勇者とはモンスターと剣だけで戦うだけでない
超古代の小型宇宙船は、星々の彼方へと続く光の航路を滑るように駆け抜け、最初の目的地である未知の惑星――『超古代の観測拠点』の残骸が眠る不毛の天体へと無事ランディングを果たした。
安全性を確認後に船のハッチが開き、太郎の運転する高機動車が未知の惑星の乾いた土を踏みしめる。
コンテナから降り立った五人のクルーの前には、千年の時を超えて佇む幾何学的な巨大遺跡がそびえ立っていた。
「よし、みんな。ここが最初の戦場(調査地)だ。
要領よくサクッとデータを盗み出そうじゃないの」 太郎はヘルメットの暗視ゴーグルを跳ね上げ、携帯フラッシュライトの超高輝度な白い光で暗黒の遺跡の入り口の奥を一直線に切り裂いた。
ここからの太郎の動きは、まさに『歴戦の叩き上げ士官』としての真骨頂だった。 遺跡に仕掛けられた超古代の防衛レーザーや罠に対し、太郎は現代の自衛隊仕込みの敵地侵入技術と、博学な科学知識をフル稼働。
現代兵器や工具類(訓練用ダミーや配線工具)を器用に噛み合わせ、一切の魔力探知に引っかかることなく、次々とセキュリティをハッキングして無力化していったのだ。
その神業のような『遺跡荒らし』のテクニックに、新メンバーであるドワーフのメカニックとエルフの戦士は「な、なんだあの手際は……。魔力も使わずに、古代文明の罠がただの玩具のように外されていく……」と驚愕して言葉を失っていた。
すると、後ろからやんちゃ坊主のレオがあっけらかんと言い放った。
「だろ? さんぼうは力は俺並みだけど、頭は世界一なんだぞ!」
さらに隣のシャルロット姫様が、衣服を破らんばかりの巨乳を誇らしげにふんすと膨らませ、まるで自分のことのように頬を赤らめて惚気を炸裂させた。
「ええ、ええ! 流石は私の自慢の旦那様ですわ! あの深い知恵と流れるような無駄のないお姿、シャルロット、見惚れて息が止まりそうですわ……♡」 新メンバー二人は、その糖度一二〇パーセントの空気の破壊力に「また始まったよ……」と呆れ返りつつも、太郎が単なる『破壊神を鎖なしで従える奇妙な調教師』ではなく、本物の知恵を持つ『賢者』であると、魂の底から深い尊敬の念を抱き始めていた。
*
データバンクのハッキングが進む中、太郎はドワーフのメカニック治癒士との『共同作業』を開始した。 ここでドワーフの種族特性が遺憾なく発揮される。
ドワーフの男は、太郎が提示した超古代の配線図や地球の機械工学の概念を、職人としての凄まじい直感だけで即座に理解。
その分厚い手で、超古代の金属パーツを魔力による精密鍛造で一瞬にして理想の形状へと加工してみせたのだ。
「うわ、ドワーフすげぇ……! 便利すぎ、道具もなしに加工って職人の次元が違いすぎるだろ!」 太郎が本気で驚きと尊敬の目を向けると、ドワーフのメカニックもまた、太郎の幅広い現代知識から飛び出す、異世界には存在しない豊かな発想力とアイデアの数々に「山田、あんたの頭の中はどうなってんだ。
ドワーフの国にもいねえぞ、こんな天才!」と、固い握手を交わした。
その洗練された連携を見たエルフの女性戦士は、(……やはり、このお方が我が里の結界核を救ったのは、決して偶然ではなかったのだわ)と、静かに胸を打たれ、太郎への尊敬をより強固なものにしていた。
さらに、ここで意外な才能を発揮したのが、やんちゃ坊主のレオだった。 レオは太郎から貰ったマルチツールを器用に使いこなし、超古代の細かな電子回路のネジやボルトを、小さな指先で一寸の狂いもなく取り外して見せたのだ。
「おいおい、レオ坊っちゃん、凄いじゃないの」 太郎が偶然とはいえ、サバイバル用にマルチツールを与えておいた選択が最高の結果を生んでいた。
それを見たドワーフのメカニックの目がガチの職人モードへと変わる。
「おい、小僧! お前、いいなぁ、人間にしとくのは勿体無い!良いセンスを持ってやがる! どうだ、俺の『弟子』になれ!」「えっ、本当か!? ドワーフのメカニック、かっこいいから俺、弟子になる!」 やんちゃ坊主はその場であっさりとドワーフへの弟子入りを決め、ここに小さな天才技術者が誕生した。
だが、遺跡の最深部、データチップの回収を終えようとしたまさにその時、残された最後のシステムが暴走し、この星の凶暴な原生生物――全高十メートルを超える、触手と強固な甲殻を持つ『宇宙怪獣』が雄叫びを上げて襲いかかってきた。
「ここは私が――」 エルフの女性戦士が迎撃のために魔導弓を構えようとした、その瞬間。
「シャルロット。山田家の第一規律、人間基準(壊さない加減)での突撃を許可するよ。
……いってらっしゃい」「はい、太郎様! 山田家の『盾』として、お役に立ってみせますわ!」 太郎の静かな命令を受け、姫様がネグリジェエプロン姿のまま地を蹴った。
その動作は、かつてエルフの里をゴジラのごとく直進して壊滅させたあの破壊劇とは、完全に次元を異にしていた。
――シュッ。 風を切り裂く音すら置き去りにする、精密無比な無駄のない高速移動。 姫様は宇宙怪獣の十数本の触手の隙間を、まるでミリ単位のメスを入れるかのように滑らかにすり抜けると、怪獣の脳天の『最も強固な甲殻の繋ぎ目の、神経が集中する一点』に向けて、指先一つを軽くツン、と添えた。
――プチリ。
千の軍勢をも屠る宇宙怪獣は、悲鳴を上げる暇すらなく、背後の遺跡の壁に傷一つ、埃一つすら立てることなく、一撃で白目を剥いてその場にズズズ……と静かに崩れ落ち、完全に気絶したのだ。
圧倒的な破壊力を、完璧な『自制心』によって必死に封じ込めた、真の精密動作。
「……あ、あり得ない。あの破壊神様が、力を完全に制御して……無駄のない技を……っ」 エルフとドワーフは、目の前で起きたあまりにも洗練された、だからこそ底知れない『圧倒的な恐怖と尊敬の念』に全身の毛を逆立てて硬直していた。
「うん、完璧だ、シャルロット。本当に上手になったねぇ」 太郎は心の底から喜び、戻ってきた彼女を自分からそっと抱きしめて、そのおでこにちゅ、と音を立てて優しいご褒美を授けた。
「はぅあぁっ♡ 太郎様ぁ……シャルロット、もう胸がいっぱいですわぁ……♡」 名前を呼ばれる度に舞い上がり、太郎の左腕にフカフカの肉圧を押し付けてとろける姫様。二人の誰も入れないイチャイチャ空間が、不毛の惑星のブリッジをピンク色に染め上げていた。
*
遺跡の調査が完璧に終わり、夜になったため、一行は宇宙船のコンテナを展開し、この星で一泊することとなった。
エルフの野菜を使った最高の夕食を全員で笑顔で囲み、束の間のほのぼのとした日常を楽しんでいた、その直後だった。
「――さぁ、太郎様♡ お食事の後は、いよいよ夜の『夜戦(回数限定・手加減付き)』の時間ですわねぇ……♡」
「いや、姫様、まだ心の準備が――うわあああああ!!!」 太郎は、笑顔のシャルロット姫様によって、まるでお姫様抱っこのように軽々と持ち上げられ、凄まじい悲鳴と共に、早々に新婚用の個室へと拉致されていった。
「ははは。山田殿と王女殿下は、本当に仲睦まじい新婚夫婦だな。
ほのぼのとしていて、見ていて微笑ましいじゃないか」 ドワーフのメカニックとエルフの戦士は、ビールを片手に、遠ざかる二人の姿を呑気に見守っていた。
――だが、それから数十分が経った頃。 ガガガガガ、地、地地地……!!! と、宇宙船の頑強な防魔鋼鉄のコンテナ全体が、まるで【大規模な土木工事(地盤沈下か重機による粉砕作業)】に直面しているかのように、激しく不気味に振動し始めたのだ。 さらに、その重低音の振動の隙間から、防音の壁を透過して、シャルロット姫様の完全に興奮しきった、しかし極限まで力を我慢しているが故の、艶めかしくも恐ろしい絶叫が響き渡ってきた。
「あああっ♡ 太郎様ぁ! 太郎様ぁぁぁ!!! 我慢っ、我慢ですわぁぁぁ!!! でも、でも凄いですわぁぁぁ!!!」「……おい、待て」
ドワーフのメカニックの手から、ビールのジョッキがガタガタと震え落ちた。
「なんだあの地響きは……。あれ、ただの男女の夜の営みの音じゃねえぞ。
トンネルを掘削してるときの音だぞ……!?」 エルフの女性戦士も、みるみるうちに顔面を紙のように真っ白に変え、耳まで完全に硬直させて震えていた。
「な、何が起きているの……? あの部屋からの振動、大王牛の発情期のようになっているわ……。山田殿、本当に生きているの……っ!?」 新メンバーの顔色が恐怖で完全に変わる中、隣でマルチツールをいじっていたやんちゃ坊主のレオが、何でもないことのようにあっけらかんと言い放った。
「あ、気にするなよ二人とも。王都の離宮では毎日これ以上の地響きがしてベッドが十メートル陥没してたから、いつも通りのことだよ。……あ、そうだ」 レオは思い出したように、震えている二人の治癒士の顔を見上げた。
「二人とも、ねーちゃんとさんぼうが朝帰ってきたら、すぐに最大出力で『回復魔法』の用意をしておいてね」
「……あ?」「じいちゃん(国王)が言ってたんだ。表向きは『レオのため』に治癒士を乗せることになってるけど、実際は、じいちゃんたちが『山田殿が毎晩こうなること(腹上死しかける)』を完璧に見越して、最低限の人数として、腕に覚えのあるお前ら二人を宇宙船に仕込んだんだって。
じいちゃんが『これでも回復の魔力が足らない分は、高機動車に積んである国費を使い果たして量産した【大量の最高級魔力回復薬】を使うように二人にに伝えろ』って言ってたぞ」「――――なっ」 ドワーフとエルフの治哩士は、その場で絶句した。
自分たちがこの船に乗せられた本当の『理由』。それは、全人類の存亡を賭けて、毎朝毎朝、あの最凶の破壊神の愛欲によって死にかける一人の人間の男の命を、文字通り「死の手前」で繋ぎ止め続けるための、決死の衛生兵だったのだ。 *
翌朝。 コンテナの扉がメキメキと軽い音を立てて開き、中から、衣服の乱れ一つないシャルロット姫様が、それはもう満足度二〇〇パーセントの幸福に満ち溢れた笑顔で出てきた。
そして――彼女の腕の中には、昨日までの健康な姿はどこへやら、全身のすべての生気と水分を吸い尽くされ、骨盤も破壊された文字通り【死体!骸骨のようになって、息も絶え絶え、ぴくりとも動かない状態】の山田太郎が、優しくお姫様抱っこされていた。
「ひ、ひぃぃぃぃ衛生兵!! 山田殿が、骨と皮だけになっておられる!!」
「今すぐ回復魔法を! 聖水を持ってきなさい、人類を滅ぼさないために早く!!!」
ドワーフとエルフの治癒士は、太郎の姿にパニックを起こしながら太郎の元へ駆け寄り、持てる全魔力を込めて、嵐のような超回復施術を太郎の肉体へと注ぎ込んだ。
高機動車から降ろされた最高級ポーションが何本も消費され、数十分後、太郎の肉体はようやく元の四十歳の健康なスペックへと完全復活を遂げた。
「……ぷはっ! はぁ、はぁ、はぁ……! 助かった、二人とも助かった、マジで効くねぇ……」
ベッドの上でガバッと跳ね起き、命拾いした涙を流す太郎。
そんな太郎の前に、ドワーフのメカニックとエルフの女性戦士が、これまでにないほど深く、深く、地面に頭がつくほどの勢いで土下座(平伏)をして平謝りを始めた。
「山田殿……! いや、太郎殿!!! 本当に申し訳なかった!!! 俺たちは今まで、あんたのことを、お姫様の巨乳に目が眩んで外堀を埋められただけの『色ボケの男』だと内心で舐めていた!! 本当に、本当に申し訳ありませんでした!!!」「許してください、山田殿……! 貴方は、色ボケなどでは断じてないわ……! 貴方は、自分のその脆い肉体を、毎夜毎夜、あの世界を滅ぼす破壊神の生贄として自ら捧げ、その身をボロボロに破壊されながら、人類の滅亡をベッドの上で防ぎ続けている……世界でただ一人の【本物の勇者】だったのね……っ!!! 私たちの無礼を、どうかお許しください……!」 涙を流して、太郎を「人類の救世主」として崇め奉る新メンバーたち。
太郎は、自分の隣で「太郎様、今夜も頑張りますわね♡」とピュアに微笑む最強のワイフと、全人類の運命を背負わされた己のあまりにも重すぎる『抱き枕』の現実に、脳内で宇宙猫の顔をしながらも、深い溜息を吐き出すのだった。
未知の惑星での調査と、新メンバーとの新たなる絆を完了した山田家の一行。
しかし、宇宙船が次に向かう星々の海の先では――この世界の理のさらに外側で蠢く、宇宙の無法者たちによる【宇宙海賊の章】という、新たなる戦いと(太郎の限界夜戦)が、幕を開けようとしていた。




