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自衛隊員サバイバル日記改  作者: kero


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中年男の憂鬱

――ガラム王国の王都に、再び未曾有の「国家予算規模」の激震が走っていた。

理由は一つ。山田太郎一等陸尉(四十歳・未婚)の寿命が、このままでは愛娘シャルロットの「夜戦訓練」と「夜戦(回数限定)」によって、結婚式を迎える前に尽き果ててしまうという、人類滅亡への秒読み段階に突入したからである。


「山田殿が死ねば、安全装置の切れたシャルロットが悲しみで暴走し、この世界は一瞬で塵になる……! ええい、世界中の秘境から、あの娘の怪力に耐えられる『超古代の遺物』をありったけかき集めろォォォ!!!」

国王陛下の血を吐くような勅命により、王国の全軍と教会の総本山、さらにはエルフやドワーフのネットワークまでがフル稼働した。


その結果、離宮の新婚邸には、毎日がクリスマスか国際兵器見本市かと言わんばかりの、とんでもない「貢ぎ物(プレゼント)」が山積みにされることとなった。


「……あのさぁ、クソ義父(国王)。気持ちはありがたいんだけど、これ、プレゼントのチョイスが色々と斜め上を突破してて、逆に俺の命が危ないんだけどねぇ」

太郎は内心シャルロットの性格はこの父が元凶だと思っていた。


太郎は離宮の広間に並べられた怪しい遺物たちの前で、頭を抱えていた。

まず国王夫婦から手渡されたのは、超古代の医療ポーションを限界まで濃縮したという、妖しく発光する【漆黒の最高級スタミナ秘薬】。一口飲めば「心臓がドラム缶のように脈打ち、三日三晩不眠不休で夜戦に耐えられる」という触れ込みだが、なまじ現代地球人の精巧な肉体を持つ太郎がそんな劇物を飲めば、過剰摂取(オーバードーズ)で一発で血管が破裂して心臓麻痺を起こすレベルの危険物だった。

 さらに、老宰相がドヤ顔で運び込んできたのは、超古代の要塞の防壁素材で作られたという【自動防衛機能付き・超硬質ハイテク防護服】。

「これを着用して夜を迎えれば、シャルロット様のいかなる愛の抱擁(圧殺)にも耐えられますぞ!」

 とのことだったが、試しに太郎が着用してシャルロット姫様の前に出たところ、「あら、太郎様、そんな窮屈そうな服、シャルロットが脱がせて差し上げますわ♡」と、姫様がいつも通りに優しく指先を添えた瞬間、【防護服の超硬質プレートが内部の自動防衛魔術ごとバキバキに爆砕】。

飛び散った破片の衝撃風で、太郎の部屋の家具がすべて木端微塵になるという、付帯被害だらけの大騒動を巻き起こしただけだった。


最後に教皇から届いたのは、超古代の超重量級シェルターの床板を改造したという、魔力結界付きの【絶対不落の超古代ベッド】。

これには太郎も「お、これならイケるか?」とワンチャンを賭けて夜を迎えたのだが、深夜、幸せそうに寝返りを打った姫様の細い脚(オリジナルスペック生物兵器の肉体)がベッドのフレームにカチリと当たった瞬間、【ベッドそのものは無傷だったが、その尋常ではない質量と圧力が逃げ場を失い、ベッドを支えていた離宮の床と基礎コンクリート、さらには地盤ごと深さ十メートルまで丸ごと陥没】。

翌朝、へこんだ地底の底で、姫様に完璧な抱き枕(二重ロック)にされて白目を剥いている太郎の姿が発見され、王宮医師団が「山田殿がまた干からびるぞォォォ!」と大パニックで超回復魔法を唱え直す羽目になった。

 *

そんな、世界を巻き込んだ怪獣飼育日常の真っ只中。


太郎は陥没した離宮の跡地で、修理中の高機動車のボンネットに腰掛け、一人静かに『本気』で悩み始めていた。


聖国の大書庫をハッキングしたことで、地下深くの超古代システムを暴発させ、【地球へ帰る門(ゲート)を強制的にこじ開ける方法】はすでに完璧に突き止めている。

ガソリンも弾薬もドワーフの国に仕込んできた。

あとはタイミングを見て、この世界からスタコラサッサと脱出するだけ――のはずだった。


しかし、超古代AIの無慈悲な宣告が、太郎の脳裏にリフレインする。

『婚姻の護符は、彼女の生体防衛システムと融合して永久不滅。デバッグ不可能です』

……そうなんだよね。俺が地球に帰るってことはさ。もれなく、あの『一撃で砦を更地にするロリ巨乳のゴジラお姫様』も、魂のGPS(呪い)で俺の横にくっついて、一緒に日本国へ渡っちゃうってことなんだよ。

……これ、マジで帰って大丈夫なのか?


太郎は、自分が地球に帰還したあとに巻き起こるであろう『地球規模の天変地異(大騒動)』を、自衛隊の「士官」としての卓越したシミュレーション能力で脳内に描き出し、あまりの恐ろしさに本気で戦慄した。


まず、日本の実家に高機動車で乗り付けた時の光景だ。

「――父さん、母さん。長らく神隠しに遭ってて心配かけた。

ただいま。……あ、こっち、異世界で魂の不可逆契約を結ばされた俺の嫁のシャルロット(17歳・130センチ・巨乳)

ちなみに実家がある中京区の地面を軽く足踏みしただけで、京都府が丸ごと陥没する戦闘兵器だから、機嫌を損ねるようなお茶の出し方は絶対にしないでね」


高齢の両親が、一瞬でショックと恐怖で心停止を起こす未来が視えた。

それだけではない。太郎は現役の自衛官(一等陸尉)である。

神隠しから奇跡の生還を遂げたとなれば、当然、防衛省や内閣情報調査室による厳重な隔離と、徹底的な事情聴取(デブリーフィング)が待っている。

自衛隊員という職務の性質上、異世界の存在や、高機動車に満載された超古代のオーパーツ、そして何よりシャルロット姫様の『秘密』を国に隠し通すことなど絶対に不可能だ。

もし、防衛省の上層部や政府の偉い人たちがさぁ、姫様のあの『成層圏を服を吹き飛ばしながら脚力だけで飛行するスペック』を知ってみろ。

絶対に『国家最高の生体戦略防衛兵器』として、自衛隊に組み込もうとしたり、研究しようとしたりするに決まってる。……でも、そんなことしたら大変なことになるぞ


もし日本のどこかの真面目で融通の利かない直属の上司(太郎の最も苦手なタイプ)が、姫様に「規律に従え」「演習に参加しろ」なんて偉そうに命令してみろ。


ちょっと不機嫌になった姫様が「もうっ、太郎様との甘い新婚生活の邪魔をしないでくださる?」と、片手をフンと一振りした瞬間、市ヶ谷の防衛省の本省ビルがお盆の上の豆腐のように粉々に消し飛び、日本の防衛中枢が一瞬で壊滅する。

さらに、そんな規格外の「人型決戦兵器」が日本政府の傘下にいると分かれば、アメリカ、中国、ロシアといった地球の超大国たちが黙っているはずがない。

「日本が未知の大量破壊生体兵器を保有した!」と国際社会が大騒ぎになり、国際連合での緊急制裁、外交圧力、下手をすれば『シャルロット争奪戦』による第三次世界大戦の火蓋が切って落とされる。

地球の近代兵器の総力を挙げた軍隊が日本に押し寄せるが、対する姫様は、彼らの放つミサイルや最新鋭戦闘機を「あら、綺麗な花火ですわね♡」と、生まれたままの姿(真のnakedスペック)で笑顔でキャッチし、そのまま素手でチョコレートのように握り潰して世界を大混乱に陥れるだろう。


前回の夢(地球防衛軍総司令官の悪夢)が、今度は地球を舞台にして現実のものになってしまうのだ。

そして――太郎の脳細胞が弾き出した、最も恐ろしい『最後の最悪のシナリオ』。

……一番やばいのは、子供だよ。正しい性教育(現実)を教えたお陰で、今度は『正しい手順』で朝まで命がけの実戦を強いられるわけだけど……

姫様のスペックを考えたら人類ごときでは孕ますなんて無理だと思うけど?


もし、万が一、億が一にでも、姫様との間に子供が生まれたらどうなる?


超古代の惑星間戦争用生物兵器の、ほぼ100%オリジナルスペックを持つ遺伝子。

それが、地球の太郎の遺伝子と掛け合わされ、この世界、あるいは地球の日本で誕生するのだ。

それはつまり、【歩くだけで家屋を突き破り、10歳にして成層圏を飛行し、機嫌が悪いと口から超高熱線を放つ『ミニ・ゴジラ(ロリ巨乳)』が、ネズミ算式にこの世界や地球に増殖していく】ということに他ならなかった。

ワンオペ育児どころの騒ぎではない。


子供が夜泣きをして暴れただけで、日本の近畿地方や、ガラム王国の領土が一発で地図から消滅するのだ。


全人類の存亡がかかってるってのは、こっちの世界だけの話じゃなかったかぁ……。俺が地球に帰ったら、今度は地球の人類が滅亡の危機に瀕するじゃん。

ウケるね、本当に。全然笑えないけどさぁ


太郎は修理が終わった高機動車のボンネットをパタンと閉め、夕暮れの王都の空を見上げた。


お上のクソ義父たちが世界中から必死に持ってくる頑丈なベッドや秘薬の騒動に胃をキリキリと痛ませ、地球への帰り道を探し求めながらも、四十歳の叩き上げ士官・山田太郎は、自分の帰還が引き起こすであろう『国際的・地球規模の特異災害(新婚生活)』の恐怖に、生まれて初めて「本気でこのまま異世界に骨を埋めるべきか……」と、宇宙猫の顔のまま、人生の決断を迫られるのだった。



(第九章:火薬調合と新たなる旅立ち編・完 / 第十章・地球帰還作戦(?)あるいは調教師の永住決意編へ続く)

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