・マーク2も、黙っている。
沈黙を打ち破ったのは、俺の方だった。
「……わかった。『将来不正を犯す可能性がある者たち』に対し、何らかの対処をすることには、同意しよう。だが、処刑はやりすぎではないか? 彼らはまだ、何の罪も犯していない。国外に追放すれば十分だろう」
「いいえ。追放では不十分です。というより、彼らを追放することそのものが、新たなる騒乱の火種となる可能性があります。陛下、考えてもみてください。現在罪を犯していないのに国を追放された者は、陛下に対し、いかなる感情を抱くでしょうか?」
「……まず間違いなく、俺のことを、恨むだろうな」
エルディット・マーク2は、俺の答えに、満足げに頷いた。
「彼らは特権階級ですから、独自の私兵団や、他国との外交的なつながりを持っています。そんな彼らが、陛下への恨みを糧にして、他国を扇動し、このアデライド王国に復讐を考えることは、至極当然。彼らは、決して生かして国の外に出してはならないのです。だから皆、警戒されぬうちに、処分しなければなりません」




