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ママ

 格納庫の扉が開いた。


 ミカンを背負ってここまでやってきた一坂。

 傷は塞がったが、それでも完治したわけではない。

 もう戦える状態ではないが、この船の船員達は自分たちのボスの敗北を悟ったからか、意外にあっさり道を明け渡した。


 通り過ぎる船員たちに向かって、「ばいばーい」と元気に手を振るミカンに、なぜか全員が別れを惜しむように手を振り返している光景は実にシュールだった。

 どゆこと?


「紅の君! こちらですわ!」


 脱出用の軽宇宙船から顔を出したマジェンダが手招きする。


「悪いな」

「いえ! 貴方様もお嬢様もご無事でなによりですわ!」


 マジェンダがどれだけ過去の一坂を崇拝しているのかは知らないが、こんな扱いは慣れていないし柄ではないので、本人としてはやめてほしいのだが……ま、いいや。


「それじゃあチキュー星に向けて、ぐんばちんぐでれっつらごー!」

「「イェイイェーイ!」」


 マジェンダの号令で、ウェイローとジアングもノリノリ。


「いぇーい」


 ミカンもした。

 またしょうもないこと覚えちまった……。


 一坂の気苦労をよそに、軽宇宙船がハイテンションで宇宙空間へ飛びだす。


「ちょっとまってなノーネ。えーっとチキュー星の方角はっと、チョチョイのチョイ………アラ~」

「どうしたんだいウェイロー?」


 狭い運転席でハンドルを握るウェイローに、助手席に座るマジェンダが訝し気に訊ねた。


「この辺りの宙域は小惑星やデブリが多すぎるノーネ。これじゃあ障害物が多すぎてワープできないノーネ」

「どうにかならないでガッツか?」


 一番後ろの荷台スペースからジアングが身を乗り出した。


「どうにもならないのボンジョレビーノ。仕方ない。迂回していくしかないノーネ」


 マジェンダが両手を広げた横で、ウェイローがハンドルを切った時だった。


 巨大な宇宙船が接近していた。

 たった今、出てきた宇宙海賊トライタン・パーティの船だった。

 その主砲が、小さな軽宇宙船に向く。

 なんの心変わりか、どうやら生かして返す気が無くなったらしい。


「ひー、あんなの食らったら私らは宇宙の藻屑だよ!」

「ウェイロー! ワープでガッツ!」

「だーからこの宙域じゃリームーなノーネ!」


 慌てふためく三人組。

 狭い船内がどったんばったん揺れた。


「やっぱ《《無責任》》だったか」


 後部座席に座っていた一坂が嘆くように息を吐く。

 

「紅の君?」


 三人が疑問符を浮かべても、一坂からの反応はない。

 隣で軽宇宙船に殺意を向ける、おっきな乗り物へ目を輝かせているミカンの頭にそっと手を伸ばし、


「よし」


 ずっとポケットに入れっぱなしだった、大きな赤いリボンをつけた。

 アパートで気を失う直前、一坂は床に落ちていたそれを無意識に掴んでいたのだ。


(うん。やっぱり俺が選んだだけあってよく似合ってる)


 一坂は満足げにおめかしされたミカンのつやつやの金髪を優しく撫でた。


「えへ~」


 ミカンはくすぐったそうな笑みを浮かべた。

 一坂は、自分の手にある太陽のような輝きに目を細めながら、


「ワープの準備を頼む」


 ハンドルを握るウェイローに、そう言った。


「なに言ってるノーネ!? ワープしようにもここは―――」

「道なら作る」


 一坂は驚く三人に見守られながら、両手をミカンの肩に乗せ、真正面から向き合った。

 その目がまるでその姿を焼き付けるように細められる。


「ミカン。例のアレ、撃てるか?」

「パパ……」


 その意味が伝わったのか、ミカンの表情が途端に不安そうになる。

 だが、そんな愛娘を励ますように、一坂は優しく囁いた。


「大丈夫。〝ママ〟がついてるさ」





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※数ある作品の中からこの作品を読んでくださり、本当にありがとうございます。

 少しでもいいな、と思っていただけたなら、応援していただけるとものすごく励みになります!

                              おきな

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