姫の実力
三連休だし連続更新とかしてみるかぁと思い立った今日の朝。
ストックあるし大丈夫でしょう、たぶん。
「おまけだ、魔法も見せてやるよ」
突き刺した剣をそのままに、へたり込んだままの兄ちゃんへと一歩近付く。
それと同時、ぬいぐるみ特有の白く柔らかそうな手のひらから、チリ、と音を立てて炎が舞い始めた。
何も燃やさないように、何も灰にしないように。
魔力で調整されながらも、ゆらりゆらりと踊るように訓練場を満たしていく炎。
炎に当てられた空気は熱気を孕み、轟々と煩いほどの音と共に目の前を掠めた紅に恐れを抱いたのか。
小さな悲鳴と共に兄ちゃんが怯えた表情で後ろへとずり下がっていく。
この炎はどれほど焼き尽くせるのか。
試しに何か燃やしても良いが、後で弁償とかなったら困るからなぁ。
むしろ何も燃やさない炎の方が魔法としては難しいんだし、こんなもんで良いだろ。
そう、炎を消して爺さんへと視線を向ければ、爺さんはただじっとこちらを見つめていた。
「で、まだ何か必要かい?」
「……十分に」
わかりやすい方が良いだろうと派手にやった甲斐あって認めてもらえたようだ。
オレの問いかけに爺さんは静かに頷く。
さて、これでオレは試験突破ってわけだが、次はステラだな。
「ほらステラ、次はお前さんの番だぞ」
突き刺していた剣を引き抜き、ずるずると引きずりながらステラへと声を掛ける。
自分も、とは一切考えていなかったようで、数回瞬きを繰り返したステラは、どうにか立ち上がったばかりの兄ちゃんへと視線を向けた。
「……私もあの人と戦えば良いの?」
「うんにゃ、流石に無理だろ」
お前さん、戦うとかしたこと無いでしょ。絶対怪我するから止めときなさい。
何を考えてんだか、オレが持っている剣の方にもちらっと視線が向いてるが、そんな細い腕じゃまともに振れねぇって。
「ステラは魔法で、だな。
さっきの炎でも再現してやりゃあ良いさ。できるよな?」
ステラが余計な事を考えないように武器置き場へ剣を戻しつつ、手本として見せたさっきの炎を思い出させる。
魔法で実力を示すってだけなら、前に屋敷の前でやった水と火の柱でも良いんだが、ここは屋内だからなぁ。
再現ができても応用は苦手なステラだから、部屋の大きさに合わせて威力を抑えるなんて芸当はまだできないだろう。
もしあの魔法を使っちまったら、この建物ごと全部吹き飛ばすんじゃねぇかな。少なくとも天井は突き破るね。間違いない。
独り立ちできるよう資金稼ぎに来たのに、建物を壊してしまって借金地獄、なんて断固お断りである。
なので今オレが作り出した炎を再現できるか聞いてみれば、ステラは自分の手元で魔力を練り始めた。
「さっきの、だよね」
どうやらできると確信したようだ。
訓練場の方へと一歩前に踏み出したステラがゆっくり手を前に突き出す。
次の瞬間、ステラの指先から炎が生まれ、周囲へと一気に広がった。
オレが作り出した炎のように、ゆらりゆらりと舞いながら、訓練場に轟々と音を響かせる炎。
再び炎に満たされ、危険を感じた兄ちゃんが壁際へ避難していたが、オレがそうしていたようにちゃんと制御できているようだ。
自由に宙を舞う炎は何も燃やそうとはしていなくて、ただその煌めきを見せつけている。
「これは、なんと……」
爺さんの口から零れ落ちた声が炎の中に消えていく。
そりゃあそうだろう。魔法というのはどうしたって使う者の癖や性質が出てしまうもの。
生まれ持った魔力の違い、魔力の操り方の違い、そして魔法の起源である願いや祈りの違い。
だから目に見える光景を真似しても、全く同じ奇跡を起こすなんてことは普通できやしない。
もし何かしらの制約をもって同じ現象を引き起こせるよう制御をしているなら話は変わってくるだろうが、ステラは今、何の制約もなくオレと同じ魔法を使っている。
多少魔法を知っている者ならその特異性に気付けるはずだ。
「ステラ―、もういいぞー」
もう十分だろうとステラに声を掛ければ、すぐに炎が消え、紅い瞳がこちらに向けられる。
その表情はいつもと何ら変わらないものの、その目線はもう良いのかと言いたげだ。
確かに爺さんの反応的にもういいだろうと止めたが、ちゃんと聞いたわけじゃないからなぁ。
実際のところどうなのかと横で見守っていた爺さんを見れば、爺さんはどこか難しそうな顔をしていた。おんや?
「まだ何か見せた方が良さそうかい?」
「……いえ、お二人とも十分すぎるほど見せていただきました。
ギルドはお二人を歓迎いたしますとも」
歓迎すると言いながら、爺さんの表情はどこか硬いままだ。
明らかに何か懸念があるって感じなんだが、なんだろうなぁ。
いつの間にか復帰してた兄ちゃんはマジで歓迎してくれてるのか、若干興奮気味なんだがなー。
「あの! ぬいぐるみさん!!」
「お、おぉ? 名乗って無かったっけ? オレはロア、こっちはステラな」
「俺はロビンっす!
あの一撃がそんな小さな体で受け止められるとはちっとも思ってなくて……!
あれは強化の魔法ですか!? それとも重心の使い方で!? 是非また手合わせしてください!」
「あー……オレの体に合った武器を用意してくれるんなら良いぞー」
単純に呼び方が思い付かなかっただけなんだろうが、ガタイの良い成人男性に『ぬいぐるみさん』呼びされるのはちょいと変な感じなので、とりあえず名乗っておけば、何やら懐かれたらしい。
怒涛の勢いでオレへと詰め寄ってくる兄ちゃんに、思わず一歩下がる。
暇な時なら手合わせぐらいいつでもしてやっても良いが、合わない武器で手合わせなんてしてもどっちかが危ねぇからなぁ。
短剣ならすぐに用意できそうなもんだけど、それだとまた違う戦い方になるから、兄ちゃんの望む戦い方はしてやれないだろう。
多分あれだろ? 剣を横に流された時の対処法を知りたいとか、そんな感じだろ? だったら短剣じゃなくって剣の方が良いよなー。
向上心があるだけあって、新たに武器を用意する必要があると兄ちゃんもすぐに理解したのか。
ハッと何かに気付いた素振りを見せた兄ちゃんは、勢いよく爺さんの方へと詰め寄った。
「訓練に必要な武器って経費で落とせますよね!?」
「そうだけど……ウォンレイさんがいる予算会議で話が通せたら、だね」
「そんなぁ……」
どうやらこのギルドの経理担当は中々に厳しいようだ。
オレ達は知らない名前を出されがっくりと項垂れる兄ちゃんに、爺さんも困ったように眉を下げる。
ま、いつか必要になるかもしれねぇし、こっちでも探すからさ。そっちはそっちで頑張ってくれや。




