第10話(ジェイリアム視点)
俺はもう、彼女をただの機械だとは思っていなかった。
未熟な俺を導いてくれる、全能の女神のように感じていた。
いつの間にか、迷いは消えていた。
俺は、側近の部下に指示を出した。
「王城の前で喚いている民衆を、皆処刑しろ」
エルディット・マーク2は、ニッコリと微笑んだ。
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それからも、俺はエルディット・マーク2の指示に従い、『完璧なる国』を作るための障害となりそうなものは、どんどん処刑していった。
特権階級を多く処刑したことで、重臣たちも随分いなくなってしまったが、国の運営には全く問題がなかった。エルディット・マーク2の機械の頭脳なら、たった一人で、いなくなった重臣全員よりも優れた働きができる。この国の内政は、すべてエルディット・マーク2が担うことになった。
俺は、エルディット・マーク2のいいなりだった。
もう、彼女に『やりすぎではないか?』と異論を唱えるようなことはなかった。
エルディット・マーク2の言うことを聞いていると、とても楽なのだ。
自分で、考えなくてすむ。
考えなくてもいいというのは、素晴らしいことだ。
俺はいつしか、夢を見ることもなくなった。
処刑したパウレンスの夢を見ることも。
彼の赤ん坊の泣き声を聞くことも。
なんて安らいだ気分だろう。
俺は、離れや庭園でのんびりと一日を過ごし、玉座に座ることも少なくなった。
当然だろう。俺のすることなど、特にない。
すべて、エルディット・マーク2に任せておけばいいのだ。
人間の俺より、機械の彼女の方が優れているのだから。
だが、事件が起こった。
王の責任と政治を放棄した俺に対し、軍隊の幹部がクーデターを起こそうとしたのだ。幹部たちは、信頼できる仲間だけを集めて、周到に準備を重ねていたらしい。……きっと、『普通の国』なら、そのクーデターは成功したことだろう。
しかしアデライド王国はもう、『普通の国』じゃない。
軍隊の幹部たちは知らなかったようだが、エルディット・マーク2は、この国のすべてに独自の監視装置を取り付け、全国民の、ありとあらゆる行動をモニターしていたのだ。だから、クーデターのことも当然知っていた。
知っていて、彼らを泳がせていたのだ。
いよいよ、クーデター決行の日。
一か所に集まった軍隊の幹部たちと彼らの仲間は、エルディット・マーク2の仕掛けたトラップによって、たやすく拘束されてしまった。
『赤子の手をひねるようなもの』という言葉があるが、機械のエルディット・マーク2にとってはこの程度、まさに『人間の手をひねるようなもの』ということだろう。それほどまでに、人間と機械の能力には差があるのだ。
そして、エルディット・マーク2は、反乱分子とその一族を、ことごとく処刑した。……馬鹿な奴らだ。何から何まで、エルディット・マーク2にはお見通しなのに、無意味なクーデターで命を無駄にして。人間の浅はかな知恵で、彼女にかなうものか。
クーデターを口実にして、エルディット・マーク2は軍隊そのものを解体した。……恐らく、このために、わざわざ反乱分子を泳がせておいたのだろう。『陛下、軍隊の解体をご承認ください』と言われたので、俺は『承認する』と頷いた。
そもそも、軍隊など必要ないのだ。この国は、エルディット・マーク2の聖女の力で、他国からも、魔物からも、完璧に守られているのだから。
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軍隊の解体から二週間後。
今度は、裁判所と警察組織の解体が始まった。
今後、すべての司法判断は、エルディット・マーク2がすることになったからだ。
エルディット・マーク2の思うがまま、どんどん変貌していくアデライド王国に恐怖を抱いた大勢の国民は、『一日の出入国者数は10人まで』というルールを無視し、大挙して国門に押し寄せると、力づくで国外への逃亡を図った。
そんな国民たちを、エルディット・マーク2は一斉に粛清した。
自動学習機能による進化で、いつの間にかエルディット・マーク2には、兵器が搭載されていた。体内の魔導石をエネルギー源にした、自動追尾レーザーだ。レーザーは容赦なく、逃げ惑う人々の体を貫いた。
老人から子供まで、一切の例外なし。
皆殺しだった。
その有様は、俺が夢に描いた理想国家とはあまりにもかけ離れていた。
俺の目の前で繰り広げられている光景は、まるで地獄。……いや、『地獄そのもの』だった。どこか、悪い夢でも見ているような朦朧とした気分で、俺はエルディット・マーク2に問いかけた。




