門番の苦悩
連休だし三話連日更新しようかなって。
魔法研究所を出たオレ達は、早速ヒイラギの背に乗って夕闇が迫る空へと飛び立つ。
改めて見ると日没までそんなに時間も無さそうで、どれだけ急いでも帰る頃には夜になっていそうだ。
こうなったら晩飯も外で済ましちまおうかなーなんて考えていたところで、ヒイラギがおもむろに高度を下げ始めた。
「すみませーん! ヒイラギですー! 通りますよー!」
「く、『黒』が来ました!!」
高度を下げた先にあったのは街の関所で、大きな声で名乗りながら開け放たれている門へと飛んで行くヒイラギ。
門番の焦った報告が辺りに響き渡っているが、ヒイラギからすれば関係無いらしい。
周りから制止の声も上がっているというのに、速度は一切緩む気配が無い。
これ、絶対駄目なやつだろ。逃げる準備だけしとこ。
嫌な予感しかしない状況に、オレとステラだけは何があっても大丈夫なよう軽く魔法で防御を固める。
そしてヒイラギが門を通過しようとした刹那、目の前に光の壁が現れた。
「わぁ!?」
魔法で離脱したオレ達とは違い、勢いを殺しきれずヒイラギはそのまま頭から壁に突っ込んでいく。
どうやらあの壁は捕獲目的の魔法だったようだ。
やけに弾力性を持った光の壁はヒイラギを受け止め、絡めとるようにヒイラギの動きを止めてしまった。
「な、何なんですかこの壁は!? 翼に絡んで動けないんですが! 助けてロア殿!」
「あー……魔導だろこれ。止めるなら正規の手段の方が良いんじゃね?」
助けを求められたから解析はしておくが、殺傷能力とかは一切ないみたいだしなぁ。
っつーか、門番の兄ちゃん達の様子から察するに、止まらなきゃ駄目だったんだろ?
関所の検問をちゃんと受けずに出ようとしたわけなんだから、自業自得だろうが。
動けないだけで騒ぐ元気もある事だし、放っておいても大丈夫だろう。
そう、ステラと二人、バタバタと暴れるヒイラギを見上げていれば、責任者が来たらしい。
報告に行っていた門番と共に、他とは少し違う制服を身に纏った男がニヤニヤとしながら駆け寄って来た。
「ハッハァー!! かかったなヒイラギィ!!」
「その声は、クロム殿!?」
「おうおうアンタら魔法研究所の学者さん方に散々困らされてる門番のクロムだよ!
そいつはゴドリックさんに作ってもらったお前専用の通行止めだ! ちゃんと効いたみたいで良かったわ!!」
捕まえられたのがよっぽど嬉しかったのか。
暴れたせいで更に絡まっているヒイラギを見て、クロムと名乗った男は大声を上げて笑っている。
きっと魔法学者達は関所を突破するのがお決まりなんだろうなぁ。
で、ヒイラギに至っては、トバリ族だからかそれ専用の通行止めまで設置されていたってわけか。
って事はよ、さっきオレ達が空島に飛んで行ったのも駄目だったんじゃねぇか……?
門番どころか外壁も気にせず飛んで行ってたよな。問題大アリじゃね?
ステラの立場ってのもあるし、共犯者にされるのだけは勘弁してもらいたいもんだが、どうなる事やら。
とりあえず、オレ達は無理矢理連れてこられた事にしておくか?
なんて考えていたら、誰かが魔導を停止させたんだろう。
ヒイラギを捕まえていた魔法が消え、ドタっと音を立てて地面に落ちた。あーあ。
「いっ、たぁーい!? 危ないじゃないですカ! 降ろす時は降ろすと言ってくださいよ!」
「うっせぇ! 捕まるような事をする方が悪いんだ!
ったく……普通に検問を受けりゃ良いだけの話だろうに、なんで学者さんたちはこう、いつもいつも素通りしようとするんだか……」
「だって急いでたので」
「許可無しにホイホイ通してたら門番の意味ないでしょーが」
突然落とされても口の減らないヒイラギに、呆れた様子で溜息を吐くクロム。
そんなクロムに対し、ヒイラギは顎に手を当て小首を傾げた。
「毎回空を飛んでいかないだけワタクシはまだマシな方だと思うんですけどねぇ。
いるでしょ? 決まりを知らずに飛んできちゃうトバリ族とか」
「そりゃあいるけどな。大抵はアンタら学者さん方の魔導のおかげで弾かれてるよ。
っつーかヒイラギ、そんな事言ってっけど、お前さっき北門を飛んで越えてたろ。
どうせ自分は落ちないように細工してんだろうが、こっちには目撃証言があるからな? いくら学者でも容赦しねぇぞ?」
「あれは緊急でしたので。えぇ。仕方ないと思います」
やっぱりアレ駄目だったのな。
そもそもどこが緊急だったんだか。単にお前さんの気が急いてただけだろ。
あちらもヒイラギの言う緊急を信じていないようで、適当な返事をしながら書類を取り出し何やら書き込み始める。
オレ達がギルドの依頼で街の外に出た時は確認だけで済んでいたんだ。
大方、今回の捕縛か空島に行った時の処理か何かだろう。
ちょいと時間が掛かりそうだが、こっちにお咎めは飛んでこないっぽいし、大人しく待っていれば良さそうか。
気楽に待ってても良さそうな雰囲気に少し気を抜いたところで、ステラがヒイラギの袖を掴み、クイクイと小さく引っ張った。
「ヒイラギ、悪いことしてるの」
「い、いやぁ……えーっとですねぇ……?」
小さめの声ではあったものの、絶妙なタイミングだったらしい。
大人だらけの空間に少女の声は妙に響き、ヒイラギへと突き刺さる。
表情自体はいつもと変わらないが、声がちょいと硬くなっている辺り、もしかしたらほんの少し怒りでも感じてるのかねぇ。
魔物の命云々の時もそうだったが、ステラの中には乳母に教えられた正しさってのがあるんだろう。
そのせいで妙なところで躓いたりしなきゃ良いが、今回に限っちゃ珍しいもんが見れたわけだ。
ステラの見せた良い傾向に、思わずにやけそうになりつつも、オレは焦りすぎて言葉に詰まっているヒイラギへニッコリと笑ってやった。
「そうだなぁ、あんまり人様の迷惑になるようなやつの手伝いなんてしない方が良いかもな?」
「これからは気を付けますハイ」
実際、同行者だからって一緒に責任を負う事になっちまったら困る場面も出てきそうだしなー。
今までは一人で自由気ままにやってただろうし、門番を無視するのだって恒例化していて見逃されていたかもしれないが、これからはオレ達が一緒にいるんだ。
今後は行動を改めてもらえるよう釘を刺していると、何やらクロムがこちらを指差してきた。なんだぁ?
「まさか、噂の美少女と動くぬいぐるみ……!?」
確かにコイツが来てからは喋ってなかったかもしれねぇけど、気付くの遅くねぇか?
よっぽどヒイラギを捕まえられたのが嬉しかったんだろう。
ようやく気付いたとばかりにオレ達を見て目を見開いているクロム。
この様子だと、オレ達の事も昨日の今日ですっかり噂になっているようだ。良い事なんだか悪い事なんだか。まぁ良いか。
「どーも、ヒイラギの協力者ってのになったロアとステラだ。
ギルドの証明書とか見せた方が良いかい?」
「あ、それは助かります」
軽く一言挨拶をしつつ聞いてみれば、向こうとしても証明書があった方がやりやすいらしい。
ステラの差し出した証明書を受け取ったクロムは、手元の書類と見比べ何やら書き込む。
その姿はヒイラギへ大声で笑っていた時とは打って変わって静かだ。
きっとヒイラギとかがやらかすからあんな大騒ぎになってただけで、普段はこんな感じなんだろうなぁ。
問題さえ起こらなければ仕事も早いようで、ものの数秒で書類を書き終えたクロムはステラへ会釈しながら証明書を返した。
「はい、確認終わりました。こちらお返しします。
それにしても、こんな時間に出かけるってことはまたゴドリックさんのとこか?」
「えぇ、ちょっと野暮用でしてね。すぐに帰ってこれると思います」
「はいよ、帰りもちゃんと検問を受けるように」
「ハーイ」
なるほど、オレ達が会いに行くヒイラギの同僚ってのはゴドリックって言うのな。
今のところ学者に対してあまり良い印象が無いんだが、そのゴドリックとやらは一体どんな人物なのか。
一抹の不安を抱えつつも、クロムの「お気を付けてー」というお決まりの言葉を聞きながらオレ達は門を潜り、再び空へと飛び上がったのだった。




