You Raise Me Up
僕の世界は一変した。
学校と家しかなかった世界にrockがやってきた。
その後も佑二さんたちの練習を見にライブハウス横のスタジオへ通った。
通ってるうちにオーナーにも会えからお礼を言った。
「おう」
それしか答えてくれなかったけど、やっぱり優しい人だと思う。
年末に佑二さんがくれたカセットテープは何回聴いたか分からない。
そこにはジャンルも年代も関係なしに様々な曲が入っていた。
なんであの順番に曲が入っていたのかは今も分からない。
同じアルバムなのに連続せずに間に別なアルバムの曲が入っていたりする。
何年か経ってから本人に聞いたけど
「さぁて、なんでだったかなぁ?覚えてないなぁ」
とはぐらかされたが絶対覚えていると確信している。
あの人はそういう人だ。
年が明けて珍しく雪が積もった。
部屋で佑二さんからもらったカセットテープを聞いていると母さんに呼ばれた。
「佐藤さんっていう人から電話よ」
一瞬誰だろうと思いながら電話に出ると佑二さんだった。
「よお少年、ヒマか?」
佑二さんの名字が佐藤だったのを思い出しながら
「ヒマです」
そう答えた。
「んじゃぁ、ちょっと会おうよ」
ライブハウスの近くで待ち合わせになった。
「佐藤さんってお友達じゃないわよね?」
母さんに聞かれたけど、勉強を教えてくれる学校のずっと上の先輩だとごまかした。
説明も難しいけど。
約束の時間に待ち合わせのマクドナルドに着いた。
佑二さんは店の一番奥、目立たない席でコーヒーを飲みながら待っていてくれた。
このころはマクドナルドでも煙草が吸えたから、佑二さんの周りは少し煙臭かった。
「悪いな、わざわざ来てもらって」
「ヒマでしたから」
僕はそう答えて佑二さんの向かいの席に座った。
「まぁ、食べながら少し話そう」
なんとなく、いつもと違う雰囲気を感じた。
佑二さんの向かいでチーズバーガーを食べ終えてポテトをつまんでいた時だった。
「んで?何があったんだい?」
何気ないただの問いにどきりとした。佑二さんは僕の状況を察しているんだろう。
出会った時もボロボロだったし。でも、答えたらこの関係は終わってしまうんじゃないか?
自分の居場所がなくなるかも知れない。そう思っただけで震えるほど怖かった。
佑二さんはその先は何も言わず、ただ煙草をふかしながら僕が話すのを待っていてくれた。
結局、僕は全部話した。
女の子がいじめられていたこと。いじめがあまりにもひどかったこと。その子をかばったこと。でも転校してしまったこと。その子が転校した後は自分がいじめられていること。
死にたいと思っていたこと。でも死のうと覚悟できなかったこと。
佑二さんに出会って居場所ができたように感じたこと。rockに夢中になったこと。
僕は泣きながら話した。店の奥の席で良かった。
多分佑二さんは分かっててこの席にしたんだろう。そういう人だ。
僕が一通り話し終えるまで佑二さんはうんうんと、ただうなずきながら聞いてくれた。
「なぁ少年、一つだけ聞いていいかい?」
いつもの優しいトーンに僕はうなずいた。
「今でも死にたいと思ってるのかい?」
正直、死にたいと思う気持ちはあのライブの日の爆音で消し飛んだように感じていた。
僕がそのままを佑二さんに伝えると、少しきょとんとした顔をしてた。
その後爆笑しながら佑二さんは言った。
「そうかそうか、やっぱりrock 'n' rollは偉大だな!」
一通り笑い終えた後佑二さんは言った。
「なぁ少年。お前さんが死んだとして、長く悲しんでくれるのは両親とほんの一人か二人だよ」
新しい煙草に火を点けながら続ける。
「それ以外の人間は3日もたてば忘れる。いじめをしてる愚か者達もね。せいぜいなんかの時にちょっと話題に出るくらいだろう」
佑二さんが僕を見た。
「そんな奴らのために死ぬ覚悟なんか必要ない。きっとご両親はお前さんがいじめられて死んだと知ったら、どうにかできなかったのかと、ずっと自分たちを責めるだろう?」
気づいてた。だから僕は死ななかったんだから。
「まぁ、お前さんにはご両親以外におれがいるからな」
どんな気持ちでこう言ってくれたか分からない。ただこの言葉に嘘はなく、今まで30年以上の付き合いになっている。恥かしいから本人に言ったことは無いけど、この言葉は僕の心の支えになっている。
ここまで僕は未来なんか考えたことは無かった。考えることなんかできなかった。
でもこの時僕は、いつか誰かにこう言える人になりたいと思ったんだ。
ご感想、ご評価をいただけると励みになります。
ご批判は豆腐メンタルなのでほどほどでお願いします。
誤字ありましたらお知らせいただけると泣いて喜びます。
また次のお話しでお会いしましょう。




