古代文明の末裔との邂逅
檻から救出されたのは、超古代文明人の正統なる末裔である【ケット・シー(猫型亜人)】の種族だった。
成人しても身長100センチから150センチほどの小柄で温厚な彼らこそが、かつて超古代の遺伝子改良技術を操り、手先が器用で機械操作に向いているという理由で、毛の少ない『人族(人間やドワーフ、エルフ)』を労働の奴隷として造り出した創造主の末裔だったのだ。
現在は各種族が同等の権利を持つ存在として暮らしていた。
「あ、あの……山田様。私たちは、海賊に船を襲われ、身代金目的で捕らえられていたのです」
救出されたのは、近隣の豊かな星系を根拠地にしている、ケット・シーの大手交易商人の令嬢であるアリス(120センチ・十七歳)と、そのお付きのメイドだった。
アリスはお守りの銃剣を腰に帯びたシャルロット姫様を見た瞬間、猫の耳をピンと直立させ、尻尾を限界まで膨らませて完全に硬直した。
「……ま、間違いないわ。あの衣服を破らんばかりの豊満な胸、そして、触れただけで宇宙兵器を紙細工のように粉砕する、魔力なき圧倒的な肉体の強度……! 貴女、超古代の文献に遺されていた、惑星間戦争用の最高機密【純粋戦闘兵器(破壊神)】のオリジナルスペックそのものではありませんか……!?」
創造主の末裔であるケット・シーにとって、シャルロットの存在は、過去の歴史の中で完全に『伝説・神話』と化していた恐怖の対象だったのだ。
アリスお嬢様は、伝説のゴジラが目の前でネグリジェ姿で立っている事実に、ひどく驚き、腰を抜かしていた。
「お、それは素晴らしい! 捕虜のお嬢様を送るだけで、お礼と情報収集が同時に手に入るなんて、参謀の計画としては一石二鳥だねぇ。
上手くいけば、シャルロット姫様を普通の女の子にするための、超古代人の本拠地の情報も手に入るかもしれない」
太郎は満足げに頷くと、ふと、この巨大な宇宙ゴブリンの海賊船のコントロールブリッジを見回し、隣のドワーフのメカニックに尋ねた。
「ねえ、親方の弟子くん。この巨大な海賊船、システムは完全に生きてるし、俺たちの小さな宇宙船を格納庫に入れたままで、俺たちの『戦利品(もらい物)』にして、俺がこっちの舵を握って本星まで運転して帰っちゃってもいいかな?」
「……は? 拿捕した巨大戦艦を丸ごと奪って、自分で運転して持って帰る……!?」
ドワーフのメカニックとエルフの戦士は、太郎のその『常識を遥かに超越した、えげつない強欲さ(要領の良さ)』に、開いた口が塞がらずにドン引きしていた。
破壊神を従える魔王は、海賊の財産すら船ごと一滴残さず吸い尽くすつもりなのだ。
*
その夜。拿捕した巨大海賊船の豪華な船長室にて、アリスお嬢様とお付きのメイド、そして捕らえられた海賊のボスたちは、一晩の夜営を迎えていた。
だが、真夜中の午前二時。彼らの部屋の壁を透過して、宇宙戦艦全体の強固な防魔鋼鉄の隔壁が、【ズガガガガ、地、地地地……!!! と、凄まじい大規模な土木掘削工事(重機による粉砕作業)】のような、不気味で激しい振動を始めたのだ。
「な、何事ですか!? また敵の襲撃ですか!?」
アリスお嬢様がベッドの上で猫耳を伏せてガタガタと震え、メイドが彼女を必死に抱きしめる。
部屋の端にある檻からは、二メートルの宇宙ゴブリンのボスたちが「ひ、ひぃぃぃ! あの部屋の奥から、破壊神の狂ったような、しかし何かを必死に我慢している絶叫が聞こえるぞ! 宇宙が滅びる前兆だ、助けてくれ!!」と、恐怖のあまり失禁しながら神に祈りを捧げていた。
それは、大人の女性に成長し、太郎の身体を守るために極限まで力を抜いた『フカフカの抱き枕二重ロック』を太郎に施している、シャルロット姫様の限界突破の愛の地鳴り(夜戦)だったのだが、何も知らない彼らにとっては、ただの終末の天変地異にしか聞こえなかったのだ。
そして、翌朝。
船長室の扉が開き、アリスお嬢様が恐る恐る廊下へと出たとき――彼女は、目の前で繰り広げられたあまりにも凄惨な光景に、言葉を失って硬直した。
そこには、衣服の乱れ一つないシャルロット姫様が、それはもう満足度二〇〇パーセントの幸福に満ち溢れた笑顔で、一人の男を『お姫様抱っこ』して歩いていた。
その腕の中にいる山田太郎は、全身のすべての生気と水分を吸い尽くされ、文字通り【全身骨折の骸骨のようになって、息も絶え絶え、ぴくりとも動かない状態】で、完全に干からびていたのだ。
「ひ……ひゃぅあぁっ!? くしゃくしゃのミイラが……! 山田様が、一晩であの伝説の破壊神に吸い尽くされて、骸骨になっておられるわァァァ!!!」
アリスお嬢様は、その大人の愛の破壊力(物理的圧殺)のあまりの恐ろしさと戦慄に、猫の目を白黒させながら、その場にバタリと倒れ込み、気絶するハプニングに見舞われたのだった。
「お、おい! 最大出力の回復魔法だ! 早く聖水を飲ませろ、人類の勇者が本当に死んじまう!!」
ドワーフのメカニックとエルフの戦士が悲鳴を上げて太郎の元へ駆け寄り、高機動車から降ろされた最高級ポーションを何本も注ぎ込みながら、嵐のような超回復マルチキャストを敢行。
数十分後、太郎の肉体はようやく元の四十歳の健康なスペックへと完全復活を遂げた。
「……ぷはっ! はぁ, はぁ, はぁ……! 助かった、エルフのポーション、宇宙でもマジで効くねぇ……」
ベッドの上でガバッと跳ね起き、命拾いした涙を流す太郎。
それを見た新メンバー二人は、太郎の前に深く深く平伏した。
「山田殿……! あんたはやっぱり、自分の身を毎晩毎晩、あの世界を滅ぼす破壊神の生贄(抱き枕)として捧げ、その身をボロボロに破壊されながら、宇宙の滅亡をベッドの上で防ぎ続けている……世界でただ一人の『本物の勇者』だな……っ!
涙を流して、太郎を「人類の救世主」として崇め奉る新メンバーたち。
太郎は、自分の隣で「太郎様、嬉しすぎて羽目を外しすぎました、ごめんなさいと♡」とピュアに微笑む最強のワイフの姿に、脳内で宇宙猫の顔をしながらも、深い溜息を吐き出すのだった。
その後、気絶から目覚めたアリスお嬢様をなんとか落ち着かせ、拿捕した巨大なゴブリン海賊船の舵を太郎自らが要領よく握って運転し、山田家の一行は、ついにアリスの父が待つ大商会の根拠地――
『ケット・シーの星系本星』の巨大な宇宙港へと、無事ランディングを果たすのだった。
お嬢様の救出のお礼、海賊船艦長の莫大な賞金、そして巨大戦艦の丸ごと拿捕という完璧な戦果を挙げた太郎。
しかし、この創造主の末裔たちが住む星系本星の奥で蠢く、超古代文明のさらなる闇と、姫様の(仕様変更)を巡る新たなる頭脳戦の幕が、今、静かに上がろうとしていた。




