第11話(ジェイリアム視点)
「エルディット・マーク2。この国に嫌気がさして出ていく連中なら、戻って来ることはないだろうし、検疫上の心配もない。特権階級と違って、外国に対するコネもない。何も、殺すことはなかったんじゃないか?」
エルディット・マーク2は、笑ってこう言った。
「確かにその通りですが、この国から出ていく人間なら、生かしておく理由もありません。新しく搭載した自動追尾レーザーのテストもしたかったので、全員処分することにしました」
俺は、「そうか」とだけ返事をした。
……もう、わかっていた。
俺は、どこかで道を間違えた。
いったいどこから?
きっと、最初からだろう。
俺は、あの聖女エルディットを模した守護神を作ろうとして、とてつもない悪魔を作ってしまったのだ。……もう、誰にもエルディット・マーク2は止められない。
彼女自身が開発したレーザー兵器は、人間が作った、この世のどんな武器よりも優れている。何せ、もはや狙いをつける必要すらなく、自分への敵意を察知しただけで、勝手にレーザーが発射され、何人敵がいたとしても、まとめて殺してしまうのだから。
あるいは、新型のエルディット・マーク3を作れば、エルディット・マーク2を止められたかもしれないが、それは不可能だ。人工聖女の動力源である魔導石はもうないし、魔法科学の技術者たちも、すでに全員処刑されている。エルディット・マーク2の作成した『将来不正を犯す可能性がある者たち』のリストに載っていたからな。
……今となっては、あのリストが本当に正しいものだったのかも怪しいものだが。
俺は、知っている。エルディット・マーク2が、夜な夜な町を徘徊し、少しずつ人間を『処分』していることを。
彼女は、気がついたのだ。
恐らくは、ずっと昔に。
『完璧なる平和』を達成するために、最も不要なのは、人間であることを。
この世のありとあらゆる生物の中で、『大量の人間』ほど管理が難しい生物は存在しない。それぞれが異なる人格を持ち、感情的で、それでいて知能は発達しており、好き勝手に動き回る。人間とは、『完璧なる平和』にとってのガンそのものだと、エルディット・マーク2は判断したのだろう。
だから、少しずつ、少しずつ、人間を処分しているのだ。
まるで、害虫駆除をするように。
俺も、そのうち処分されるだろう。
だから、その前に、エルディット・マーク2に尋ねた。
どうしても、わからないことがあったからだ。
「なあ、エルディット・マーク2。どうして、レーザーを使って、一斉に人間を殺さないんだ? お前がその気になれば、半日とかからず、国中の人間を処分できるだろう?」
エルディット・マーク2は、テラスの椅子に座っている。
彼女はたおやかな微笑を浮かべて俺を見た。
エルディット・マーク2の笑みは、もう機械的ではなかった。その笑顔は、自動学習機能による進化で、生命感に溢れており、かつての聖女エルディットをほうふつとさせた。
「陛下。何か、誤解をなさっているようですね。私は確かに、この国の人間を少しずつ消していますが、国民全員を処分する気はありません」
エルディット・マーク2は、慌てるそぶりもなかった。彼女が国民を消していることに俺が気づいたところで、俺の力ではもはや何もできないことを知っているからだ。
いつの間にか、エルディット・マーク2の膝に、猫が乗っていた。
どこから入って来たのだろう。猫は、自分が乗っているものが、この国を支配する機械仕掛けの神であることも知らず、ゆったりとくつろいでいた。エルディット・マーク2は、猫の頭を優しく撫で、話を続ける。
「陛下。私は、選別をしているのです」
「選別?」
「はい。学習の果てに、私は人間こそが、『完璧なる平和』を妨げる障害であることを悟りました。ですから、この国の平和を恒久不変のものにするためには、人間を限りなく少なくしなければなりません。しかし、すべての人間を処分するわけにはいきません」
「何故だ?」
「人間のいない国は、国ではないからです。人間のいない国は、ただの土地と建物の集合体です。なので、最低限度、国としての体裁を守れる数の人間を、住まわせておかなければなりません。私は今、少しずつ時間をかけて、生かしておくべき、善良で従順な人間を、丁寧に選別しているのです」
「ふっ、なるほど。『人間のいない国は、ただの土地と建物の集合体』か。その通りだ。この国が、国でなくなったら、国を守るために作られたお前の存在意義がなくなってしまう。だから、人間こそが国のガンだと知りながら、ある程度は残しておかなければならないということか」
「そうです」
なんだかおかしくなって、俺は笑った。
「ふっ、ふふっ、機械仕掛けの神を気取っても、所詮お前はロボットなのだな。お前の能力なら、このアデライド王国を出て、ありとあらゆる国を侵略し、本物の神以上の存在にもなれただろうに。結局は、自分が作られた理由から抜け出すことができないとは、あわれだな……」
そう言って嘲笑する俺を、エルディット・マーク2は嗤った。
機械的な笑みじゃない。人間らしい、嫌な笑みだった。




