初めての依頼
実力は示せたという事で、爺さんに案内されて今度こそ登録の手続きを行う。
と言ってもまた書類に名前を書くぐらいですぐに終わり、これでオレ達は無事ギルドの登録者になれたらしい。
登録証明書だという小さなカードももらったところで、早速依頼を受けてみるべくオレ達は広場まで戻ってきた。
ギルドでの依頼の受け方は二通りあるらしく、受付でギルド職員と相談して決めるか、広場に設けられた看板から自分が受けられる依頼を自分で選ぶかのどちらかだそうだ。
流石に登録すればどんな依頼でも受けられるってわけじゃなく、経歴やら経験やらで受けられる依頼の幅があるらしい。
そりゃあ初めて魔物と戦うような奴に町を脅かす魔物を退治しろ、なんてできるわけも無いし、逆に熟練者が簡単な依頼ばっかしてたら困るもんなぁ。
それと、一応他にも依頼者から直接依頼を受けるって方法もあるそうだが……そういったのにはギルドが関与していないので、完全に自己責任になるらしい。
あれだろうな、ちょっとした討伐依頼だって言われたのにドラゴンと戦わされる破目になったり、依頼内容に見合わない報酬だったりって話だろうな。
何でもギルドで受けられる依頼は全てギルド職員によって事前調査が行われるそうで、依頼主の身元もはっきりしている物ばかりなんだそうだ。
その分手数料として報酬からギルドに何割か取られてはいるものの、情報の有無は重要な要素だ。
依頼者側からしても、料金は高くなってしまうかもしれないが、実力の見合った傭兵を宛がってもらえると思えば必要経費だろう。
安全を取りたければギルドを通せば良いし、金を取りたければ直接依頼を受ければ良い。
ある意味バランスが取れてるんだろうなぁと思いつつ、試しに看板に張り付けられた依頼の用紙を軽く眺めてみたのだが、正直どれが良いのかさっぱりだ。
っつーか依頼がありすぎてどれがどれだか良くわかんねぇや。どんだけ依頼受けてんだこのギルド。
「……どれにするの?」
「んー……まぁ、どれでも行けっけど……なんせ初めての依頼だからなぁ。
初心者向けで、今日中に終わりそうな依頼が良いんだが、そんなのあるかい?」
「となると……これなどいかがでしょうか」
最初だからか、隣で見守ってくれていた爺さんに聞いてみれば、少し看板を見渡した後、一枚の依頼書を手渡される。
簡易的な説明欄に記されている内容だと、どうやらこの街の東部にある小さな森で魔物を討伐する依頼のようだ。
「最近魔物が増えてきているでしょう?
この森も例に漏れず魔物の目撃報告が増えていまして、今のところ森を出てくる様子はありませんが、街と近いのもあり、こまめにギルドから出させていただいている依頼なんです」
「……魔物が増えてる、ねぇ」
当たり前のように言っていたが、魔物が増えているってのは初耳だ。
なるほどなぁ、それでこんだけ依頼があるわけか。
「ギルドからの依頼なので報酬は他に比べて少なめですが、魔物の素材などを持ち帰っていただければ買い取りも行いますので、それなりに稼げますよ」
「ほーん、じゃあこれにしとくか」
ステラにとっちゃ街の外に行くのなんて初めてだろうし、まずは屋敷の外の世界に慣れるためにも近場の依頼は丁度良さそうだ。
爺さんからすりゃあステラが王女だってのはわかり切った事だし、金の心配はしていないと踏んでこの依頼を選んでくれたのかねぇ。
きっと受付で相談した時も、こんな風に登録者に丁度良い依頼を選んでくれるんだろう。
ステラが人と話す経験にもなるし、次からは積極的に受付を利用してみても良さそうだ。
なんて思いつつもう一度依頼内容を確認していると、爺さんが懐から何かを取り出しオレへと差し出した。
「それではこちらをお持ちください」
見れば小さな懐中時計のようなもので、言われるがままに受け取る。
何かの魔法が施されているそれは、時計の見た目をしているものの時間を計る物では無いらしい。
一向に動かない時計の針に思わず爺さんを見返せば、こちらが何を求めているか伝わったんだろう。
爺さんはコクリと頷いて、オレの手に収まる懐中時計へと視線を向けた。
「それは魔物専用の計測器です。
魔物の魔力を感知し、討伐した数や種類を自動で計測するものとなっていて、これで計測した数値に応じて依頼の報酬額が変わってきます」
「へぇ……こんなので計測できるもんなのか?」
「魔法研究所の皆様が作ってくださったものなので、精度は確かですよ」
魔法研究所なんてもんがあるのか。
ギルドとはまた別の組織のようだが、ここまではっきりと言い切るほどの物だ。
よっぽど信頼できる代物なのだろうと、改めて計測器を眺めていると、爺さんが申し訳なさそうに口を開いた。
「それと、滅多に無いことですが……もし誤作動を起こした場合はすぐに申し出てください。
我々もぬいぐるみの登録者の方は初めてなもので」
「あー、ね。そん時はすぐに言うわ」
少しばかり言い難そうにオレへ向けて告げる爺さんへ、緩く手を振って気にしていないことを伝える。
そりゃあ動くぬいぐるみなんて良くわからねぇ存在だもんなー。オレ自身良くわかってねぇし。
試しに計測器の前で魔力を操ってみても特に反応はないようだが、一応気にしてはおくか。
持ち運びしやすいようにか、革紐が取り付けられているその魔道具を首からぶら下げてみるが、ぬいぐるみにはちょいとばかし長いらしい。
背筋を伸ばしていないと引きずってしまいそうな状態になってしまい、革紐を一か所軽く結んでどうにか引きずらないよう調整する。
なんか不格好になっちまったけど、オレが確認しやすいようにしておきたいからなぁ。仕方ねぇか。
「おーし、んじゃステラ、東の森とやらに行くぞー」
「……うん」
準備はできたとステラへ声を掛ければ、どこかぼんやりとした返事が返ってくる。
何か考え込んでいたようだが、どうしたんだか。
ステラの顔を覗き込んでみるも、ここで語るつもりはないらしい。
オレの視線に気付いたステラが小さく首を横に振るものだから、オレはそれ以上は何も言わず、ギルドの外へと歩き出した。
ギルドを出て、東へと続く大通りを歩くことしばらく。
ぬいぐるみが歩いている光景に、周囲の視線がちらほら向けられる中、ステラがポツリと呟いた。
「ねぇ、ロア」
「んー? どした?」
どうやら何を考えていたか、話してくれる気になったらしい。
街の賑わいに消えてしまいそうな小さな声に、軽く周囲に結界を張って音を遮断しつつステラへと視線を向ける。
そんなオレの気遣いを知ってか知らずか。
ステラはポツリポツリと言葉を零し始めた。
「……わたし、生き物は無暗に殺してはいけないって言われた。
生きるために必要な命以外は奪ってはならないし、弄んではならないって言われたの。
でも魔物を殺す組織があって、沢山の人がその組織にいて、沢山の人が魔物を殺しに行ってるんだよね?」
活気溢れる街中には少し似合わない暗い言葉。
その言葉の中には、乳母が与えただろう正しい在り方への教えが窺えて。
「どうして魔物を殺したら褒められるの? どうして魔物は殺して良いの?」
わからないと、戸惑いと共に訴えかけられたステラの疑問に、そっと息を吐いた。
「……ステラは魔物を見たことはあるかい?」
「……ない、と思う」
「なら、一度見てみたらわかるさ」
――いつの頃からかこの世界に現れた、魔物と呼ばれる存在。
その存在について語れる言葉を、オレは山ほど持っている。
だがあの存在は言葉での説明ではなく、実際にその目で見なければ理解できないだろう。
特に、外の世界を知らないステラは、余計に。
だから良くわからないと不服そうなステラを笑って宥め、オレは真っ直ぐ東へと足を進めたのだった。




