男の子なら憧れるよね
新たなクルーと、艦長の誤算
ガラム王国の王都は、建国以来最大級の熱気に包まれていた。
国を救った英雄であり(シャルロットから?)、今や世界最後のストッパーとなった山田太郎一等陸尉と、大人の女性へと精神的脱皮を遂げた第一王女シャルロットの、宇宙への旅立ちを祝う『大壮行会』の準備が慌ただしく進められていたからだ。
そんな中、太郎は出発を目前にして、国王陛下に直接、玉座の間へと呼び出されていた。
人払いをされた部屋で、国王はいつもの威厳に満ちた表情ではなく、一人の父親、そして叔父としての深い憂いを帯びた顔で太郎を見つめていた。「山田殿……いや、太郎よ。これからの長旅、我が娘シャルロットのことは貴殿にすべて託す。
あの子もブレーキを覚え、もう貴殿を干からびさせるような真似はせんと信じているが……
私が本当に心配なのは、貴殿と、そしてまだ幼い我が甥のレオのことなのだ」 国王はそう言うと、真剣な眼差しを太郎に向けた。
宇宙という未知の領域へ赴くのだ。
万が一、旅先で貴殿やレオが病や怪我に倒れた時、あの子の超パワーでは治癒魔法の代わりにはならん。
……頼む、我が王家からの最後のお願いだ。
優秀な『治癒士』を船に同伴させてはくれないか?」
「……なるほど。治癒士ですか」 太郎は顎に手を当てて考えた。
自分と、そしてオリジナルスペックの戦闘兵器であるシャルロット(ゴジラワイフ)の肉体強度なら、そう簡単にはくたばらないだろう。
だが、まだ能力が発現していない十歳の子供であるレオには、万が一の時の医療アセットが絶対に必要だった。
自衛隊員としても、衛生兵の不在は戦術的に看過できない「分かりました、陛下。お言葉に甘えて、その提案を了承します。レオ坊っちゃんのためにも、メディックは必要ですからね」 太郎の快諾を受け、急遽、二人の優秀な人材がクルーとして選出された。
一人は、ドワーフの国から派遣された、ガスタ親方の弟子でもある若きドワーフの男性。彼は高度な治癒魔術を操るだけでなく、宇宙船の構造に異常な興味を示す【メカニック兼任の治癒士】だった。
もう一人は、エルフの里から名乗りを上げた、美しいエルフの女性戦士。彼女は森の高度な治癒結界を使いこなしつつ、弓と魔法の名手として【護衛兼任の治癒士】を務めるという。
これにより、高機動車を搭載した超古代の宇宙船の乗組員は、太郎、シャルロット、レオ、そしてドワーフとエルフの二人を加えた、計五人の即席『宇宙艦隊クルー』として再編成された。
*
翌朝。壮大な大壮行会を終え、全人類からの「頼むから宇宙で暴走しないでくれ」という必死の涙の見送りを受けた一行は、北の大峡谷に隠された宇宙船の格納庫へと戻っていた。
ドワーフ特製ガソリンと数千発の複製銃弾を満載した高機動車が船内の格納庫へと完璧に固縛され、ハッチが閉じる。 太郎は、半透明の超硬質素材で作られた、幾何学的な構造を持つ古代文明のコクピットの『艦長席』へと腰掛けた。
コンソールに、航路チップを読み込ませる。
カチリ、とエンターキーを叩いた、その瞬間だった。
――ズロロロンッ!!!
千年の眠りから目覚めた宇宙船が、まるで地球の現代のハイブリッドエンジンのような、重厚で力強い重低音の駆動音を大峡谷に響かせた。
モニター画面一面に美しい幾何学的な光のインジケーターが走り、船体が重力制御によってフワリと、驚くほど滑らかに浮上を始めたのだ。
「おおお……浮いた! 浮いたぞ! 魔法の詠唱もなしに、俺の指先一つでこの巨体が……! 凄い、俺、いま完全に『宇宙船の艦長』じゃん!!」
太郎は普段の冷静な「士官」の顔を完全に忘れて、少年のように目を輝かせ、艦長席のレバーを弄りながら大感激で浮かれていた。
男なら誰もが一度は夢見る、宇宙戦艦のブリッジ。
叩き上げの一等陸尉は、この瞬間、最高潮に舞い上がっていた。
「うふふ、太郎様。艦長さん姿の太郎様も、本当にかっこよくて素敵ですわ……♡」 その隣の副操縦士席では、お守りの銃剣を大切そうに抱いたシャルロットが、とろけるような笑顔で太郎を見つめていた。
「コホン。……よし、クルーの皆さん、お気楽な処女航海だけどね、万が一のために操縦方法を説明しておくよ。
進路はあのチップの通り、超古代人の居住星系を目指す。
自動操縦がメインだけど、もし俺の心臓が止まるか、何かのトラブルでマニュアル操作(手動)に切り替わった時は、この中央のレバーを――」 太郎が真面目な顔をして、ドワーフのメカニックやエルフの護衛たちに船のインターフェースの解説を始めた、その時だった。
「――ねぇ、シャルロット。そっちの画面のデータチェック、お願いできるかな?」 太郎が何気なく、二人の心の融合(前回の話し合い)を経て変わった、本当の名前呼び――【シャルロット】という響きを口にした瞬間。
「はぅあぁっ……♡ ター、太郎様……! 今、私のことを……私の名前を呼び捨てで……ッッ!!!」 大人の女性へと精神的成長(自制心)を覚えたはずの姫様だったが、太郎から『シャルロット』と名前を呼ばれる度に、その強固な自制心のシステムが完全にオーバーヒートを起こし、お顔を真っ赤に染めて舞い上がってしまったのだ。
衣服を破らんばかりの巨乳をふんすふんすと激しく上下させ、全身から溢れ出るピンク色の甘いオーラ(質量)が、コクピットの気圧をミシミシと変えていく。
「いや、シャルロット、だから操縦席で興奮しないで。
レバーに当たったら船が逆さになっちゃうからさぁ」
「はいっ♡ 太郎様が『シャルロット』とお呼びしてくださるなら、私、このお席から一ミリも動きませんわぁ……♡」 完全に目がハートマークになり、太郎の左腕にフカフカの肉圧(手加減済み)を押し付けてとろけている最強のワイフ。
そんな二人の、宇宙船のブリッジという緊迫した空間にはあまりにも不釣り合いな、糖度一二〇パーセントの甘すぎる空気が室内に充満していく中――。
「……あの、山田殿。ドワーフの国じゃあ、お前さんは破壊神を従える『最凶の調教師』だって聞いてたんだが……これ、調教ってか、ただの熱烈な新婚夫婦の惚気じゃねえか? 俺、胃が焼け死にそうなんだが」 椅子に縛り付けられたまま、あまりの甘さに顔を引きつらせるドワーフのメカニック治癒士。
「……ええ。エルフの里を滅ぼしかけたあの破壊神様が、名前を呼ばれただけであそこまで骨抜きになるとは……。護衛として乗りましたが、私の弓矢よりも、山田殿のその『名前呼び』という名の精神魔術の方が、よほど恐ろしい威力を誇っていますね。
……正直、見ていて恥ずか死にしそうです」 美しいエルフの女性戦士も、あまりの生温かい空気の破壊力に、顔を覆って耳まで真っ赤にして悶絶していた。
「あはは……みんな、これが我が『山田家』の日常だからさ、早く慣れてね」
後部座席でレオが「さんぼう、ねーちゃんまたバグってるぞ!」と笑う声を背に受けながら、太郎は冷や汗を流しつつも、宇宙船の推進レバーをゆっくりと前方に押し込んだ。 ――ゴォォォォォン!!! 超古代の自家用艇は、青い光の粒子を噴射しながら峡谷を一気に飛び立ち、王都の空を突き抜けて、果てしない星々の海――宇宙へと向かって力強く浮上していくのだった。
生身最弱の「艦長」山田太郎と、真の強さを手に入れた最強の「シャルロット」、そして胃の痛い新たな仲間たちを乗せた、世界と宇宙の理をひっくり返すための『超古代世界探検航海』が、ついに本当の幕を開けるのだった。




