スターゲイト
なんやかんやで毎日、大商会のお嬢様と新皇帝の「嫁の座」を賭けたキャッキャウフフな大騒ぎ(というか太郎にとっては胃に穴が空きそうな修羅場)を繰り広げながら、黒い海賊戦艦はついに目的地へと到達していた。
宇宙のパワーバランスの境界線――【古代の大転送門】
星々の彼方、超古代人の本拠地(要塞星)へと一瞬で時空を繋ぐという、超巨大な幾何学的な構造物が、暗黒の宇宙空間に不気味に沈黙していた。
よし、みんな。
ここが地球への、いや彼女の仕様変更(適正化)への本当の正念場だ。気合を入れていこうじゃないの太郎は艦長席に座り、虎の獣人の王から毟り取った極秘データをメインコンソールに叩き込んだ。
ここからのハッキング工作は、まさにこれまでの旅の集大成だった。
いまだかって誰も突破出来ていないと言う、相手は超古代文明の最高防衛システムだ。
太郎の現代の工学知識だけでは突破は不可能。
だからこそ、太郎の指示のもと、ドワーフの天才メカニック(レオの師匠)、そしてゴブリン帝国からレンタルした【電子戦の専門家(天才ゴブリンプログラマー)】たちが一斉にコンソールに噛み付き、種族の垣根を超えた前代未聞の共同サイバー戦を展開したのだ。
――丸三日間。 ブリッジの全員が不眠不休でキーボードを叩き、超古代のファイアウォールを一枚、また一枚と殺し、書き換えていく。
そして三日目の深夜。コンソール一面に美しい黄金の光が走り、大転送門の中央に、時空をねじ切るような漆黒のワームホールがゆっくりと渦を巻き始めた。
『――大転送門、全システム起動。航路、固定完了』
「……ぷはっ! やった、やったぞォォォ!!! ついにゲートを作動させることに成功した!」
太郎はキーボードから手を離し、三日分の疲労と共に深く椅子に背をもたれかけた。
「ふぅ、さすがに全員もう限界だねぇ。夜も遅いし、ひとまず今日は解散! 明日の朝、万全な状態でこのゲートを潜ることにしよう!」
誰もが安堵し、部屋に戻ろうとした、まさにその緊張の糸が切れた一瞬だった。
事件は、またしてもあの『泥棒猫』によって引き起こされた。
山田様ぁ♡ 三日間の不眠不休の電子戦、本当にお疲れ様でしたわ。
……さぁ、専属メディック(アリス)から、山田様のお命を維持するためにも、この最高級のスタミナお薬を……【口移しで】差し上げますわね、にゃん♡」 アリスお嬢様が、完全に演技を捨てたガチの恋心を燃やし、猫耳を小刻みに震わせながら、太郎の唇へ向かってその愛らしい顔をグイグイと寄せてきたのだ。
――その瞬間、ブリッジの大気が、文字通り『臨界点』を迎えて爆発した。
三日間のハッキングの間、太郎が画面に釘付けで全く構って貰えず、寂しさと欲求不満のゲージが【マックス(限界突破)】に達していたシャルロット姫様にとって、それはもはや、王家の規律を以てしても絶対に我慢できるはずがない最強の逆鱗だった。
「――皇帝の夫に触るなぁぁぁ!!! この泥棒猫ォォォ!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォン!!!
姫様は脳のブレーキを一瞬で融解させ、ネグリジェドレス姿のまま激昂。 彼女が怒りに任せて拳を振るおうとしたその瞬間、
太郎は冷や汗を滝のように流しながら、椅子から飛び上がるほどの凄まじい反射神経で、動こうとした姫様の小さな体を【背後からガッチリと抱きすくめた】
「シャルロット、ストップ! ストップ!!! 山田家の第一規律!! 物を壊したら、日の暮れのご褒美が永久にマイナス一〇〇回だからね!!!」
「はぅあぁっ!? た、太郎様っ! チュウがマイナス一〇〇回なんて嫌ですわァァァ!!!」
太郎の名前呼びと、おでこチュウの強烈な人質が、姫様の脳内にクリティカルヒット。
彼女は太郎の腕の中で暴れるのをグッと我慢し、その肉体をフカフカの綿毛のように脱力させた。
――だが、フルスペックの戦闘兵器の「一瞬の力み」は、すでに手遅れだった。 ――メキメキメキ、バリバキィィィン!!! 姫様が怒りのあまり無意識に掴んでいた、ゴブリン戦艦の【メイン操縦レバー(最高硬度の防魔合金製)】が、まるで【乾燥した小枝か割り箸でも折るかのように、中央から見事にグニャリとねじ切られ、木端微塵に粉砕】されていたのだ。
「……あ」 姫様が、あ、やっちゃった、という顔で太郎を振り返る。
……ははは。レバーが、綺麗に消滅してるねぇ。
これじゃあ明日、ゲートを潜るどころか、一歩も発進できないよ。ウケるね、本当に。
全然笑えないけどさぁ……
太郎はへし折れたレバーの残骸を見つめながら、白目を剥いて深い溜息を吐き出すのだった。
結局、新皇帝のレバークラッシュにより、ドワーフのメカニックとゴブリンの専門家たちが「ひ、ひぃぃぃ! 破壊神の嫉妬で船の心臓部が逝ったぞ! 明日の出発は延期だ、総員で徹夜のDIY修理を始めろ!!」と大パニックになり、
【宇宙船の修理に丸一日間のロス】を費やす羽目になるのだった。
今や『名前呼び(ご褒美)』という精神の手綱だけで最強のゴジラワイフを必死に抱きすくめて制御している山田太郎。
アリスたちの猛攻による二度目の船内修羅場で戦艦を半壊(レバー粉砕)させられつつも、なんとか世界滅亡の暴発を防ぎ切った山田家の一行は、一日遅れで修理を完了させ、いよいよ明日、あの渦巻く大転送門の先――超古代人たちの本拠地(要塞星)へと、要領よく次の一歩を踏み出す日常の真っ只中にいるのだった。




