嫁無双
一糸まとわぬネグリジェ姿(?)のまま、漆黒の宇宙空間へと解き放たれたシャルロット姫様。
彼女は超古代の戦闘兵器としての謎の推進方法(空間を歪める慣性制御)を使い、三次元の宇宙を縦横無尽に駆け巡った。
宇宙ゴブリン艦隊が一斉に放った、小惑星をも一撃で蒸発させる【反物質主砲の斉射】。
しかし、姫様はその直撃を一切無視して直進した。
ドゴォォォン!!!と激しい閃光が弾け、対消滅の熱と衝撃波によって、彼女の衣服は一瞬にして綺麗さっぱり消滅した。
だが、その生まれたままの姿(真の naked スペック)となった白い肌には、傷一つ、赤み一つすらついていない。巨乳をプルンプルンと揺らしながら、彼女は満面の笑みのまま、自らを一発の『不滅の弾丸』と化して、宇宙ゴブリンの主力戦艦へと頭から体当たりを敢行したのだ。
――ズガァァァァァン!!!!!
小さな少女の直撃を受けた巨大戦艦が、中央から文字通り真っ二つに爆砕する。それだけではない。姫様は宇宙空間で可愛らしく口を開けると、その手や口から、大書庫のデータにあった通りの【時空をねじ切る超高熱線のビーム(狙撃熱線)】を縦横無尽に照射し始めた。
当たったゴブリンの戦艦は、爆発する暇すらなく、分子レベルで消滅して空間から掻き消されていく。
「ひ、ひぃぃぃ……ッ! 本当にゴジラだ! 脳内じゃなくて本物のゴジラが宇宙で大暴れしてるよ!!」
ブリッジのモニターを見つめながら、さしもの太郎も冷や汗が止まらず、ガタガタと歯を鳴らして震えていた。
圧倒的すぎる。
時間をかけて、一船残さず、徹底的に殴殺されていく宇宙ゴブリンの艦隊。
アリスお嬢様は、その歴史の神話が目の前で現実となった恐怖の光景に、猫の耳を完全にペタンと伏せ、尻尾を限界まで膨らませて、失禁寸前で硬直していた。
(間違いないわ……あの一切の攻撃が通らない、無敵の圧倒的な破壊力……あれこそが、我が先祖が恐れ、歴史の闇に封印した、フルスペックの純粋戦闘兵器……! そして、あの男はそれを……言葉一つで操っている……!)
やがて、太郎の命令通り、一番小さなゴブリンの偵察艇『一隻だけ』を恐怖のメッセンジャーとして残し、数百のゴブリン艦隊が声もなく宇宙の塵へと消え去った。
「――はぁ。さてと、みんな。作戦は完璧に成功だけどね……。
シャルロットが戻ってきたら、俺、いつも以上に命がけで、彼女を愛して(抱き枕になって)あげなきゃいけないんだよねぇ……」
太郎は艦長席で深く溜息をつき、今夜のベッドのうえで起きるであろう『絶対的な上位存在からの蹂躙(夜戦)』に向けて、男としての本気の、悲壮な覚悟(諦め)を新たにしていた。
あそこまで興奮したゴジラ姫様だ。今夜は干からびるどころか、肉体が消滅しかねない。
その太郎の言葉と、人類の平和のために自らの肉体を犠牲にせんとする背中を見た、ドワーフのメカニックとエルフの戦士の二人の治癒士は、涙を流して太郎の前に平伏した。
「山田殿……! いや、太郎殿!!! 俺たち、あんたのその命がけの覚悟、魂に刻んだぜ! 今夜、あんたがどれだけ干からびようが、俺たち二人が命をかけて、その回復魔法で絶対に死の淵から引き戻してやるからなァァァ!!!」
それを横で見ていたアリスお嬢様も、激しい感動と畏怖に胸を打たれていた。
「山田様……貴方は、色ボケなどではなかったのね。自分の身を破壊神の生贄として捧げ、全宇宙の滅亡をベッドの上で防いでいる、本物の『人類の救世主(勇者)』だったのね……っ! 私にも、我が大商会のポーションを使って、何かお手伝いできることはありませんか!?」
*
戦い済んで、ケット・シーの星系本星へと帰還した一行。
アリスお嬢様からの公式な報告、そして逃げ帰ったゴブリンの一隻からの恐怖の証言、さらには大商会の偵察艦のデータにより、宇宙中に一つの『神話』が爆発的に広まっていった。
――【歴史の破壊神フルスペックが復活し、それを完全に手綱でコントロールしている、魔王・山田太郎】。
太郎の存在は、星々においても、完全に『神格化』され、誰も逆らえない絶対的な抑止力としてその名をとどろかせることとなった。
だが、その裏での『夜戦』の結果、山田太郎は【丸三日間の間、生死の境をさまよって、完全に複雑骨折&仮死状態】になっていた。
新メンバーの二人と、アリスお嬢様が提供したケット・シーの最高級濃縮ポーション、そして全魔力を込めた超回復マルチキャストが不眠不休で注ぎ込まれ、三日目の朝、太郎はようやく元の四十歳の健康な肉体へと奇跡の復活を遂げた。
「……ぷはっ! はぁ、はぁ、死んだ、三回くらい三途の川の自衛隊演習場が見えたよ……」
太郎がベッドの上でガバッと跳ね起きると、部屋の隅の薄暗い闇の中で、シャルロット姫様が、前回の謹慎の時のように小さくなって、ひどく落ち込んだ様子で体育座りをしていた。
彼女は、自分がまた太郎を殺しかけた恐怖と罪悪感から、太郎に名前を呼ばれるまで、近づくことも、顔を上げることもできずに、ぶるぶると震えていたのだ。
「――おいで、シャルロット。怒ってないよ」
太郎が優しくその本当の名前を呼ぶ。
「た、太郎様……っ!」
姫様は顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらベッドへと縋り付いてきた。太郎は苦笑いしながら、彼女の頭を優しく、本当に愛おしそうに撫でてやった。
「お前は、俺のために一生懸命、殺さないように我慢してくれたんだろ? ちゃんと分かってるよ。お前は、世界一の、最高の奥さん(ワイフ)だからね」
「――ぁ、あぁ……♡」
太郎の胸元に頭をうずめ、ようやくその愛らしい顔に、世界で一番幸せな本物の乙女の微笑みを取り戻すシャルロット。
二人の本当の意味でバグの塞がった純愛空間が、再び部屋を満たしていた。
だが――その幸福な空気の扉が、カチャリと開いた。
「山田様! 身体の具合はよろしいですか!? 私、アリスと、お付きのメイドの二人……これからの山田様の『お命のスペア(ストッパーの維持)』のために、新しくこの船の【専属治癒士】として、クルーに加わることを決意いたしましたわ!」
部屋に入ってきたのは、白衣(?)のような上質な医療服を身に纏い、猫耳をパタパタとさせながら、太郎のベッドのうえへと大胆に詰め寄ってくるアリスお嬢様とメイドの姿だった。
その瞬間、太郎の胸元にいたシャルロット姫様の瞳から、すべての光が消え失せ、周囲の大気がバリバリと激しい不穏な火花を散らし始めた。
「……は? 太郎様の……専属、治癒士……? 私の、旦那様に、どこの猫泥棒が気安く触ろうとしていますの……? むきーっ! 私の嫉妬の炎で、そのお耳ごと消し飛ばして差し上げますわ!!!」
「ひ、ひゃぅあぁっ!? 破壊神が、今度は嫉妬で狂牙を剥いたわァァァ!!!」
一転して、医療室全体が修羅場と化す、恐るべき【泥沼の三角関係】の勃発。
せっかく命を繋ぎ止めたはずの山田太郎だったが、最強のワイフの嫉妬のプレッシャーと、グイグイ迫るケット・シーのお嬢様たちの間で、再び胃に穴が空きそうな大ピンチに直面するのだった。
四十歳の中年・山田太郎に、果たして、明日はあるのだろうか――?




