born to be wild
「よう、少年。ずいぶん男前だな?」
そう声をかけてくる黒ずくめ、高身長のやばそうな、それでいて目が優しい人。
「あ、いや、何でもないです。大丈夫です」
僕はあわてて目をそらしてうつむいた。
両親とは違うけど、この人にカッコ悪いところを見せたくないと思った。
「ん?そのまま家に帰るのかい?」
早く立ち去ろうと一歩進みだそうとした僕に声がかかる。
今日は蹴り飛ばされたときに顔をぶつけて少し黒くなってた。母さんが見たらどう思うだろう?体育でボールがぶつかったって言えば大丈夫かな?
「まぁ、ちょいと寄ってきなよ。まだ始まる前だからさ」
そう言うと返事も待たずに階段を降り始める黒ずくめ。
僕はなぜか分からないが、その人について行くことにした。
階段脇の壁にはライブの告知、バンドメンバー募集の短冊。
そのころバンドメンバーを募集するときはチラシの下に切り込みを入れて短冊みたいにして電話番号と名前が書いてあった。チラシを見て興味がある人は短冊みたいになってる知多の切込みを一枚ちぎって持って帰るのだ。今ならSNSなんだろうな。
「ライブハウスは初めてかい?」
黙ってうなずく。ここ、ライブハウスなんだ。
なんとなく大人っぽくって、少しドキドキした。
階段を下りてる途中からバンドの音が漏れてきていた。
「今はリハーサル中だけど気にしなくていいから」
そういって黒ずくめの人はドアを開けた。
爆音、タバコと汗と何かが混ざった異臭。
圧倒されて、怖気づいた。
人のまばらな店の中を奥のカウンターに向かって黒ずくめの人が歩いていく。
僕は必死に後を追いかけた。
まだ店の中は明るかったのに、離れたら迷子になるかのような不安感があった。
「オーナー、この子に何か出してあげて。あと救急箱借りるよ。ここに座ってな」
黒ずくめの人はカウンターの椅子に座るように僕に手招きした。
「コーラでいいか?」
オーナーと呼ばれた坊主頭のがっちりした怖めのおじさんに聞かれた。
「はい」
ありがとうございますと言っていいのかも分からず。いくらなんだろうと財布の中身を気にした。
「金は気にすんな。佑二のオゴリだ」
黒ずくめの人、佑二さんをチラ見しながらオーナーが言った。
「ありがとうございます」
オーナーはうなずきながらコーラを出してくれた。
何を話していいのか分からず、なんとなく気まずい思いをしていると佑二さんが戻ってきた。
「どれ、顔に湿布でも貼っとくか」
救急箱を開けながら佑二さんが言う。
ステージでリハーサルしていたバンドが会場の後ろで何か調整している人に向かって
「ありがとうございました。よろしくお願いします」と
挨拶してステージから撤収していく。
後ろで何か調整している人を見ていると佑二さんが音響と照明の人だと教えてくれた。
「俺たちはみんなに支えられて演奏できるんだ」
笑顔で、少し自慢げに佑二さんが言う。
「佑二、準備はじめろ」
オーナーが佑二さんに声をかける。
「あいよ。少年、時間あるなら少し見てきなよ。コーラもまだあるだろ?」
そういいながら自分のバンドのメンバーに声がけして佑二さんは準備をはじめる。
佑二さんはギター弾きながら歌うみたいだ。
ステージの真ん中にギターを持って立った。
ギター、ベースから伸びたシールドケーブルがアンプに刺さる。
ドラムの人が機材を組み立て、音を出しながら位置を調整している。
ギター、ベースがチューニングを始めて、バスドラムの穴にマイクを出し入れしながら調整していく。
「ギター、ベースは今日も音色は一つだけでOK?」
音響を調整している人、PAさんが問いかける。
普通はギターとかベースの人は足元に置いたエフェクターという音色を変える機械を使うらしい。
佑二さんも何年か経ってから使い始めたが、この時は使ってなかった。
PAさんとの確認は進んで行く。
一通り終わったのかな?と思っているとドラムの人がカウントを始める。
「one、two・・・」
ドカン
他に言葉がない。一つ前のバンドの演奏にも驚いたけど。
そういうんじゃなかった。音の塊でぶん殴られたような。
音が爆発して吹き飛ばされそうな感覚。
佑二さんはマイクに向かって吠えていた。
いや、普通は歌ってたになるんだろうけど、それより吠えてたの方が近いと思った。
「どうだ、スゲェだろ」
さっきまで怖い顔してたオーナーがニヤニヤしながら言った。
僕は言葉もなくてただ何度もうなずいた。
「上手く弾く奴はいる。カッコいい奴も器用な奴も上手くまとめる奴もいる」
オーナーは少し自慢げに続ける。
「でもな、ただただスゲェしか出てこない奴はそんなに多くない」
何を言われているのかよく分からなかったけど、ステージの上の佑二さんは確かに凄かった。
僕はあの日、rock ‘n’ rollに出会ったんだ。
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