↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自衛隊員サバイバル日記改  作者: kero


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/60

令嬢のやらかしと逃避行

破壊神の「無一文」ショッピング

神聖シャルロット帝国の最高権力者、魔王・太郎。彼の命の灯火(バイタル)を維持し、確実に帝国に後継者を残すための国家最高機密プロジェクトとして、急遽策定された『シャルロット姫様に対する、絶対厳守の保険体育の授業(性教育)』。


だが、帝国王宮のハイテクICUの隣にある特設教室にて行われたその授業は、性教育という段階にすらたどり着けなかった。


講師を務めるエルフの女性治療長と地球の医師団の前に座った、18歳になったばかりの美しい第一夫人――シャルロット姫様は、首を傾げて小首を傾げていた。


「……? 赤ちゃんが生まれる仕組みは、分かりましたわ。要するに、太郎様とベッドの上が激しい戦場(夜戦)になれば良いのですわね。


それはそれとして、先ほど先生が仰った『コンドームの購入資金』という言葉が気になります。……『コウニュウシキン』とは、なんですの?」



教室に、重苦しい沈黙が広がった。


エルフの治療長が、恐る恐る挙手をする。

「……姫様。もしかして、幼少期から王宮で純粋培養に近い形で育てられたせいで、基本的な一般常識……例えば、【お買い物には、お金という対価が必要である】ということを、ご存知ないのですか?」


「え? お買い物にお金? 必要ありませんわよ?」

シャルロットは、衣服を破らんばかりの巨乳を誇らしげに張り、大真面目な顔で言い放った。


「基本、私の生活に必要なものは、専属のメイドたちがすべて用意してくれていましたわ。欲しい物があれば、メイドに『あれが欲しいですわ』と伝えれば貰えました。そこまでは普通のことでしょう?」


「え、ええ。王族の生活なら、そこまでは理解できます。……じゃあ、この前の『旧・虎の獣人星での放し飼いショッピング』の時は、どうしたんですか?」

 地球の医師が、冷や汗を流しながら尋ねる。


「欲しい物を店主に伝えて、【そのまま笑顔で貰って来ましたわ】❤」


 ガシャァァァン!!!

教室のガラス越しの監視モニターの部屋から、太郎が腰から砕け落ちて床に崩れ落ちる音が鳴り響いた。

太郎は、若返ったイケメンの顔を青ざめさせ、ガタガタと震えていた。

あの時、虎族の住民たちが泡を吹いて卒倒し、逃げ惑っていたのは、ただ単に『死神が歩いているから』という恐怖だけではなかったのだ。

世界を滅ぼせるレベルの化け物が、無表情、あるいは満面の笑みで店に現れ、「これ、貰っていきますわね」と無一文で商品を強奪していくという、国家規模の『最強(カツアゲ)』が行われていたのである。

逆らえるわけがなかった。


「……教育の、見直しだ。性教育の前に、この子に小学校低学年レベルの社会常識を叩き込まないと、新帝国の倫理面が崩壊する……っそんなんで子供が育てられるか! バカヤロー」


床に這いつくばったまま、太郎は涙ながらに叫んだ。

こうして、姫様に対する新たな一般常識教育プログラムが決定。

教師として、旅の最初期からの付き合いである、エルフの治療長、ドワーフのメカニック、そして精神年齢が最も近いレオ(11歳になった人族の男の子。姫様にとっては可愛い甥にあたる)の3人が選出され、破壊神への「はじめてのおつかい(道徳編)」がスタートすることになった。


地球製強壮剤のケミストリーと、絶対の禁句

だが、その教育プログラムの裏で、帝国王宮の医療部門には、地球(日本)からのとんでもない補給物資が到着していた。


日本政府の一佐が送ってきた『子宝のお守り』に続き、地球の製薬会社が極秘裏に開発した最新の強壮サプリメントや、マカ、スッポンの超高濃度エキスがコンテナごと打ち上げられていたのだ。


これら地球製の強壮成分は、新帝国の医療班にとって「新たなる可能性(夜戦、サバイバル兵器)」を秘めていた。


「ギギッ! 凄いぞ! この地球の植物(マカ)と、我がゴブリンの薬草、そしてケット・シーの秘伝ポーションを最新の魔導合成機で組み合わせたら、恐るべき効能の神薬が完成したギギッ!」


ゴブリンの調合師たちが狂喜乱舞する。


そして迎えた、周替わりローテーションにおける、アリスお嬢様の夜戦(セックス)の日。 


41歳(肉体年齢20歳)になった太郎は、その新開発のハイブリッド強壮剤を医療班から処方され、寝室(ハイテクICU)のベッドに就いた。


「――っ、おお……!? なんだこれは、身体の芯からマグマのような力が湧き上がってくる……っ!」

 緋緋色金とオリハルコンの合金骨格が、内側からの爆発的な魔力と生命力によってカチカチと音を立てる。


これまでにない、底なしのやる気と全能感が太郎の五感を支配していた。

さらに、今週の相手は、あの骨を折ってくる無敵の破壊神(シャルロット)ではなく、知的な実務担当であり、普段はお上品に振る舞っている18歳のアリスお嬢様の方だったことも、太郎の気を大きくさせた。


(今の俺の超人ボディと、この神の強壮剤があれば……お嬢様相手なら、完全に主導権を握れるんじゃないか!?)


全能感に酔いしれた太郎は、夜着を身に纏い、ベッドに入ってきたアリスお嬢様のふさふさの猫耳を引き寄せ、甘く、不敵に囁いた。


それは、この過酷な異世界サバイバルにおいて、「絶対に、何があっても口にしてはならない」最大級の禁句だった。


「――アリス。覚悟しておけよ。……今日は、朝まで一歩も寝かさないからな」

「――っ……え……?❤」

ピキン、と。アリスお嬢様の頭の中で、何かが完全に弾け飛んだ。


大好きな、愛してやまない旦那様(魔王)からの、初めての、男らしい『夜の宣戦布告』。


その瞬間、アリスの中にあるケット・シー王族としての「負けず嫌いの野性」、そして半年の面会謝絶の間にシャルロットへのマウントで限界まで高まっていた「欲求不満のマグマ」が、一気に臨界点を突破して燃え上がってしまった。


「太郎様……っ! そこまで仰るなら、このアリス、我が一族の誇りと全生命を賭けて、あなたを完全に【捕食】して差し上げますわァァァーーーッッ❤❤❤」



「え、あ、いや、手加減をして――」

 ズ、ドガァァァァァン!!!!!!

一気に肉食獣の目を剥いたアリスは、パワードスーツすら着用していない生身の身体で、ドワーフの重機戦車を引き裂くという宇宙トップクラスの王族筋力を完全解放。一切の手加減なしの、狂暴極まる全力の夜戦(セックス)を太郎へと仕掛けた。

「ぎゃ、は、ぶふぉっぉぉぉぉぉおおおおおおん!!???」

太郎が調子に乗って放った禁句の代償は、あまりにも重かった。

 

アリスの超人的な四肢による締め付けは、太郎の緋緋色金合金の腰骨を一瞬でバキバキに粉砕。強壮剤の効能すら消し飛ぶほどの圧倒的な快楽と衝撃の暴力の前に、太郎は心肺停止一歩手前の、文字通り「腹上死(複情死)寸前」まで追い詰められることとなった。


「警告! 警告! 参謀殿のバイタルが完全に【死】の領域に突入! 血圧ゼロ、心停止カウントダウン開始!」

 寝室のガラスの外で、ハイテクICUの警告赤ランプが激しく回転を始める。


「おい、ゴブリンども! 突撃じゃ! 今回は姫様じゃなくてお嬢様の方じゃが、躊躇(ためら)うな!」


 廊下に待機していたドワーフのメカニックの号令と共に、エルフの治療長が、ある「物々しい武器」を抱えて寝室の扉を蹴破った。


 ガシャン!!

「お嬢様!! そこまでですわ! 離れなさい、この盛りのついたメス猫ッ!!」


 ズババババババババババババババン!!!!!!

 エルフの治療長やゴブリンの医師たちが寝室へ突入すると同時に、興奮で我を忘れて太郎を貪り続けていたアリスお嬢様に向けて、【ゴブリン製プラズマライフル銃】のエネルギー弾が容赦なく斉射された。


 このプラズマライフルは、太郎の肉体強化が完了して以降、医療班が「興奮した彼女たちを正気に戻す(ドクターストップをかける)」ために開発した、新帝国の最新兵器だった。

もちろん、宇宙トップクラスの化け物であるアリスやシャルロットには、プラズマの直撃など全く効かない。普通の人間が「冷や水をバシャリとかけられた」程度の不快感しかないのだが、その強烈な光と衝撃の余波によって、強制的に我に返らせる(ドクターストップをかける)際には、この上なく重宝する麻酔銃のような役割を果たしていた。


「ひゃぅっ!? あ、熱っ、冷たっ……!? ――あ、あら?」

 プラズマを全身に浴びて、ようやくハッと我に返ったアリス。

 彼女が視線を落とした先には、自分で仕掛けた「朝まで寝かさない大戦」の結果、腰骨を複雑骨折し、白目を剥いて泡を吹き、ピクピクと痙攣している太郎の、無残な紙細工姿(二回目)があった。


「た……太郎様……っっ!!???」

もし、医療班の突入と、プラズマ斉射によるお嬢様のドクターストップが、あと数秒でも遅れていれば。


 魔王・太郎の命は、今度こそこの宇宙から完全に消滅していたであろう、間一髪のサバイバルであった。


令嬢の涙と、第一夫人のカウンターマウント


数日後。

帝国王宮の最高機密医療カプセルの中で、太郎の腰骨の超合金フレームの再溶接と、細胞の再生手術が、医療班の徹夜の作業によって行われていた。


カプセルのガラスのすぐ目の前には、今回が初めてとも言える「自分のやらかし」に対し、顔を青ざめさせ、激しい自己嫌悪の海に溺れているアリスお嬢様の姿があった。

彼女は、太郎の身体の修復が終わるまでの数日間、帝国の内政関連の仕事もすべて放り出し、一歩も医療カプセルの前から離れようとしなかった。ふさふさの猫耳は力なくヘタレ、尻尾は床を引きずっている。


「うう、ごめんなさい、ごめんなさい太郎様……。私、シャルロット様を脳筋だなんてバカにしていたのに、自分がそれ以上の化け物になって、太郎様を殺しかけるなんて……。私、本当に不適格な妻ですわ……っ」


やがて、プシューという音と共にカプセルの扉が開き、ようやく太郎の意識が回復した。

 太郎がゆっくりと目を開けるや否や、アリスはカプセルに飛び込み、太郎の若返った胸にひたすら抱きついて、涙ながらに「ごめんなさい」を繰り返した。


「いいんですよ、アリス。俺の方こそ、調子に乗って変な禁句を言って、本当にすまなかった。お前が俺をそれだけ愛してくれているのは、よく分かったから……。ほら、もう泣かないでくれ」

太郎は苦笑し、まだ少し痛む腰をさすりながら、かつて部屋の隅で体育座りをしていたシャルロット姫様を慰めた時と全く同じように、アリスの柔らかな猫耳の間を、ひたすら優しく撫でながら慰めるのだった。


やらかした嫁が落ち込み、それを太郎がベッドの上で満身創痍になりながら慰める――これが、この新帝国の最高権力者たちの、もはや呪われた日常のセットであった。


だが、当然、この最高のお嬢様のやらかし(隙)を、絶対に納得できず、ここぞとばかりに利用しようとする人物がいた。

「――おーほほほほほ! 聞きましたわよ、泥棒猫アリス!」


バンッ!と医療室の扉を蹴破って現れたのは、学校の社会常識の授業(お金の勉強)から解放されたばかりの、第一の妻・シャルロット姫様だった。

 彼女はお顔を真っ赤に染め、衣服を破らんばかりの巨乳を揺らしながら、ベッドの上の二人に向けて、クソデカ正妻マウントを仕掛けに突入してきた。


「どの口が私を『脳筋』なんて言いましたの!? 自分で綿密な計算の元にお子を授かるんじゃありませんでしたの? 太郎様の腰の骨を木っ端微塵に砕いておいて、よくもまあそんな可愛い顔で太郎様に甘えられますこと! 正妻の座は、やはりこの私に――」


「うるさいですわね、この無一文カツアゲ破壊神様ッ!!」

 アリスが涙目を拭い、鋭い牙を剥いて言い返した。


「私は今回が【初めて】のやらかしですわ! あなたはこれまで、太郎様を何回紙細工にして、何回心臓を止めかけたと思っていらっしゃいますの!? 回数と被害総額を計算したら、あなたの方が圧倒的に有罪(化け物)ですわよ!」


「な、何ですってぇーっ!? 私は太郎様の安全装置です! 回数なんて関係ありませんわ! 太郎様、どっちが悪いか、ハッキリと言ってくださいまし!」


 二人の18歳の最強ワイフたちから、一斉に「どっちが悪いか」の判決を求められ、太郎は完全に限界を迎えた。


 アリスのやらかしで始まったこの騒動は、最終的に「どちらが過去に何回太郎を殺しかけたか」という、人類の倫理観が崩壊したレベルの回数話になり、うやむやになっていく。


 だが、アリスに言い負かされて納得のいかないモヤモヤを抱えたシャルロット姫様は、その日の夜、その行き場のないストレスと不満のエネルギーのすべてを、「なんか納得いかないモヤモヤ」として、ベッドの上の太郎へと全力でぶつける形となった。


「太郎様、なんか悔しいですから、今夜は私の愛で、あの泥棒猫の記憶を全部消し去ってあげますわぁぁん!」

「待て、シャルロット、俺の腰は、さっき再溶接が終わったばかり――ぎゃあああああああ!!!???」


ズ、ドゴォォォォォン!!!!!

寝室のICUの警告ランプが、再び超高速で回転を始める。

太郎は、アリスの週が終わった直後のシャルロットの週の初日に、連続で医療カプセル(ICU)の住人に逆戻りするという、究極の絶望を味わうのだった。


魔王の失踪、そして逃避行へ


それから、さらに一週間後。

何重もの蘇生魔法とゴブリンの細胞固定薬の乱用によって、なんとか医療カプセルから「三度目の生還」を果たした太郎は、誰もいない深夜の王宮のコンソールを、死んだような魚の目で叩いていた。


肉体は強化された。若返った。寿命も延びた。


だが、自分の周りにいる二人の超人ワイフが、嫉妬と愛欲のエネルギーで動く「宇宙最強の永久機関」である限り、自分の強化など、ただ単に『死ぬまでの耐久時間が少しだけ延びた、お買い得な紙細工』になっただけに過ぎない。

このまま帝国王宮の寝室(ICU)に居続ければ、三百年の寿命を迎える前に、間違いなく精神と肉体が粉々に消滅する。


「……もう、嫌だ」

 ポツリと、四十歳(実質四十一歳)の魔王の口から、本音の呟きが漏れた。


 自衛隊の過酷なサバイバル訓練をすべて乗り越え、宇宙の魔王として大艦隊を脅迫してきた男の心が、『二人の妻の夜戦』という名の寝室地獄によって、ついに完全にポッキリと折れた瞬間だった。

「さんぼう……? こんな夜中に、何してるの?」

 背後から、眠そうに目をこすりながら、11歳になった人族の男の子・レオが歩いてきた。


太郎はゆっくりと振り返り、最古参の仲間であり、この地獄の陣営の唯一の良心である少年の肩に、そっと両手を置いた。その目は、かつてないほどに真剣だった。

「――レオ。サバイバルの基本の第一条を、覚えているか」

「え……? うん。『勝てない敵からは、全速力で逃げろ』だよ?」

「そうだ。……俺は今から、第一条を実行する。お前も一緒に来い、肉壁(盾)としてな」


「ええぇぇぇーーーっっ!? また僕、おねえちゃんたちの盾にされるのぉーっっ!?」

 深夜のドックから、一台の、神聖シャルロット帝国の紋章を完全に隠した、小さな隠密高速偵察艇が、音もなく宇宙空間へと滑り出していった。

 乗っているのは、二人の最強ワイフと大病院(ICU)から命がけで脱走した魔王・太郎と、再び肉壁として拉致された哀れな少年レオの二人だけ。

 かくして、全宇宙を支配する巨大帝国の最高権力者による、前代未聞の『魔王の寝室脱出(逃避行)作戦』の幕が、静かに、しかし必死の覚悟で上がるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。