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ひとりぼっちの姫と不思議なぬいぐるみ  作者: 空桜歌
第二章 空の孤島と孤月の館
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魔法と魔導



「なるほどねぇ……これが魔導か」



 単に移動の魔法を施しているのではなく、押したボタンに応じて瞬時に特定の魔法が発動するように仕組んでいるようだ。

 魔力を溜めておく結晶に、魔力の流れを調整する部品、あとは魔力を通す金属だろうか。

 魔法を形作るには願いや祈りが必要になってくる。

 この場合、要の部分になる『移動させる』という願いを、魔力の道筋で描いているわけだ。


 理屈としちゃあ、人が文字や絵に願いと祈りを込めるのと似たようなもんだろうな。

 しかもあの魔道具みたいな単に周囲の風を調整するだけの物と違って、この乗り物は随分と複雑な構造になっている。

 地図を見たところ建物内は相当入り組んでいるようだし、その全部の行き先を自由に選べるってなると、ややこしくなるのも当然かねぇ。

 そう、車両の内部で酷く複雑な動きをしている魔力の流れの解読を進めていると、ステラがキョトンと首を傾げた。



「魔法と魔導って違う物なの?」


「えぇ、魔力を用いて様々な現象を引き起こすという点では同じですが、明確に違う物ですよ。

 ステラ殿は魔法を使う際、大事な事が何かわかりますか?」


「えと、祈りと願い、って聞いた」


「ほぉ……祈りと願い、ですか」



 オレにとってはそれが全てだったが、ヒイラギの知る物とは違ったらしい。

 目を細め、否定も肯定もせずただ興味深そうに小さく頷いているヒイラギ。

 そんな反応にステラも疑問に思ったようで、戸惑った様子でこちらに視線を向けるものだから、オレは魔力を読み取るのを止めてヒイラギへと向き直った。



「なんだ、お前さんらとは違ったか?」


「そうですねぇ。最近はもっぱら想像力と定義されているかと」


「想像力なぁ……」



 確かに、想像した現象をそっくりそのまま起こすのであれば制御はしやすいだろう。

 ステラのように、制御できない魔法は危険を孕む。

 だからそれはそれで正しい方法だろうが――それでは想像もできない奇跡は起こせない。


 今の魔法は、この時代は、もう奇跡に頼ろうとしなくなったのかねぇ。

 ステラと共に見た発展した街並み、活気ある人々、魔導に魔道具という知らない手段、その全て。

 ――オレの知るあの頃からこんだけ変わってんだ、人々の在り方も変わってて当然か。



「祈りや願いじゃダメなの……?」


「いえいえ、駄目なことはありませんとも。

 古書でそのような記述を見たことがありますし、古の時代、魔法はそのようにもたらされていたはずです」



 ステラの不安そうな声にすぐさま答えるヒイラギだが、それはよぉ、つまりオレの教え方が古いって言いてぇのか? おん?

 そりゃあ実際古い教え方なんだろうが、そうはっきり言われると癪に障るってもんだ。

 否定するのも違う気がして、せめてもの抗議としてヒイラギへ向けて顔を顰めてやるが、気付いていないらしい。

 ヒイラギはこちらに見向きもせず、ステラへ微笑みを向けた。



「想像力や祈り、願いが重要だとされているように、魔法というのは使う者によって異なるものでしてね。

 たとえ同じ魔法を使おうとしても、使用者の性格や歩んできた人生、思想など、様々な要素が少なからず影響を及ぼすものなのです。

 ロア殿、これぐらいの水球を作っていただけますか?」



 そう言ってヒイラギはおもむろに手の平の上で水球を作り出す。

 見たところ何の変哲もない、ただの水の塊でしかないが、だからこそ違いがわかりやすいというもので。

 ヒイラギが何を見せたいのかわかったオレは黙って水球を作り、ヒイラギの水球の横へと並ぶよう浮かべてやった。



「ステラ殿、どうぞ触ってみてください。

 一見同じ水球に見えますが、微妙に大きさが違いますし、水の冷たさも異なりますよ」


「……ほんと、ヒイラギのはすごく冷たいね」


「ワタクシの故郷は北の方にありましてねぇ。

 水と言われると無意識にこれぐらいの冷たさになってしまうんですよ」



 ヒイラギの魔法を冬の水と表現するのなら、オレの魔法はきっと春の水だろうか。

 余程冷たかったようで、促されるままそれぞれの水球に触れたステラが驚いた様子で手を引っ込め、パチパチと瞬きを繰り返す。

 ヒイラギはそんなステラを微笑ましそうに見つめながら手を緩く振り、二つの水球を消し去った。



「このように、魔法というのは同じ現象を起こそうにも、人によって異なる現象となってしまいます。

 それを個人差だと片付けてしまえれば良かったのですが、そうは行かないものでしてね。

 昔は親と同じ魔法を使えないがために血が繋がっていないと捨てられた子供がいたり、周りと違う魔法を使った事で異端だと蔑まれる者がいたりしたそうです」



 人は自分と違う存在を恐れるもの。

 それはどれだけ知恵を得ようと変わらない。

 ただ魔法を使えなかっただけで、ただ魔法を使えただけで、己の知る普通と違う存在を忌避する。


 良くある話だと片付けるには残酷で、仕方ない事だと片付けるには不条理で。

 残酷な不条理をどうにかしたいと、どうにかしなければと立ち上がった者はどの時代にもいたんだろう。

 ヒイラギは前へと向き直り、通路の奥へと視線を向けた。



「それ故、我が魔法研究所の創設者は考えました。

 『魔法は誰もが扱える奇跡ではない。故に、誰もが扱える奇跡があるべきだ』と」



 ヒイラギの視線の先、通路の最奥に飾られた一つの石像。

 静かに魔法研究所を見渡しているその石像は、きっと魔法研究所の創設者とやらを模った物だろう。

 姿こそ老いた男ではあるが、凛々しい顔立ちをした石像を見つめ、ヒイラギは力強くそう告げた。



「そのご立派な理念を元に創られたのが魔導ってわけか」


「おっしゃる通り。

 魔導では魔法陣や詠唱など様々な媒体を用い、指定された魔法を再現します。

 魔法は新たな道を作るもので、魔導は既に敷かれた道を辿って行くもの、とでも表現すれば良いでしょうか。

 魔法のようにその場に応じて変化するなんて事はできませんが、魔導は全く同じ現象を、幾度となく繰り返すことができるのです」



 魔法という人知を超えた力を、魔導という形に落とし込むのにどれだけ時間と労力が掛かった事か。

 当時の苦労なんて想像しかできないが、そういった事に関しちゃ、オレもちょいと理解はできるからなぁ。

 そりゃあ髪も抜けるだろうと、石像の頭へ視線が行きそうになるのを抑えていたら、車両の速度が緩やかになっていく。

 そして一部床が高くなっている場所に停まったかと思うと、入口の部分がガタンと音を立てて開いた。



「丁度つきましたね。こちらです」



 どうやらこの無人車両はそれぞれ行き先に応じて停車場所が決まっているようだ。

 車両の出入り口は丁度床が高くなっている場所に面していて、乗り降りしやすいようになっている。


 普段使いしてるみたいだし、魔導なんてややこしいもんを平気で使ってる連中だ。そりゃあこのぐらいの工夫はするわな。

 他にも色々工夫が凝らされてるんだろうなぁなんて思いつつ、ヒイラギに続いてオレ達も降りると、何もしていないはずなのに車両が走り出してしまった。



「……行っちゃった」


「行っちまったなぁ……」


「奥にも停車場所がありますから、そちらに行ったんでしょう。

 心配せずともそこのスイッチを押せば戻って来ますので、帰りもちゃんと乗れますよ」



 もしかして帰りは歩きかと不安が過ったが、そんな事にはならないらしい。

 ヒイラギの言葉に周りを見れば、確かに壁の一か所に出っ張りがあり、その中央に『車両呼び出し』と書かれたスイッチが赤く点滅している。

 なんかちっさく文字も書いてんな……『青は使用可、赤は使用不可』……ってことは今は使えねぇと。わかりやすいな。



「魔導ってのも中々便利だな。いや、魔道具か? どっちだ?」


「これらは魔道具になりますねぇ。

 道具や物に魔導を施してある場合は魔道具だと思って頂ければよろしいかと」



 創設者の理念通り、本当に誰もが扱える魔法だからだろう。

 魔導や魔道具は随分と生活に取り入れられているようだ。

 あちこちにある魔導や魔道具を眺めつつヒイラギに付いて行けば、ヒイラギはとある一室の前で立ち止まる。

 そしておもむろに扉の横にあるスイッチを押したかと思うと、室内から鐘の鳴る音が聞こえてきた。



「……誰も居ねぇみたいだな?」


「おかしいですねぇ……普段この時間ならこの部屋にいるんですが……あ、そこの方ー! ちょっとよろしいですカー!?」



 恐らく中で呼び鈴を鳴らす魔道具なんだろうが、何度押しても一切反応は無い。

 中で寝てるとかか? とステラと顔を見合わせた矢先、丁度近くを通りかかったらしい学者へと向かってヒイラギが文字通り翼を出して飛んでいく。

 いきなり黒い塊が飛んでくれば普通驚くだろうに、ああしてヒイラギに捕まるのは良くある事なのか。

 その学者は驚いた様子も無く、ヒイラギの話を聞いて頷いた。



「あぁ……彼なら今、自分の屋敷に戻っているよ。

 なんでもどうしても外せない用事があるとかなんとか」


「おやまぁ」


「しばらくは来れないかもしれないとも言っていたね」


「おやまぁ!」



 どうやら目的の同僚とやらは留守にしているらしい。

 こちらに緩く手を振り去っていく学者へ軽く会釈を返していると、ヒイラギが深く溜息を吐いた。



「いやぁ申し訳ない。無駄足を踏ませてしまったようです」


「うんにゃ? 魔導とやらを知れたし、別に構わねぇよ。なぁステラ」



 そりゃあ会いに来て不在だったってなるとちょいと残念な気もするが、代わりに色んな物を見れたからなぁ。

 おかげで魔導についても理解できたし、ステラも気にしていないだろうと緩く首を振りながら話を振れば、ステラも小さく頷く。

 そんなオレ達に少し安堵した様子を見せたヒイラギは、「それなら良かった」と呟きながら近くにあった窓の外へと視線を向けた。



「彼の屋敷は遠くないものの、街の外にありますからねぇ……。

 今から行くなら飛んで行くしかなさそうですが、どうしましょう」



 どういう事かとオレも窓の外へと視線を向ければ、それなりに時間が経っていたようだ。

 朱く染まり始めた空が見え、ヒイラギの言いたいことが理解でき、ポリポリと頭を掻く。


 ヒイラギとしちゃあ早く魔道具を直したいからすぐにでも飛んで行きたいんだろうが、オレ達がどうするかって事だよなぁ。

 別に門限があるとかじゃねぇし、遅くなってもそこまで問題は無さそうではあるけど、どうしたもんか。

 ここで一旦別れるか、一緒にその同僚の屋敷へ行くか。

 ちらりとステラの様子を窺えば、少し迷っている様子が見て取れて、オレは気楽に笑ってみせた。



「せっかくだし、もうちょい付き合うか」


「良いのかな……?」


「良いんじゃね? 帰りはヒイラギが送ってくれんだろ」


「それは勿論。責任をもってお送りさせていただきますとも」



 正直、護衛の兄ちゃん達を放って空島まで飛んで行ったりしてるし、ちょいと遅くなったところで、なぁ?

 後で怒られたとして今更な気がするから、気にしなくても良いだろ。

 今も魔法研究所に入れず外で待機しているだろう護衛の兄ちゃん達にどう言い訳するかだけ考えつつ、オレ達はその場を後にした。

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