嫁が強すぎると呪いと変わらんよね
超古代文明の隠し書庫から戻った山田太郎は、王城に用意された自室で、一人静かに『9mm拳銃』のメンテナンスを行っていた。
カチャ、カチャ、と金属が擦れ合う無機質な音だけが室内に響く。
脳裏に焼き付いているのは、あの地下深くで知ってしまった最悪の真実だ。
この世界の言葉の自動翻訳は、超古代文明のインフラサービスの残骸。
各種族は、当時の遺伝子改良の成れの果て。
そして、王家は自分に魂の婚姻契約を突きつけ、外堀を完璧に埋め立てて押し付けられたロリ巨乳の第一王女・シャルロットの正体は、超古代文明が惑星間戦争のために生み出した『究極の決戦生物兵器』の、ほぼ100%のオリジナルスペックを持つ隔世遺伝の化け物。
元の世界へ帰る『門』は、巨大システムの安全弁から漏れ出るただの排気ガス。
狙って開くことなどできない――。
「……ま、普通の人間なら、ここで泣いて諦めて、可愛いお姫様と一生添い遂げるハッピーエンドを選ぶんだろうねぇ」
太郎は冷徹な手つきでスライドを戻し、弾倉を叩き込んだ。
ジャキッ、と鋭い装填音が響く。
その瞳の奥には、叩き上げの士官特有の、泥をすすってでも生き残る執念の炎がパチパチと燃えていた。
でも生憎、俺は痛いのと、自由を奪われるのが大嫌いな趣味人でね……
諦めるわけないだろ。退路が断たれたなら、こっちから仕掛けてやるよ
太郎の脳細胞が弾き出した作戦――それは、恐怖のあまり一周回って辿り着いた、極めて斜め上の生存戦略だった。
あの姫様が超古代の生物兵器だって言うなら、まずはその『限界』を徹底的に調べ上げる。
将来、地球に帰るためにどうしても邪魔になれば、戦う必要があるかもしれない。
最悪、殺さなきゃいけないかもしれないからな。
少なくとも、夫婦喧嘩位は互角でありたい。
……そして、あの怪物を倒せる『天敵』か『弱点』を、この世界のどこかから探してぶつけてやる。
何処かに姫様並みの超人が居るかもしれない。
ついでに、王家が隠した契約魔法の解除方法も、世界中をひっくり返して見つけ出してやるよ。
表向きは、国王たちへの言い訳として「超古代文明の痕跡を探し、システムを解析する。もしかしたら超古代の生き残りがいたり、地球と連絡を取る方法があるかもしれないから」という、最もらしい国家規模の大義名分を用意した。
これなら、燃料のガソリンと弾薬の調達をドワーフの国に任せつつ、高機動車に乗って堂々とこの国を出て、世界中を探索する自由が得られる。
「よし。まずは『生物兵器・シャルロット』のデータ収集(身体測定)から始めようか」
*
翌日。太郎はシャルロット姫様を誘い、王城の裏手にある、誰も近づかない頑強な防魔石で囲まれた王家の秘密の演習場へと赴いた。
「まぁ、太郎様! 私と二人きりで特訓ですのね!? もしかして、私をもっと知りたくなりましたか?私のこと隅から隅までもっと深く知りたいと……♡」
17歳、130センチのロリ巨乳姫様は、太郎がプレゼントした自衛隊の銃剣を腰に帯び、目をキラキラと輝かせて太郎の右腕に抱きついている。
柔らかすぎる肉圧が太郎の腕を包むが、今の太郎の心は、獲物の構造を解剖しようとする冷徹な技術者のそれだった。
「ええ、そうですよ、姫様。これから何が起きるか分からない世界ですからね。
姫様の『限界』を、この俺の目で徹底的に確かめておきたいんです。……どんなことがあっても、俺を信じてその場に立っていてくれますか?」
「もちろんですわ、太郎様! 貴方のためなら、このシャルロット、世界を敵に回しても一歩も退きません!」
愛らしい顔に満面の笑みを浮かべ、無防備に両手を広げる姫様。
大丈夫なのはデータ上分かっている。
だが、太郎の行動は、常人の倫理観を遥かに超えていた。
太郎は一歩、二歩と後ろへ下がり、姫様と十メートルの距離を取った。
して、迷彩服の腰の後ろから、異世界人には『ただの鉄の部品』にしか見えなかった、隠し持っていた最大の切り札――【9mm拳銃】を滑らかに引き抜いた。
両手でしっかりとホールドし、銃口を、最愛の婚約者(仮)の眉間へと真っ直ぐに固定する。
自衛隊の訓練で数十発、数百発と撃ち込んできた、寸分の狂いもないプロの狙撃姿勢。
「な……太郎様? それは……?」
さすがに不穏な空気を感じ取ったのか、姫様が小首を傾げた。
「ごめんね、姫様。これが、俺の故郷の『魔法』の威力測定だ」
太郎の指が、冷徹に引き金を絞りきる。
――バァァァン!!!
激しい銃声と閃光が演習場に轟いた。
銃口から放たれた9mm弾は、音速を超える凄まじい速度で空気を切り裂き、まっすぐにシャルロット姫様の額へと突き進んだ。
常人の反応速度では、何が起きたか理解する前に脳殻を撃ち抜かれて即死する、地球の近代兵器の絶対の殺意。
だが、超古代の惑星間戦争用生物兵器は、太郎の「想像」を遥かに置き去りにした。
――カチッ。
信じられないほど小さな、軽い金属音が響いた。
シャルロット姫様は、避けることすらしなかった。
彼女は、ただ退屈そうに右手をほんの少しだけ、目にも留まらぬ超高速で一閃させたのだ。
衝撃波!! ちぎれ飛ぶ服の破片!
そして、太郎が驚愕のあまり顎が外れそうになりながら見つめる中、姫様はゆっくりと、その小さな手のひらを開いて見せた。
そこには、皮膚に傷一つ、赤み一つすらつかない状態で、【放たれた9mmの鉛の弾丸が、彼女の親指と人差し指の二本だけで、余裕を持って綺麗に摘み持たれていた】のだ。弾丸はまだ摩擦で熱を持ち、微かに白い煙を上げている。
なんで?
手が無事?分かるとして(分かるのか?)
いやいやいや手で捕まえる?弾が砕けるでしょう?
太郎は混乱している
「ふむ……魔力もないのに、これほどの初速と硬度を持つ鉄の礫を放つとは、素晴らしい道具ですわね、太郎様。ですが……」 姫様は、とろけるような甘い笑顔のまま、その指先にほんの少しだけ力を込めた。
――ギチ、ギチチッ……。
地球の工業技術が生んだ頑丈な金属弾が、姫様の指の力だけで、まるで【ただの生チョコレートか粘土でも捏ねるかのように、ぐにゃりと歪み、完全に平べったい鉄屑へと押し潰された】のだ。
それを、ポイと地面に捨てる姫様。
「この程度の威力では、私の皮膚を傷つけることすらできませんわ。ああ、でも、私の肉体強度を心配してくださったのですね……太郎様の深い愛を感じますわ、シャルロット、感激です!」
ダダダッ!と、地響きのような足音を立てて、嬉しそうに突っ込んでくる130センチの怪物。
その瞬間!!!!!!! 叩き上げられた自衛官をもってしても抗い難い恐怖が頭を占めた。
「うわぁぁぁ! 来るな! 来るなぁぁぁ!!!」
太郎は本能的な恐怖で絶叫し、拳銃を放り出してその場を全速力で逃げ出した。
予感のまま仕掛けたスタングレネード、煙幕弾が太郎が走り抜けた後、連鎖的爆発する。
さしもの姫様も戸惑う(初めての経験で戸惑っているだけで本人には何一つ効いていなかった、ただうるさい、チカチカ光る、煙たい程度攻撃なら対処したが自身に影響がない為どうしてよいか分からなかった、太郎が死地から逃れる隙が生まれた)
(戦慄……! 絶望……! 避けるどころか手で掴みやがった! 現代兵器が、至近距離の銃撃が、ただの指パッチンと同レベルで処理されたぞ! あんなのどうやって殺すんだよ! 人類には無理だろ!)いつのまにやら殺すに、目的がすり変わっているのも分からなくなっていた、太郎の目論見では痛がってくれる程度であった、そうすればそのことからも肉体強度も知れるし、最悪夫婦喧嘩でも尊厳位は守れるか?皿が飛び交う代わりに銃弾だが?と思っていた。
演習場から出口に向かい涙目でドタバタと走りながら、太郎は心の中で狂ったように叫んでいた。生身のスペックの差がどうとかいう次元ではない。オリジナルスペックの生物兵器シャルロットは、文字通り『自分には対処不可能な存在』だったのだ。
心から核兵器がほしいと思ってしまった。
*
その日の夕方。太郎は何食わぬ顔をして、国王陛下、王妃の奥方、そして老宰相が待つ謁見の間へと赴いた。
王族たちは、太郎が地下書庫で『婚姻契約の解除方法』が見つからずに絶望していると思い込み、内心でニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて待ち構えていた。
「おお、山田殿。地下書庫の探索はどうであった? 我が国の千年の歴史に、満足のいく書物は見つかったかな?」
国王が扇子をパタパタと仰ぎながら、わざとらしく尋ねる。
「ええ、陛下。素晴らしいものが見つかりましたよ」
太郎はいつもの朗らかな、剽軽な『参謀スマイル』を完璧に顔に貼り付け、要領よく一礼した。その様子に、王族たちは「ん……? 絶望していないのか?」と、微かな困惑の表情を浮かべる。
書庫の最奥の隠し部屋にて、超古代文明の驚くべき記録を発見いたしました。
この世界の自動翻訳や各種族のルーツ、そして私をここに引き込んだ『神隠し』の正体……すべては超古代の巨大システムが原因です。
……そして私は、被害者として、重大な義務を感じております
太郎は一歩前に出て、もっともらしい大義名分を厳かにぶち上げた。
「このまま巨大システムを放置すれば、いずれまた安全弁の暴発が起き、この王国に未曾有の災厄や魔物の大群が降って湧く可能性があります。
ですから私は、ドワーフの国家最高名誉顧問として、そして姫様の正式な婚約者として、この世界の各地に眠る『超古代文明の痕跡』を調査・解析する旅に出るべきだと判断いたしました! もしかしたら、システムの生き残りがいたり、災厄を完全に制御する方法があるかもしれません!」
その堂々たる提案に、国王と宰相は顔を見合わせた。
大義名分としては完璧であり、国家の利益にもなる。
何より、太郎が「姫様の婚約者として」と自分から口にしたことで、王族たちの警戒心は完全に解かれた。
「ふむ……。あやつ、結婚から逃げるために世界を旅するつもりか?
だが、教会の婚姻契約は魂に刻まれている。どこへ行こうが、シャルロットがついて行く限り逃げられんからな」
老宰相が国王の耳元でボソボソと囁く。
国王は深く頷くと、満足げに笑った。
「よかろう! 山田太郎よ、その超古代文明の調査、国家プロジェクトとして全面的に許可する! 我が娘シャルロットも、お前の随行護衛としてどこまでも同行させよう!」
「ありがとうございます、陛下。では、さっそく明朝、高機動車の準備をして出発いたしますよ」
太郎は深く頭を下げ、心の中で凶悪な笑みを浮かべた。
(はっはっは、騙されてやんの! 俺が世界のシステムを本気で調査するわけないだろ! 俺の本当の目的は、この世界のどこかに眠っているはずの『あの化け物(姫様)を倒せる存在(天敵)』と『契約魔法の解除方法』を探すことだ! 結婚式の準備の猶予はあと一年……! 待ってろよクソ親父、一年後に完璧に外堀を逆リフォームして、俺だけ地球にスタコラサッサと帰ってやるからな!)
表向きは「古代の生き残りや連絡方法を探す健気な調査員」。
しかしその実態は、異世界最強のワイフ(生物兵器)から要領よく逃げ切るための、邪悪な参謀、山田太郎の『斜め上の逆襲作戦』の始まりだった。
「太郎様! 私、貴方と世界中を新婚旅行(調査)できるなんて、夢のようですわ!」
「ハイハイ、姫様。長旅になりますから、車の中では大人しくシートベルトを締めていてくださいねぇ、ははは……」
腰の後ろの拳銃の無力さを噛み締めつつも、四十歳の叩き上げ士官は、復活した高機動車のアクセルを力強く踏み込んだ。
チートなし、生身最弱の男が、現代兵器の備蓄と科学の知恵、そして最強の天敵を探すという狂った執念を胸に、世界の果てへとその鋼鉄の馬を進める。
国家を、教会を、そして超古代の理をも巻き込む、山田太郎の絶対の逃亡サバイバルが、ここに本格的な幕を開けるのだった。




