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自衛隊員サバイバル日記改  作者: kero


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王都帰還編――深淵の書庫と、不滅の灯火 後編

現代の超高輝度LEDライトの光が暴いた石壁の隙間。


シャルロット姫様がその規格外の怪力で壁を押し込むと、ズズズ……と重い音を立てて、千年の歴史を持つガラム王家すら存在を知らなかった『隠し部屋』がその姿を現した。


「……何だ、ここ。埃一つ落ちてないな」

太郎がフラッシュライトの光を室内に這わせる。

部屋の中央には、中世風の木製の机ではなく、見たこともない滑らかな半透明の硬質素材で作られた台座があり、その上に一冊の『書物』――いや、金属のような質感を持つ薄いプレートが束ねられた奇妙な書物が鎮座していた。


太郎は警戒しつつもその書物に触れた。その瞬間、太郎の脳内に直接、お馴染みの自動翻訳を超えた、莫大な『データ』が直接流れ込んできた。


「なっ……なんだ、これ……!?」

太郎はあまりの衝撃に、その場にへたり込みそうになった。

背後から姫様が「太郎様!?」と豊かな胸で受け止めるように抱きついてくるが、今の太郎にはその柔らかさを堪能する余裕すら生じない。

そこに記されていたのは、魔法や神話などという生ぬるいものではなかった。

千年以上前、この世界には【地球を遥かに凌駕する超古代の超科学文明】が存在していたのだ。

 太郎がこの世界に来てからずっとお世話になっていた、言葉の意味が直接脳内に翻訳される奇妙な現象。あれは神の加護などではなく、超古代文明が当時の一般市民向けに展開していた【自動言語翻訳インフラサービス】のナノマシンか電磁波が、未だに世界規模で、全自動で稼働し続けているだけだった。だからこそ、本来は全く違うルーツを持つ他種族同士でも、不自由なく会話や文字が読めるのだ。


「じゃあ、ドワーフや、他の各種族は一体……」

太郎が呆然とデータを読み進めると、さらなる戦慄が走る。

ドワーフもエルフも、元々は超古代文明の【遺伝子改良技術】によって、特定の労働(採掘や環境維持)のために造り出された生体パーツの成れの果てだった。


そして――太郎は恐る恐る、自分の背中にがっちりと抱きついているシャルロット姫様へと視線を向けた。

データによれば、姫様のような異常な戦闘能力を持つ存在は、当時、超古代文明が惑星間戦争のために生み出した【対人無双用生物兵器の遺伝子】だった。

それが千年の時を経て、奇跡的な確率で『ほぼ100%オリジナル』の状態で発現してしまった隔世遺伝……それがシャルロットという少女の正体だったのだ。

そうか……あのドワーフの戦士も大小在れど対人無双用生物兵器の遺伝子の発現した存在なのだろう、きっとこの世界は英雄だの魔王だのが過去の遺伝子の発現の強さで現れるのではないだろうか?


(しかし姫様の……オリジナル……生物兵器の、完成形……!?)

片手でドワーフ最強戦士の巨大斧を受け止め、ドアノブを紙のように握り潰す怪物。そんな存在に、地球のただの40歳の叩き上げ自衛官が、ハッタリや合気道でどうこう出来るわけがなかったのだ。

太郎はこれまでにない底なしの絶望に、全身の血の気が引いていくのを感じていた。


何やら頭の中で、どこぞの怪獣王のマーチが響き渡る。


「太郎様? 顔色が真っ青ですわ。やはり禁忌の呪いに当てられて……」

 心配そうに顔を覗かせてくる、130センチの愛らしいロリ巨乳の婚約者。

しかしその正体は、人類が逆立ちしても勝てない古代の超古代兵器。


(おそロシア……。手を出したら帰れないどころか、ちょっとでも不機嫌にさせたら俺の肉体が消滅する……!)

 ガタガタと震えながら、太郎は最後に、一番知りたかった『神隠し(地球への帰還方法)』の項目へとデータを進めた。

 だが、そこに書かれていた最後の真実が、山田太郎という男の希望を完全に叩き割った。


元の世界(地球)へ繋がる『門(ゲート)』を開く方法など、最初から存在しなかったのだ。

 この世界の地下深くでは、超古代の超巨大システムが今もなお、千年間ただひたすらに、全自動で動き続けている。

そのシステムが時折、臨界点に達した膨大なエネルギーを外部へ放出するための【安全蓋(安全弁)】を開く。

神隠しとは、その安全弁から漏れ出た余剰エネルギーの歪みによって、たまたま時空の裂け目(門)がランダムに開き、そこに運悪く太郎や高機動車が巻き込まれただけの『自然現象』だった。

魔物と呼ばれる凶暴な生物たちも、過去にその安全弁の暴発によって、別の世界からランダムに引きずり込まれた犠牲者の末裔に過ぎなかったのだ。


「狙って開くものではない……。ただの、機械の排気ガスみたいなもんかよ……」

帰還する方法はない。

教会の婚姻契約を解除する文献は、クソ親父(国王)たちによって事前にすべて撤去されている。

そして、隣にいる妻(仮)は、超古代の最強生物兵器。

響きわたる怪獣王の雄叫び!! 幻聴 !


 ――完全なる、詰み(チェックメイト)だった。

太郎はフラッシュライトのスイッチを消した。暗黒に戻った隠し部屋の中で、天井を見上げ、声にならない乾いた笑いを漏らす。


「あはは……。要領よくグレーゾーンを泳いできたツケが、これかぁ……。ウケるね、本当に……」

「太郎様……?」

シャルロット姫様が、暗闇の中で太郎の手をぎゅっと握りしめた。

その手は、超古代兵器のそれとは思えないほど、ただの17歳の少女のように温かく、そして切実だった。


太郎はふぅ、と長く、重い溜息を吐き出した。それから、腰の後ろの9mm拳銃の冷たい感触を確かめる。

(現代兵器)はまだここにある。そして、ドワーフの国にはガソリンと弾薬の製造ラインを仕込んできた。

地球に帰る門が、巨大システムの「安全弁の暴発」でしかないのなら――。

(だったらさぁ。その超古代の巨大システムとやらを俺の現代知識でハッキングするか、要領よくぶっ壊して、無理やり安全弁をこじ開けてやるしかないよねぇ)

退路が完全に断たれ、最悪の真実を知ったからこそ、四十歳の叩き上げ士官の瞳に、かつてない『軍参謀』としての冷徹なプロの炎が灯った。


 一人でスタコラサッサと静かに逃げるのが無理なら、その超古代の巨大システムを自分のものとして、そしてこの隣にいる最強のお姫様を巻き込んで、国家規模で世界をひっくり返し研究し無理やりでも通路を開いて地球に帰還作戦をするだけだ。


「よし、姫様。調べ物は終わりです。

お腹が空いたから、お城に戻って最高に美味しい温かいスープでも飲みに行きましょうか」

「はい! 太郎様!」


 絶望の底から、不敵な笑みを浮かべて歩み出す山田太郎。

 チートなし、生身最弱の男が、現代兵器と科学の知恵、そして最強の『兵器(ワイフ)』を従えて異世界の理をひっくり返す本当の戦いは、ここから始まるのだった。

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