男たちのメロディー
佑二さんにいろんなことを話したけど、その後も変わらずスタジオに通って練習を見ていた。
年明けのライブが近々あるらしい。僕も行こうと決めた。
佑二さんと話しをしたことをきっかけに両親に学校でいじめられていることや佑二さんとのことも正直に話すことができた。
年明けライブにも行きたかったかし、佑二さんとの会話で両親はきちんと説明すれば分かってくれると改めて気づいたからだ。
説明したら母さんに泣かれ、父さんには早く言えと説教された。学校に父さんから話しをするかと言われたけど、もう少し待ってもらうようにお願いした。
もう一度立ち向かってみようと思ったからだ。軽くやってみるか程度の思い。ダメなら両親や佑二さんに相談に乗ってもらえると分かっているから気持ちが楽だった。
その後、佑二さんに練習の予定を聞こうと電話してたら父さんが代わりお礼を言った後、雑談をしていた。次の練習の時に佑二さんに会うと「いい親父さんだな」と褒めてくれた。
そんなこんなで登校初日の今日を迎えたのだけれど。
教室に入った僕を待っていたのは腫れ物を触るような変な空気だった。
僕をいじめているグループも遠巻きにチラ見してくるだけで、むしろ目を合わせないようにしているように感じた。
なんだこれ?
戸惑っていると担任が教室に入ってきた。
朝のホームルームが終わると担任が
「達也、放課後職員室へ来るように」
そう言って教室を出て行った。
やっぱりなんていう声が聞こえてきたが何がやっぱりなのかさっぱり分からなかった。
かといっていじめを見て見ぬふりする、『同じ教室にいるだけの人たち』(佑二さん命名)に何か尋ねる気にもならず、そのまま放課後を迎えた。
授業が全て終わると僕は鞄を持って職員室に向かった。
職員室の中は授業を終えた教師が戻ってきていた。
大勢の教師の間を抜けて担任の下へ行く。
「何の御用でしょうか?」
いじめを知らんぷりして「お前にも問題があるんじゃないか?」なんて事をいう担任が好きなわけはなく、無表情で尋ねる。
すると担任はこっちを振り返り少し大きめの声で威嚇するように言った。
「お前、チンピラと付き合ってるそうだな?」
なんのことだろう?まさか佑二さんのこと?首をかしげながら黙っていると
「お前が黒ずくめのでかいチンピラと商店街裏のいかがわしい店から出てきたと情報が入ってるんだぞ」
担任がさらに声を大きくする。佑二さんがチンピラ・・・。一瞬カッとしたが両親や佑二さんの顔が思い浮かんで冷静に答えた。
「おそらくですが、チンピラではなくミュージシャンで、いかがわしい店ではなくバンド練習用の音楽スタジオじゃないかと思います。他に心当たりがないので」
「同じことだ、ごまかすな!」
机を叩きながら僕を怒鳴りつける。周りの教師が一斉にこちらを見る。
一旦気持ちを落ち着かせたのに、カッとして低い声が出た。
「僕がいじめで殴られたことを先生にお話ししましたが見ないふりしましたよね?ボロボロになって歩いていたところを治療してくれて、話しを聞いてくれたのはその人なんです」
ここで担任が何かを話そうとしていたので僕は叫んだ。
「僕の自殺を止めてくれたのはこの人なんです!」
職員室が静まり返った。奥の方から教頭先生が走ってきた。
「何があったんですか?」
少し厳しめの声で教頭先生が担任に尋ねたが僕はそれを無視して鞄の中にあるものを取り出し教頭先生に渡した。
「なんだこれは・・・。ひどすぎる」
渡したのは1枚の写真。
僕が死んだ後に何があったか分かるように撮っておいた、顔も写っているあざだらけの上半身の写真だ。家に置いておけなかったから鞄に入れて持って歩いていた。フィルムはパッと見ても中身は分からないだろうから家の机の中にしまってある。
これで証拠を消されることは無いだろうと思っていた。
そこから僕は女の子のいじめから現在に至るまでの出来事、担任に話しをしたときに言われた内容の全てを教頭先生に話した。きっと他の先生も聞いていたと思う。
「僕の自殺を止めてくれた人をチンピラと呼ばれて叫んでしまいました。すみません」
「でも、両親とあの人がいなかったら僕は死んでいたと思います」
教頭先生を真っすぐ見て続けて言った。教頭先生は目を真っ赤にしながら答えてくれた。
「よく思いとどまってくれました。ご両親とあなたの出会った方に心から感謝を、そして学校でおきた出来事に対応できなかったことを謝ります。ごめんなさい」
正直、大人になった今でも学校の先生という人たちを全く信用していないのだが、この教頭先生にだけは今でも感謝している。
教頭先生は別室に僕を連れていき待っているように言って部屋を出て行った。
これで良かったのだろうか?教室が変な空気だったのはこの話が噂になってたから?いじめをしていた連中が目を合わせないようにしていたのは僕が怖い人と組んで復讐してくるとでも思ったのか?自分たちが危うくなると知らんぷりするのか?卑怯者!
色々な考えや思いが頭を胸を駆け巡り知らないうちに泣いていた。
どのくらい時間がたったのか。外は薄暗くなっていた。
ようやく泣き止んだ僕のところへ教頭先生が戻て来た。
「ご両親と連絡が付きました。今日は私が家まで送っていきます」
そうして教頭先生の車で家まで送ってもらった。
家には専業主婦の母さんはもちろん、仕事を早退した父さんも待っていてくれた。
僕は両親に言われて部屋へ戻り、ベッドにうつぶせになって倒れこんだ。疲れた。
両親は教頭先生と話しをしているようだった。
そのまま眠ってしまったようだ。教頭先生が帰るからご挨拶しなさいと母さんに呼ぶ声で起きた。
「ありがとうございました」
僕が頭を下げると困ったような顔をして教頭先生が応える。
「本当にすまいことをしました。ご両親にも謝罪をしてこれからの対応をご相談しました。落ち着くまでお休みするかご両親とよく相談してくださいね」
はいと答えたが、僕は休むつもりはなかった。だって負けたような気になるじゃないか。
今じゃ時代遅れの考えかもいれないが、このころ聞いた曲が男には覚悟が必要だと教えてくれた。
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また次のお話しでお会いしましょう。




