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自衛隊員サバイバル日記改  作者: kero


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王都帰還編―参謀の敗北、あるいは絶対の軛

「……おいおい、偉い人の考えることはいつの時代も、どの世界でも陰険極まりないねぇ」 王都へ帰還した山田太郎は、王城の豪華な客室で、支給された最高級のお茶をすすりながら、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。 


ドワーフの国から戻った太郎の目的はただ一つ。この世界に自分が迷い込んだ『神隠し』の正体を突き止め、元の世界へ帰る方法を探すことだ。

博学な太郎の推測では、その手がかりはこの国の最高機密が眠る『王家の地下書庫(禁忌の文献庫)』にある可能性が極めて高かった。 

当然、そんな国家の心臓部へ素性も知れぬ異邦人が入れるはずがない。

だが、現在の太郎には、ドワーフの最強を倒し?燃料の安定確保の道を切り開いた『国家最高名誉顧問』という絶大な肩書きがある。 


しかし、玉座の間で国王が提示した条件は、太郎の胃を真横から抉るものだった。

山田太郎よ。

王家の地下書庫へ入ることを許可しよう。

……ただし、それは貴様が我が娘、シャルロットの『正式な婚約者』としての立場を受け入れるならば、だ。

ドワーフの国で、すでに我が娘に『守り刀』を捧げて愛を誓ったのだろう? ならば何も問題はあるまい」「いやいやいや、陛下! あれは、その、あそこの文化を知らない私のうっかりと言いますか、故郷の戒律もありまして、元の世界へ帰る方法が見つかるまでは婚前交渉は一切なしという条件での、いわば仮初めの――」 太郎は冷や汗を流しながら要領よく言い訳を並べ立てたが、国王はガハハと豪快に笑うだけだった。「よいではないか、書庫を探すだけなら『婚前交渉』にはあたるまい! 立場だけでよいのだ、立場だけでな!」 渋る太郎だったが、帰還の手がかりを前にして背に腹は変えられない。

「立場を認める(書類上の婚約者になる)だけなら、帰り道が見つかった瞬間に高機動車で逃げ切ればいい」と、お得意のグレーゾーン思考でしぶしぶ了承してしまった。


これが、すべての間違いだった。 

謁見が終わり、書庫へ向かおうとする太郎の前に、今度は白髪の老宰相が音もなく現れた。


山田殿、地下書庫へ向かわれる前に、一つ手続きを。

あそこには過去の禁忌の文献や、呪われた魔導書が多数眠っております。生身の人間がそのまま入れば、精神を汚染されかねません。


そこで、教会から『聖なるバリア(精神防護)』の護符を授かるようにと、陛下からの仰せでございます」


「あー……なるほど。精神防護のバリアですか。

守り刀の件もあったし、この世界のダンジョン攻略のルールみたいなもんか。

分かりました、受けましょう」 近代科学の知識を持つ太郎だが、この世界は魔法やなんといっても姫様のような地球の常識や科学が通用しない存在がいるのだ、呪いといったオカルト的な危険性は嫌というほど理解出来る。


合理的な判断として、太郎はその提案を素直に受け入れた。

「案内役として、シャルロット姫様も一緒にバリアの術式を受けていただきます」


「ハイハイ、了解ですよ」 太郎が宰相に連れられて教会の奥座敷へと向かった。


その頃。 

玉座の間では、国王陛下が老宰相の残していった書状を見つめながら、声を殺して大爆笑していた。

はっはっは! 見事だ、宰相! 実に手際が良い! あやつ、科学の知恵は回るが、我が国の教会の『伝統儀式』については完全に無知だからな! よくやった、これで二人は『死がふたりを分かつまで一緒』だ。

もう絶対に逃がさんぞ! わっはははは。

国王と、裏で連絡を取り合う宰相は、完璧な笑顔で勝利のハイタッチを交わしていた。 


そう、太郎の「帰り道が見つかったらスタコラサッサと逃げてやる」という『参謀計画』は、この時点で国家と教会の共同外堀埋め立て作戦によって、跡形もなく粉砕されていたのだ。 


* 


教会の最奥、ステンドグラスから微かな光が差し込む厳かな一室。

 

太郎が一瞬、「何か罠があるんじゃないか」と周囲を疑心暗鬼の目で見回した。


歴戦の士官としての直感が微かに警鐘を鳴らしていた。

だが、目の前の祭壇にいたのは、背中の丸まった、今にも消え入りそうな年老いた巫女がたった一人だけだった。

周囲に伏兵の気配もない。

(……考えすぎか!年寄りが一人いるだけだし、バリアをかけてもらうだけだしな) 


太郎の警戒心が、ようやく緩む。


「では……そこの男女よ。互いに片手を繋ぎ、祭壇の前へ」 老巫女が、しわがれた声で告げた。 


太郎の隣で、いつもは暴走機関車のようなシャルロット姫様が、なぜか見たこともないほど緊張した面持ちで、ぶるぶると震えながら太郎の左手を握ってきた。


130センチの小さな手、しかし衣服を破らんばかりの巨乳が太郎の腕にピタリと当たり、ミシミシと心地よい(?)圧迫感が伝わってくる。

「はいはい、手を繋げばいいんですね」 太郎が言われるままに右手を差し出し、二人の手が重なった、その瞬間。 


老巫女が、恐ろしいほどの流暢さで未知の神聖言語の祝詞を詠唱し始めた。


それと同時に、二人の繋いだ手から、眩いばかりの『黄金の光の鎖』が飛び出し、太郎と姫様の腕をぐるぐると巻き付け、そのまま皮膚の下へと吸い込まれるように消えていった。


「――え?」 


太郎が目を見開いた、その次の瞬間だった。 


隣にいたシャルロット姫様が、突然その場にヘナヘナと泣き崩れたのだ。


大粒の涙をボロボロと流し、胸に抱いた銃剣を ぎゅっと 握りしめながら、言葉にならない歓喜の声を上げている。


「あ、あああ……! 太郎様……! ついに、ついに私は……!」


「え? ちょ、姫様? なんで泣いてるの? バリアが痛かったの?」 


意味が分からず、太郎が呆然と立ち尽くしていると、


部屋の壁だと思われていた隠し扉が、一斉に左右へと開いた。 

中から現れたのは、きらびやかな法衣に身を包んだ教会の高位神官たちと、なぜか満面の笑みを浮かべた楽器隊の集団だった。彼らは一斉に、華やかな結婚行進曲を大音量で奏で始めたのだ。


「山田太郎殿、シャルロット王女殿下! おめでとうございます! 今、お二人の魂は教会の最高神術により、完全に一つへと結ばれました! 神の祝福があらんことを!」「神の祝福……? 魂が一つ……?」 太郎の脳細胞が、凄まじい速度で過去のラノベの知識と、この世界ならあり得ることを推測し検索し――そして、最悪の答えに到達した。


(――これ、バリアの護符(プロテクション)じゃねえ……!!! 教会の『不可逆の婚姻契約の呪い(エンゲージ)』だ!!!) 


この世界において、教会の祭壇で老巫女の立ち会いのもと、男女が手を繋いで黄金の鎖の光を浴びる行為は、国家法すら超越する『絶対的な結婚の儀式』だったのだ。一度この術式が完了すれば、世界のどこに行こうが、たとえ世界を渡ろうが、二人の魂の繋がりは消えない。死が二人を分かつまで、物理的にも霊的にも絶対に離婚不可能な、究極の軛(くびき)である。


「だ、騙したなァァァ!!! おのれぇぇぇ!!!」 太郎は叫んだ。


さすがの「参謀」も、この完璧なハメ技には完全に裏をかかれた。


「こんな結婚認めっか! 俺は逃げるぞ! 高機動車で今すぐ国境を越えて――」 


太郎が脱兎のごとく部屋の出口へ向かって地を蹴ろうとした、その瞬間。 ガシィッ!!! と、背後から凄まじい衝撃が太郎の襟首を捉えた。


「――どこへ行く気じゃ、新郎殿」 声を掛けたのは、さっきまで今にも死にそうに背中を丸めていた、あの年老いた巫女だった。 

老婆は片手で太郎の服の襟を掴んだまま、まるで大木が地面に根を張ったかのように微動だにしない。

太郎がどれだけ足をバタつかせようが、自衛隊で鍛えた叩き上げの力

(この世界では10歳児並み)では、ピクリとも動かすことができなかった。

異世界の超人スペックは、老人であっても容赦がない。


「くそっ! 離せ! 離し――」 血迷った太郎は、ついに最終アドバンテージである腰の後ろの『9mm拳銃』へと右手を伸ばそうとした。


何だか分からない未知の武器で威嚇し、この絶対の包囲網を突破するしかない――。 だが、プロの自衛官がその牙を剥くよりも早く、


別の『本物の怪物』が動いた。「太郎様ぁぁぁ!!! もう絶対に離しませんわぁぁぁ!!! 一生一緒ですぅぅぅ!!!」 嬉しさのあまり脳のブレーキが完全に吹き飛んだシャルロット姫様が、涙と鼻水を流しながら、弾丸のような速度で太郎の正面へと飛びかかってきた。


異世界最強のロリ巨乳王女による、愛のフルパイルドライバーである。


「あ、これ、やば――」 太郎の視界に、衣服を突き破らんばかりの圧倒的な巨乳と、幸せに満ち溢れた姫様の顔が迫ったのを最後に、太郎の意識は強烈な衝撃と共に、深い闇へと叩き落とされたのだった。


*


「……う、ううおっ」 どれほどの時間が経っただろうか。

太郎は、激しい頭痛と、胸元を襲う異常な重苦しさ、そして何よりも『尋常ではない柔らかい肉の感触』と共に目を覚ました。 

視界がゆっくりと開ける。


そこは教会の奥座敷ではなく、王城の、見覚えのある客室の豪華なベッドの上だった。 

そして、太郎の上半身には、薄手のドレスを着たシャルロット姫様が、まるで宝物にすがりつくかのように【完全に覆いかぶさって】スヤスヤと眠っていた。 

その愛らしい幼なさの残った顔には、まだびっしょりと泣いた跡が残っている。

彼女の手には、太郎がプレゼントしたあの『89式多用途銃剣』が、今も大事そうに握りしめられていた。

衣服越しに伝わる、豊満すぎる胸の鼓動と柔らかさ。

手を出せば男冥利に尽きるシチュエーションだ。


だが、太郎の心にあるのは、性欲ではなく、深い深い溜息だった。 

ふと、その泣き顔を見つめているうちに、四十歳の太郎の胸中に、

どこか自分の娘か子供を見るような、父親のような切ない気持ちが湧き上がってきた。

そういえば、昔、プリンセスメーカーってゲームソフトをやったな!

なんか娘に見えてきた……


「……まぁ、可愛いのは可愛いんだけどさぁ。やり方が強引すぎるんだよ、お姫様」 太郎は苦笑いしながら、そっと右手を伸ばし、姫様の美しい金髪の頭を、優しく、慈しむように撫でてやった。

姫様は夢見心地に「ふにゃ……」と声を上げ、さらに太郎の胸へと深く顔を埋めてくる。 

その、あまりにも絵になる、実の親子か睦まじい新婚夫婦のような光景の最中だった。 コンコン、というノックの音すらなく、部屋の重厚な扉が勢いよく跳ね開けられた。


「太郎! 気がついたか! 良かったな、本当によかったなぁ!!!」 


大音量で部屋に突入してきたのは、ガラム辺境伯・アルベルトだった。

老将軍はベッドの上の二人の様子を見るなり、これ以上ないほど嬉しそうに、孫の結婚式を終えた好々爺のような顔で叫んだ。 

さらに、辺境伯の後ろから、ぞろぞろと見覚えのある顔ぶれが部屋へと入ってくる。


「おお、山田殿! 目が覚めたか! 教会の儀式が嬉しすぎて気絶するなど、よほど我が娘を愛してくれていたのだな! 素晴らしい!」 満足度一二〇パーセントの笑顔の国王陛下。

「おめでとうございます、山田殿。これで貴方も、名実ともに我が王家の一員ですわ」 ホクホク顔の王妃の奥方。 

その背後では、老宰相が「計画通り」と言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべて眼鏡の奥の目を光らせていた。 


ベッドの上で、姫様を乗せたまま完全に『固まる』山田太郎。 

周囲を見渡せば、味方だと思っていた辺境伯も、国王も、王妃も、全員が「外堀を完璧に埋め立て、コンクリートで固め終えた」という、圧倒的な勝利の笑顔を浮かべていた。


(……終わった。完全にチェックメイトだ、これ) 


チート能力はなく、肉体スペックは最弱。 

現代兵器のアドバンテージを隠匿し、要領の良さとハッタリだけで世間を泳いできた四十歳の中年男、山田太郎。


しかし、異世界の国家権力と最強のロリ巨乳姫様の『愛の包囲網』の前には、自衛隊の戦術も、近代科学の知識も、何一つ通用しなかった。 


地球への帰り道を探すはずの王都帰還編。

その第一歩目は、まさかの「強制結婚」という、太郎の人生最大の完全敗北(?)から、あまりにも賑やかに幕を開けるのだった。

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