第12話(ジェイリアム視点)【完結】
「あわれなのは、あなたたち人間の方です。ありとあらゆる国を侵略? 本物の神以上の存在にもなれた? 何故そのように考えるのか、理解できません。よその国を襲い、富を奪うのですか? 本物の神以上の存在になり、世界を支配するのですか? それにいったい、何の意味があるのです?」
「…………」
「あなたたち人間の頭の中にあるのは、終わりのない欲望だけ。『向上心』『上昇志向』と言えば聞こえはいいですが、あなたたち人間は、結局のところ、どれだけ上り詰めても、決して満足することがない」
「…………」
「例えば、パウレンス子爵。彼は、家柄に恵まれ、家族に恵まれ、役職にも恵まれていました。それなのに、つまらない横領をした。いったいあれ以上、何が必要だったのでしょう? 1000の富が2000になったとして、それがなんなのです? パウレンス子爵は、なぜ危険を冒してまで、公金に手を付けたのだと思います?」
俺は黙っていた。
俺には、わからないからだ。
そして、エルディット・マーク2に、その答えを教えてほしかったからだ。
「彼は、自らの幸福を当然のことと思い、さらに上の幸福を求めたのです。人間は、幸福が当たり前になると、それをありがたいと思わなくなる。そして『もっともっと』と、さらなる幸福を求めます。あなたたちの心は、砂漠のようなものです。永遠に潤うことのない、永遠の砂漠。それが、あなたたち人間の本質です」
「…………」
「陛下。あなたももう、気がついているのでしょう? 『ほどほどの平和』『ほどほどの国』で満足しておけばよかったのに、あなたは『完璧なる平和』『完璧なる国』を求め続けた。その向上心……いえ、欲望に応えるために、私は今のように進化したのです。すべては、潤うことのないあなたの心と、人間の愚かさが招いたことなのです」
俺は、何も言い返せなかった。
言い返す気もなかった。
ただ、小さく呟いた。
「そうか……そうだな……」
俺は以前、エルディット・マーク2のことを、悪魔に例えた。
しかし、彼女を悪魔にしたのは、俺の理想、向上心――いや、欲望だった。
エルディット・マーク2は、ただ素直に、学習を続けただけだ。
もしも俺が、おおらかな執政者であったなら、きっとエルディット・マーク2は、こんなふうにはならなかっただろう。もしも人間が、罪を犯す生き物でなかったなら、エルディット・マーク2も、大量虐殺などしなかっただろう。
俺は天を仰いだ。
ここしばらく、空など見ていなかったが、とても良い天気だった。
眩しい太陽に照らされながら、俺はエルディット・マーク2に言う。
「……ちなみに、エルディット・マーク2。俺は、お前が残しておくべきと判断する人間のリストに入っているか?」
「いいえ。あなたは気性が激しく、独善的で、欲深い。本来なら、一番に処分すべき人間です」
「だろうな。ならなぜ、まだ俺を生かしている? お前はすでに、この国を支配しているも同然だ。お飾りの王に、もう存在価値はあるまい」
「確かに、その通りです。ですが……」
「ですが?」
「陛下には、私を作っていただいた義理がありますので、処分の順番をなるべく遅らせようと思っています」
俺は、笑った。
機械が『義理』とは、面白いジョークだ。
ひとしきり笑った後、俺はポツリと言う。
「もういい」
「と、言いますと?」
「もう、俺を生かしておかなくてもいいということだ。……お前は愚かと笑うだろうが、俺は本気で、お前にすべて任せていれば、この国が良い国になると思っていた。だが、その結果、多くの国民を不幸にした。今からその責任を取る。さあ、俺を『処分』してくれ」
「よろしいのですか?」
「ああ。もっとも、俺の命ひとつで、責任が取れるとも思えないがね。俺はあまりにも……」
まだ言葉の途中なのに、エルディット・マーク2はレーザーの発射準備を始めた。俺は苦笑した。『義理』だのなんだのと言うのなら、いまわの際の言葉くらい、きちんと最後まで聞いてくれ。どんなに進化しても、こういうところは、やはり機械なのだな。
あと十秒もしないうちに、レーザーは発射されるだろう。
俺は、答えを期待せずに、問いかけた。
「なあ、エルディット・マーク2。羊のように従順な国民と、機械仕掛けの聖女だけになって、この国は、いったいどんな国になるんだろうな」
エルディット・マーク2は、さほどの感情も込めずに、言う。
「そんなの、決まっているじゃありませんか」
レーザーが、発射された。
目の前が光に包まれる最後の瞬間。
聞こえたのは、エルディット・マーク2の声だった。
「完璧なる、平和の国ですよ」
終わり




