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自衛隊員サバイバル日記改  作者: kero


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ゴブリンが馬鹿だとは限らない

――宇宙ゴブリン王国の本星。 

数万隻の無敵艦隊を、ただ生まれたままの姿(真のnakedスペック)の体当たりと、口や手から放つ漆黒の超高熱線(狙撃熱線)だけで文字通り「分子レベルで消滅」させたシャルロット姫様。

その破壊神級の圧倒的な恐怖の名声の前に、王国は戦う前から完全に崩壊。

無条件降伏の証として、姫様は彼らの頂点たる【ゴブリン帝国皇帝】の座へと押し上げられていた。 


だが、この国は「力がすべて」を国是とする、宇宙の荒くれ者たちの帝国だ。 

確かに、絶対的な破壊の権化たるシャルロットは、彼らにとって平伏すべき神そのものである。

だが――その横に、リードもなしで寄り添い、お守りの帽子(暗視ゴーグル)を被っただけの、魔力も感じられない中年のひょろりとした人族の男、山田太郎が立つことは、彼らにとって別の問題であった。

 

豪奢な赤絨毯が敷かれた王宮の謁見の間。 黄金の玉座へとシャルロットが腰掛け、その隣の配偶者たる席へ、太郎がいつもの要領の良い朗らかな笑みを浮かべて並ぼうとした、まさにその瞬間だった。


「――不敬なりッ!!! どこの馬の骨とも分からぬ薄毛の人族が、偉大なる新皇帝の横に立つなど、万死に値するッ!!!」 それまで元皇帝と共に床に跪いていた、身長二メートルを超える、鋼鉄の鎧に身を包んだ屈強な雌ゴブリン――

【前皇后)】が、怒髪天を突く勢いで跳ね起きた。

彼女はこの国でも一、二を争う武功を誇る、帝国近衛隊長でもあったのだ。 夫人が丸太のような剛腕を伸ばし、太郎の胸元を掴んでそのまま肉片へと引き裂こうと、凄まじい風圧と共に突っ込んでくる。


(うわ、またこの初見殺し格闘ゲームのイベントかよ! 宇宙のゴブリンも真面目なエリートはこれだから嫌なんだよ!) 


太郎は内心で悲鳴を上げつつも、叩き上げの一等陸尉としての身体の記憶を稼働させた。 

突っ込んでくる夫人の超人的な巨体の突進力をそのまま利用し、その剛腕の手首を滑らかな円運動で掴み、重心をわずかにずらす。 


――合気道、本日一回目。 ――ドサァァァン!!! 謁見の間の大気がバリリと鳴った。 二メートルの巨漢たる夫人の視界がぐるりと反転し、己の破壊力がそのまま自分に跳ね返って、抗う間もなく背中から激しく床へと叩きつけられたのだ。


「……ッ!?」 

王宮を埋め尽くしていたゴブリンの高官たちが、一斉に息を呑んで硬直した。

魔力も使わず、ただ手を触れただけで、帝国最強の武人が軽々と投げ飛ばされたのだ。 

太郎は冷や汗ダラダラになりながら、(うわぁ、また完璧に決まっちゃった。もう一回やり直してって言われたらタネがバレて死ぬから絶対やらないぞ!)と

ハッタリの笑顔を貼り付けていた。 


だが、一瞬の静寂の後、王宮を震わせるほどの凄まじい【大歓声】が沸き起こった。


「おおお! 素晴らしい! なんという見事な技だ!」「流石は最凶の伴侶、 破壊神の配偶者に相応しい、底知れぬ実力者だ!!」 口々に太郎を称えるゴブリンたち。


投げ飛ばされたはずの夫人も、痛がる様子もなくニコやかに立ち上がると、太郎に向かって深い敬礼を捧げた。


「……え? はい? なんで皆さん喜んでるの?」 何が何やら分からず、完璧にドン引きして固まる太郎。


一転して極めて丁重な扱いになり、元皇帝の個室へと案内された太郎は、そこでこの帝国の『本当のシステム』について説明を受けることとなった。


いやぁ、山田殿。


見事な手際だった。驚かせてすまなかったな、贅沢なお茶を淹れてくれた元ゴブリン皇帝は、二メートルの巨体に似合わない、ひどく穏やかで知性的な笑みを浮かべていた。

「我が帝国は力を尊ぶが、脳筋の筋肉バカだけでは国家という組織が回らんことは、歴史が証明している。

だからこそ、我が国では【力(武力)と、頭の良い者(知恵)とがペアを組んで統治する】のが、最上の美徳とされているのだ。

現に、俺たちの前体制もな、知恵担当の俺が『皇帝』として書類を回し、力担当の奥方が『近衛隊長』として軍を脅しつけて帝国を回していたのさ。

……ガハハ! 俺なんて、生身の喧嘩なら、そこらのゴブリンの子供にすら負けるぞ?」


「……あ、あなたもですか」 


太郎は、目の前の元皇帝に、生まれて初めて魂の底からの【深いシンパシー(同族意識)】を感じていた。 


つまり、太郎が知らずに投げ飛ばした夫人は、帝国最強の「武力担当」だった。

それを手玉に取ったことで、太郎は「破壊神(シャルロット)に並ぶ、最高位の『知恵担当(あるいは禁忌の暗殺術の使い手)』」として、彼らのシステムに完璧に適合し、実力を証明した形になったのだ。 


これ以降、ゴジラ並みの破壊神の恐怖だけでなく、太郎自身の「合気道」としての実力が認められたことで、帝国との交渉は驚くほどスムーズに流れる理由となった。


実際、太郎が語る現代地球の組織論や戦術思想、そして元皇帝の持つ異界の知識は完璧に噛み合い、二人はいつしか、お互いを深く尊敬し合える最高の『親友』となっていた。 

だが、親友となった元皇帝と共に、王国の最高機密である【異界の量子魔科学】のデータを解析し始めた時、太郎は一つの『決定的な隠し設定(ヒント)』に直面することとなる。


「……山田殿。我が国の量子データと、貴殿の持ち込んだ仕様書を照らし合わせた結果だが。……やはり、そのお姫様(破壊神)の肉体を、ただの人族の女の子へと『元に戻す方法』は、この宇宙のどこを探しても存在せんよ」 元皇帝の言葉に、太郎は深く溜息をついた。

分かっていた現実だ。


「だがな、山田殿。我が世界の古い魔科学の観念から言えば、戻せないなら【より上位のシステムを上書きして、外側から制御(デバッグ)する】というアプローチがある。

……このデータの残滓を見る限り、その純粋戦闘兵器の『ケットシーの科学の根源、大元のマザーシステム』を造り出した超古代人たちの本拠地は、この星系のさらに遥か彼方、獣人たちの住む『虎の獣人の星系』の奥深くに眠っている可能性が極めて高い」「戻せないなら、上書きする……


なるほど、次なる大冒険の発端(ルート)が見えたねぇ」 太郎はハッキングした新たな航路データをポケットに仕舞い込んだ。 


この時、太郎はまだ知らなかった。己を人質にしつつ、彼女に人間の常識を教え込むために始めたこの『世界探索の旅』の行く先々で、シャルロット姫様がその圧倒的な武力によって、次々と星々を軍門に降らせていくことを。


そして物語が終わる頃には、既存のすべての宇宙国家が、ただお散歩(調査)をしていただけの、破壊神の名のもとに完全に征服されているという、恐るべき未来のタイムラインが、ここから爆発的に動き出すことを――。



「さぁ、山田様! 宇宙ゴブリンの星系の調査もひと段落いたしましたし、お体の隅々まで、より濃密な『夜の健康診断』を始めましょうねぇ……にゃん♡」 

宇宙への次なる旅路を前に、拿捕した巨大戦艦の豪華な客室。


アリスお嬢様とお付きのメイドの二人による、本気の婿取りを狙った猛攻アタックは、ますますその過激さを増していた。猫耳をグイグイと寄せ、太郎のベッドのうえを完全に占拠する。


「――っ、そこの泥棒猫どもォォォ!!! 太郎様に触るなと言っているでしょうが!! むきーっ! シャルロット、もう限界を突破して大爆発(欲求不満)しますわよ!!!」 部屋の隅では、ネグリジェ姿のシャルロット姫様が、ついに脳のシステムを完全にショートさせていた。 


そうなのだ。ケットシーの星を出発し、アリスお嬢様たちが「専属治癒士」としてクルーに加入して以来、太郎の周りには常に猫耳の監視の目(安全性テストという名のアタック)があり、シャルロットは太郎の健康を労る自制心と、激しい嫉妬心、そして何よりも【アリスが来てから、大好きな太郎様と一度も『実戦(SEX)』ができていないという、凄まじい欲求不満】のトリプルパンチにより、完全にブレーキの壊れた爆弾と化していたのだ。 


そしてその夜、アリスへの当てつけとばかりに、限界を迎えた姫様の情熱が、ついに太郎のベッドの上で大爆発した。 ――ガガガガガ、ズドォォォォォン!!! それはもはや、夜の営みなどという生ぬるいものではなかった。


宇宙戦艦全体の強固な防魔鋼鉄の隔壁が、メキメキと粉砕されていく大規模な土木解体工事の地鳴り。 

姫様自身はフカフカの力加減を維持しているつもり(大人の女の成長)だったが、欲求不満と嫉妬が乗ったフルスペック生物兵器の愛の馬力は、地球の中年男の肉体を粉々に粉砕するには十分すぎた。


「ひ、ひぃぃぃっ!? 山田殿の生命活動が、一晩でマイナス一二〇パーセントまで消滅している!!」 翌朝、アリスお嬢様、ドワーフ、エルフ、メイドの四人の治癒士(メディック)が悲鳴を上げて太郎の元へ駆け寄り、持てる全魔力と最高級ポーションを嵐のように注ぎ込んだ。


……しかし、ダメだった。四人がかりの最大出力の回復魔法をもってしても、ゴジラ姫様の一晩の愛のクレーターの深さには、全く【回復が追いつかない】ほど、太郎の肉体は完全に干からび、粉砕され文字通りの萎びた肉袋(仮死状態)と化していたのだ。


「あ、あかん……この船の救難システムじゃ、太郎の救命が間に合わん……。

急遽、ゴブリン帝国に戻って、治療を行うぞ……!」 ドワーフの指示のもと、

太郎は幽体離脱しかけた状態で了承し、船は慌てて宇宙ゴブリンの本星へと U ターン。 


王宮の最新医療室へと運び込まれた太郎の、悲惨すぎる骸骨の姿を見た親友の元ゴブリン皇帝は、二メートルの巨体をブルブルと震わせて完全にドン引きしていた。


「お、おい……山田殿、あんた、毎晩毎晩、あのフルスペックの破壊神の愛欲をその身一つで受け止めてるのか……!? どんな過酷な星間戦争の戦場より地獄じゃねえか……! よし、分かった。山田殿、あんたは全宇宙の平和を守る『本物の勇者』だ。


我が帝国の総力を挙げて、あんたの命の手綱(ストッパー)をバックアップしてやる!」 元皇帝は、自らの奥方(近衛隊長)の夜の恐ろしさを知っているからこそ、太郎の受けている地獄の所業を完璧に理解し、涙を流して同情。


即座に、帝国の誇る【最新の宇宙医療機器一式、および選りすぐりのゴブリン治癒士八名、さらに太郎の睡眠を守るための『近衛護衛兵四十名』】を、太郎の船へと追加で派遣することを提案・したのだ。

「さらにだ、山田殿。あんたの持っているあの火薬の槍(89式小銃)だが、我が国の魔科学から見れば、ただの原始的なガラクタだ。これからの過酷な旅に備え、我が王国の誇る【ゴブリン製個人用プラズマ兵器一式】、そしてあの古臭い鉄の車(高機動車)の代わりとして、どんな悪路や宇宙空間でも反重力結界で滑らかに走る【反重力装甲バギー・装甲車】を、コンテナに満載してやるぜ!」 


太郎にしたら、この超過激な追加アセットの数々は、単なる貰い物ではなかった。


(……ありがたいねぇ。現代の銃火器の優位性が宇宙で完全に消滅した今、この『ゴブリン製の超近代兵器』と『反重力装甲車』があれば、次なる星系での工作や、物理的な戦闘の戦術の幅が跳ね上がるからね) 何より、愛しのシャルロットが、もし他の星系の捕虜や海賊に遭遇した際、どのような「力加減の対処」をするか、この最高級の防衛アセットがあれば、彼女に余計な力を使わせずに、より安全に『人間基準(太郎優先)』の教育を施すことができるという、ひどく冷静な参謀の判断でもあった。 


(夜戦の決定により、太郎が三日三晩生死の境をさまよった末に、ゴブリン帝国の超近代ポーションと総勢十数名のメディック部隊の力によって、奇跡的に元の健康な肉体へと完全復活を遂げた、その日の昼下がり――) 太郎がベッドの上でガバッと跳ね起きると、部屋の隅の薄暗い闇の中で、シャルロット姫様が、自分がまた太郎を死にかけさせた恐怖と罪悪感から、ひどく落ち込んだ様子で体育座りをしてシクシクと泣いていた。彼女は太郎に名前を呼ばれるまで、近づくことも、顔を上げることもできずに、ぶるぶると震えていたのだ。


「――おいで、シャルロット。お前は俺のために、力加減を我慢してくれたんだろ? 怒ってないよ。お前は世界一の、最高の奥さん(ワイフ)だからね」 太郎が優しくその本当の名前を呼び、彼女の金髪を優しく撫で回すと、「あ、あぁ……♡ 太郎様ぁ……!」 姫様は顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら太郎の胸元に頭をうずめ、ようやくその愛らしい顔に、世界で一番幸せな本物の乙女の微笑みを取り戻すのだった。 

それを見たアリスお嬢様とメイド、そして新メンバーの治癒士たちは、太郎を救世主として崇める【もはや日常である】。


だが、その直後、 シャルロット様には、一歩も負けませんからね!」 と、ガチの恋心を燃やして太郎のベッドのうえへと大胆に詰め寄ってきたのだ。


「……は? 太郎様の専属メディック……? 私の旦那様に、まだその不届きなお耳で近づこうとしていますの……? むきーっ! 次の星系へ着く前に、そのお耳ごと消し飛ばして差し上げますわ!!!」 


一転して、ブリッジ全体が超古代のシステムをもバグらせる、恐るべき【嫉妬に狂う新皇帝VS大商会お嬢様の、泥沼の三角関係修羅場】の勃発。 


ゴブリン製の超近代反重力装甲車と大量の兵器を積み込み、命を繋ぎ止めたはずの山田太郎だったが、最強のワイフの嫉妬のプレッシャーと、グイグイ迫るケット・シーのお嬢様たちの間で、再び胃に穴が空きそうな大ピンチに直面するのだった。 


次なる目的地は、超古代人のデバッグデータが眠るという、宇宙で最も獰猛な武が集う星――『虎の獣人の星系』。 四十歳の最凶の調教師・山田太郎に、果たして、明日はあるのだろうか――?

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