第4話(ジェイリアム視点)
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エルディット・マーク2に国の守護を任せて、しばらくの時が流れた。
完成させるまでに何度もテストを繰り返したので、その性能には自信を持っていたが、エルディット・マーク2の能力は予想以上だった。
まず、疲労することがない。
体内には動力源として、無限に魔力を生み出し続ける魔導石を埋め込んである。魔導石は人間の体にとっては有害だが、エルディット・マーク2の機械の体なら何の問題もない。
そして、エルディット・マーク2の魔力制御は完璧だ。……かつての聖女エルディットも、人間にしては魔力のコントロールが上手かったが、機械であるエルディット・マーク2には、かなうはずもない。
エルディット・マーク2は、適切なタイミング・適切なパワーで魔力を使い、祈る手間すら必要なく、聖なる力を発揮して、フルオートで魔物どもから国を守ってくれる。
最初に神殿で祈ってみせたのは、人間の聖女エルディットに、エルディット・マーク2の力を見せつけてやるために俺が指示した、デモンストレーションに過ぎない。機械仕掛けの聖女には、古臭い祈りなど不要なのだ。
エルディット・マーク2は、24時間、休みなしで働いていても、文句ひとつこぼすことはない。さらには、自動学習機能により、日々進化を続け、いまやエルディット・マーク2は、魔物だけではなく、国外からやって来る人間の凶悪犯罪者をも、その聖なる力で排除できるようになっていた。
完璧だ。エルディット・マーク2こそ、まさしく、完璧なる聖女だ。俺は、今日も黙々と仕事を続けるエルディット・マーク2に、ねぎらいの言葉をかけた。
「エルディット・マーク2、今日もお役目ご苦労。お前のおかげで、俺はいつも、枕を高くして眠れるよ」
エルディット・マーク2は、ギギギと首を動かし、こちらを見ると、微笑を浮かべ、言う。
「ありがとうございます、国王陛下。アデライド王国と陛下のために働けて、私も嬉しゅうございます」
なんて甲斐甲斐しいことを言うのだろう。
ふん……
あの聖女エルディットにも、このような従順さがあればな。
……エルディットは、美しかった。初めて彼女を見た時、鋭く輝く、刃のようなまなざしに心を奪われたのを、今でも思い出す。俺は思った、この女を自分のものにしたいと。
王妃は『はい』と『承知しました』くらいしか言えない、従順な犬のような女だ。今さら妾が一人増えようと、なにも文句は言わん。俺はある日、エルディットに話を持ちかけた。『俺の寵姫にならんか?』と言って。
しかしエルディットは、にべもなく俺の誘いを断った。いや、『にべもなく』どころではない、奴の瞳には、俺に対する軽蔑すら浮かんでいた。
エルディットは、こう言って俺を諭した。
『国王陛下。あなたは万民の上に立つお方なのですから、どうか、節度を持ってください。『英雄色を好む』と言いますが、それにしたって、陛下の振る舞いは少々行き過ぎです』
不愉快だった。
小娘が。
何様のつもりだ。
大国アデライドの王になるべくして生まれてきた俺は、男としての自負が芽生えてからは、欲しいと思った女は皆、自分のものにしてきた。
こう言うと、無理やり手籠めにしたように聞こえるが、そんなことは一度もない。女たちは皆、喜んで俺に抱かれるのだ。それこそ、一夜限りの関係だとしてもな。
エルディットに拒絶されてから、俺は奴を冷遇するようになった。そうすれば、自分の身の程を知り、最終的には泣きついて来ると思ったからだ。
だが、エルディットは決して屈しなかった。
冷遇されたからといって、聖女の役目を放り出すようなこともなかった。
その誇り高い行動が、ますます俺を苛立たせた。
だから俺は、アデライド王国の持つ魔法科学の粋を集めて、機械仕掛けの聖女を作ることに決めたのだ。いくらエルディットでも、自分そっくりの代替品を持ってこられたら、その自尊心は砕け、俺にひれ伏すに違いない……そう、思ったのだ。
しかしエルディットは、完成したエルディット・マーク2を目にし、驚いてはいたものの、俺に屈するようなことはなかった。国を追放される段階になれば、さすがに狼狽するだろうと思っていたのに、奴は平然と、国を出て行った。
そこでやっと、俺は悟った。
この女を屈服させることなど、できはしないのだということを。
……ならば、もういい。
手に入らない宝になど、興味はない。
どこへなりと行き、勝手に生きて、勝手に死ねばいい。
エルディットとの間には、結局不愉快な思い出しかないが、ある意味奴のおかげで、究極の守護者とも呼べる機械仕掛けの聖女、エルディット・マーク2が完成したのだ。我がアデライド王国は、これからさらに発展していくことだろう。
俺は、エルディット・マーク2と共に、理想国家を作るのだ。先王も、先々王も、いや、世界中のどんな英雄でも作れなかった、『完璧なる平和』の『完璧なる国』を……
そんなある日のこと。
エルディット・マーク2が突然、奇妙なことを言い始めた。




