泥棒猫の日本語乱入と陸自の挑戦!
泥棒猫の日本語乱入と、市ヶ谷への挑戦状
電磁ステルスモードで夜の日本の領空へと潜入した、漆黒の宇宙戦艦。
その静まり返った艦内の迎賓室にて、山田太郎一等陸尉(四十歳)の実家の両親を迎えての『極秘の結婚報告(お披露目会)』は、感動的な空気の中で進行していた。
太郎の隣で、130センチの小さな身体をさらに縮こまらせ、ドレスの裾を小さな指先でぎゅっと握りしめていたシャルロット姫様。
彼女は、太郎の脳内の自動翻訳システムから猛練習して覚えた本物の日本語で、涙をボロボロと流す太郎の母親へ向かって、たどたどしくも真っ直ぐに頭を下げた。
お父様、お母様。はじめまして、シャルロットです。
……太郎様を、世界で一番、大切にいたします。よろしく、おねがいちます
太郎……お前、こんなに健気で、良いお嫁さんを連れて帰ってきたのかい……っ!
もはや、太郎の結婚は諦めていた両親の感情は、この可憐な少女を見た瞬間感情が爆発した。
母親が涙ながらに姫様の小さな身体をぎゅっと抱きしめ、シャルロットも太郎を壊さないために培った『フカフカの力加減(ゴジラ基準)』で優しく抱き返した、まさにその最高潮に温かい瞬間だった。
――ガチャン!!! と、迎賓室の自動ドアが勢いよく跳ね開けられた。
「お義父様! お義母様! お待ちくださいまし! 太郎様のお嫁さん候補は、そのシャルロット様だけではございませんわ!!!」
大音量で部屋に乱入してきたのは、白衣の医療服の胸元をこれでもかと強調し、猫耳をピンと直立させたアリスお嬢様と、その背後で無表情のまま直立不動の姿勢を取るお付きのメイドだった。
驚くべきことに、アリスの口から飛び出したのもまた、完璧なイントネーションの『本物の日本語』だったのだ。
「はじめまして、お父様、お母様! 私、アリスと申しますわ! 宇宙の大商会の令嬢であり、太郎様の命の灯火をベッドの上で繋ぎ止め続ける、専属のメディック(正妻候補)ですの! 太郎様を干からびさせないためにも、私のような豊満で健康的な妻が必要不可欠ですわ、にゃん♡」
「な……なななっ、何ですってぇぇぇ!?」
太郎の父親と母親は、宇宙船の構造よりも、猫耳をパタパタさせる亜人の美少女が完璧な日本語で「息子の夜のストッパーだ」とのろけて乱入してきた事実に、今日一番の衝撃を受けて目を白黒させた。
そう、アリスたちケット・シーの面々が、太郎に極秘で死に物狂いの日本語教育を履修していた真の理由。
それは、【太郎の脳内翻訳機能が届かない、地球の実家での挨拶の場において、シャルロット一人に正妻の座を独占させないための、完璧な保険】だったのだ。
日本語の概念さえ脳内データからすり合わせれば、あとは種族特性の知性でいくらでも発音できる。
彼女たちの強欲な執念は、地球の言語の壁すら秒速(学習)していたのである。
「ちょっと! アリス、貴女また私の太郎様に気安くアプローチを……! むきーっ! お義母様の前ですが、大爆発(嫉妬)してそのお耳ごとねじ切って差し上げますわ!!」
「あら、新皇帝のシャルロット様。物を壊したら、太郎様からの夜のご褒美が永久にマイナスになる規律、お忘れかしら? ほらほら、悔しかったら私みたいに日本語で太郎様を誘惑してみせなさいな♡」
太郎の両親の前で、完璧な日本語による『泥沼の三角関係修羅場(第ニラウンド)』の火蓋が切って落とされる。
「お前ら……実家への挨拶を戦場にするんじゃないよ……」
太郎は冷や汗を滝のように流し、脳内で完全に宇宙猫の顔をしてへたばるのだった。
*
一方、その様子を、防衛省の情報畑から引っ張ってきた三等陸佐(情報将校)や、三人の技術研究官たちと共に、冷徹な軍人の目で見つめていた一等陸佐(基地司令)の表情は、どこまでも厳格で、全く信用していない不遜なものだった。
「――フン。山田一尉。身内の茶番はそこまでにしておけ」
一佐は腕を組み、冷酷な声を響かせた。
「お前がこの巨大な漆黒の戦艦をどこからか鹵獲(強奪)してきた事実と、あの二メートルのゴブリン兵の真偽は認めよう。
……だが、その130センチのシャルロット王女とやらが、指先一つで我が国の10式戦車クラスの複合装甲を一瞬で消し炭にする『フルスペックの生物兵器』だというハッタリに関しては、私は未だに【一〇〇パーセント、全く信用していない】からな」
一佐の背後に控える空挺の分隊員たちも、完全装備でいつでも使えるように油断なく構えたまま、太郎の胸元で「ふにゃ……♡」と名前を呼ばれて舞い上がっているロリ巨乳の姫様を、極めて警戒しつつも値踏みする目で睨みつけていた。
彼らは異世界人とは違う。
現実に目の前で星が滅ぶような破壊劇を見ていない彼らにとって、目の前の少女は「山田一尉を誑かしている、巨大な乳を持つお色気要員」の範疇を出なかったのだ。
「お前がどれだけ言葉でその『異常性』を並べ立てようが、我々自衛官は、現実の戦闘データを見るまでは額面通りに受け入れるわけにはいかん。
……もしこやつが本物の戦略兵器だというなら、山田一尉、明後日の昼、我が自衛隊の最高極秘演習場(富士の裾野)にて、我が陸自の総火力を以て、その娘の【実証試験(耐久・火力テスト)】を行わせてもらうぞ、お前たちの戦力を、文字通り丸裸に検分させてもらう」
一佐の、市ヶ谷の陸上自衛隊のプライドを懸けた、徹底した実証の要求。
それを聞いた瞬間、太郎は引きつったプロの笑みを完全に消し去り、内心で(うわぁ……司令、本気でゴジラの尻尾を踏み抜きにいきやがったよ……)と、背筋に強烈な悪寒を感じて戦慄していた。
(本当に戦車砲やら対戦車ミサイルなんかを姫様に撃ち込んでみろ。姫様が『太郎様をいじめる悪いロボット(自衛隊)』だと勘違いして、手や口からあの超高熱線(狙撃熱線)を一発でも放った瞬間、富士の演習場はおろか、市ヶ谷の防衛省の本省ビルごと日本の防衛中枢が一瞬で消し炭になって、本当に地球滅亡のラスボス戦が始まっちゃうからねぇ……!)
だが、ここで拒否すれば、今後日本が宇宙での外交を見誤る、宇宙ではシャルロットの力を無視出来ない、何と言っても宇宙ではシャルロットこそが最強のバランスメーカなのだからシャルロット無しの交渉は有り得ない。
日本人として公務員として日本の外交の失敗は防がなければならない。
太郎は胃の痛みを限界まで噛み締めながら、隣でアリスに日本語でマウンティングされてイライラしているシャルロットの小さな手を、そっと握りしめた。
「……分かりましたよ、司令閣下。明後日の深夜、陸自の実証試験、喜んでお受けしましょう、……ただし、我が山田家の最強のワイフの『本気』を見て、後悔しないでくださいねぇ」
ただの手綱だけで世界最強の可愛い怪獣を必死に御している山田太郎。
アリスたちの日本語乱入による正妻戦争に胃をキリキリと痛ませ、自衛隊の陸上戦力が現実に撃破(?)される恐怖の『実証試験』という名の地獄のタイムリミットを睨みつけながら、如何に古巣の陸自のダメージを減らすことができるか悶々と考えるのだ。
神隠し士官の強烈すぎる帰省編 富士裾野の実証試験と、陸上自衛隊の敗北編へ続く




