回る笑い声
床が閉じ、あれだけ散らかっていた宴会場が、一気に殺風景なものとなった。
一坂は随分歩きやすくなった会場を進み、フラフラになりながらステージに上がった。根性!
「ほんっと起きねーな……」
あれだけの騒動にも関わらず爆睡する我が子に半ば呆れてしまう。
まあ、あんなキモグロ生物を見てトラウマにでもなられても困し、モンスターパニック映画を見るたびに泣き叫ばれてはこっちの身がもたない。
「おいミカン、起きろー」
ちょっと可哀そうだがぷにぷにほっぺを軽く叩く。
起きた。
「パパ、おはや~」
「……ああ、おはよーさん」
向けられた呑気な笑顔にようやく安堵し。
そして、込み上げてくるものがある。
「ミカン」
一坂はそっと彼女を抱きしめようと、
ガンッ。
箱にぶつかった。
そういえばまだ真っ二つだった。
「パパみてて」
「………………………」
一坂は何とも言えない表情で、ミカンの体を収めた二つの箱をくっつけた。
「じゃーん!」
箱から飛び出したミカンが両手を広げ、無事であることを元気にアピールする。
「………………………」
一坂は何とも言えない表情。
「むー」
ミカンはマナーのなってないオーディエンスにちょっぴりご機嫌斜めさん。
凶悪な尻尾が、シャキン! と飛び出した。
「ビューリファオッ! マァーンヌベラスッ! ワァーオワァーオ、ウッハッ!」
「えへ~(どや)」
なんか、さっきの死闘が目じゃないくらい、どっと疲れた。
「? パパ!?」
ミカンが血相変えて寄り添ってきた。
「パパ……イタイ?」
……ああ。こんな重症見たら、そんな顔にもなるわな。
「たいしたこたぁねーよ。ほれ、ち、か、ら、こ、ぶ~」
ピュー(血)。
やっぱ治してもらうことにした。
「もー」
ミカンはぷりぷり怒りながら、能力を使って一坂の体の傷を癒した。
特に酷い右肩は完全治癒するには彼女の体力消耗が激しいと思われたので、傷口を塞ぐに留めさせた。
少し不満そうだったが、無理はさせたくなかった。
「あぅ……」
一坂は貧血のようによろめいたミカンを支えた。
「ありがとな。でも、やりすぎるなって言ったろ」
「いーの」
まだぷりぷり怒っている。
苺のように赤いほっぺを、ぷーと膨らませた。
「…………………………………」
一坂はそんな我が子の横顔に目を細める。
そして、
「ミカン」
「?」
「大好きだぞ」
「!」
一坂の口から自然と漏れ出た。
やっと言えた。
ずっと言いたかった、その言葉。
親として、もっと早く伝えなくてはいけなかった、この想い。
実際口にすると、もの凄くくすぐったくて、でも温かい感情が溢れてきて。
どうにも心地よい。
「愛してるぞ」
「!!」
ミカンにもこのむず痒さが伝わったらしい。
さすがにストレートに言われたら照れるようで、ほっぺをポッポさせている。
ざまあみろ。こっちも顔が熱いぜ。
「大好きだぞミカン! 愛しってまああああああす!!(やけくそ)」
調子に乗って高い高いしてクルクル回る。
「きゃははははー」
ご機嫌に笑い声も回った。
しかしなんだね。小さい子ならともかく、ミカンだとすぐに腕が疲れるね。
ジャイアントスイングにした。
「キャハハハハハハハハハ――――――――――――っ!」
超ご機嫌。スパッツでよかったね。
広い宴会場で回るミカンの元気な笑い声。
本当は涙の感動とかあってもいいな、とか思っていた一坂だが、もうどうでもいい。
ミカンがこうして笑っている。
それだけで、もうどうでもよかった。




