破壊神は酔っ払つても破壊神だった
地球への極秘帰省を果たし、陸上自衛隊の一等陸佐(基地司令)率いる精鋭たちシャルロット姫様の能力査定(という名の完全心服)を要領よく終えた山田太郎一等陸尉(四十歳)。
ふたたび時空の門を潜って異世界へと舞い戻った黒い宇宙戦艦(ゴブリン特製最新鋭艦)の艦内は、これまで以上に混沌とした、しかし妙に賑やかな大所帯と化していた。
船内に追加で乗り込んしてきたのは、日本政府の意向に従った一佐の計らいによって極秘裏に選集された、日本の科学者や技術者の一団、政府関係者、さらには身の回りの世話をする支援小隊。
そして何より、万が一の宇宙での戦闘や治安維持に備えた、陸上自衛隊・第一空挺団からの【精鋭の一個中隊(約百名)】の自衛官たちであった。
彼らが異世界へやってきた目的は一つ。すでにシャルロット姫様の武力によって完全降伏(完全支配)させている『虎の獣人星系の首都星』を、【地球人(自衛隊・科学者)の最初の極秘駐留基地・研究拠点(租界)】として整備・開設するためだ。
当初はゴブリン星も考えたがゴブリン達は虎族ほど心が折れておらず、性質上(知恵も暴力も強いものが偉い)トラブルが予想されたため、日本の心理学者と遠征隊指揮グループとの話し合いで却下された。
その為に王も軍隊も徹底的に痛めつけて従順にさせてあるため、地球側の受け入れ先としてこれ以上ないほど安全な絶対の植民地となるはずだった。 何よりも地表で民衆の前でシャルロット姫様の武力を見せたのだ!誰が逆らえようか?。
一等陸尉である太郎にとっては、階級上、彼らは自分の直属の部下、
(国防大臣の配慮により、太郎は便宜上特務一佐として太郎が本来の自分よりも階級の高いものに命令すると言う問題を解決した)に近い立場となる。
傍若無人に知識を習得しようとする科学者や技術者の一団、
ゴブリン兵に格闘戦を挑む空挺の猛者達、
混沌の中
規律正しい日本の警務兵が艦内を闊歩する奇妙な光景。
だが、何よりも太郎を涙が出るほど感動させたのは、彼らが日本からコンテナごと大量に持ち込んできた、【醤油、味噌、米、そして日本酒といった「本物の日本食の食材と調味料」】であった。
*
そんな移動中の船内において、今回の『船内修羅場(第ニ戦)』は、実にお気楽な、やんちゃ坊主のレオの一言から始まったのだ。
「ねぇ、さんぼう。俺、なんだか『肉の卵とじ』が食べたいぞ!」 後部座席用のコンテナでマルチツールの手入れをしていたレオが、お腹を空かせた顔でそう願い出た。「お、肉の卵とじねぇ。
好きだな!よし、いいよ。久しぶりに俺が台所に立って、モドキではなく本物を作ってやろうじゃないの」
太郎が何気なく、袖をまくりながらおどけた調子で言った。
やったー、前食べたモドキでもあんなに美味しかったんだから、本物ならどんなに美味しいんだろう?レオのテンション爆上がりであった。
そこで、ブリッジにいた『女たち』が一斉に過敏な反応を示した。
「まあ……太郎様、お料理を作ってくださいますの、一緒に作りましょう!私もあれから練習しましたの、是非この機会に練習の成果を見てくださいませ、シャルロット、きっと太郎様の胃袋を掴んで見せますわよ……♡」
「あら、山田様。殿方にお料理をさせるなど、専属メディック(かつ将来の妻候補)として見過ごせませんわ。私がお手伝いいたしますわね、にゃん♡」
バチバチと火花を散らす姫様とアリスお嬢様。
そこに、太郎がいつもの要領の良さで、何気ない「他国への比較(話を振る一言)」を投げかけてしまった。
いやぁ、二人は努力家だねぇ!。
……ところで、エルフの里の護衛長さんは、前回の優勝者としてどう?
……舐めないでいただきたいわ、山田殿。
エルフは絶えずアップデートは怠らないわ、今回は日本の調味料を使った更なる高みに頂いた至高の料理を作って見せますわよ。
話を振られたエルフの女性戦士は、美しい耳をピクリと直立させ、どこか他と比べられることへの対抗意識を燃やして胸を張った。
よし故郷の味なら俺だって負けないぞ!
面白がったドワーフのメカニック治癒士が、ニヤニヤしながら決定打となる一言を放った。
「ガハハ! こりゃあ面白ぇ! おい山田、いっそのこと、誰の『料理』が一番美味いか、審査員募って白黒つけてもらおうじゃねえか!」
かくして、前回の教訓を忘れた【第二回・宇宙船内クッキングバトル】という名の、地獄の幕が開けるのだった。
結果から言えば、勝負は最初から見えていた。 数時間後、戦艦の食堂のテーブルに並べられたのは、まさに四者四様の『物体』だった。
まず、エルフの女性戦士が差し出したのは、香草のスープでじっくりと煮込み日本製調味料で味を調えた前回のと同様の、肉の卵とじだった。
一口食べた太郎とレオは「うわ、美味い! 前のも美味しかったが今回のはさらに美味しい!」と大絶賛。エルフの護衛長は、ふふんと誇らしげに胸を張った。
対して、他の二人は――。
アリスお嬢様が作ったのは、前回の反省を生かしたのか?素朴なステーキと盛り合わせであった、見た目は普通、肉の焼き色も普通……。
それならばと、一口切り取り口に入れると……名状し難い味と食感が口いっぱいに広がる、生物兵器か何かか、我々を殺しにかかっているのか?
審査員一同トイレに駆け込むので精一杯だった。
そして何より最悪だったのは、新皇帝・シャルロット姫様だった。
彼女は前回の失敗は火加減が原因として火を使うのを……辞めた。
新鮮な物なら、火を通さずとも良いはず、サラダなら?サラダは付け合わせ、メインにはならないまして、太郎様にはスタミナが必要、スタミナ作りには肉が必要だわ?
超硬質魔獣の肉を手で細かく引きちぎりそれを、サラダにまぶせ最後にヒールポーションをドレッシング様にかけて出した。
アリスお嬢様で凝りている審査員一同は、慎重だった……それはもう、自分の命がかかっているのだから、食べるも地獄、食べないのも地獄の無間地獄の気持ちを味わいながら、一口……
サラダに石(超硬質魔獣)が混じり、味付けはポーション!?
幼稚園児のままごとか! (叫んだら(死)レオですら理解していた)叫びたいのを堪え静かにトイレへ
最後は太郎、安定した料理スキルと四十年独身のキャリアが安定した味を保証するが、今回は選んだ料理が悪かった、実家に帰り母の手料理のお稲荷さんを食べたのがいけなかった、もう一度食べたいと思い作ったのだが、異世界人には酢の匂いがダメだった、劇薬の匂いと勘違いされる、どんなに説明し実際に食べてみても食べてもらえなかった、大量に作ったのに!悔しさを秘め日本人区画に差し入れた(大好評だった)
「結果発表――! 唯一、人間が食べられる完成品を作った、エルフのお姉ちゃんの文句なしの優勝!!」 レオの冷酷な審査結果が食堂に響き渡った。
人間がだと!抗議する!と太郎。
「う、嘘でしょう……。大商会の令嬢である私が、料理ごときに敗北するなんて……」 アリスお嬢様がショックのあまり、猫耳を完全にペタンと伏せて床にへたり込む。
そして――敗北を知ったシャルロット姫様は、あまりの悔しさと、太郎に良いところを見せられなかった悲しみにより、その精神のシステムが完全に癇癪を起こして大暴走を始めていた。
「む、むきーっ!!! 料理なんて、料理なんて大嫌いですわぁぁぁ!!! なんで私の愛が誰も食べれないのですかぁぁぁ!!!」
美味しいじゃないですか! なんでェ~
――ドゴォォォォォォォォォォォン!!! 姫様が悔しさのあまり、地上の王宮前広場を更地にしたあの怪力で、食堂の調理台を軽くバンバンと叩いた。
ただの癇癪の手撃ち。
しかし、そのオリジナルスペック生体兵器の衝撃波の余波により、ゴブリン戦艦の頑強な食堂の壁や天井がメキメキと崩壊し、部屋が文字通り『半壊』。飛び散った鉄屑と土煙の中で、見物に来て、大爆笑していた自衛隊の支援小隊や空挺隊員たちが「ひ、ひぃぃぃ! 料理に負けただけで船が沈むぞォォォ!」と大パニックで逃げ惑う大惨事となったのだった。
*
戦後処理(食堂の修理)をドワーフと自衛隊の技術者たちの共同作業で済ませた後日。
太郎は、落ち込んで部屋から出てこない姫様とアリス、そして新メンバー全員をなだめるため、自ら厨房に立って『リベンジを兼ねた料理』を全員に振る舞うことにした。「はい、お待たせ。俺の故郷の伝統料理――『牛丼』だよ。召し上がれ」 テーブルに並べられたのは、太郎が出汁と醤油の比率を完璧にコントロールして作った、牛肉と玉ねぎとネギといった日本の食材がご飯の上に美しく賃座した、本物の牛丼だった。 恐るべき旨味に、アリスも姫様も、一口食べた瞬間、その好好感度を天井を突き破って跳ね上げた。
そしてその夜、前回と同様。
「……ふぅ。今夜は、本当に平和だねぇ」 新婚用の客室のベッドの上で、太郎は心からの、深い安堵の息を吐き出していた。【実戦(SEX)は完全に無し】。 その代わりに、太郎はベッドの上にシャルロット姫様を【お姫様抱っこで優しく膝の上に乗せ】、さらにその左右の脇に、アリスお嬢様とお付きのメイドの二人を【左右に座らせて、三人まとめて、よしよし、と優しく頭を撫ぜ撫ぜ】してやるという、極上のハーレム(?)日常の時間を過ごしていたのだ。
「太郎様……こうして、みんなで仲良く太郎様を囲めるなんて、シャルロット、とっても幸せですわ……♡」
「山田様、これからの旅、奥方として、お命のすべてを私が守って差し上げますわね
にゃん♡」
嫉妬の炎を乗り越え、本当の意味でクルーたちの心の融解が完了した、束の間のキャッキャウフフな息抜き回。太郎は、左右と正面からの圧倒的な柔らかさに包まれながら、(あー、今夜は骨が一本も折れなくて本当に良かった……)と、心からホッとして目を閉じるのだった。
*
だが、この平和な日本食の交流が、旅路の途中でさらなる未曾有の『大惨事』の引き金となる。
ある日の晩。太郎が艦長席の傍らで、一佐から土産として貰った最高級の純米大吟醸(日本酒)を、ちびちびと楽しんでいた時のことだ。
太郎様ぁ……。
その、お米から作られたという、透明で良い香りのするお水、シャルロットにも一口、飲ませてくださらない……?♡ 衣服を破らんばかりの巨乳を押し付け、上目遣いで強請ってくる新皇帝・シャルロット姫様。
太郎は「度数が高いから、ほんのちょっとだけだよ?」と、おちょこ一杯分だけを彼女に手渡した。
――これが、参謀・山田太郎の人生最大の計算違いだった。 超古代の惑星間戦争用生物兵器のオリジナルスペックを持つ彼女の肉体だが、どうやらアルコールに対する耐性(デトックス機能)だけは、完全に『未開発』のままだったのだ。
※ 後で分かったが、比較的影響の少ない刺激は無敵とも思われた彼女の肉体にも通るのだ、ただし初回のみ、初回の影響を身体が判断、以降それが与える影響の過多を決める、今回は生まれて初めてのアルコールが悲劇の元であった。
おちょこ一杯をキュッと干したその一分後――姫様の顔が一気に真っ赤に染まり、瞳の焦点がとろとろに、完全に『泥酔』状態に陥ってしまった。
「うにゃぁ……♡ 太郎様ぁ……! シャルロット、なんだか頭がフワフワして、世界がとっても、だぁい好きですわぁぁぁ!!!」
――ドッガァァァァァォォォン!!!!!
恋心とアルコールが完璧にフュージョン(融合)し、脳のブレーキが分子レベルで消滅した姫様が、興奮のあまりその場でピョコピョコと大暴れ(ジダンダ)を始めてしまったのだ。
ただのお酒の席での千鳥足。
しかし、その脚力が放つ物理エネルギーは、宇宙ゴブリンの量子魔科学の装甲をもってしても耐えられるものではなかった。
姫様がステップを踏むたびに、巨大戦艦の床がベニヤ板のように爆砕し、中央のメインシャフトがグニャリと飴細工のようにねじ折れ、戦艦の左舷ブロックが丸ごとへし折れて、【戦艦が宇宙空間で『大破(航行不能)』】するという、
恐るべきゴジラ災害が発生したのだ。
「ひ、ひぃぃぃぃ大尉!!! 破壊神が、酒一杯で宇宙戦艦を物理的に(粉砕)したぞォォォ!!」 乗船していた日本の空挺中隊も、科学者たちも、全員が顔面を紙のように真っ白にして、大破した艦内でパニックを起こして逃げ惑う。
太郎は白目を剥きながら、泥酔して「太郎様、ぎゅってしてくださいましぃぃぃ♡」と迫る裸の姫様を全力でバックハグして寝かしつけるのが限界だった。
「……あかんな。このままじゃ虎の獣人星系に着く前に、俺の船が自沈する。
急遽、一番近い星系にランディングして、船の修理を行うぞ……!」 太郎は幽体離脱しかけた声で指示を出し、満身創痍の黒い戦艦は、進路を変更して最も近くにあった未知の惑星へと緊急着陸することとなった。
滑り込んだのは、地表の八〇パーセントが広大な『海』によって覆われた、水と神秘の惑星だった。 この星の支配種族は、水中での圧倒的な魔法クオリティを誇る【人魚族】。
しかし彼らは水中から出てこないため、陸地にあるわずかな交易用の港町は、他星系への窓口として住み着いた、水陸両用のモフモフとした愛らしい外見の【ラッコ系の獣人種族】が治めていた。
「いやぁ、山田の旦那! えらい壊れ方の宇宙船だねぇ! まるで大怪獣にでも踏み潰されたみたいだ!」 ラッコの職人たちが短い手を叩きながら、宙港に停められた戦艦の悲惨な大破具合を見て、呑気に笑う。
「あはは……。ちょっと身内のお酒の席で、怪獣が暴れちゃいましてね。
ラッコ親方、お礼ははずみますから、可能な限り早く修理をお願いしますよ」 太郎は胃の痛みを隠しながら、要領よくラッコの商人たちと交渉。
ドワーフのメカニックや自衛隊の技術者たちも交え、この『海の星』の港町で、数週間の足止め(もたもたとした船の修理期間)を余儀なくされるのだった。
*
だが、山田太郎たちがこの海の星で「もたもた」と船の修理や、自衛隊同士での生温かい日常に胃をキリキリと痛ませている、その間にも。
全宇宙のパワーバランスの裏側では、太郎の想像を遥かに超える、恐ろしい政治的・軍事的な地殻変動が、音を立てて動き始めていた。
――ガラム王国の砦の壊滅、ドワーフの国のエネルギー掌握、王都教会の完全降伏、そして宇宙ゴブリン王国の無条件降伏と、虎の獣人王国への『八時間の進撃大号令』。
さらに、今回は『地球』という未知の軍事勢力(自衛隊)の影までが太郎の背後に見え隠れしている。
現代兵器の優位性を隠し持ち、言葉一つで世界をハッキングして国々を次々と軍門に降らせていく最凶の調教師・山田太郎と、その嫁であるフルスペック破壊神シャルロットの進撃は、宇宙の既存の国家たちにとって、もはや無視できない『全宇宙共通の最大の脅威』と化していたのだ。
「これ以上、あの魔王と破壊神の進撃を許せば、我らの星系もすべて奴らの『お散歩(征服)』の餌食となるぞ……!」
「奴らは、すでに完全支配した虎の獣人星系を、地球人の『最初の極秘駐留基地(租界)』にするつもりだ! 牙城を築かれる前に、今こそ全宇宙が団結し、あの怪物を討ち果たすための絶対の包囲網を築くのだ!」 海の向こうの星々の闇にて、太郎たちの進撃に怯える数多くの宇宙国家や軍事帝国の大使たちが極秘裏に大集結し、歴史上初となる【対破壊神同盟】が、密かに結成されていたのだ。
彼らは太郎たちが海の星でもたもたしている時間を絶好のチャンスと捉え、国家予算のすべてを投じて、持てる全戦力を一つの座標へと集結させ始めていた。
その罠の終着点こそが、太郎たちが拠点化しようと向かっている【虎の獣人の星系】だった。 何も知らない太郎たちが、数週間後に修理を終えて虎の獣人の星系へと到着したその瞬間、彼らを待ち受けているのは、
虎の獣人たちの残党だけではない。
宇宙中の国家が、破壊神を抹殺するためにかき集めた、数万、数十万隻に及ぶ『対破壊神同盟の大艦隊』による、歴史上最大の絶対的な待ち伏せの包囲網だったのだ。
現代の銃火器の優位性を完全に失いながらも、日本の空挺中隊や技術者という新たなアセットを従え、海の星での修理に追われる山田太郎。
背後で蠢く宇宙規模の『魔王包囲網』の足音に微かに警戒心を高めながらも、隣で日本酒の余韻から覚めて「太郎様、もうお酒は我慢いたしますわ……♡」としおらしく手を握ってくる最強のワイフの手綱を握り、四十歳の参謀は、次なる過酷な星々の海へと、再び装甲車のアクセルを踏み込む日常の真っ只中にいるのだった。




