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聖女ロボットが完成したので、人間の聖女はもう必要ないそうです  作者: 小平ニコ


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第6話(ジェイリアム視点)

「いいえ、国王陛下。万引きをしても、厳しく咎められないような子供は、盗みの味を占め、いずれ本格的な窃盗犯になります。酔っ払い同士の軽い喧嘩も、侮ってはいけません。小さな暴力が、大きな暴力を生むのです。些細なきっかけで始まった諍いから憎しみが募り、殺人事件に発展したケースは非常に多いのです」


「ふーむ……」


「最初から凶悪な者なら、私の聖女の力で排除できますが、少しずつ悪しき道に染まっていく者は、そうもいきません。軽犯罪者は、いわば悪の火種です。火種は、対処が容易な小さいうちに消さなければならないのです」


「『火種は、対処が容易な小さいうちに消さなければならない』か……確かに、その通りだ。俺の理想とする『完璧なる平和』のためには、わずかな火種も許しておいてはいけない。で、具体的にどうすればいい?」


 エルディット・マーク2は、先程までとまったく変わらない機械的な微笑で、優しく言い放った。


「簡単なことです。こういう場合、最も効果が高いのは『見せしめ』であると、歴史が証明しています。子供であろうと、何であろうと、人の物を盗んだ罪人は、その両腕を切り落とすのです。二度と盗みができないように」


「…………」


「喧嘩をしたものは、闘技場に閉じ込め、二人とも死ぬまで戦わせます。争いの愚かさを、民衆に知らしめるためです」


 恐るべき提案だった。

 しかし、一理あった。


 盗みの罰が両腕を切り落とされることとなれば、よっぽどの馬鹿以外は、間違っても万引きなどしないはずだ。とても、割に合わないからな。


 つまらない喧嘩の末路が、公衆の面前で死ぬまで戦わされることとなれば、やれ肩がぶつかっただの、やれ目つきが気に入らないなどの理由で喧嘩を始める阿呆はいなくなるだろう。死んでもいいから喧嘩をやりたいと思っているような狂人など、そうそういるとは思えない。


 思案する俺に、エルディット・マーク2は優しい声で畳みかけてくる。


「国王陛下。これまで誰もなしえなかった『完璧なる平和の国』を作るためには、これまで誰も科さなかったような厳しい罰が必要なのです。どうか、『軽犯罪の厳罰化』をご決断ください。すべては『完璧なる平和』のためなのです」


 結局俺は、それほど悩まずに、エルディット・マーク2の言う通りにすることにした。彼女の提案した『出入国審査の厳格化』により、アデライド王国が間違いなく良い方向に行ったという成功体験があったからだ。


 軽犯罪の厳罰化を発表したとき、国民たちは鼻で笑っていた。


 皆、こう思っていたのだ。


『そんなこと、できるはずがない。我々には人権があるんだぞ』と。


 だが、軽犯罪厳罰化の施行後、万引きをした不良グループ全員の両腕を切り落としたことで、皆、俺が本気であることを悟り、青ざめた。


 町から、たちまちのうちに、窃盗はなくなった。


 喧嘩の方は、それほどすぐにはなくならなかった。罰があると分かっていても、酔った勢いで始まる争いというものは、時に人間の理性を超えるものだからだ。


 しかし、見せしめとして、馬鹿な酔っ払い同士を死ぬまで戦わせ、それを大衆に見せつけることで、確実に喧嘩の数は減っていった。そもそも酔っぱらって喧嘩をしないために、酒場に行く人間自体が激減した。


 それで、繁華街全体の人通りが減ったことで、治安はさらに良くなった。経済的には少々マイナスだが、アデライド王国がまた一歩『完璧なる平和』に近づいたと思えば、大した損失ではない。


『軽犯罪厳罰化』に対し、『あまりにも残酷すぎる』と文句を述べる民衆も多かったが、犯罪者に対して情けをかけない厳しい姿勢に賛同する民衆は、それ以上に多かった。近年、法律で保護された子供たちによる凶悪犯罪が増えてきていたからだ。


 エルディット・マーク2の聖女の力でも、元々アデライド王国で生まれた無垢な子供が、成長するとともに心に闇を抱え、突発的に凶悪事件を起こすことに対しては、どうしようもなかったからな。頻度こそ少ないものの、子供の凶悪犯罪は、俺にとっても頭痛の種だった。


 盗みどころか、殺人を犯しても死刑になることがなかった『子供の犯罪』に対し、不満と憎悪を抱いていた民衆は、俺の想像より遥かに多かった。だから『軽犯罪厳罰化反対派』も、結局は押し切られてしまったのである。


 かくして、アデライド王国から、窃盗と喧嘩はなくなった。嬉しい副次的効果として、少年犯罪もなくなった。『残酷な見せしめ』というものが、これほど効果的だとはな……


 厳しすぎる罰を恐れ、国を出る者も多々いたが、別にどうでも良かった。罰を恐れる人間は、罪を犯す危険性のある人間だ。そんな連中、『完璧なる平和』にとっては邪魔なだけだ。むしろ、勝手に出て行ってくれて、追放する手間が省けるというものだ。


 多少人口が減ったところで、アデライド王国は豊かな国だ。その経済力は揺るがない。……完璧だ。これまで、どんな英雄もなしえなかった『完璧なる国』を作ることに、俺は成功したのだ。


 それもこれも、すべてエルディット・マーク2のおかげだ。


 俺は彼女のために、祝宴を開くことにした。

『完璧なる国』にふさわしい、『完璧なる宴』だ。


 本来なら王妃の座る玉座にエルディット・マーク2を座らせ、国の重鎮たちを呼び、飲めや歌えの大騒ぎだ。この日ばかりは無礼講。少々のマナー違反やくだけた言動も、俺は笑って許した。


 エルディット・マーク2も、いつものように、機械的な微笑を浮かべていた。エルディット・マーク2は、酒をあおってはしゃいでいる人間たちを、静かに見ていた。その超然とした姿は、まさに『機械仕掛けの女神』とでもいうべき神々しさだった。

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