海の星の潜水調査と、新・兵器工廠編
【前編:深海の狂熱】
日本酒(純米大吟醸)一杯でシャルロット姫様が泥酔し、その興奮の千鳥足によってメインシャフトが飴細工のようにねじ折れたゴブリン戦艦。
地表の八〇パーセントが広大な『海』で覆われた惑星に緊急ランディングし、モフモフとした愛らしいラッコ獣人たちの港町で数週間の足止め修理を余儀なくされた山田太郎一等陸尉(四十歳)だったが、この予想外の言うべき停泊期間は、船内に同乗していた地球の日本人たちを、かつてない『狂熱』へと叩き落とすこととなった。
「山田一尉! 朗報だ、とんでもない朗報だぞ!!」 高機動車(装甲車)のボンネットに腰掛け、胃薬を日本酒の代わりに胃に流し込んでいた太郎の元へ、最新技術の獲得の為に乗り込んできた日本の科学者や技術者の一団が、目を血走らせ、鼻息を荒くして突っ込んできた。
ラッコの職人たちから買い取った古い海図と、人魚族の伝承を我が国の解析端末にかけただがな……。
この海の星の、光すら届かない海底八千メートルの深海溝に、超古代文明の
【海洋環境管理プラント(水没した超巨大遺跡)】が、
未だに完全な休眠状態で沈んでいることが判明したんだ!!
ハッキングしてメインデータを取り出せば、地球の海洋資源問題はおろか、気象制御の謎まで一発でデバッグ(解決)できる! 山田一尉、今すぐ潜水調査(遺跡荒らし)の作戦を立案しろ! 当然、我々科学者チームも全員連れて行ってもらうぞ!!
いやいや、皆さん落ち着いてくださいな。海底八千メートルですよ? 潜水装備も有りませんし下手な装備で潜れば、水圧でペシャンコになってトマト缶の出来上がりですって」
太郎は剽軽に肩をすくめて宥めようとしたが、日本のマッドサイエンティストたちは一歩も引かなかった。
何を言うか! お前がゴブリン帝国から毟り取ってきた『反重力装甲車』があるだろう! あれの重力反転結界を局所展開して防水・耐圧仕様に(改造)すれば、海底八千メートルなど、ただの水たまりも同然だ!!
さらに、背後からは第一空挺団から追加乗船した精鋭の一個中隊(約百名)を率いる中隊長が、完全武装のままドカドカと歩み寄ってきた。
山田一尉。未知の深海遺跡への突入だ。
当然、敵性の自動防衛システムや深海怪獣の存在が予見される。
科学者連中を無防備で生身のまま放り込めるわけがないだろう。
……我が空挺中隊から、精鋭の一個小隊(約四十名)を、完全武装で護衛として同行させる。
船のコンテナをフル活用して、潜水電撃作戦を敢行するぞ
あーあ、めんどくさいなぁ。お上の真面目な兵隊さんと学者先生は、これだからお散歩感覚がデカすぎて困るんだよ
太郎は内心で深く溜息をついたが、彼らの熱量に押し切られる形で、当初に予定していた隠密調査を遥かに超える、重厚な『深海大突入部隊』の編成を要領よく承認するのだった。
*
だが、作戦の事前シミュレーションを始めた段階で、陸自の空挺隊員たちの前に、冷酷な戦術的現実が突きつけられた。
富士の演習場での実証試験で薄々気づいてはいたが、自衛隊の現行兵器である89式小銃や拳銃、機関銃は、この宇宙(異世界)の超古代の防衛システムや深海の高密度な魔力結界の前には、ただの火薬で鉛を飛ばすだけの『原始的な火縄銃』に過ぎない。この宇宙では当たり前にある結界に阻まれれば、弾丸は一ミリも進まずに虚しく落ちるだけだ。
地球の最新鋭兵器では、全く歯が立たない。
「……なるほど。じゃあさ、無いなら作ればいいじゃないの」 太郎の「経験者」としてのえげつない知恵が、ここで火を噴いた。
太郎は、ゴブリン帝国から大量にプレゼントされ、コンテナに眠っていた【ゴブリン製個人用プラズマ兵器一式】を作業台に並べ、ドワーフの天才メカニック、ラッコの職人たち、そして日本の技術者チームを一つの厨房(工房)へと要領よくパッキング(招集)したのだ。
いいですか、ドワーフの親方の弟子くん、それにラッコ親方。
この宇宙ゴブリンの近代兵器は、アーマーを着て使うのが前提で、俺たち生身の人間(地球人)がトリガーを引くと、反動とプラズマの熱線で腕の骨が折れてたり輻射熱で自滅しちゃうんです。
だから、ドワーフの超精密な金属鍛造技術で反動吸収パーツを作り、ラッコの職人たちが得意とする水陸両用の防魔・防水結界の技術を外殻に組み込んで、生身でも地球人(自衛隊員)が安全に使える、人間用プラズマ小銃へ、完璧にアップグレードしてほしいんですよ
この提案に、異世界の技術者たちと、地球の科学者チームの職人魂が、かつてない奇跡のコラボレーション(融合)を起こした。
「ガハハ! 面白ぇ! 宇宙ゴブリンの歪んだ魔科学を、人間種の骨格に合わせてリビルドするってわけだな! 俺の鋳造技術の見せ所だ!」
「ラッコの国の防水結界をここに流し込めば、生身で安全に撃てて水中であろうが何処でもプラズマの熱線が衰えずに、弾道が一直線に伸びるねぇ!」
日本の技術者たちが提示する精密な人間工学の図面を元に、ドワーフが金属を鍛え、ラッコが結界を編み、ゴブリンの量子コアを組み込んでいく。
その結果、誕生したのは――太郎の想定すら遥かに超越した、【全宇宙の物理法則を書き換えるほどの、超強力ハイブリッド量子プラズマ兵器(新・89式)】の数々だった。 人間種でも反動ゼロで扱え、深海の超高水圧すらエネルギーに変換して威力を跳ね上げる、恐るべきオーバーテクノロジーの結晶。
さらに太郎の乗るゴブリン戦艦の主砲や、コンテナに積まれた反重力装甲車にも、ラッコ特製の流体反重力シールドが換装され、船体そのものが「異次元の強度」へと大幅なパワーアップを遂げたのだ。
あはは、お酒を飲んで船が大破したときはどうなるかと思ったけどさぁ。
……怪我の功名にも程があるね。
これだけの超強力アセットが揃えば、裏で蠢いてるっていう『対破壊神同盟』の雑魚どもが何万隻で包囲してこようが、正面から全員まとめて(お片付けできる)よ、本当に 太郎は、新たに量産されたプラズマ小銃を不敵な笑みで構える空挺中隊の面々を見つめ、これからの戦いへの確かな勝利の皮算用を弾くのだった。
改造された防水・耐圧仕様の反重力装甲車に乗り込み、太郎たちは日本の科学者チーム、護衛の空挺小隊と共に、海の星の漆黒の深海八千メートルへと突入していた。
プラントの入り口を守る、深海の巨大な古代防衛クラーケンや、水圧を操る自動迎撃ドローンたちが次々と襲いかかってきたが――新生・自衛隊潜水部隊の敵ではなかった。
――ババババババァン!!!
空挺隊員たちが一斉に放った、ラッコ&ドワーフ製人間用プラズマ小銃の青白い熱線。それは、深海の超高水圧を切り裂き、古代の防衛結界を一瞬で消し炭にして、宇宙怪獣クラスの敵を影すら残さずに分解していったのだ。
太郎とゴブリン技術兵がメインコントロールルームの超古代システムへと滑らかに潜入。
日本の科学者たちが「おおお! 地球の教科書が全部ひっくり返るぞ!」と狂喜乱舞する中、深海の膨大な超古代の環境データと、次なる旅へのルートログを完璧に毟り取ることに成功するのだった。
*
そして数日後。深海調査を完璧な戦果で終え、戦艦の修理も最終段階に入った頃。
艦内のドックでは、日本の技術者やドワーフ、ラッコの職人たちが、手に入れた古代データを使って「戦艦の主砲をさらにパワーアップさせるぞ!」と、寝食を忘れて設計や溶接の共同作業に忙しく走り回っていた。
そんな中、比較的『暇』を持て余していたのが、大商会ケット・シーの令嬢アリスとお付きのメイドだった。
アリスは、誰もいないブリッジの艦長席で、一人静かに作戦マップを眺めていた太郎の背後から、猫耳をパタパタと震わせながら音もなく忍び寄った。
「山田様ぁ……♡ 皆様はお仕事で忙しそうですし、ここは一つ、日本語のお勉強の成果を兼ねて、私と二人きりで『秘密の健康診断(海辺デート)』の続きをいたしませんこと? にゃん♡」
アリスはお嬢様らしからぬ大胆さで、太郎の首筋にその細い腕を絡ませ、豊かな香水と共に、はち切れそうな巨乳の肉圧を太郎の背中にピタリと押し付けてきた。メイドも無表情のままドアの鍵をカチャリと閉め、太郎の退路を完璧に先回りして封鎖する。
「おやおや、アリスお嬢様。そんなに密着されたら、俺の四十歳の繊細な心臓が――」
太郎がいつもの、タジタジになった困り顔で受け流そうとした、まさにそのコンマ数秒後だった。
――バリバリバリバキィィィン!!!
ブリッジの頑強な防魔鋼鉄の隔壁が、まるでただの障子紙でも破るかのように、中央から爆砕して弾け飛んだ。
土煙の中から現れたのは、衣服を破らんばかりの巨乳を激しく怒らせ、お顔を真っ赤に染めて激昂した、シャルロット姫様その人であった。
彼女の瞳からはすべての光が消え失せ、オリジナルスペック生物兵器の『完全なる嫉妬の炎』が、ブリッジの気圧をミシ、ミシと不穏にねじ切っていた。
「――私の、私の太郎様に、どこの猫泥棒が気安く触っていますのォォォ!!! むきーっ! シャルロット、今度こそ大爆発して、そのお耳ごと空間ごと消し飛ばして差し上げますわ!!!」
「ひ、ひぃぃぃ! 姫様ストップ! 山田家の第一規律、物を壊したらチュウが永久にマイナス一〇〇回!!!」
太郎は冷や汗を滝のように流しながら椅子から飛び起き、動こうとした姫様の小さな体を背後からガッチリと抱きすくめた。
「はぅあぁっ♡ 太郎様ぁ! チュウが減るのは嫌ですわぁぁぁ!」
手綱(名前呼び)がクリティカルヒットし、姫様はその肉体をフカフカの綿毛のように脱力させたが、彼女の『欲求不満と嫉妬のゲージ』は、すでに聖国からの長期間の我慢によって、完全に臨界点をぶち破って限界に達していたのだ。
太郎は今回、実戦(SEX)は完全に無しということで、必死になって彼女の金髪を優しく撫で回し、おでこへのチュウを大盤振る舞いすることで、なんとかその場の暴発をなだめすかすことに成功した。……だが、それは本当の平和ではなかった。
*
その夜。海の星の静まり返った深夜の午前二時。
新婚用の客室のベッドの上で、太郎は昼間の修羅場の疲労から、深い眠りへと落ちていた。
――カチャ、カチャ。
内側からドワーフの技術で増設したはずの、絶対に紙屑化されない特製防魔鋼鉄の二重ダイヤルロックが、無音で、液体のようになめらかに『解錠(破壊)』された。
闇の中から音もなくベッドへと忍び寄ってきたのは、薄手のネグリジェを身に纏い、瞳を爛々と肉食獣のように輝かせたシャルロット姫様だった。二週間の謹慎と、アリスの乱入によって、彼女の『愛の渇き』は完全にブレーキの壊れた暴走機関車と化していたのだ。
「太郎様……♡ もう我慢できませんわ……。今夜こそ、本当の手順で、朝まで、何度も……♡」
姫様はうっとりとした甘い声を上げながら、太郎の寝間着のシャツを【ただの薄いティッシュペーパーでも引きちぎるかのように、素手でバリバリと一瞬で引き破った】。
太郎は、目の前の姫の迫力に声も出せずに硬直した
むき出しになった太郎の四十歳の胸元。
姫様がその豊かな巨乳を押し付け、いざ、実戦(挿入)へ向けてその小さな腰を落とそうとした、まさにそのコンマ一秒前のことだった。
――ガサリ。
暗闇のベッドのすぐ脇、クローゼットの隙間から、猫の耳がピコンと直立する微かな物音が響いた。
「「…………」」
太郎と姫様が一斉に視線を向けると、そこには、暗闇の中でカメラ(暗視スコープ)を片手に、ベッドの上の実戦の様子を【息を呑んでジロジロと覗き見(観察)していた】アリスお嬢様と、その隣でメモ帳を手に「シャルロット様の腰の角度、超古代の設計図通りです」と無表情に記録しているお付きのメイドの姿があった。
アリスたちとしても、(今後のことも有り太郎の弱い所を知っておくという個人的な興味)公式はこの破壊神の『実戦時の安全性(手加減のクオリティ)』を、大商会のデータとして完璧に覗き見て検証したかったのだ。
「――あ」
アリスが、あ、見つかっちゃった、という顔で猫耳を伏せる。
「……っ! ど、泥棒猫どもぉぉぉ!!! 夫婦の神聖な行為を覗き見するなんて、どこまで不届きなんですのォォォ!!!」
シャルロット姫様は恥ずかしさと怒りで大爆発。せっかく挿入(実戦)の一歩手前まで進んでいた愛のシステムは完璧にフリーズし、姫様はお預けを喰らった不満と怒りで、その小さな足でベッドのフレームをドン!と激しく踏み鳴らした。
――ドゴォォォン!!!
衝撃波により、太郎の部屋の床がまたしても深さ数メートルにわたって陥没し、せっかくラッコたちが修理したばかりの戦艦の客室ブロックが再びバリバリと半壊する大惨事となった。
「ひ、ひぃぃぃぃ大尉!!! お嬢様に覗き見されてお預けを喰らった破壊神が、今度は欲求不満の八つ当たりで船の基礎を粉砕したぞォォォ!!」
ハッチの外では、夜中に飛び起きたドワーフのメカニックたちが、恐怖のあまり悲鳴を上げて太郎の元へ駆け込んできた。
「おい山田!!! あんたの嫁さんのあの不穏なオーラ、なんだあれは! 火山が噴火する一秒前じゃねえか! なんとかしろ! あんたが今すぐベッドの上でその身を生贄(抱き枕)にして、あの怒りを完璧に宥めてこいよォォォ!!!」
「いや、俺は覗き見してくれたアリスお嬢様たちのおかげで、今夜は命拾いしたから、本気で感謝してるんだけどねぇ……」
太郎は破られた寝間着を押さえながら、冷や汗を流して宇宙猫の顔をするのだった。
だが、お預けを喰らって完全に不機嫌モードに入ったゴジラ姫様の手綱を握り直す太郎の胃には、さらに深い穴が空く日常が待っているのだった。
*
だが、山田太郎たちがこの海の星の深海で超強力プラズマ兵器を量産し、艦内のキャッキャウフフな夜の覗き見修羅場に追われてもたもたしている、まさにその間にも。
遥か彼方、次なる目的地である『虎の獣人星系』の絶対防衛宙域には、全宇宙の歴史上、未だかつて存在しなかったほどの、絶望的な【終末の包囲網】が、完全にその構築を完了させていた。
「――魔王・山田太郎、および最凶の破壊神シャルロットの黒い戦艦は、現在『海の星』にて大破し、足止めを喰らっているとの報告が入った!」
「今こそ、我らのすべての宇宙戦艦を、虎の獣人星系の座標へと集結させるのだ! 奴らが極秘駐留基地(租界)を築きにやってきたその瞬間を、全宇宙の総力を以て、一滴の肉片すら残さず宇宙の塵へと(消滅)してやる!!」
暗黒の宇宙空間を埋め尽くしていたのは、太郎たちの進撃に恐怖した数多くの宇宙国家や軍事帝国が、国家予算のすべてを投じて結成した【対破壊神同盟】の超ド級の大艦隊だった。
宇宙エルフの別派閥の精鋭魔導艦、宇宙ドワーフ強硬派の惑星規模の超重装甲要塞、聖国過激派の神聖爆魔船、そして各種族の宇宙戦艦たち、その数、実に【数十万隻】。宇宙の地平線を埋め尽くすほどの漆黒の銃口が、太郎たちが現れるであろう転送座標へと、一斉にロックオンを完了させていた。
地球兵器の優位性を失いながらも、ラッコとドワーフの奇跡の技術融合によって『人間用超強力プラズマ兵器』と『流体反重力シールド』という想定外の大幅パワーアップ(怪我の功名)を果たした、山田太郎一行。
お預けを喰らって不機嫌な最強のワイフの機嫌を直すための「SEX以外での全力の甘やかし日常」に追われながらも、四十歳の参謀は、海の向こうで待ち受ける全宇宙規模の『魔王包囲網』との決戦へ向けて、復活した最新鋭戦艦の舵を、力強く押し進めるのだった。




