↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自衛隊員サバイバル日記改  作者: kero


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/60

愛の新婚サバイバル

「……うん、知ってた。こうなることは、薄々どころか一〇〇パーセント分かってたよ」

ガラム王城の敷地内、新婚の二人(と、なぜか盾として太郎が引き連れてきたやんちゃ坊主のレオ)のために新たに用意された豪華な『離宮(新婚邸)』

その主寝室の前にて、山田太郎はマルチツールを片手に、本日何度目か分からない深い溜息を吐き出していた。


聖国での致命的なプログラムバグの発覚により、魂の婚姻の護符は永久不滅。


世界を渡ろうが地球の裏側へ逃げようが、成層圏を脚力だけで飛行してすべて吹き飛ばしながら突っ込んでくる最強のゴジラ姫様。

さらに、太郎の心臓が止まれば「最愛の夫を失った悲しみ」で姫様が暴走し、人類滅亡のラスボス戦が確定するため、今や太郎は全人類から【生きてベッドの上で姫様を満足(?)させ続ける、世界最後のストッパー】として崇め奉られる存在になっていた。

意味わからん。


「逃げるルートは完全に封鎖された。

なら、次に俺がすべき戦術は、この新婚生活をいかに無傷で、要領よくサバイブするか……これに尽きるねぇ」


太郎は真剣な顔で、主寝室の分厚い防魔鋼鉄のドアへとアプローチしていた。

彼はドワーフの国から特別に発注して取り寄せた最高硬度の鋼鉄ボルトと、ドワーフの親方を使い、ドアの内側へ【絶対に素手で紙屑化されない、特製防魔鋼鉄の『二重ラッチ&ダイヤルロックシステム』】を必死になって 増設していたのだ。

カチリ、カチリと、精巧に噛み合うドワーフの鋳造技術の結晶。


よし。これで深夜に無自覚にムラムラした姫様が突入してきても、最初のコンマ数秒の時間稼ぎはできる。

……いや、待てよ。あの姫様、エルフの里じゃ進路上にある樹齢数百年の巨木も家屋もすべて『ただ歩くだけで突き破ってきた(ゴジラ進撃)』んだからさ、ドアをロックしたところで、壁ごと直進して破壊されたら終わりじゃん。

……ウケる。笑えないけど


太郎が自分の必死の防衛線の虚しさに脳内で宇宙猫の顔をしていると、背後からバタバタと騒がしい足音が近づいてきた。


「おい、さんぼう! ねーちゃんが、今日の晩ご飯は『旦那様への愛妻弁当(手作り)』だって、朝から台所で凄い音を立ててたぞ!」


太郎の服の裾を引っ張ってきたのは、肉壁(盾)としてこの離宮に半ば強制的に拉致されてきた、辺境伯の孫のレオだった。レオの手には、太郎がこの世界で生き残るために施した「ジャンケン必勝法(心理誘導)」のメモ書きが握られている。


「……凄い音、って、レオ坊っちゃん、料理の時に鳴る音のレベルじゃないよね、それ?」

「うん! ズドン! とか、メキメキ! とか、お城が揺れるような音がしてた!」

太郎の背筋に、嫌な冷や汗がドバッと流れた。


その直後、廊下の向こうから、新しく仕立て直された(しかし衣服を破らんばかりの巨乳のせいで前がはち切れそうな)美しいエプロンドレスを身に纏ったシャルロット姫様が、満面の笑みで歩いてきた。

その両手には、きらきらと輝く銀のトレイ――『愛妻弁当(生)』が乗っている。


「太郎様ぁ♡ お待たせいたしましたわ! 太郎様の健康(一回につき数の制限があるデリケートな人間の肉体)のために、シャルロット、栄養満点の超古代風スタミナお弁当(生)を、心を込めて作って参りましたの!」


「あ、あはは……姫様、それはどうも……って、え? そのトレイに乗ってる『生のひき肉』、何ですかそれ?」

太郎はトレイの上を見て、引きつった詐欺師の笑みを浮かべた。


そこにあったのは、もはや肉の原型を留めていない、分子レベルで均一にすり潰された、恐ろしい密度の『超ひき肉の塊(生)』だった。

「ええ! 王城の厨房にあった一番硬い魔獣の最高級ステーキ肉(大人の男の剣でも傷つかない最高硬度の肉)だったのですが、包丁では全く歯が立たなかったので、私のこの手のひらで【メキメキ、バリバリと、愛情を込めて素手で握り潰して、完璧なひき肉にして差し上げましたわ♡】」


(包丁が通らない防魔鋼鉄並みの肉を、素手で握り潰してひき肉にした……!?)

太郎はあまりの恐怖に、胃がキリキリと音を立てて悲鳴を上げるのを感じた。


前回の成層圏飛行を経て、正しい性教育(現実)を学んだ結果、姫様の中では「太郎様の肉体はとても弱くて、一度にたくさん子作りをすると干からびて死んでしまう」という知識がインプットされていた。

そのため、彼女の愛は「いかに太郎様にスタミナをつけさせ、肉体を強化し、朝まで耐えられるようにするか」という、これまた猛烈に歪んだ方向へと全振りされていたのだ。


「さぁ、太郎様! シャルロットの愛を、一粒残さず召し上がってくださいまし! これを食べれば、今夜の『実戦(回数限定)』も、きっと干からびずに耐えられますわね……♡」

お腹の前に両手を当てて、うっとりと頬を染める130センチの怪物(ワイフ)。


「いや、あの、姫様。医学的な常識から言いますとね、どれだけスタミナをつけても、人間の細胞の再生速度には限界がありまして! ですから今夜は、その、レオ坊っちゃんも交えて、三人で健全に『ジャンケン大会』をして、お気楽に夜を明かしましょうかねぇ、ははは……」


太郎は冷や汗を滝のように流しながら、必死の時間稼ぎのハッタリをかました。


「ええ? ねーちゃんとじゃんけんするの? 俺、さんぼうに勝てる技教えてもらったから負けないぞ!」

 後ろで呑気に騒ぐレオ。よし、ナイス肉壁。

「むぅ……太郎様ったら、まだ私の『愛』が怖いのですね? でも、そういう私の身体を労わってくださる優しさも、本当に、本当に素敵ですわ……♡」

太郎の必死の防御姿勢を、すべて「愛の照れ隠しと優しさ」へと脳内バグ翻訳する最強の婚約者。

彼女はトレイを置くと、太郎の左腕にギュッと抱きつき、その圧倒的な肉圧をこれでもかと押し付けてきた。ミシ、ミシと太郎の腕の骨が嫌な音を立てる

。

(……もう無理だね。俺、今夜もこのゴジラ姫様の抱き枕として、骨盤が砕けないように絶妙なグレーゾーンの脱力体勢を維持しながら、朝まで耐え抜くしかないんだな……)

その時、離宮の扉がコンコンと、尋常ではないほど静かに、そして恐る恐るノックされた。

 開けると、そこにはガタガタと震えながら、太郎のために最高級の栄養剤や蘇生薬の樽を抱えた国王陛下と老宰相の姿があった。

「や、山田殿……! 調子はどうかね!? 今夜のスタミナは足りているか!? 頼む、全人類の存亡がかかっているのだ、今夜もどうか……どうか生きて朝を迎えてくれ……!」


 義父(国王)からも、全人類からも、ベッドの上の生存を涙ながらに懇願される新婚日常。


チート能力はなく、生身の肉体スペックは最弱。


しかし、現代兵器の備蓄と科学の知恵を隠し持ちながら、世界最強のゴジラワイフの圧倒的な愛の包囲網(コンクリート固め)の中で、一秒でも長く生き残るための、山田太郎の命がけの『新婚サバイバル』が、今、あまりにも賑やかに、そして恐ろしく幕を開けるのだった。


――ガガガガガ、と、離宮の地下にある頑強な防魔石の演習場が、まるで直下型の巨大地震に襲われたかのように激しくのたうち回っていた。


「ひ、ひぃぃぃぃ! 中止! 作戦中止!! 参謀本部(俺の脳内)より、今すぐこの演習からの即時撤退を命ずる!!!」

 山田太郎は、全身から滝のような冷や汗を流しながら、四足歩行の野生動物のような無様な格好で、激しく震える大地のうえを必死に這い回っていた。


 原因は、彼の目の前で、薄手のネグリジェの上にエプロンドレスを羽織っただけのシャルロット姫様が、可憐な笑顔で掲げている『ある超古代の遺物』だった。


 それは、聖国の大書庫から姫様が「太郎様の特訓用に♡」と片手で引っこ抜いて持ってきた、超古代文明の【重力制御式・高負荷生体鍛錬端末(グラビティ・チェンジャー)】。


ボタン一つで、指定した空間の重力を自在に変えられる、超古代の狂ったアスリート用訓練器具だった。


「ふふ、ダメですわ、太郎様! 医学書には、人間の男の肉体は『鍛えれば鍛えるほど密度が増し、回数への耐久力が上がる』と書いてありましたわ! 太郎様が今夜の『実戦(回数限定)』で二度と干からびて骸骨にならないよう、シャルロット、全身全霊をかけて太郎様の肉体を強化(調教)して差し上げます!」


姫様が愛らしい指先で、端末の結晶をパチンと叩く。

『――空間重力:地球基準の十倍(ガラム王国基準の五倍)を適用します』

 ――ドグシャァァァ!!!

その瞬間、太郎の四十歳の現役自衛官の肉体に、突如として数十人の大男が上からのしかかってきたかのような、凄まじい「超重力」が激突した。

生身の身体強度が異世界基準だと10歳児並みの太郎だ。

まともに喰らえば、内臓が口から飛び出して骨盤が粉砕されてもおかしくない、文字通りの『地獄の筋トレ』である。太郎の四肢が地面の石畳にめり込み、ミシ、ミシと嫌な音が鳴り響く。

「ま、待っ……姫様……! 出力……出力の計算がおかしい……! 俺、これ、一ミリも動けないから! 筋トレの域を超えて、ただの圧殺刑になってるから!!!」


「あら? 太郎様、そんな生ぬるい愚痴をこぼしては、いつまで経っても私を満足(?)させられる本物の旦那様になれませんわよ? ほら、まずはその状態で、腕立て伏せを千回ですわ! はい、ワン、ツー!」

 姫様は、超重力空間など一切存在しないかのように、130センチの小さな体で軽快にジャンプし、重力で重くなった衣服を巨乳の揺れでまき散らしながら、太郎の目の前で楽しそうに手拍子を打っている。彼女にとっては、地球の重力の十倍など、そよ風が吹いている程度のものでしかなかった。


姫様、胸がはだけています、はしたない、はしたないですよ!!


大丈夫です、ここには私たちだけです♡


(あかん……! 死ぬ、本当に死ぬ! 脳内防衛軍の核兵器でもあいつは倒せなかったけど、今回は敵(ゴジラ)が味方の顔をして俺の肉体を物理的にデバッグ(圧殺)しにきてるよぉぉぉ!!!)

太郎は必死になって要領よく、この地獄の空間から脱出するための方法を脳細胞をフル稼働させて弾き出した。

太郎は顔面地面にめり込ました様な顔で、床にめり込んだ右腕をミリ単位で動かし、迷彩服のポケットに残されていた最後の【訓練用の音響ダミー(爆音だけが鳴るガラクタ)】を引き抜いた。

そして、歯で安全ピンを執念深く引き抜くと、自分のすぐ目の前の地面へと転がした。

「姫様……! 敵の、敵の奇襲だ!! 『新型の爆魔道具』が作動した! 今すぐ俺を抱えて、この重力圏外へ緊急離脱(エスケープ)しろ!!!」


 ――パァン!!!

 太郎が叫んだ瞬間、訓練用手榴弾が乾いた爆音を立てて弾けた。

「キャッ!? 太郎様を害する不届きな爆弾ですわね!?」

 真実を知って英才性教育(現実)を学んだとはいえ、戦闘以外のハッタリ(地球の訓練用ガジェット)には、未だにピュアで騙されやすい最強の婚約者。

彼女は太郎の「敵の奇襲」という嘘を完璧に信じ込み、超重力空間を音速で踏み越えると、床にめり込んでいた太郎の骸骨一歩手前の体を、ガシッとお姫様抱っこで回収した。

そして、そのまま離宮の地下の防魔石の壁を、【何も存在しないかのように肉体一つでバリバリと突き破りながら、最短距離で地上の主寝室へと飛び上がった】のだ。


 ――ドガァン!!!

 離宮の床に綺麗に大穴が空き、太郎は主寝室のベッドのうえへと放り出された。

「はぁ、はぁ、はぁ……! 助かった……。ハッタリ万歳、自衛隊の訓練用装備万歳だねぇ……」

太郎がベッドのうえで命拾いした安堵の涙を流していると、離宮の壊れたドアの隙間から、ガタガタと震えながら最高級の栄養ドリンクを盆に乗せた国王陛下と老宰相が、涙目で顔を覗かせていた。

「や、山田殿……! 先程の地響きは、シャルロットが何かしたのかね?……

『夜戦用特訓』であったか……! 頼む、全人類の未来のために、どうかその、超古代の筋トレにも耐え抜いてくれ……!

毎朝、お前が生きているか確認するのが、我が王家の最大の恐怖なのだ……!」

義父(国王)からも、全人類からも、ベッドのうえだけでなく「日中の筋トレ」での生存すら拝み倒される、胃が痛すぎる新婚サバイバル日常。


現代兵器のアドバンテージ(訓練用ガラクタ)を必死に使い回しながら、四十歳の叩き上げ士官・山田太郎は、最強のゴジラワイフの愛(物理的圧殺)に耐え、全力で生き残る計画を練り直すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。