深淵の遺産と、爆発する接吻
大型防衛ゴーレムを「何一つ周囲を傷つけない精密な力加減」で無力化してみせたシャルロット姫様の成長。
そして、夕暮れの峡谷で交わされた約束の『おでこへのご褒美チュウ』。
二人の間に、逃亡計画の裏返しではない本物の愛情(と、太郎の永住への覚悟)が芽生え始めた翌日。
太郎たちは再び、宇宙港のさらに奥深く――最深部の格納庫へと足を踏み入れていた。
「……ほう、これか」
携帯フラッシュライトの超高輝度な白い光の先に浮かび上がったのは、千年の時を経てもなお、金属の光沢を失っていない一隻の『船』だった。
驚くべきことに、それはすべてのシステムがいつでも起動可能な【完全な完動状態の宇宙船】だった。
しかし、そのサイズは全長二十メートルほど。
記録に残る超古代文明の惑星間航行用の巨艦たちに比べれば、あまりにも「小さすぎる」代物だった。
どうやら当時の人々にとっては、実用性の低い自家用艇のような扱いで、格納庫の奥にただ捨て置かれていたようだった。
「これなら高機動車をそのまま貨物室に積み込めるねぇ。
ドワーフ特製のガソリンや弾薬も満載できる。移動拠点としては最高だ」
太郎は無自覚に与えられた知識を使い、残っていた宇宙港の設備を使い船の構造をスキャンし、満足げに頷いた。
しかし、これだけでは足りない。
古代人たちが向かった正確な『星系の座標』と、彼女の仕様を変更するためのマスターデータがなければ、宇宙の暗黒へ飛び出したところで干からびるだけだ。
「太郎様、他にも何かお宝がないか、シャルロットがこの辺りを探して参りますわ!」
「お、俺も探すぞ、さんぼう!」
おでこへのご褒美をもう一度貰うため、指先一つまでフカフカの綿毛のように動かすことを徹底している姫様と、元気いっぱいのレオが、格納庫の周囲を探索し始めた。
その数十分後だった。
「――さんぼう! ねーちゃん! 早く来てくれ、凄いものを見つけたぞ!」
格納庫の隅にある、埃をかぶったコントロールパネルの前から、レオが飛び跳ねながら大声を上げた。
太郎と姫様が駆け寄ると、レオの手には、半透明の硬質ガラスでできた『奇妙な小さなチップ』が握られていた。
「これ、さっき触ったら、なんだか頭の中に直接変な絵と文字が流れてきたんだ。……俺、よく分かんないけどさ、これ、さんぼうがずっと探してた『大事なもの』だろ?」
「チップ……!? 貸してごらん、レオ坊っちゃん」
太郎が緊張した手つきでそのデータチップを受け取ると、
その瞬間、
太郎の脳内に直接、大書庫の比ではない莫大な『宇宙航路データ』と、各タイプ別生体兵器の遺伝子系統をデバッグするための『超古代人の居住星系の座標』が完璧に入力された。
「……ビンゴ。これだ。これですべてのパズルが揃ったぞ!」
太郎は驚喜し、レオの頭をクシャクシャと撫で回した。
「大手柄だよ、レオ坊っちゃん! これで俺たちの『次の作戦(宇宙への旅立ち)』の準備ができる!」
「えへへ、さんぼうの役に立ったぞ!」
やんちゃ坊主が胸を張る。必要なものは全て手に入った。
あとは一度王都に戻り、国王の予算をフル活用して、この船にドワーフのガソリンと大量の複製銃弾を搬入する『遠征に必要な補給』の準備を整えるだけだ。
*
数日後。
宇宙船の隠匿と座標データの確保を終えた一行は、再び高機動車に乗って、ガラム王国の王都へと続く街道を帰還中だった。
そして――助手席のシャルロット姫様は、完全に『愛の限界領域』へと突入していた。
彼女は、夕日に照らされる太郎の横顔をじっと見つめながら、数日前に宇宙港の夕暮れで経験した、あの優しく愛おしい時間を脳内で何度も、何度もリフレインさせていたのだ。
(ああ、太郎様……。あの時の太郎様は、本当に私を一人の女性として、愛おしそうに抱きしめてくださって……)
すでに二人は、あの荒野のクレータの底で、医学書に書かれていた通りの『正しい手順』による激しい夜戦を朝まで何度も繰り返した仲だ。
太郎の肉体の限界(回数制限)を叩き込まれ、彼の身体を壊さないように我慢する日々を送ってはいるが、裏を返せば、彼女は【太郎と結ばれることの、あの骨まで溶けるような至高の快楽と幸福の味】を、身をもって完全に知ってしまっているのである。
ディープキスも、その先の濃厚な絡みも、すべては経験済み。
だからこそ、宇宙港での太郎のどこまでも深い優しさを思い出すうちに、彼女の身体の奥底から、愛しい旦那様を今すぐ貪り尽くしたいという強烈な『渇き』と『情熱』が、濁流のように湧き上がって止まらなくなっていたのだ。
(ダメ……我慢しなくては……。太郎様は一度にそんなに数ができないデリケートな御方……。今ここで襲いかかっては、また太郎様を干からびさせてしまう……。でも、でも……ッ! あんなに優しくされたら、もう、一秒だって待てませんわ……!!!)
むふーっ! と、妄想ではなく『本物の肉体の記憶』によって、姫様の衣服を破らんばかりの巨乳が激しく上下する。
太郎への愛欲と情熱のゲージが、王都が近づくにつれて、九九パーセント、一〇〇パーセント、そして一二〇パーセントへと、完全に安全弁をぶち破って暴走を始めていた。衣服越しに伝わる彼女の体温は、熱病のように跳ね上がっている。
太郎もその変化を感じ取っていたが、何もできなかった、言ってみればゴジラが鼻先まで近づいて口を開けて今にも喰おうとしている感じ、何か出来るはずも無かった、出来たことはただ無心に走らせることだけであった。
そして、高機動車が王都の巨大な正門をくぐり、城内の中庭へと滑り込んだ、まさにその到着の瞬間だった。
キィィ、と太郎がブレーキを踏み、エンジンを切る。
「よし、王都に到着――」
太郎がふぅと息を吐き、サイドブレーキを引いた、まさにそのコンマ一秒後。
――ドンッ!!!
「もう限界ですわ、太郎様ァァァ!!!」
高ぶる気持ちが完全に決壊したシャルロット姫様が、肉食獣そのものの咆哮と共に、運転席の太郎に向かって狂ったように襲い掛かかってきた。
「え!? ゲブッ――!?」
太郎が悲鳴を上げる暇すらなかった。
130センチの小さな体が太郎の胸元へと激突し、衣服を突き破らんばかりの圧倒的な巨乳の肉圧が、太郎の顔面を完璧にロックして窒息死一歩手前へと追い込む。
そして、次の瞬間、太郎の唇に、異世界最強の超古代生物兵器による【強烈すぎる、容赦のないレイプキッス】が叩き込まれたのだ。
――ンンンンンーーーーーッッッ!!!!!
それは、経験者だからこそ繰り出される、貪欲で、圧倒的な質量を伴った『実戦仕様のディープキス』だった。
姫様自身は「太郎様を壊さないように」とフカフカの力加減を維持しているつもりだったが、何せ興奮度が一二〇パーセントのゴジラである。
太郎の視界は一瞬で真っ白に弾け飛び、強烈な吸引力によって肺の中の酸素がすべて一瞬で吸い尽くされ、脳に凄まじい重力加速度(G)がかかったかのような衝撃が突き抜けた。
何度も貪り、吸い尽くし、太郎の口腔内を完全に支配する、物理的にも霊的にも圧倒的な質量による愛のディープインパクト。
(あ、これ、アカン……! 経験済みだからって、(キッス)の威力が上がってやがる……死ぬ、腹上死の前に唇で死ぬ……!)
泥をすすって生きてきた泥臭い一等陸尉・山田太郎は、最愛の最強のワイフからの、あまりにも激しすぎる大人の情熱の暴発の前に、抵抗する術をすべて奪われ、そのまま魂が口から幽体離脱するようにして、白目を剥いて完璧に『失神(気絶)』するのだった。
中庭に響く、チュウウウウウ!という尋常ではない爆音の吸引音の背後で、城壁の上からそれを見つめていた国王陛下と老宰相が、顔面を土気色に変えて震えていた。
「ひ、ひぃぃぃぃ! 山田殿が! 到着した瞬間に、シャルロットのディープキッスでまた白目を剥いて干からびかけておられるぞ! すぐに王宮の回復魔導師を呼べェェェ!!!」
宇宙への手がかりを手に入れた喜びも束の間、到着早々に大人の情熱による生命の危機(蘇生)を強いられる山田太郎。
逃亡を諦め、彼女を本当の女の子にするための『調教の旅』を決意したはずの参謀だったが、すべての味を知ってしまったゴジラお姫様の爆発する情熱の前には、地球の40歳男の肉体はあまりにも脆く、新婚サバイバルの本当の地獄(抱き枕キッス戦)は、ここからさらに過激な領域へと突入していくのだった。




