Change The World
「またおいで」
佑二さんとオーナーに言われて本番前のライブハウスを出た。
ふわふわと浮かんでいるような感覚。
その感覚のまま家にたどり着き自分の部屋に向かう。
「あら、お帰り」
母さんが変な顔でこっちを見てたけど何も言われなかった。
家に帰ってから、ライブハウスを出るときどんな話しをしたか、お礼をちゃんと言ったか記憶が曖昧で心配になった。
何より、自分の名前さえ告げずに帰ってきたことに気づいて恥ずかしくなった。
翌日の学校もいつも通りだった。
休み時間のたびに殴られ、教師は見て見ぬふりをしている。
いつも通りの日常。
ただ、僕の心を支配しているのはいじめで死にたいという気持ちではなかった。
学校が終わり足早に学校を出た。
外は雪がパラパラと降っていた。
どうしてももう一度あのライブハウスへ行ってみたかった。
いや、佑二さんに会いたかったんだと思う。
ライブハウスに着いて階段をおりたが、入り口の電気は消えていてドアは鍵がかかっていた。
「あ・・・」
その日、一日のワクワクとしたふわふわとした気持ちがしぼんでいく。
うつむいて固まっていた時、後ろから声がした。
「おや、昨日の少年かい?」
佑二さんだった。
「どうしたんだい?今日はライブないよ?」
「えっと、昨日のお礼を言ってなかったから」
しぼんでいた気持ちが一気に膨らんだ気がした。
「わざわざ、ありがとね」
ニコニコ笑顔の佑二さんに言った。
「あの、僕は達也って言います」
「うんうん、覚えておくよ少年」
僕は名乗ったにも関わらずこの後二十年くらいは「少年」と呼ばれることになった。
二十年ぐらいたったある日突然「達也」と呼ばれたときは正直驚いた。
本当に覚えてるとは思わなかったと本人に言ったら笑い飛ばされたが。
なんでも新しく「少年」と呼ぶ人が現れ、いい加減僕も少年と呼ぶには厳しくなったからだそうな。
なんだか浮気されたような気分だった。
二人でライブハウスの階段を上がると隣のドアに佑二さんは向かう。
「こっちが練習スタジオの入り口だよ。見ていくかい?」
「はいっ!」
食い気味に答えると佑二さんは自販機でコーラを買ってくれた。
スタジオに入ると昨日見たバンドメンバーがそろっていた。
挨拶すると気軽な感じに手を挙げて応えてくれた。
見た目は佑二さん同様イカツイ感じの人たちだったけど、とても優しい雰囲気だった。
僕はスタジオの隅に座り込んでセッティングを眺めていた。
練習が始まった。
そこからきっちり2時間。
演奏しては止めて確認、話し合い、また演奏を繰り返してた。
何の話をしているかはよく分からなかったけど、どうやったら良くなるか、あんなイカツイ人たちが一生懸命真っすぐ取り組むんだと少し驚いた。
話しの輪に加わるわけでも、誰かが話しかけてくれるわけでもなかったけど、そこは居心地が良かった。
練習が終わり後片付けをしながら佑二さんが声をかけてきた。
「少年、俺らは週二回くらい練習に来るけど、また来るかい?」
「いいんですか?」
僕は思わぬ提案に驚いた。が、瞬時にこの場所を手放したくないと思った。
「いいよ、誰かに見られながらだと練習になる気がするし」
笑いながら佑二さんが続けた。
「rockに興味があるなら今度テープにダビングしてきてあげるよ、おれの好みだけど」
この当時、カセットテープに録音したりするのは一般的だったので著作権的なあれはご容赦頂きたい。
「ありがとうございます!」
佑二さんの音楽に圧倒された僕はまたあんな音楽を聞いてみたいと思っていた。
このころテレビはアイドル全盛でrockはそんなにテレビで見られるものでもなかった。
トップ10とかにたまに出てきたけど、佑二さんの音楽とは違うように思った。
深夜ならやっていたけど、中学生でそんなに夜中まで起きているのは良くないし、なにより両親に怒られるかもしれない。
そう思った僕は両親に隠れてヘッドホンで夜中にラジオを聴くようになった。
少しずつ僕の生活にrockが同居するようになった。
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また次のお話しでお会いしましょう。




