火薬の火花と、総司令官の悪夢
エルフの里を実質的に壊滅(一本の見事な直線道路が完成)させた、シャルロット姫様による恐怖の第二回・夜這いチェイスから数日。
ガラム王国政府がエルフの里へ莫大な損害賠償を支払う手続きを進める中、山田太郎は高機動車を再び南へと走らせていた。
手元には、エルフの里を救った見返りとして要領よく大量にせしめた、火薬の主原料である『硝石』と『硫黄』。
太郎はこれらを高機動車に満載し、国家最高名誉顧問の特権を使って、まずは本国経由で『ドワーフの国』のガスタ親方の工房へと舞い戻っていた。
「親方、頼んでいた『真鍮の筒(薬莢)』の複製はどうですかね?」
「フン、職人の意地を舐めるな。お前が置いていった見本の寸法、一ミリの狂いもなく数千発分、完璧に鋳造してあるぜ。
だがよ、山田……。肝心の中身の『黒い粉(火薬)』がなけりゃ、ただの重い金属の筒だぞ」
ガスタ親方が、工房の作業台にズラリと並んだ、見事な出来栄えの『5.56mm小銃弾の薬莢』を指差した。地球の工業製品と見紛うほどの超精密なドワーフの職人技だ。
「ええ、ですから材料を持ってきました。
親方、ここからは私の故郷の秘伝の調合――『精密火薬調合』をお見せしますよ」
太郎は博学な知識を活かし、エルフの硝石、硫黄に、特定の木を蒸し焼きにして作った高純度の木炭をブレンドした。
現代の無煙火薬をイチから作るのは設備的に不可能だが、成分の比率を極限まで精密に管理した『近代型黒色火薬』であれば、ドワーフの設備でも十分に製造可能だった。
太郎の指示のもと、ドワーフの弟子たちが火薬を薬莢に詰め、雷管を嵌め込み、弾頭を圧着していく。
カチリ、と完成した一発の89式小銃弾。太郎はそれを小銃の弾倉に叩き込み、工房の射撃場で試射を行った。
――バァァァン!!!
乾いた銃声と共に、防魔鋼鉄のプレートが瞬く間に撃ち抜かれる。純正の自衛隊の弾薬に比べれば微かに初速は落ちるが、実戦には何の問題もない威力を叩き出していた。
(よし……! これで小銃と重機関銃の『残弾数無限化』の目処が立った。現代兵器のアドバンテージは完全に復活だ)
太郎は満足げに頷いたが、ここでいつもの「参謀」としてのえげつない一計を案じた。
ガソリンの時と同様、ドワーフたちがこの火薬の技術を完全に独占し、自分たちの兵器として量産し始めたら、太郎の絶対的な優位性が崩れてしまう。
手の内を完璧に隠匿し、自分に依存させるのが楽に生き残るコツだ。
「――親方、ちょっと全員、作業台から離れて避難してください」
太郎はわざとらしく、ひどく青ざめた顔を作ってドワーフたちを遠ざけた。
そして、調合中の火薬の入った小さな器の横に、あらかじめ用意しておいた『細工(摩擦で火花が出る仕掛け)』をこっそりと仕掛け、部屋の隅へとダッシュした。
数秒後。
――チュドォォォン!!!
工房の一角で、小規模な爆発が起き、黒煙がモクモクと立ち上った。
周囲の工具が派手にひっくり返り、ガスタ親方たちは悲鳴を上げて床に平伏す。
「な、なんだ!? 何が起きた、山田!?」
「ああ、なんということだ……! 親方、だから言ったでしょう!」
太郎は黒煙の中から、今にも泣き出しそうな困り顔(完璧な演技)で這い出てきた。
「私の故郷の火薬は、ガソリンと同じく、もの凄く嫉妬深くて気難しい命が宿っているんです。
私がその場にいて、私の『魔力(という名のハッタリ)』で常に気性を宥めていないと、ただ置いておくだけで、周囲の空気に怒って勝手に大爆発を起こす呪いがかかっているんですよ……! 今回は小規模で済みましたが、もし大量に作り置きなんてしたら、ドワーフの地下都市ごと消し飛んでお釈迦です……。
ですから、火薬の最終調合は、私が取りに来た時に、私の目の前で、必要な分だけをその都度作るように徹底してください、いいですね?」
「ひ、ひぃぃぃ! 呪いの火薬かよ! わ、分かった、お前がいない時は絶対に触らん、作り置きも絶対にしねえ!」
ガスタ親方は顔面を真っ白にして、職人の掟にかけて厳守することを誓った。
ガソリンに続き、弾薬の製造ラインの安全管理(という名の手綱)も、太郎が完璧に握りつぶした瞬間だった。
太郎はここで、復活した大量の『弾薬』、満タンの『ガソリン』、そして――万が一の時の道連れ(ハッタリ)用として、高機動車ブロックを爆破するための追加の『C4爆薬(対姫様用の最終兵器)』をたっぷりと仕入れ、ドワーフの国を後にした。
*
次なる目的地は、エルフの長老から聞き出した、南の広大な砂漠の果てに眠る【古代ゴーレム(守護者)の遺跡】だった。
そこには、シャルロット姫様という『超古代の生物兵器』を制御するための、あるいは天敵となる自律型兵器のデータが眠っているという。
砂塵を巻き上げて走る高機動車。助手席の姫様は、太郎の左腕をこれでもかと豊かな巨乳で挟み込みながら、嬉しそうに窓の外を眺めている。
「太郎様と砂漠のドライブ(調査)なんて、シャルロット、とっても興奮してしまいますわ♡」
「ハイハイ、姫様。砂が目に入るといけませんから、窓は閉めておいてくださいねぇ」
太郎は内心で(待ってろよゴジラ、今お前の天敵を見つけてやるからな)と執念を燃やしていた。
やがて、流砂の合間から、半透明の超硬質素材で作られた、幾何学的な構造を持つ超古代の巨塔――守護者の遺跡が姿を現した。
遺跡内部
太郎は暗視ゴーグルとフラッシュライトを駆使し、襲いかかってくる粗末な防衛用の小型ゴーレムたちを、復活した89式小銃の圧倒的な火力と姫様の超火力で危なげなく処理しながら、遺跡の最深部へと突入した。
そこで太郎が見つけたのは、巨大な制御パネルに刻まれた、超古代文字の【碑文の断片】だった。
太郎が触れた瞬間、脳内に直接データが流れ込む。
(――『警告:オリジナルスペック・生体自律兵器の暴走時における緊急停止プロトコル。……セーフティの起動には、聖国の最奥に眠るコアシステムへのアクセス、および……』――クソッ、ここで途切れてるか!)
太郎はこの時、気がつかなかったが、古代コンピュータや機械類の基礎的な知識、プログラミング言語等が脳にインプットされていた、それは此処がゴーレムの修理サポートセンターだった為にサポート要員の学習プログラムが残っており、それが故障したデータチップから、残っていたデータと共に太郎に流れ込んでいた。
太郎は自身が探したデータである生体兵器の解除コードなどは意識していた為に入力内容として意識出来たが、古代コンピュータの使用方法などは意識していなかったため、以後なぜ使えるか?疑問を抱かないまま使いこなすことになる。
周りもそんなものかと考えて指摘するものがいなかったので生涯気がつくことはなかった(太郎が気が付けばチートだと喜んだと思われる)
天敵となるゴーレムはいなかった。
だが、あの最強のゴジラ姫様を無力化するための『安全装置』の存在が、確かに証明されたのだ。
そしてその続きの手がかりは、海を渡った先にある宗教国家――『聖国』にある。
「よし、次の目的地は聖国だ。
タイムリミットが来る前に、何が何でもあの安全装置のパスワードを手に入れてやる……!」
太郎は確かな手がかり(碑文の断片)をポケットに仕舞い込み、遺跡の調査を終えた。
*
その夜。遺跡のふもとの砂漠で、太郎たちは高機動車の脇にテントを張り、野営を行っていた。
当然のように、太郎はシャルロット姫様によって、ベッド(寝袋)の上で完全な【人間抱き枕】としてガッチリと捕獲されていた。130センチの可憐な体に、衣服を破らんばかりの巨乳が太郎の全身に密着し、超古代兵器の無意識の締め付けによって、太郎の四十歳の骨がミシ、ミシ、と嫌な音を立てている。
「う、動けない……。これ、寝返りうたれたら骨盤が砕けるな……」
窒息の恐怖と戦いながら、太郎はいつの間にか、深い、深い眠りへと落ちていった。
――そして、太郎は『夢』を見た。
それは、どこか懐かしい地球の、近代的な軍事基地の司令部だった。
太郎は迷彩服ではなく、まばゆい勲章を胸につけた【地球防衛軍・最高総司令官】の制服を身に纏い、巨大なモニターの前で指揮を執っていた。
「総司令官! 前方より特異災害――『怪獣ゴジラ(シルエットは完全にシャルロット姫様)』が接近中! 本土防衛線が突破されました!」
「慌てるな! 第一次から第三次防衛部隊、すべての火力を集中させろ! メーサー戦車隊、前へ! 地球の近代兵器の総力を見せてやれ!」
夢の中の太郎は、生身最弱の男ではなく、何百万人もの軍隊を率いる無敵の智将だった。画面の向こうでは、無数の戦車や戦闘機が、凄まじい光線やミサイルをゴジラ(姫様)へと叩き込んでいる。
「勝てる……! これなら勝てるぞ! 人類の、科学の勝利だァァァ!!!」
太郎司令官が勝利を確信し、玉座のような椅子で高笑いした、その時だった。
画面の向こうのゴジラ(姫様)が、可愛らしく小首を傾げると、その大きな瞳を爛々と輝かせ、その裂けた口(ネグリジェ姿の笑顔)を大きく開いた。
――ズガァァァァァン!!!!!
超古代の惑星間戦争用兵器が放った、時空すらねじ切るような漆黒の【超高熱線(熱放射エネルギー)】が、画面を突き破って一直線に防衛軍の司令部へと激突した。
「総司令官っ!? 敵の熱線、出力が測定不能――」
「バ、馬鹿なッ! 熱戦が地殻を突き破って――うわあああああ!!!」
何百万の軍隊も、最新鋭の要塞も、太郎が築き上げた無数の兵器群も、その圧倒的な光の一撃によって、一瞬で分子レベルまで焼き払われ、白い灰へと変わっていく――。
「――ひ、ひぃぃぃぃぃ断絶!!!」
太郎は絶叫しながら、ガバッと跳ね起きた。
全身から滝のような冷汗が流れ、心臓がドラムのように激しく波打っている。
視界がゆっくりと戻る。そこは地球の司令部ではなく、夜明け前の静かな砂漠のテントの中だった。
「……はぁ、はぁ、はぁ、夢、か……。最悪の悪夢だな、おい……」
太郎がパニックを起こした頭を押さえながら、自分の胸元へと視線を落とすと――そこには、夢の中で世界を滅ぼした張本人であるシャルロット姫様が、薄手のドレスから豊かな巨乳を零れんばかりにのぞかせ、「ふにゃ……太郎様ぁ……♡」と、あまりにも愛らしく、ピュアな寝顔で太郎の胸にすりすりと頬を寄せている姿があった。
夢の中で司令部を焼き払われた恐怖の残滓と、目の前にある極上の柔らかさのギャップ。
(あかん……やっぱりあいつはゴジラだ。脳内防衛軍じゃ勝負にすらならねえ。
何が何でも、次の『聖国』で、あの安全装置のパスワードをハッキングして、完璧に無力化してやるからな……!)
恐怖のあまり、再び斜め上の「諦めない逃亡計画」の執念を限界まで燃え上がらせた四十歳の参謀は、腕の中の可愛い怪獣を起こさないよう細心の注意を払いながら、まだ見ぬ海の向こうの宗教国家『聖国』へ向けて、高機動車の舵を切るのだった。
(第十章・完 / 第十一章・聖国潜入編へ続く)




