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 * おまけ *


「あかりー、寒くなかった?」

「さぶい。」

「あはは。」


そう笑いながらも薫ちゃんは、あたしの右手を取って繋いで制服のブレザーの中に一緒に収めた。

まだまだ慣れないでいる、こんなカタチ。

「ん?」

薫ちゃんがあたしを見下ろして「どうかした?」って聞く。

マフラーに顔を埋めてあたしは首を横に振った。


薫ちゃんとカレシ・カノジョと云う関係になったのは、つい先日の事。


想いが通じて嬉しかった。

でも、昨日までは友達、今日からは恋人、その境界線が滲んでて変化を上手く取り込めないでいるあたし。


薫ちゃんをずっと異性として意識してきたのはあたしの方なのに、気後れしてる自分に吃驚してる。

『ついさっき気付いた』と言っても過言ではない薫ちゃんの”あたしへの好き”。

なのに、薫ちゃんの方が世間一般的に『彼氏』を全うしている。


「手を繋ぎたい」と申し出て手を繋ぎ、今まではそんな事言わなかったのに「部活、終わるまで待ってて」と言い、あたしとの下校を望んでくれてる。


幸せ。

ただ、それに尽きる。


でも、手に入れてしまったから、怖くなる。



「ねぇ、あかり?」


マイナス思考中のあたしは薫ちゃんに名前を呼ばれて、彼を見上げた。


「もう直ぐバレンタインじゃん。何か食べたいチョコとかお菓子とかある?」

「へっ?!」

「んー、何か俺がね、あかりにね、何かしたいと思って。」

薫ちゃんが右手で頭をぽりぽりと掻いた。

「え、あ、でも・・・。あたしもチョコ、薫ちゃんに毎年あげてるし。」

そう、毎年毎年『これ美味しいらしいぞ』と言って渡し続けた、本命のチョコレート。

「そうなんだけど、俺も何かしたいから。」

白い歯が形の良い唇から見えた。


「じゃぁ又、明日学校でな?」

彼の手があたしから離れていった。


きゅっと胸の奥が寂しくなる。

”別れ”じゃないのに、触れ合った体温が消えて行くのはどうしてこんなに寂しく感じるんだろう。


あたしは何時までも薫ちゃんの背中を見送っていた。





「あかり、東が休みだからお前が日直って。」

委員長があたしの机の上に紺色のカバーの日誌を置いた。

「あ、ありがと。」


委員長は、今まで通りにあたしに接してくれる。

「なぁあかり? 顔が暗い。両想いになった人間がする顔じゃない。」

「ひどっ。」

あたしは開きかけた日誌を閉じた。

「酷いのはどっちだっつーの。池内はさ、今、幸せで仕方ないんだよ。純粋を絵に描いた様な

 男だから、なんつーの、真っ向勝負ってゆーか、真っ直ぐ過ぎっつーか?」

委員長が両手を合わせて自分の胸元から、あたしの方へ向け伸ばしてきた。

「幸せでタマンナイ男と、幸せが壊れるのが怖い女。違う?」

「違わない。」

「うん。だったらさ、ちゃんと口にして池内に言うべきじゃない?」

「何てっ。幸せ過ぎて怖いのって言えって言うの?」

委員長が掌に顎を乗せ、机に肘を立てる。

「あのさ、俺ね、あかりに振られた男なんだよね? なのにね、アイツは俺にね、

 『あかりが変。俺、何か間違ってる?』って相談してくる訳。」

「く薫ちゃんが?」

「アイツだって、恋愛初めてなんだから、不安にもなるでしょ。あかりさ、前向きな人間に

 対して、後ろ向きってすっげー失礼な事だと思うよ。池内は、あかりとこの先も永く

 一緒に居ることしか頭に無いんだからさ。」


永く、あたしと一緒に?


「もー勘弁してよねぇ。」

委員長はそう言いながらも笑って、あたしの頭を一撫でした。



前向きな薫ちゃん、後ろ向きなあたし。

・・・背中合わせは、寂しいよ。

同じ様にこの先をずっと見てたい。





   ***



月曜日のバレンタインデー。

ちょっとそわそわしながら、薫ちゃんの部活終わりを待つ。


野球をしてる薫ちゃんはキラキラだ。

白球を追うその姿、ずっと昔から変わってない。


高鳴る。


薫ちゃんを見てるだけで、あたしの心は鼓動を速める。

好きだな、キラキラの薫ちゃん、大好きだな。


その薫ちゃんと手を繋ぎたいから、手袋は家に置いて来る。


冷たい空気に晒された手が凍えて、あたしは「はぁ」と息を吹きかけた。

白い息が指に纏わりついた。


バッグの中の手作りしたチョコレート、今か今かと出番を待ってる。



「あかりー、寒くなかった?」

何時もの様に薫ちゃんは現れた。

あたしは、グラウンドを見渡せるこの場所で、チョコレートを取り出し差し出した。


「薫ちゃん、ずっと好き。大好き、だから、これからも宜しくね?」

真っ赤な包装紙の贈り物。

「あ、え、あ、ん、ありが・・と・・・。」


面と向かって気持ちを伝えるのは、これが初めてだった。

あたし、真っ直ぐ薫ちゃんに向き合う。

じゃないと、薫ちゃんの背中さえ追いかける事が出来ない。


薫ちゃんがチョコレートの包みから顔を上げ、鼻も頬も真っ赤にして言った。


「あかり、キスしたい。」





薫ちゃん、


君って人は本当に真っ直ぐな人だね?







   * おまけ・おわり *








「瞬きもせず」 いかがだったでしょうか。


自分で言うのもナンですが・・・心がすーっっと浄化された感じです(笑)。

ムーンライトさんで書かせて頂いてる連載物が行き詰まっておりましたが

昨日辺りから、ちょっとずつそちらを執筆再開しています。

マダマダですけど。



何か心に残るフレーズがあれば、幸いでございまし。



椎葉碧生。

2011.2.10




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