聖国潜入編――降伏の聖門と、調教師の憂鬱
――『あの破壊神と、それを笑顔で飼いならす最凶の調教師山田太郎が、我が国へ向かっている』
海の向こうの宗教国家・聖国。その国境の港湾要塞では、エルフの里やドワーフの国から届いた最悪の「生存者たちの証言」により、建国以来、最高度の厳戒態勢が敷かれていた。
聖国の高位聖職者や聖騎士たちは、額から滝のような冷や汗を流しながら、要塞の巨大な防魔城壁の上で震えていた。
「来るぞ……国を、世界を滅ぼす災厄のコンビだ。ドワーフを下し、エルフの里を一撃で更地にした破壊神と、それを笑顔一つで完璧に従える謎の男……。
ドワーフの国では、あの三メートルの巨漢戦士バルガンが一瞬で消し飛ばされたという。次は我が聖国が標的だ!」
そんな歴史的ギガイベント級の警戒がされているとは夢にも思わず、山田太郎の乗る高機動車は、聖国の巨大な鉄の城門の手前へと到着していた。
「……うん、おかしい。もの凄くおかしいねぇ」
太郎は運転席の窓から、不自然なほど静まり返り、しかし壁の隙間から数千もの弓矢や魔導銃がこちらをロックオンしている聖国の国境門を見上げて、頬を引きつらせた。
陸軍士官としての直感が、最大音量で警報を鳴らしている。
正面から入ろうものなら、挨拶代わりに聖国の総火力を叩き込まれるのは明白だった。
「姫様、レオ坊っちゃん、ちょっとこれ、正面から入るのは諦めて、夜陰に紛れて裏の密輸ルートから要領よく潜入した方が良さそう――」
「いいえ、太郎様! シャルロットにお任せください!」
太郎がいつもの隠密(迂回)作戦を提案しようとしたその瞬間、助手席のシャルロット姫様が、衣服を破らんばかりの豊かな巨乳をふんすと膨らませて立ち上がった。その愛らしい130センチのロリ体型からは、すでに周囲の空間をバリバリとねじ切るような、超古代生物兵器の『オリジナルスペックのプレッシャー』が漏れ出している。
「私たちは、もう教会の神術で魂が結ばれた夫婦(仮)なのですわ! 太郎様との未来の可愛い子供のためにも、シャルロット、正面からお話し合いをして、彼らの誤解を解いてみせますわ!」
――ただ一緒に抱き合って寝ただけ(姫様の性知識はそこでストップしている)なのに、すでに子供の養育計画まで脳内で完了している最強の婚約者。
その言葉を聞いた瞬間、四十歳の中年現役自衛官・山田太郎の精神は、完全に【宇宙猫(何言ってんの?)】と化していた。
(……え? 子供? お話し合い? 待て、お前そのネグリジェでぎゅってして寝たら子供ができるシステム、本気で信じてるのか!?
そしてその『お話し合い(物理)』が一番世界を滅ぼすんだよぉぉぉ!!!)
太郎が脳内で宇宙の心理に到達して固まっている間に、姫様は高機動車のドアを開け、スタスタと小さな足取りで、聖国の最高警戒門へと向かって歩き出してしまった。
その瞬間、太郎の脳裏に、今後の人生における『本気の決意』が固まった。
……決めた。
この聖国の調査が終わったら、俺はどんなリスクを冒してでも、ガラム王国のあのクソ義父(国王)と奥方の元へ戻って、膝を突き合わせて本気で話し合う。
あのゴジラ姫様に、大人の正しい、完璧な『性教育』の特別講習を受けさせるための国家予算を組ませてやる……! そして、姫様がそのお勉強に集中して物理的に距離が空いている隙に、俺は高機動車の全エネルギーを使って、地球の裏側まで全力で逃げ切ってやるからな……!!!
太郎は涙目で、絶対に諦めない逃亡計画の炎を燃え上がらせた。
前回の夢は、ただの悪夢ではない。
もしこのまま勘違いが解けないまま、ある日突然「太郎様、赤ちゃんが生まれませんわ?」とキレられたら、それこそ地球の裏側に逃げても正確にあの『超高熱線(狙撃熱線)』が飛んできて、自分の肉体が分子レベルで焼き払われる未来が確定しているのだ。教会の婚姻の護符は、もはや魂に刻まれた最悪のGPS(呪い)だった。
*
だが、太郎がそんな必死の生存戦略(現実逃避)を練っている間に、城門の前では、歴史的な『大惨事(お話し合い)』が始まっていた。
「く、来るなァァァ! 聖なる光よ、あの悪魔を討て!」
城壁の上にいた聖国の若きエリート聖騎士たちが、恐怖のあまり狂ったように叫び、国家最高レベルの攻撃魔法を一斉に起動した。
ドゴォォォン!!!と、天から巨大な光の裁きの雷が、歩いてくる姫様の頭上へと容赦なく降り注ぐ。
しかし、シャルロット姫様にとって、それは「ちょっと眩しいわね」という程度の、羽虫を払うような煩わしさでしかなかった。
パチパチ、と衣服の表面で光の雷が静電気のように弾け飛び、皮膚に傷一つ、擦り傷一つすらつかない。姫様はただ、スカートの裾を少し気にしながら、まっすぐに城門へと歩みを進める。
「開けてくださる? シャルロット、お話し合いをしに参りましたのよ?」
上品に微笑みながら、姫様はその小さな白い手を、聖国が誇る『建国以来、一度も破られたことのない、厚さ数メートルの防魔鋼鉄の巨大城門』へと、優しく添えた。
そして――ただ、お散歩のついでにドアでも押し開けるかのように、
【フン、と軽く手のひらで城門を『押した』】。
――ズガァァァァァン!!!!!
聖国全体の地盤がひっくり返るような、凄まじい大爆音が響き渡った。
厚さ数メートルの鋼鉄の門が、内側の頑丈な閂や魔法の結界ごと、まるで【ただの薄いベニヤ板か障子紙でも破るかのように、中央からメキメキとひしゃげて爆砕し、内側へと吹き飛んでいった】のだ。
その門の裏側で、盾を構えて必死に防衛線を築いていた数千人の聖国騎士団の主力部隊は、吹き飛んできた城門の破片と、姫様が精神状態により無自覚に発生させている魔力が姫の周りで渦巻き、それらが進行方向で空気と合成されて発生した凄まじい衝撃波(風圧)の余波に巻き込まれ、何が起きたか理解する暇すらなく、まとめて後方へと何十メートルも吹き飛ばされて全滅した。
剣を振る暇すらない。ただただ、圧倒的な質量の前に、虫ケラのように転がっていく聖国の誇り。
「ひ、ひぃぃぃぃ……! 門が、一撫でで消えた……!」
「聖下! 聖下! 全面降伏です! 今すぐ白旗を上げてください、国が消えます!」
姫様は、自分が数千人の軍隊を瞬く間に壊滅させたことすら気づいておらず、「あら? 随分と風通しの良いお城ですわね」と首を傾げながら、瓦礫の山となった通路をスタスタと直進していった。
彼女がただ歩いて、閉まっている重厚な扉をその都度「優しくノック(爆破)」しながら進むだけで、聖国の最高防衛システムは次々と塵へと変わっていく。
高機動車の運転席で、太郎は完全に魂が口から抜け出しかけていた。
エルフの里でもそうだったが、一度何かを決めると周りが見えていなく、本人はただ歩いているだけでも、その新路上にあるものは砂上の楼閣の様に崩されて行く。
……うん。全面降伏だね。エルフの里の時より被害がデカいよ。
やっぱりあいつはゴジラだ。俺、絶対に地球の裏側へ逃げ切ってやるからな……!
ゴジラを迎撃退けるはずだった聖国の防衛線は、姫様の「ただ歩いて門を押しただけ」という無自覚な世界滅亡級の進撃により、謁見の間に到達する前に完全壊滅。
玉座の間で、ガタガタと震えながら白旗を両手で振る聖国の最高指導者(教皇)の前に、太郎は「詐欺師」としての偽りの微笑みを浮かべながら、再び要領よく交渉の席へと着くしかなかった。
現代兵器のアドバンテージを隠し持ちながら、最強の可愛い怪獣の暴走に戦慄し続ける山田太郎。
教会の総本山を物理的に全面降伏させた二人の新たなる『破壊神と調教師』の伝説が、海の向こうの国々へも爆発的に広がっていく中、太郎は生き残るため、そして地球へ帰るための『安全装置』のハッキングへと、決死の一歩を踏み出すのだった。
(第十一章:聖国潜入編・第一話 完)




