勇者?違う、魔王だ!
「――お、おいおいおい、嘘だろ!? レーダーに巨大な金属反応! 宇宙船だ、自分たち以外の宇宙船が本当にいやがった!!」
星々の海を往く超古代の小型宇宙船。そのブリッジで、山田太郎一等陸尉(四十歳)はメインコンソールに映し出された漆黒の大型艦影を見つめ、これまでにないほど大興奮で声を弾ませていた。
地球のSF映画さながらの宇宙の邂逅に、男のロマンを刺激された叩き上げの士官は完全に舞い上がっている。
さらに、船内スピーカーからパチパチと雑音交じりで響いてきた音声が、太郎の興奮を最高潮へと跳ね上げた。
――勧告。正体不明のネズミめ。
こちらは【宇宙ゴブリン帝国】の略奪艦である。
直ちに武装を解除して停船せよ。
さもないと、我が艦の主砲を以て一瞬で宇宙の塵に変える
その言葉は、なぜか脳内に直接翻訳される奇妙な響き――聖国や大書庫で耳にした、あの【超古代文明語の音声】そのものだった。
この世界のゴブリンは、かつて超古代の安全弁の暴発によって別世界から引きずり込まれた犠牲者の末裔だ。
地上にいたチビで粗暴な野生種とは異なり、宇宙を股に掛ける彼らは身長二メートルを超える強靭な巨体を誇り、はるかに大きく、賢く、凶暴な宇宙の無法者として悪名を轟かせていた。
「すごいねぇ! 古代文明の生き残りのシステムが、星の中だけでなく宇宙でも稼働しているんだ!」
「ひ、ひぃぃぃっ!? 武装解除に停船だって!? 山田、何を呑気に喜んでやがる、海賊だぞ! 宇宙のゴブリンの大型戦艦に狙われているんだぞ!!」
ドワーフのメカニック治癒士が、顔面を紙のように真っ白にして絶叫した。エ
ルフの女性戦士も、魔導弓を持つ手を硬直させて、絶望の表情を浮かべている。
だが、新メンバー二人の戦慄とは裏腹に、ブリッジの空気はどこまでもシュールだった。
「あはははは! 停船しないと破壊する、だってさ! クソ義父(国王)のハメ技に比べたら、随分とストレートで可愛い脅し文句じゃないの」
太郎は腹を抱えて大爆笑。
その隣で、シャルロット姫様は「太郎様が楽しそうで、シャルロットも嬉しいですわ♡」と、衣服を破らんばかりの巨乳を揺らしながらニコニコと微笑んでいる。
さらに後部座席では、やんちゃ坊主のレオが、マルチツールを片手に目をギラギラと輝かせていた。
「なぁ、さんぼう! あの黒い宇宙船、大砲がたくさんついてて格好いいぞ! スペック(性能)はどれくらいなんだ? 早くあっちの船に乗れないか、俺、ワクワクしてきた!」
「おい小僧、お前まで頭がおかしくなったのか!?」
ドワーフのツッコミが響く中、漆黒の巨大海賊船が急速に接近。太郎たちの船が小さすぎたため、海賊船の巨大な船腹が観音開きになり、太郎たちの小型船はそのまま吸い込まれるように、海賊船の広大な格納庫へと収納(拿捕)されてしまった。
おおお! おおお! 何時か見た光景・シーンに太郎興奮が最高潮に、脳内ではあの音楽が再生されている。
ガガガァン、とハッチが閉じる。
宇宙船の外部監視装置から外を見渡すと、そこは海賊船の巨大な格納庫の内部だった。そこには、同じように捕らえられたらしき大きさの異なる他の小型船が数隻、無残に捨て置かれている。
何よりも最悪なのは、太郎たちの船の周りを、禍々しい重火器を構えた戦闘ロボット(機械兵)の一団が、蟻の隙間もないほどに完全に包囲し、包囲網を狭めてきている事実だった。
船内スピーカーから、宇宙ゴブリンのボスの傲慢な声が響く。
『鉄の箱にこもったネズミどもめ、大人しく扉を開けろ。
さもないと、外側から焼き切って全員奴隷市へ叩き売ってやる』
「はっはっは! 扉を開けろ、だってさ! 自分で自分に対する死刑宣告のスイッチを押すなんて、要領が悪いにも程があるねぇ!」
太郎の二度目の大爆笑を聞いて、ドワーフとエルフの二人はようやく、太郎が浮かべている笑みの正体(確信)を理解し、ガタガタと震えながらもホッと胸を撫で下ろした。
あの世界を滅ぼす破壊神が、自分たちの味方にいるのだ。
「よし、じゃあお仕事の時間だねぇ」
太郎は艦長席に深く腰掛けたまま、隣のシャルロット姫様を振り返り、優しくその小さな手を握りしめた。
「シャルロット。……この海賊船は、あとでもらっちゃうからなるべく壊さないでね。海賊の雑魚どもは、あまり気にしなくていいから好きにして。
……ただ、一番偉そうな奴と、あと使えそうなやつを2〜3人は生きて捕まえてくれると、俺、すっごく嬉しいんだけどなぁ」
「はいっ、太郎様! 旦那様(仮)のお願いですもの、山田家の『嫁』として完璧にこなしてみせますわ!」
太郎から『シャルロット』と本当の名前を呼ばれる度に、彼女の自制心のシステムは一瞬でオーバーヒートを起こし、お顔を真っ赤に染めて舞い上がる。
だが、その瞳には、先日の遺跡で培った『人間基準(太郎優先)』の冷徹な制御の炎が宿っていた。
姫様は宇宙船のハッチを開け、普段と変わらない足取りで、格納庫の機械兵たちの真ん中へとスタスタと降り立っていった。
*
「……あの、山田殿」
船内で、ドワーフのメカニック治癒士が、背筋に冷たいものを走らせながら太郎に声をかけた。
「今の指示、海賊は『気にしなくていいから好きにしろ』って……それ、生きて帰す気は一ミリもねえってことだよな……?」
エルフの女性戦士も、太郎の底冷えするほどに淡々とした横顔を見て、全身の毛を逆立てて震えていた。
「ええ……。ただ歩いただけでエルフの里を滅ぼしたあの破壊神様に、そんな『非情な指示』を平然と与えるなんて……。山田殿は、人類を救う勇者であると同時に、やっぱり、本物の『魔王』の器の持ち主だったのね……っ!」
「いやぁ、人聞きが悪い。俺はただの平和主義者だよ?」
太郎はプロとしての冷徹な計算(軍人としての判断)を弾いていた。
「こっちのクルーは、俺を含めてたったの五人しかいないんだよ? そんな少人数で、何十人、何百人もの敵の兵士の面倒なんて見られるわけがない。
おまけに、生かしておいて宇宙船の中からどんな反撃を受けるか分かんないでしょ、元々は奴らの船だよ、どんな仕掛けが有るか分かんないのに付き合ってやるほど俺は真面目じゃないからね」
何より、太郎には別の思惑があった。
成長続けるシャルロットが、無法者の海賊相手に、どのような『戦闘制御と捕虜の対処』を行うのか、夫としてその成長の成果を確かめたかったのだ。
そして――格納庫での『お話し合い』は、宇宙ゴブリンの先進的な近代兵器をもってしても、完全に無意味であった。
――ドゴォォォォォォォォォォォン!!!!!
船体が激しく揺れる。
海賊たちの放つプラズマ銃やレーザーライフルは、ネグリジェエプロン姿の姫様の皮膚に当たった瞬間、すべて光の静電気のようにパチパチと弾け飛び、傷一つ、赤み一つすらつけられない。
対する姫様は、太郎の「船は壊さない、偉い奴は生かす」という命令を完璧に遵守していた。
シュッ、ザシュッ! と、風を切る音すら置き去りにする精密無比な無駄のない体術。
彼女は機械兵の急所回路だけを指先一つでピンポイント粉砕し、襲いかかる二メートルの宇宙ゴブリンたちを、衣服を破らんばかりの巨乳を揺らしながら、肉体の強度だけで次々と撲殺粉砕していった。
さすがに戦闘の規模が宇宙レベルだった。
数分後、すべての轟音が止まり、静寂が戻った格納庫の土煙の中から、一人の少女が歩いてきた。
――ただし、その姿は、激しいエネルギーの余波と大気摩擦の熱に衣服の強度が耐えきれず、綺麗さっぱりすべて吹き飛んだ、【生まれたままの姿(一糸まとわぬ真の naked スペック)】であった。
「太郎様ぁ♡ 仰る通り、一番強そうなおじ様と、使えそうな方を二人生け捕りにして参りましたわ!」
一糸まとわぬ姿のまま、自分の130センチの小さな容姿と豊満すぎる巨乳を気にするそぶりすら見せず、満面の笑顔で戻ってくる最強のゴジラワイフ。
「うわぁぁぁ!? シャルロット、ストップ! ストップ!! 服、服を着て!!」
太郎は慌ててハッチを飛び降りると、自分の迷彩服のタクティカルジャケットを、彼女の白い肌へと大慌てで羽織らせた。
衣服を包む太郎の手の温かさに、姫様は一瞬で顔を耳の裏まで真っ赤に染め上げ、
「あ、あああ……太郎様♡ 衣服の無い私を見て、そんなに興奮してくださるなんて……! 私、今なら、太郎様と次の『夜戦モード(実戦・数制限付き)』に突入しても――」
と、とろけるような目で迫ってきたが、彼女はハッと自分の小さな両手を握りしめ、
「いいえ! 太郎様の健康のために、シャルロット、我慢いたしますわ!」
と、自分からグッとブレーキを入れて自制してみせたのだ。
「……すごい。本当に、完璧に成長してくれたねぇ、シャルロット」
太郎は彼女のその健気な自制心に深く感激し、ジャケットの上から彼女の頭を優しくクシャクシャと撫で回した。
姫様は「ふにゃ……♡」と声を上げ、太郎の胸元へと幸せそうに身を委ねる。二人の濃厚なイチャイチャ空間が、全滅した海賊の格納庫の中でピンク色の光を放っていた。
そして、姫様の足元には、太郎の命令通り、傷一つない状態でガタガタと震えながら失禁している宇宙ゴブリンのボス。……そして、なぜか海賊の檻から救出されたらしき、見たこともない『猫の耳と尻尾』を持つ、二人の美しい亜人の姿があった。
(後編へ続く)




