帝国の建国と魔王誕生
「待っ、突撃してくるな! ここはブリッジ、ぎゃあああああああ!?」
ドゴォォォン!!!と、最新鋭戦艦の強固な防壁すら一撃で粉砕しかねない、愛のフルパワーによる超重量級の「甘え(タックル)」が太郎の腹部に炸裂した。
反破壊神同盟の大艦隊を前に、哀れ四十歳の参謀・太郎は、全宇宙の運命を決める決戦の前に、17歳の最強ワイフによる容赦なき全力の甘えによって、再び生死の境をさまよう羽目になるのだった。
(……だ、誰か、自衛隊のサバイバル教本に『17歳の最強の嫁から生き延びる方法』を追記してくれ……!)
あまりの衝撃に肋骨の悲鳴を聞きながら、太郎は白目を剥き、薄れゆく意識の中でただそう願うことしかできなかった。
*
「……う、頭が……」
次に太郎が目を覚ました時、視界に入ってきたのは見慣れた戦艦の無機質な天井ではなく、異国情緒あふれる、どこか猫の意匠が凝らされた見事な内装の部屋だった。
窓の外には広大な緑と、宙を舞う不思議な粒子が見える。どうやら敵大艦隊の目を盗み、隠密回廊を経て、無事に猫妖精たちの住まう星へと到着したらしい。
「あ、太郎様……! 目が覚められたのですね……!」 ベッドの脇で、大きな瞳を涙で潤ませ、今にも泣き出しそうな顔で太郎の手を両手で握りしめていたのは、シャルロット姫だった。
先ほどのブリッジでの暴走が嘘のように、おでこの赤みも引き、今はすっかり小さくなって肩を震わせている。
「ごめんなさい、ごめんなさい太郎様……! 私、また我慢ができなくなって、太郎様を殺しかけてしまって……。私、本当に悪い妻です……っ。太郎様が死んでしまったら、私、世界なんてどうでもよくなって、全部滅ぼしちゃってたところでした……っ」 ぽろぽろと大粒の涙を流して本気で落ち込む17歳の許嫁。
その言葉のスケールの大きさに背筋が寒くなりつつも、健気で愛らしい姿を見せられては、四十歳の元自衛官に怒れるはずもなかった。
太郎は苦笑し、まだ少し痛む脇腹をさすりながら、彼女の柔らかな金髪を優しく撫でた。「いいんですよ、シャルロット。俺の方こそ、作戦行動にかまけて寂しい思いをさせてすまなかった。
俺にはお前しかいないんだから、そんなに泣かないでくれ」
「太郎様……っ! だいすきですっ!」 再びぎゅっと胸に抱きついてくるシャルロットの温もりを、太郎は愛おしさを込めて受け止める。
やらかした姫様が落ち込み、それを太郎が慰める――ここまでが、もはや二人の日常における様式美であり、絶対に必要なセットだった。
そもそも、この世界においてシャルロット姫という存在は、単なる一国の王女ではない。その本質は「無敵の破壊神」であり「不老不死の怪物」そのものである。彼女の機嫌一つで星が消し飛びかねない。
世界中が彼女の圧倒的な力に怯え、呪い、あるいは利用しようと画策する中、唯一、彼女を恐怖の対象として見ず、普通の「17歳の一人の女の子」として扱い、愛してくれるのが太郎だった。
だからこそ彼女は太郎に深く、盲目なまでに依存している。
つまり太郎という中年の元自衛官の存在そのものが、世界を滅ぼさないための「唯一の安全装置」として機能しているのが、この歪で愛おしい関係性の実態だった。
しかし、その安全装置の維持活動――すなわち、若さゆえに滾る彼女の独占欲と夜のスキンシップを受け止める行為は、文字通り命がけだった。
四十歳の肉体には、破壊神の愛は重すぎるのだ。「――お騒がせしております、太郎様。点滴の準備が整いました」 部屋の扉が開き、物々しい足取りで入ってきたのは、白衣を纏った一団だった。彼らは、太郎が姫様との激しい行為や突発的な甘えによって、いつ「腹上死(複情死)」しかけても、即座に高度な治癒魔法と医術で蘇生・回復させられるよう組織された、戦艦専属の超一流治療士たちだ。ドワーフ、エルフ、ゴブリンからなる精鋭が8名。さらには、かつて太郎を婿養子に迎えようと目論んでいたアリスお嬢様と、その専属メイドたちも、表向きは「太郎殿の健康管理と治療のサポート」という名目でこの戦艦に乗り込んでいた。
「もう、シャルロット様! 太郎様は不老不死ではないのですから、もう少し手加減というものを覚えなさいな! 私が治療のサポートに入っていなければ、今頃本当に消し飛んでいましたわよ!」 ツインテールを揺らしながら怒鳴り込んできたのはアリスお嬢様だった。彼女はベッドの反対側に回ると、親の仇のようにシャルロットを睨みつける。
「な、なんですってアリス! 私は太郎様の第一の妻です! あなたのようなポッと出の泥棒猫(※注:比喩)に言われる筋合いはありません!」
「誰が猫ですか! 私は由緒正しき大商会の……っ。そもそも、太郎様の健康を脅かす第一の妻など、不適格ですわ!」「あー……二人とも、俺はもう大丈夫だから。治療士の皆さんも、いつもすまないな」 ドワーフが「まったく、人騒がせな夫婦じゃて」と髭を揺らしながら回復魔法を唱える。
じんわりと脇腹の痛みが引いていくのを感じながら、太郎は深いため息をついた。宇宙の運命を握る戦艦の内部は、常にこのような奇妙な熱気に包まれていた。
老獪なる商人の思惑
体調が回復した太郎の元に、滞在先のケットシーの星の迎賓館にて、重要な面会の予定が飛び込んできた。
相手は、アリスお嬢様の父親であり、宇宙の物流と経済の大部分を裏で牛耳る大商会長その人である。
――お初に、とは言いませんな。お久しぶりです、太郎殿。相変わらず娘のアリスが大変お世話になっているようで。
いや、毎日のように『太郎様が格好良かった』『太郎様に冷たくされた』と、迷惑な通信が届きましてね」 豪華な応接室のソファに深く腰掛けた大商会長は、老獪な商人の目をギラつかせながら、不敵に笑った。元々この男は、太郎の類稀なる軍参謀としての能力と、自衛隊仕込みのサバイバル能力、そして何より破壊神を御する手腕を高く評価し、太郎を自分の婿養子に迎えようとアリスを散々焚きつけていた過去がある。
「大商会長、お久しぶりです。アリスお嬢様には、戦艦の医療部門で大変助けられていますよ。……それで、今回はわざわざケットシーの星まで、どのようなご用件で? 我々のような『反破壊神同盟』に追われる身と接触するのは、商人としてリスクが大きいのでは?」
太郎が牽制するように切り出すと、大商会長は楽しげに肩を揺すった。
「商人というのはね、リスクが大きければ大きいほど、その先にある莫大な利益に血が沸く生き物なのです。単刀直入に申し上げましょう。我が商会は、あなた方の『対破壊神同盟』との戦いに、全力を尽くして莫大な援助をいたします。
資金、物資、最新鋭の兵器、そして我が商会が持つ独自の暗号通信網……これらすべてを、無償で提供しましょう」
太郎は目を細めた。この男がただの善意で動くはずがない。自衛隊時代、数々の交渉や訓練で培った勘が、背後にある巨大な対価を察知していた。
「無償、という言葉ほど怖いものはないですよ。条件を聞こう」「ふむ、さすがは元参謀、話が早い。条件は三つあります」
大商会長は指を一本ずつ立てながら、宇宙の命運を左右するようなとんでもない提案を口にし始めた。
「一つ、反破壊神同盟に対抗するため、この宇宙にシャルロット姫様を中心とした新たな国家、それも巨大な『帝国』を旗揚げしていただきたい。
世界の半分を味方につけるための大義名分が必要だ。国の名は『神聖シャルロット帝国』。二つ、国家樹立の暁には、この私をその帝国の『宰相』に任じ、経済と内政の全権を委ねていただきたい。
そして三つ目……」 大商会長は一度言葉を切り、太郎の目を真っ直ぐに見据えた。「我が娘アリスを、太郎殿の『第二夫人』として正式に迎えていただきたいのです」
あまりの巨額の援助と引き換えに提示された、国家規模の政治的取引、そして私的な婚姻の要求。さすがの元自衛官参謀も一瞬言葉を失った。アリスを第二夫人に、という話も含め、ここで即答するのは政治的にも感情的にも危険すぎる。
「……大商会長、破格の申し出には感謝する。
商会が味方についてくれれば、これ以上の盾はない。
だが、この話は国の象徴となるべきシャルロット姫の了承が得られてからだ。
それに、第二夫人の件についても、当事者たちの意思を無視するわけにはいかない。まずは一端、棚上げにさせてほしい」
「結構。ですが、あまり時間は残されていませんぞ、魔王包囲網の足音はすぐそこまで迫っている」
太郎は冷静に大人の対応で話をかわし、席を立った。背中に突き刺さる商会長の鋭い視線を感じながら、彼は次なる会議の場である、最新鋭戦艦のブリッジへと向かった。
喧々諤々のブリッジ、それぞれの正義
戦艦のブリッジに足を踏み入れると、そこはすでに異様な熱気に包まれていた。 大商会長からの提案は、すぐさま主要メンバーへと共有され、緊急の戦略会議が始まっていた。
席に並ぶのは、シャルロット姫をはじめ、技術責任者であるドワーフ、治療師のエルフ、そして初めからこの旅に着いて来たレオといった異世界の頼れる仲間たち。さらには、日本政府から派遣された連絡官(官僚)や、今回の遠征に同行している群集心理の専門家である「社会学者」までもが顔を揃えていた。
「『神聖シャルロット帝国』か。悪くない話だ」 口火を切ったのは、腕を組んだドワーフの棟梁だった。「大商会の資金力と物流があれば、この戦艦のフルメンテナンスだけでなく、弾薬の無限補給も可能になる。反破壊神同盟の数に押し潰される前に、こちらも一大勢力を築くのは軍事戦略上、必然の選択だて」
「ですが、あまりに急進的すぎます!」 反論したのは、日本政府の若きキャリア官僚だった。彼は眼鏡を押し上げながら、青い顔でタブレットを叩く。「日本政府としては、一民間人(元自衛官)が異世界で『帝国』の樹立に関わり、さらにそこに日本発の技術や人員が関与しているとなれば、日本側の国際政治における立場が崩壊します! 専制君主制の国家樹立に加担するなど、憲法上の観点からも、世論の反発からも、絶対に認められません!」
「官僚殿、それは地球の狭い価値観に縛られすぎというものだ」
エルフの賢者が静かに首を振る。
「この広大な宇宙、多種族が乱立する混沌とした戦況において、バラバラの勢力を一つに束ねるには、議会制民主主義などという生ぬるい制度では時間がかかりすぎる。今必要なのは、全多種族が畏怖し、従わざるを得ない絶対的な象徴――すなわち『シャルロット姫』という神格化されたカリスマを頂点に置く、絶対王政、あるいは帝国主義の形だ」
「社会学的な見地から言っても、エルフ殿の意見には一理ありますね」 これまで静観していた日本の社会学者が、興味深そうに顎をさすりながら発言した。「多種族混成の急造組織において、共通の『神話』や『恐怖と救済の象徴』を中央に据えるのは、歴史上最も効率的な国家統合の手法です。特に、シャルロット姫が持つ『破壊神』としての側面は、敵への強烈な抑止力となり、味方にとっては絶対的な安全神話となる。これを政治システムとして利用しない手はありません。
……ただし、アリスお嬢様を第二夫人にするという点については、感情的な内紛のリスクが付きまといますがね」 その言葉に、ブリッジの隅で聞き耳を立てていたアリスが、顔を真っ赤にして飛び出してきた。
「な、内紛なんておこしませんわ! 私は太郎様の第二夫人として、内助の功を尽くす所存です! 経済的なバックアップも含めて、私こそが太郎様に相応しいと証明してみせますわ!」「お黙りなさい、泥棒猫!」 すかさずシャルロットが立ち上がり、衣服を破らんばかりの巨乳を激しく揺らして応戦する。
「太郎様の第一の妻は私です! 婚前交渉すらまだなのに、第二夫人などと生意気な! 太郎様に近付く不届き者は、この私が消し去ってあげますわ!」
「ほら見なさい、もう内紛が始まっている」社会学者が苦笑する。
ドワーフやエルフ、日本の官僚や学者たちが、それぞれの立場、それぞれの正義から喧々諤々の議論を交わす。戦術、政治、社会体制、地球側の思惑、そして少女たちの嫉妬。
全ての要素が複雑に交錯するブリッジの喧騒の中、太郎はただ一人、何も言わずにじっとシャルロットの横顔を見つめていた。(もし、俺がこのまま一人の『日本人の男』として戦い続け、いつかこの命を落としたら……残されたシャルロットはどうなる?) 四十歳の太郎にとって、17歳の年の離れた許嫁の未来は何よりも重い。
彼女は無敵の破壊神だが、精神的にはまだ太郎を必要とする傷つきやすい少女なのだ。もし自分が死んだ後、彼女が孤独になり、世界から『怪物』として排除されるか、あるいは狡猾な政治家たちの道具として利用されるようなことだけは、絶対に避けなければならない。
その時、彼女の感情一つで世界は滅ぶ、自分以外の安全装置を付ける事はついに叶わなかったのだ、彼女を孤独にしてはならない、残る時間は少ない。
彼女を本当の意味で守り、その未来を保証するためには、自分が彼女の「すべて」を、その人生も、その背負う業も、丸ごと背負う覚悟が必要なのではないか。
しかしながら自分はただの人間、既に四十にもなり寿命も知れている。
どうしたらいいのか。
太郎が深い葛藤の海に沈みそうになった、その時だった。
「――みなさん、静かになさい」 凛とした、しかしどこか少女らしい純粋な響きを持ったシャルロットの声が、ブリッジの雑音をピシャリと止めた。
全員の視線が彼女に集まる。
彼女は、騒ぎ立てるアリスや議論する大人たちを視野にも入れず、ただ真っ直ぐに太郎の目を見つめ、全宇宙に向けて宣言するように言い放った。
「国家の形がどうなろうと、地球の方々が何を言おうと、私の答えは最初から一つだけです。――私は、太郎様と生きていきます。
太郎様が歩む道が私の歩む国であり、太郎様が望む場所が私の世界ですわ」 その瞳には、一抹の迷いも、政治的な打算もなかった。
大商会の思惑も、世界の恐怖も関係ない。
ただ「太郎と生きていく」という、17歳の少女の純粋で絶対的な決意が、そこにはあった。
(――ああ、そうか。俺が守るべきものは、最初から決まっていたな) シャルロットの言葉が、太郎の胸の奥にあった迷いを完全に吹き飛ばした。 神隠しに会い、異世界に流れて着き、四十歳になってようやく見つけた「命を懸けて守るべきもの」。彼女を独りにしないため、彼女の未来をその手で創り上げるため、元自衛官の中年は、ついに真の覚悟を決めた。
「……よし。大商会長の提案を受け入れる。俺たちが新たな世界の中心となるぞ」 太郎の力強い言葉に、ブリッジの全員が息を呑み、そして深く一礼した。異世界の仲間たちだけでなく、日本の官僚や学者も、その圧倒的な覚悟の前に、それ以上言葉を挟むことはできなかった。
『魔王』の誕生、そして帝国の産声
しかし、新国家の樹立を宣言し、大商会との提携を進める彼らの前に、敵も手をこまねいてはいなかった。
大商会の莫大な資金力を背景にした『神聖シャルロット帝国』の樹立宣言により、宇宙はまさに『反破壊神同盟』と『神聖シャルロット帝国』に加わろうとする国々の二つに完全に二分される事態となった。
これに危機感を募らせた反破壊神同盟は、武力衝突の前に、極めて卑劣で効果的な「情報戦」を仕掛けてきた。
「太郎殿! 大変です、全宇宙の主要通信回線が、敵によって強制混信されています!」 オペレーターの悲鳴のような声がブリッジに響いた。
モニターに映し出されたのは、数々の凄惨な戦場の光景だった。 それは、過去にシャルロットが戦場で激しい戦闘を行い、敵の軍勢を容赦なく殲滅した際の、生々しい戦闘シーンの数々だった。無敵のの破壊神が、その圧倒的な力で敵艦隊を、敵の拠点を、文字通り塵へと変えていく光景。『見よ! これが破壊神シャルロットの非情なる虐殺の全貌だ! このような化け物を奉じる帝国に、正義など断じてない! 世界の諸君、目を覚ませ! 彼女は宇宙を滅ぼす災厄だ!』 画面の向こうから流れるナレーションが、世界に向けて恐怖を植え付けていく。
「なんて卑劣な……! 過去の戦いを都合よく編集して流すなど!」エルフの賢者が拳を握りしめる。
「これでは、我が帝国に味方しようとしていた中立国国家が、世論の反発を恐れて離反してしまいます!」日本の官僚が頭を抱えた。
ブリッジの面々が憤り、青ざめる中、当のシャルロットは太郎の傍らでどこ吹く風、平然としていた。
彼女にとって、愛する「太郎様の敵」であれば、相手がどのような存在であろうが、ただの「生死を問わない駆除対象」に過ぎないからだ。世界が自分をどう呼ぼうと、太郎が隣にいてくれれば、彼女の心は一ミリも揺るがない。
だが、この映像は帝国の求心力、そして何よりシャルロットの未来に致命的な打撃を与えかねない。
このままでは、彼女は永遠に「宇宙の嫌われ者」として孤独な戦いを強いられることになる。(……いや、そうはさせない) 四十歳の参謀・太郎は、冷徹な目をしてオペレーターの席へと歩み寄った。
その顔には、かつて自衛隊の過酷なサバイバル訓練で、あらゆる感情を削ぎ落として生存のみを追求した時のような、絶対的な決意の戦術眼が宿っていた。
「全宇宙への通信回線をジャックしろ。敵のプロパガンダ映像を、こちらのリアルタイム通信で上書きする」「太郎殿!? 何をするつもりだ! 弁明の余地など、今の映像の後では……」「弁明などしないさ。
官僚殿、学者殿、よく見ておけ。
これが『シャルロットの夫』の仕事だ 太郎の指示により、戦艦の強力な通信出力が敵の電波を圧倒し、全宇宙のモニターが切り替わった。
そこに映し出されたのは、最新鋭戦艦のブリッジで、冷酷無比な悪の支配者のように不敵な笑みを浮かべる、一人の冴えない中年男――太郎の姿だった。
「勘違いするな、世界の諸君」 太郎はマイクを掴み、声音を低く、冷酷に響かせた。その背後には、あらかじめ編集しておいた『かつてシャルロットが行ったとされる苛烈な作戦の数々を、夫である太郎自身が、冷徹に卓上で指示・命令しているシーン』の数々をホログラムで映し出させる。
「破壊神シャルロットは、俺の命令を実行したに過ぎない。彼女のすべての行動、すべての殲滅、すべての破壊の責任は、この俺――神聖シャルロット帝国参謀、太郎にある。
彼女を怪物と呼び、怯えるのは勝手だが、真に恐れるべきは誰かを知るがいい。
彼女を飼い慣らし、その圧倒的な力の引き金を引いているこの俺こそが、お前たちの真の敵だ。
俺の進路を阻む者は、誰であろうと容赦はしない」 全宇宙が、恐怖に凍りついた。
世界に『魔王・太郎』の存在が完全に認知された、歴史的な瞬間だった。 太郎は、シャルロットへの非難、世界からのヘイト、過去の業のすべてを、自分が泥をかぶる形で一身に吸収したのだ。
自分が全宇宙から忌み嫌われる「魔王」になることで、シャルロットを「操られていただけの純粋な象徴」へと昇華させ、彼女の政治的な潔白と神聖性を守り抜いたのである。
これこそが、四十歳の男が選んだ、17歳のワイフへの、不器用で、しかし命がけの愛の形だった。
その放送を、ケットシーの星の自室の大型モニターで見ていた大商会長は、あまりの衝撃に全身の鳥肌を立たせていた。
しかし、次の瞬間、その老いた顔には狂喜の笑みが浮かび、激しく膝を叩いた。「ハハハ……! ははははは! 見事だ、見事すぎるぞ、太郎殿……っ! 破壊神の安全装置どころか、あの不老不死の化け物の手綱を完全に握り、世界中を敵に回してなお、すべての罪を背負って不敵に笑う男か……! 素晴らしい! 鳥肌が止まらん! 太郎殿、あなたこそがシャルロット姫様を戴く、帝国の真の皇帝の器……いや、『魔王』という名の絶対権力者だ……!! 我が商会のすべてを、あなたに賭けよう!」
通信を切り、静まり返ったブリッジで、太郎はふぅと息を吐いた。 そんな彼の元へ、シャルロットがゆっくりと歩み寄ってくる。その大きな瞳には、涙目が浮かんでいた。しかしそれは悲しみの涙ではない。自分を世界から守るために、自ら魔王の座に就いた男への、今まで以上の深い愛と、狂おしいほどの崇拝の眼差しだった。
「太郎様……ああ、太郎様。本当に、どこまでも格好良い私の旦那様……。どこまでも、あなたと共に歩みます。私の力も、身体も、心も、そのすべては、あなたのものですわ」 大商会の思惑も、世界からの恐怖の視線も、もはやどうでもよかった。
ただ自分を信じ、共に生きていくと言ってくれる17歳の破壊神の手を、太郎は温もりを確かめるように強く握り返した。
自分が死んだ後も、彼女がこの広い宇宙で独りぼっちにならないように、彼女が永遠に帰るべき「帝国」を自分がその手で作ってやる。
そのための泥なら、悪名なら、いくらでも被ってやる。「……よし。神聖シャルロット帝国、全軍に告ぐ。我らが往く道を阻む反破壊神同盟を、徹底的に叩き潰すぞ。
各員、戦闘配置!」 魔王となった四十歳の参謀の冷徹な号令とともに、最新鋭戦艦は全宇宙規模の大決戦へと向けて、漆黒の宇宙を力強く進軍を開始した。 混沌とする宇宙の歴史に、恐怖と救済の象徴として、ここに『神聖シャルロット帝国』が、あまりにも鮮烈な産声を上げたのである。




