表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ロボットが完成したので、人間の聖女はもう必要ないそうです  作者: 小平ニコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/8

第3話

 私もまた、ルーカード神父を真似るように頷き、言う。


「そうなんです。神父様、どうかこのことは、他のシスターや教会に来る人たちには、言わないでほしいのですが……」


「わかりました。決して他言は致しません。誰にでも、知られたくないことというものは、あるものですからね」


 ルーカード神父はそう言い切ると、表情を変えず、もう一度頷いた。


 まるで、お面のような無表情であり、私には、彼がどんな思いで私の話を聞いていたのか、想像がつかなかった。ルーカード神父は誠実で、美しい顔をした青年だが、どんなときも、ほとんど表情が変わらず、見方によっては不愛想ととられかねないのが、少々玉に瑕だった。


 しかし、とにもかくにも、私の秘密は守られるようだ。ルーカード神父なら、間違っても面白半分で人の過去を言いふらしたりすることはない。私はホッとして、胸をなでおろす。


 そんな私に、ルーカード神父は、何かを思い出したように言う。


「それにしても、あなたがアデライド王国のご出身だったとは、驚きです。実は私も、かつて、あの国で働いていたことがあるんですよ」


「えっ、そうなんですか?」


「ええ。働いていただけではなく、生まれも育ちも、アデライド王国です。事情があって国を出ましたが、それでも生まれ故郷ですからね。新聞にアデライド王国の記事が載るたび、ちゃんと目を通しています」


 ルーカード神父は、そこで一度言葉を切り、小さなため息を漏らしてから、語り続ける。


「だから、長年アデライド王国を守護してくれていた聖女様を追い出して、機械仕掛けの聖女に役目を引き継がせたと知ったときは、心の底から呆れてしまいました。今のところは、問題なく国の平和が保たれているようですが、私は、なんだか嫌な予感がしてなりません」


「嫌な予感って……どういう意味ですか?」


「シスター・エルディット……いえ、聖女エルディット様。聖女の役目とは、機械に模倣できるほど、簡単なものなのでしょうか? 私には、とてもそうは思えません。今は良くても、そう遠くないうちに、何か問題が起こると思います。聖女の代わりが務まる機械なんて、存在するはずがないからです」


 それは、不穏な言葉ではあったが、ルーカード神父が、私の果たしてきた役目を『簡単なものではない』『聖女の代わりが務まる機械なんて、存在するはずがない』と思ってくれていたことが、なんとなく嬉しかった。


 しかし、私の見た限り、あの機械仕掛けの聖女の能力は見事だった。自分で言うのも癪だが、少なくとも『国の平和を守る』という点においては、人間の私よりも、完璧に役目を果たすことができるだろう。機械は、疲れることを知らないのだから。


 もちろん、私の聖女としての働きを認めてくれたルーカード神父に、わざわざそんなことを言う必要はない。私は「そうかもしれませんね」と言い、小さく頷いた。


 それにしても、ルーカード神父に『聖女エルディット様』などと呼ばれるのは、どうにも気恥ずかしい。私は頬を染め、言う。


「あの、神父様。私はもう聖女ではありませんし、そんなふうに呼ばないでください。えっと、ほら、他の人たちに聞かれたら、私がアデライド王国の聖女だったってバレてしまいますし……」


 その言葉で、ルーカード神父は苦笑した。

 苦い微笑ではあるが、初めて見た、ルーカード神父の笑顔だった。


「その通りですね、うかつでした。ではこれからも、いつも通りでいきましょう」


「はい、ありがとうございます」


「シスター・エルディット。あなたが何者で、これまで何をしてきたかは、もう問題ではありません。この教会で働く他のシスターも、祈りを捧げに来る人々も、それぞれ、過去にはいろいろあるものです。もちろん、私も。だから、お互いに過ぎたことに思いを馳せるより、未来のことを考えて生きていきましょう」


 それは、過去を忘れて生きていきたいと思っている私にとって、とてもありがたい言葉だった。



 そしてまた、いつも通りの日常が始まった。『過ぎたことに思いを馳せるより、未来のことを考えて生きていきましょう』という言葉通り、ルーカード神父は、私を元聖女として特別扱いすることもなく、これまでと同じように接してくれた。


 予想通りというべきか、魔物たちが再びやって来るようなことはなかった。聖女の力に恐れをなしたのだろう。この辺りは、元々治安が良いし、平和な日々がのんびりと続いていく。


 もちろん、多少のトラブルは発生する。


 どこで生活していても、嫌な人と遭遇することはあるし、時には思いがけない事故で怪我をすることもある。どんなに気をつけていても、病気になることもある。


 だが、それが人生というものだ。

 完全無欠の、完璧なる人生なんて存在しない。


 皆、多少のトラブルを抱えながらも、そういうものだと割り切って、自分の人生を受け入れていくのだ。この私にも、将来どんなことが起こるか分からないが、少なくとも私は今、幸せだった。


 そんな時、教会を訪れた行商人から妙な噂を聞いた。


「ワシは仕事柄、色々な国を行ったり来たりするんだが、最近、アデライド王国が、なんかおかしいんだよ」


 行商人は、訝しげな顔でそう言ったのだ。


 正直言って私は、もはやアデライド王国に何の関心もなかったが、それでも『なんかおかしい』という意味深な言い方をされると、変に気になってしまい、詳しく尋ねることにした。


「なんかおかしいって……具体的に、どうおかしいんです?」


「いや、それがさ、簡単に入国できなくなったんだ。それに、アデライド王国の中の人も、自由に出国したりできないらしい。あれじゃ、経済が停滞しちゃうと思うんだけどなぁ。まあ、でかい国だから、貿易せず、国内の商いだけでも、やっていけるのかもしれないけどね」


「へえ……」


 つまりは、出入国の審査が厳しくなったということか。

 別に、そんなに訝しがることでもない気がするけど……


 まあ、何にしても、今の私にとってアデライド王国は、関係のない国だ。特に深く考える必要もないだろう。私はその後もこの教会でシスターとして過ごし、平和で穏やかな毎日を送るのだった。




 ……後になって分かったことだが、行商人の述べていた『出入国の審査の厳格化』は、それからアデライド王国が辿った狂った道のりの、第一段階に過ぎなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ