手荒な出迎えの理由
「よりによって雷の魔法なんて……! 普通トバリ族が出入りするところで使います!?」
「いやぁ雷って動きを封じるのに丁度良いんだよねぇ」
抗議の声を上げながらゴドリックを掴みブンブンと大きく揺らすヒイラギ。
傍から見ていると心配になるぐらい揺らされているが、良くある事なのか。
平気そう笑っているゴドリックは、後ろで束ねた髪を揺らしながら器用にキョトンと首を傾げてみせた。
「それよりどうしてうちに来たんだい?
しばらく誰も近付かないようにって言ってたんだけど」
「えぇ? そんなの一欠片も聞いてませんよ?」
「そっかぁ。じゃあしょうがないか」
これだけ罠を仕掛けてるんだ。周りの人間には注意ぐらいしていたんだろう。
だが、それも人伝に伝わっていく中で、スコンと罠の部分が抜け落ちたか。
ヒイラギの言葉を聞いたゴドリックは眉を下げて微笑み、申し訳なさそうにオレ達へ頭を下げた。
「驚かせてしまってごめんね。
今、防犯設備を増やしてたところでさ。怪我は無い?」
「怪我はしてねぇけど……」
襲い掛かってきた物は全て防いだので、擦り傷一つありはしない。
けれどそんな話している間にもどこかのスイッチを押してしまったらしい。
今度は横から火の玉が数発飛んできたので魔法で弾き返す。
そう、怪我はしない。だけどこの罠だけはどうにかならねぇのか。
鬱陶しいのもそうだが、罠が作動する度にステラが驚いてんだよ。このままじゃ落ち着いて話もできやしねぇ。
小さな煙を残して消えていく火の玉を見てからゴドリックへ視線を移せば、苦笑い交じりに頷かれた。
「ここで話してると罠が作動しちゃうから、中で話そうか」
「そうしてもらえると助かるわ」
もうね、ずっとどっかで魔力が動いてんのよ。
大した事無いとはいえ、いつ作動すんのか警戒し続けるのって結構大変なんだわ。
一歩後ろへ下がり屋敷の中を示すゴドリックに従って入ってみれば、魔法の明かりだろうか。
ふわりと独りでに浮かぶ明かりによって仄かに照らされた屋敷はとても静かで、ヒイラギが閉めた扉の音がやけに響いていた。
「しかしまたどうしてこんな罠だらけにしているんです?
前も罠はありましたが、これほどでは無かったですよね? これでは暮らすのすら大変でしょうに」
「俺もあんまり増やしたくなかったんだけど、ちょっと厄介なことがあってさ。
ま、自分が仕掛けた罠ぐらい把握してるし、今はそのぬいぐるみさんが一緒にいるから平気でしょ」
広さはステラの屋敷と同じぐらいか、それ以上といったところだろうか。
人の気配は感じないが、どこか温かさを感じる屋敷を進んでいく中、ヒイラギが投げかけた疑問にゴドリックは緩く笑ってオレへと視線を向ける。
そりゃあこれぐらいの罠なら余裕で防げるけどよぉ。だからってあの数は流石に面倒だって。
それに今は作動しないようにしてくれているみたいだが、その言い方だとちょっとした拍子に作動しちまってもしょうがないって聞こえるんだが。
元々警戒を緩めてはいなかったものの、そう言われると体に力も入るという物で。
より一層ステラの近くを保ちつつゴドリックへ付いていけば、ゴドリックはとある一室へと入っていった。
「じゃあ三人共、これを持っていてくれるかな?」
案内されたのは応接室のようで、紺色を基調とした調度品が並ぶ中、ゴドリックはまっすぐ奥の棚へと近付く。
そして小さな箱を取り出したかと思うと、ゴドリックは箱の蓋を開けながらオレ達へと差し出す。
見ればそこには月を模したブローチがいくつか収まっていて、これは何だと視線を向ければゴドリックは相変わらず緩く微笑んだ。
「屋敷の中も罠だらけでね。
俺の傍にいるか、その魔道具を持っていれば作動しないようになってるから、持っておいてね」
「おぉ、それは助かります! 痺れるのは勘弁ですからねぇ!」
「へぇ……器用なもんだな」
どうやらこれはブローチの形をした魔道具のようだ。
我先にとブローチを手に取ったヒイラギに続き、オレも手に取って軽く視てみれば、常に魔力を放っているのがわかる。
他の魔道具と違って何かの魔導を使えるとかではなさそうだが、魔力はゴドリックの物みたいだしなぁ。
これを持っているだけで罠が作動しないってなると、ゴドリックの魔力には反応しないように罠の方に細工してるってところかねぇ。
魔力を放っているといっても微弱なもので、持っていたところで悪影響を受けるような物でもない。
だから大丈夫だと伝わるようにステラへ頷いてみせれば、ステラもそっとブローチを手に取る。
そんなステラの様子を微笑ましそうに見ていたゴドリックは、箱を近くのテーブルへ置きながらソファへと腰かけた。
「さ、どうぞ座って。そろそろ本題に入らないとでしょ?」
「そうでした!」
罠の事ですっかり忘れかけていたらしい。
ヒイラギはハッとした様子であの壊れた魔道具を取り出し、ゴドリックへと駆け寄っていく。
説明はヒイラギがするだろうから、オレ達は大人しく座っとくかねぇ。
勧められたというのに突っ立っているのもアレなので、オレはステラを手招きしてゴドリックとは反対側のソファへ飛び乗った。
「実は貴方に作っていただいた調査用の魔道具が壊れてしまいましてね、ほら見てくださいよ」
「えぇ? ホントに?」
冗談を言われているとばかりに訝し気な表情を見せつつも、押し付けるように差し出された魔道具を受け取るゴドリック。
そこでようやくヒビが目に入ったのだろう。
ゴドリックは軽く目を見開いた後、じっと魔道具を見つめる。
「……確かに、壊れてるね」
「でしょう? 空島の調査には必須の物ですから、なるべく急ぎで修理して頂きたく」
「だよねぇ……そう簡単に壊れないようにしっかり作ったんだけどな……内部がもう、粉々だ」
外見からだとヒビぐらいしか見えなかったが、内部は深刻な状態になっていたようだ。
様々な角度に変えながら神妙な面持ちで魔道具を調べながら呟くゴドリック。
その様子に、それまで余裕そうだったヒイラギの顔色も変わっていく。
「もしや、貴方でも直せない状態ですか」
「ここまで壊れ切ってたらね。修理するより新しく作った方が早いよ。
素材はウチにあるので足りると思うけど……ごめん、すぐには取り掛かれないや」
「えぇ!?」
新しく作り直す流れになるかと思いきや、最後に告げられた謝罪にヒイラギが驚きの声を上げる。
そして数秒固まった後、落ち込んだ様子を見せつけるように肩をガックリと落とし、ゴドリックへとへばり付いた。
「そ、そんな……! せっかくお二人に協力して頂ける事になったのに……! ここで足止めですカァ……!?」
「ごめんねぇ、俺も色々あってさ」
オレ達の了承も待たずに空島へ飛んで行くぐらいだしなぁ。
すぐ直せないとなりゃあそうなるのも当然か。
まさに駄々を捏ねる子供のように訴えかけられているが、これもいつもの事らしい。
ゴドリックは申し訳なさそうにしつつも軽くあしらっていて、取り付く島もない様子だ。
「……そういや厄介な事がどうとか言ってたな」
こんだけ駄々を捏ねられていて、しかも素材はあるのに取り掛かれないとなりゃ、大方他にやらなきゃいけない事があるからだろ。
んで、さっき言っていた厄介事と、屋敷に仕掛けられた罠の数々を思えば想像もつくってもんだ。
とはいえヒイラギにも「色々ある」だなんて誤魔化している辺り、あまり触れられたくない事なのかもしれない。
なので言いたくなければ言わなくとも済むよう視線だけで尋ねれば、ゴドリックは肩を竦めながら苦笑いを返してきた。
「実はこの屋敷が狙われているらしくてね。
なんでも吸血鬼専門の盗賊団なんだって」
「なんですかその傍迷惑な方達は」
「ホント、迷惑だよねぇ」
まるで近所の悪ガキが悪戯をしてくるかのように軽く言ってのけるゴドリックだが、それって相当な厄介事じゃねぇか?
迷惑で済む話じゃないだろうと顔を引き攣らせていたオレの横で、それまで黙って聞いていたステラがぽつりと言葉を零す。
「吸血鬼……?」
――そうか、ステラの目には人にしか映っていなかったか。
以前街で見かけた海の種族のような身体的な特徴もなければ、ヒイラギのように魔法で姿を変えている気配も無い。
だから普通の人だと思うのも当然のことで。
「そういえば自己紹介がまだだったね。
俺は吸血鬼のゴドリック・リュシエル。
君と姿形は似ているけれど、こう見えて二百歳は越えていてね。
今はヒイラギと同じ魔法研究所に属している魔法学者として、主に魔道具の開発をさせてもらってるんだ」
そう朗らかに笑うゴドリックに、ステラはただ目を瞬かせた。




